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第四章
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しおりを挟むジュゼッペ様はギャルツ公爵家の令嬢。
私が知るギャルツ家は公爵家の中でも大きな存在であるということ。
オルティアナ家は公爵家の中でも落ちこぼれ。
それもありあまり他の公爵家とは関わることをしていなかったので、当然ギャルツ家のこともそれくらいしか知らない。
「我がギャルツ家は……誇り高き一族の集まりだと思いますわ。良く言えば品のある、悪く言えばプライドが高すぎる…そんな人の集まりです。」
なるほど。
典型的な公爵家ということなのかな。
「ギャルツ家に生まれたからには、家に貢献しなくてはなりませんの。…そうしなくては、居場所が与えてもらえませんから」
厳しい家…ということだろうか。
「私は……何の才能も無く、あの家では価値のない人間としてずっと居場所を与えてもらえませんでしたわ。家族に家族として扱ってもらえず、ずっと一人だったのです……」
ジュゼッペ様はどこか寂しそうに言う。
「……お父様は家を大きくすることしか考えていませんでした。子供はその道具としか思っていなかったのだと思いますわ。…子は親に似ると言うでしょう?…二人の兄様もお父様に似て、無能な私のことを気にかけることなどはもちろん、無いものとして扱っていました」
「味方は…いなかったのですか……?」
「…お母様は…唯一私のことを守って下さいました。才能など無くても良い
、貴女の居場所はここにある…そう言ってくださいました…。お母様だけが、何も持たない私の家族でいてくださったの」
表情が少し柔らかくなり、落ち着きが見えた。
「あの家にいることも、お父様や兄様達からどんなに罵倒されようと耐えられました。常にお母様が傍にいてくださったから」
「………」
「そんな中、今回このような殿下の婚約者候補になれるという大きな話を聞き、もちろんお父様は受けましたわ。これは兄様達にはできぬ事、ギャルツ家の恥にならぬようにという気持ちももちろんありましたわ。ですがそれ以上に、お母様を安心させたいという気持ちがありました。……お母様が私を庇ってくれたことは数え切れぬほどありましたから。だから今回の件、絶対に婚約者になると決めたのです。礼儀作法など才能が関係無いことで劣ることは無いと思っていましたから。……他に必要なことならいくらでも努力をするつもりでした。王妃は才能だけで選ぶものではないでしょう?…それを信じて頑張ってきました。だから焦りましたのよ?まだお会いしかしていないのに婚約者はアイシア様…貴女に決まったと聞いて」
「だから、あんなに詰め寄って」
「えぇ。……私にはこの件しかありませんでしたから。……幸運なことにも、婚約者候補になれて嬉しかったですわ。それ以上に安心いたしました。第一段階は突破できた、これからはしっかりと努力しなくては。そう思っていましたの」
穏やかだった雰囲気は、一気に暗くなる。
「ねぇ…アイシア様。どうして私が一度家に帰るように言われたときに帰らなかったと思います?」
「どうしてって…」
家族に会いたくない…は違うか。
母には会いたいだろうから。
「もちろん。お母様に直で報告したいと思っていましたわ。一番最初に聞いてほしいと」
「…なら」
「………それはもう、叶わなくなってしまいましたわ」
今にも泣き出しそうなジュゼッペ様。
彼女の涙声からは何も感じられなかった。
瞳には、出会った頃のような光が無かった。
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