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第一章 箱使いの悪魔

#005.■回想②『ネザー脱出』

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 ネザーの最深部に到達した彼等が見たものはこれまで見た事もなかった武器や財宝の数々……そして、ソウルの武器【黒耀剣】の素材となる黒耀石の山だった。

 ソウルはハコザキに言われてそれらを全て回収した後、『シンザシス』を使い武器の改良を重ね──そうして【黒耀剣『改』+99】が出来上がったのだ。

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「ソウル様、どこかお痒い箇所などございませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」

 ソウルはマインと一緒に風呂に入りながら島での出来事を思い出していた。

 この一年間、島でも『仮宿』を造ってそこで過ごしたソウルとマインは湯浴みまでもを共にするようになった。
 勿論、男女が一緒に風呂に入るなど問題だらけだという事をソウルは重々承知していた。
 マインはもう年頃に差し掛かる時期……だが、それを諭しても、色々と説得を試みてもマインは『問題ありません』と言って聞かなかったのだ。
 
「マイン、そろそろ風呂に一緒に入るのが嫌になってくる時期じゃないか? 無理しなくてもいいんだぞ?」
「?? いいえ? まったく嫌ではありませんが」

 ソウルに向かい、マインは不思議そうな顔をして答えた──どう見ても気を使っているわけではなく、純粋に本気でそう思っているようだ……と逆に彼の方が不思議な面持ちになってしまっていた。

(大体の女の子はこの年頃になると父親と一緒にいるのが嫌になるものだと聞いた事があるのに……マインは違うようだ)

 ソウルにしてみても決して嫌というわけではなかったが……いくらマインの事を娘のように思っていてもやはりどうしても視線を逸らさざるにはいられなかった。
 華奢で綺麗な身体つき、一年前よりかはある程度肉づきは良くなっているがそれでも下手に触れると折れてしまいそうなくらい儚く……相変わらず輝くくらいに白い肌には一年もの間、見慣れていてもソウルの視線は奪われた。

(って、何を考えてるんだ俺は。マインは俺を父親のように慕ってくれているのに……大体、自分の年齢の半分以下の女の子をそんな目で見るなんてどうかしてる、理性を保て───そうだ、そして要塞で武器や道具の改良を続けていた俺達にハコザキは言ったんだ)

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<──手に入れた『火打石』と『打金』をありったけの『黒耀石』に使え。人が通れるスペースを作ってな>

 ハコザキに言われた通り、ソウルはありったけの黒耀石を並べてそれまでに手に入れていた『火打石』と『打金』を使用する。
 すると、空いたスペースの空間が紫色に染まり始めた。

<なはは、そいつを通り抜けりゃあ島の外の世界に行ける。まぁ【座標指定】のスキルがねえからどこへ飛ばされるかは運試しだ。じゃあな、お荷物野郎。精々頑張るこった──>

(そう言ってハコザキは応答しなくなった。だから実質……それが俺とハコザキの最後の会話になったんだ……一年間一緒にいてもハコザキが何者かは結局わからず終(じま)いだった。世話になった礼くらい言わせてくれてもよかったのに……あいつの助言が無かったら生き延びる事はできなかった……あいつには散々悪態つかれっ放しだったけど不思議と嫌悪感を抱いたりはしなかった、多少イラつきはしたが……それでも感謝してる)
 
 その紫色の空間を通り抜けて、彼等はこの国へとやって来たのだっだ──つい前々日くらいの出来事である。
 
(『黒耀石』に『火打石』と『打金』……たったそれだけで『時空間移転装置』を造り出してしまった……あの島の文明は一体どうなってるんだか……【座標指定】のスキルがどうとか言ってたからスキルボックスに課金してそのスキルを手に入れれば『ワープする場所の指定』も可能という事だろうか?)

 そのスキルがあればまたネザーに戻る事ができるかもしれない──とソウルはは少し期待を抱いた。
 
「ソウル様? どうかなされましたか?」

 ソウルがこれまでの事を節々に思い返しているとマインに顔を覗き込まれる。
 肩のところで二つ結びにしているマインの濡れた髪がソウルの太ももを擽(くすぐ)った。

「いや、なんでもない。いつも洗ってもらってばかりで悪いから次はマインを洗ってやろう」
「!! いっ……いえ! マインは自分で洗えますから! ソウル様は先にお上がりください!」
「そ……そうか、じゃあ俺は先にあがるよ」

 マインはそう言って自分の体を洗わせるのだけは常に拒否していた。やはり年頃の娘の扱いは難しいものだとそんな事を考えながらソウルは浴室を出、これまでを思考の外に追いやって未来を見据える。

(とにかく……今やる事は『身分紋章(ステータス)』の付与、そして『箱庭(L・クラフト)』のスキルを得るための資金稼ぎだ)

 ソウルの『箱庭』のスキルは、魔獣との修行を経ても一年前から進化していなかった。
 と、いうのも島(ネザー)では課金するための資金を得る事ができなかったからである。当然といえば当然──ネザーには商人どころか人がいなかったため……たとえ財宝を見つけたところで課金に必要な通貨に変える事などできなかったからである。

(インベントリに財宝は山程収納してはいるが……『身分紋章』すらない人間には売買権すらないからな……闇商人でも見つければ話は別だけど……今は真っ当じゃない人間との関わりは避けたい)

 どちらにせよ、考えるのは身分紋章(ステータス)を手に入れてからだとソウルは単純明快に指標を一本化した。
 それさえ手にすればインベントリにある財宝を売って生活には困らないし、『箱庭』の新たなスキルを得て更なる力の飛躍に繋がるだろう。身分があれば土地を買う事だってできるし、クラフトすれば家の建築などすぐにできるから何処かの街にホームを構える事も可能なのだから、と。

(一段落したら……『白銀の羽根』の情報を集める。待ってろよ、それまでにはお前らの想像もつかないほど強くなってるからな)

 最初の標的を、ソウルは既に決めていた……復讐の方法さえも。
 
 
 

 

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