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第一章 箱使いの悪魔

#004.■回想『ネザー要塞』

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◇〈商業都市ウォールレイト〉→→〈ミレステア街道〉


 【箱詰め】の兵士と他二名の兵士の死体が街を騒がせただろうその日、ソウルとマインは既に街を後にしていた。
 島を出たばかりの彼等にとって、情報収集や物資などの調達に商業都市はこれ以上ないほどにうってつけの拠点地ではあったのだが……様々な理由から二人が今、街に居住するのは難しかった。
 
「ソウル様、次は何処へ向かいましょうか?」
「とりあえずは『仮宿』に戻ろう。そもそもウォールレイトに来たのはたまたま会った行商人に連続殺人の噂を聞いたからだしな」
「はい、ソウル様の『クラフト』の力が無ければ街に入る事もできませんでしたね……マインは知識としてでしか知りませんでしたが……大きな街に入るには『通行証』なるものが必要なのですね」
「ああ、若しくは身分を示す『身分紋章(ステータス)』だな。それが無いと莫大な税金を取られる、だからまずは身分紋章を手に入れる」

 そう、この世界の住人であれば誰もが持つ『身分紋章(ステータス)』、ソウル達はこれを持っていなかった為にウォールレイトに留まる事ができなかったのだ。

「俺は『白銀の羽根』にステータスを管理されていたから今じゃ死亡扱いとして抹消されているだろう。マインも同じだったな」
「はい、ネザーではステータスは必要ありませんでしたので……マインの最後の管理者は奴隷商人でしょう。恐らくマインも死亡扱いになっています」

 居住人口が一定数を越える街や様々な人種の行き交う都ではこの身分紋章が必須となるのはオーバーワールドでは一般常識である。
 これが無ければ宿を取る事すらままならず、下手をすれば衛兵に捕らわれる事になりかねない……ソウルにとって、それだけは避けねばならない事態だった。
 ソウルがまだ生きている事を知れば少なくとも怨敵であり宿敵である【白銀の羽根】頭領【サクラ】は恐らく黙ってはいない、今はあいつらに生存を知られるわけにはいかない……と。

 復讐をより完璧に遂行するためには。

「では、ソウル様。身分紋章(ステータス)は何処へ行けば手に入るのでしょうか?」
「基本的には『教会』か『連盟(ギルド)』で手に入る。『教会』で付与してもらう方が【鑑定魔法】から個人情報を秘匿するのにしっかりした紋章をつけてもらえるんだが……費用は割高でしかも教会は大体街にしかない」
「それでは……『ギルド』に行くのですね」
「あぁ、一番近いのは東にある『カルデア』っていう小さな町だ。確か『冒険者ギルド』と『魔術師ギルド』があった筈だ」
「流石ソウル様、博識です。では戻って準備を致しましょう」

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〈ミレステア街道〉→→→〈ソウル達の仮宿〉

 ミレステア街道からカルデアまで続く街道を少し外れた先、川辺のすぐ近くにある群生林の中に二人は足を踏み入れる。
 そこには灰色の無機質なコンクリートが並べられた豆腐型の建造物、まるで一塊のセメントの箱のようなものが景色とまったく調和せずに存在していた。
 無論、古代遺跡でも冒険者達を癒す町外れの宿でもなく──『とある方法』により島(ネザー)から脱出したソウル達が急拵(きゅうごしら)えで建てたテント代わりの拠点となる家だ。

「ソウル様がいればテントは必要ありませんね。数分もあれば『家』を一軒建ててしまえるのですから」
「そうだな、荷物もインベントリに収納するから鞄も必要ない。なんていうか……旅の醍醐味というか味わいは全く無い気がするけどな。手ぶらだし」
「そんな事ありません、マインはソウル様がいるだけで味わいを深く感じます。ところでソウル様。汗をかきましたよね? マインがお背中をお流し致します。お風呂にしますか?」
「そうだな……とりあえず汗を流して休もうか。マインも疲れただろう」
「いいえ、一年間ソウル様に体力造りや魔術指南をしていただきましたから。体力は消耗していませんが……マインもお風呂に入りたいです」

 ──そう、ソウルもマインもこの一年で急激に力をつけていた……と、いうよりそうせざるを得なかった。

 伝承の悪魔とされていた【ハコザキ】の言っていた最後のチュートリアル──それは島(ネザー)で爆撃を喰らいながらも失われていなかった火山の麓(ふもと)にあった【ネザー要塞】──そこに住む見た事もない魔獣達とのサバイバルを強いられたからだ。

 ネザー要塞の内部は溶岩に溢れ返っていて人が立ち入れるような場所ではなかった。
 その中に住む魔獣達との命がけの修行。
 思い出すと熱が出そうなほどの壮絶さで少なく見積ってもソウルは千回以上は死んでいた。

 繰り返される試行錯誤の毎日、それでも挫けなかったのは……帰りを待っていてくれているマインの存在、そして、彼の復讐心が風化しなかったからである。
 
 ──そして、自然に、順当に、ソウルは強くなった。
 簡単に魔獣達を相手どれるようになるまでの約半年以上、剣技や体術の基礎鍛練を寝る間もなく重ねていた。そのおかげで『箱庭』の力を使わなくても魔獣を倒せるようになっていた。
 半年を過ぎてからは死ぬ回数も減っていった。

 そして、それを誰よりも近くで見ていたマインも──密かに魔術を勉強していたのだ。
 マインの秘められた才能──ソウルが覚えていた術式を教えるとものの数回で見事に使いこなせるようになっていた。マインが魔術でソウルをサポートすることにより要塞攻略は更に簡単になっていった。
 
 そして、修行だけが彼等が要塞に入る目的ではなかった。その最深部……そこを目指す事が島を脱出する唯一の手段だとハコザキに言われていたからだ。

 そしてソウル達はチュートリアルを始めて一年後──現在時間にしてつい数日前。
 ネザー要塞の最深部へと到達したのだった。



 

 
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