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痴漢退治10

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 ソラと一緒に学校を出て、最寄り駅へ向かいます。
 自宅へ帰るための電車に乗るためです。
 いつもと一緒の通学路です。
 でも、いつもと違うところもあります。

「ソラ、かわいいわよ」
「ありがと」

 ソラは花の咲くような笑顔で答えてきます。
 このやりとりは数回目です。
 でも、私は言わずにはいられません。
 そのくらい、今のソラは美少女でした。

「これで学校に通ったらダメかな。でも、制服が無いとキララが困るよね」

 ソラは嬉しそうです。
 身体を捻って、揺れるスカートを眺めています。
 ぞくぞくする姿です。
 これなら学校の皆も受け入れてくれるでしょう。

「ソラが欲しいならあげるわ。私はジャージで通うから」
「そういう訳にはいかないよ。冗談だから気にしないで」

 ソラは慎み深いです。
 あげると言っているのに、遠慮してきました。
 ソラの誕生日には女物の服をプレゼントしようと思います。
 いっそ、ソラのことを魔法使いにするのはやめて、魔女っ子にしてしまいましょうか。
 股間にあるものを取って、女性ホルモンを注射すれば、なんとかなるでしょうか。
 私はかなり本気で考えます。
 しかし、そのような方法では、人工的に作られた存在になってしまいます。
 いわば、養殖モノです。
 天然モノには勝てないでしょう。
 私は涙を飲んで、ソラを魔女っ子にするのは諦めることにします。
 やはり、ソラには童貞のまま三十歳になってもらって、魔法使いになってもらうしかありません。

「あ、ちょうど電車が来る時間だね」

 お喋りをしていたら、駅に着きました。
 電車の時刻表を確認して学校を出たので、到着時間もバッチリです。

「ええ、これからが本番よ」

 これから乗り込む電車は、いつも乗っている電車です。
 でも、今日はいつもと違い使命があります。
 美少女であるソラ子をおとり役として、痴漢を捕まえるのです。
 その際に、ソラ子が危険な目に遭わないように、私が護らなければなりません。

「さあ、行くわよ、ソラ」

 私は気合いを入れて、電車に乗り込みました。

 *****

 ガタンゴトン……ガタンゴトン……

「…………」
「…………」

 警戒心を最大にして、周囲に気を配ります。
 ですが、きょろきょろするのはよくありません。
 痴漢に警戒されてしまうからです。
 さりげなく周囲を警戒しなければなりません。

 ちらっ

 ですが、現在『さりげなく』というのが難しい状況です。
 なぜなら、

「満員電車なのに、僕達の周りだけ人がいないね」

 私とソラの周りに、空白地帯ができているからです。
 まるで、見えない壁があるかのように、半径1メートルの距離に人が入ってきません。
 推測できることは一つです。

「きっと、ソラが美少女すぎて、近寄りづらいのよ」
「キララが美少女だからかも知れないよ」

 ソラがお世辞を言ってくれますが、そんなことはありません。
 私はいつも女子用制服で通学していますが、満員電車ではギュウギュウ詰めになっています。
 今日は制服ではなく魔女っ子衣装ですが、魔女っ子は人気者なので、逆に人が寄ってくるはずです。
 だから、人が近寄ってこないのは、ソラが美少女すぎるからに違いないのです。

「うーん……快適だけど、作戦には支障をきたすわね。メイクを頑張りすぎたかしら」

 ソラに施したのは、モデル仕込みのナチュラルメイクです。
 ナチュラルメイクとは『手を抜いた自然な感じのお化粧』という意味ではありません。
 『自然に見えるように高度で繊細な技術が使われてるお化粧』という意味です。
 普通のお化粧よりも時間はかかりますが、魅力を最大限に引き立てることができます。
 魔女っ子には必須のスキルです。
 なぜなら、魔女っ子はどんなに激しい戦闘を繰り広げたとしても、けっして汚れたりしないからです。
 汚れたとしても、なぜか可愛さを引き立てるアクセントになります。
 きっと、あれは汚れに見せかけたメイクなのです。
 あれこそが真のナチュラルメイクなのです。
 私はまだあれほどの技術は持っていません。
 ですが、いつか身に付けてみせます。
 少しでも魔女っ子に近付くためです。

「あ、駅に着いちゃったね」

 そんなことを考えていたら、自宅の最寄り駅に到着しました。
 結局、痴漢は現れませんでした。
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