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痴漢退治11

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 初日の作戦は失敗でした。

「結局、痴漢は現れなかったね」

 自宅に前まで来たところで、ソラが言います。
 その言葉の通り、今日は痴漢が現れなかったのです。

「ソラ子に痴漢しないなんて、痴漢も見る目がないわね」

 ソラ子ほどの美少女を痴漢しないなんて信じられません。
 私が男なら、ソラ子ほどの美少女がいたら、その場で押し倒しているでしょう。
 きっと痴漢は不能に違いありません。
 生殖能力に問題があるのです。

「別に痴漢されたいわけじゃないけどね。でも、加藤さんを痴漢した人は捕まえたいかな」

 そういえば、おっぱいお化けは痴漢にあったのでした。
 だとしたら、生殖能力の問題ではないかも知れません。
 特殊な性癖を持っている可能性があります。
 脂肪の塊に発情する変質者です。

「明日の朝も同じ作戦で行きましょう。帰りは電車は時間が予測できないけど、朝の電車は同じ時間に乗る可能性が高いわ」
「そうだね。でも、今日は着替えないとね」

 ソラが自宅に入ります。
 私もそれについて、ソラの家に入ります。
 服を入れ替えているので、戻す必要があるのです。

「ただいま」
「おじゃまします」

 帰りの挨拶をしますが、家の中から返事はありません。
 ソラの両親は共働きで、帰ってくるのは深夜です。
 でも、リクがいることがあるので、ソラは帰りの挨拶をします。
 もっとも、運動部であるリクが先に帰っていることは、ほとんどありません。
 今日も、いないようです。

「それじゃあ、着替えちゃいましょうか。お化粧は私が落としてあげるわ。ちゃんと落とさないと肌が荒れちゃうからね」
「うん、お願い」

 他に人がいないせいか、ソラは素直です。
 部室にいたときのように邪魔が入ることなく、ソラを着替えさせることができました。

 *****

 せっかくソラの家に来たので、リビングで一緒にテレビを見ることにしました。
 ソラの部屋にもテレビはあるのですが、リビングのテレビの方が大きいのです。

「見たい番組ある?」
「いつもソラが観ている番組でいいわ」

 私が答えると、ソラが嬉しそうにチャンネルを回します。
 一応、尋ねてはきましたが、予想通り見たい番組があったようです。
 ソラは優しいので、いつも他人の希望を優先しようとします。
 でも、自分の希望と違うと、ものすごく残念そうな顔になるので、ちくちくと罪悪感が刺激されます。
 そのため、結果的にソラの希望が叶うことが多いです。

「このアニメ、部活で鑑賞会をしているアニメと同じ作者さんなんだよ」
「そうなんだ」

 どうやら、ソラはアニメが観たかったようです。
 魔女っ子モノでないので、私は興味がありませんが、ソラの隣に座って一緒に観ます。

 …………

 アニメを見終わった後も、まったり過ごしていると、玄関から音が聴こえてきました。

「ただいま……お、キララ、来ていたのか」

 リクが帰ってきたようです。
 だいぶ、疲れているようです。
 サッカー部の練習、もしくは、サッカー部のマネージャとの性行為を頑張ってきたのでしょう。

「リク、おかえり。おつかれ」
「リク、おかえりなさい。生臭いから、早くお風呂に入ってきて」

 ソラのお化粧を落とすときに、ついでにお風呂に入ってもらうために、準備をしたのです。
 美容のためには、血行をよくした方がよいのです。
 リクには、ソラが入った残り湯を活用してもらうことにします。
 私は魔女っ子(代理)なので、地球環境に優しいのです。
 お風呂の残り湯を洗濯に使ったりします。
 だから、リクにお風呂を勧めました。

「せめて、汗臭いって言ってくれよ。生臭いってなんだよ」

 だというのに、リクはぶつぶつと文句を言いながら、お風呂に向かいます。
 なにが不満だというのでしょう。
 反抗期でしょうか。
 ソラのダシが染み出たお風呂に入れば、少しは素直になるでしょうか。
 そんなことを考えていたら、ソラが立ち上がります。

「僕はリクがお風呂に入っている間に、夕食の支度をするね」

 ソラとリクの両親は帰ってくるのが遅いので、夕食の支度はソラがします。
 手伝いたいところですが、私は料理が苦手です。
 魔女っ子の修行とモデルのお仕事に時間を取られて、料理の練習をしている時間が無かったからです。
 邪魔になるといけないので、私は帰ることにします。
 そう思って立ち上がったところで、お風呂に向かったはずのリクが戻ってきました。

「そうそう。そういえば、いつも使っている電車で痴女が出たらしいぞ。おまえらも襲われないように気を付けろよ」
「痴女? 痴漢じゃなくて?」
「痴女らしいぞ。噂になっているのが、聞こえてきたんだ」

 リクはそのことを言うために、わざわざ戻ってきたようです。
 でも、確かに重要な情報です。
 ソラが痴女に襲われて童貞を失ったら大変です。
 これからは、通学電車でもソラを護るために警戒しようと思います。
 そんな決心を固めていると、リクが追加情報を教えてくれます。

「なんでも、いい歳して魔女っ子の衣装を着た女だったらしい」
「…………」
「AVの撮影でもしていたのかな。でも、さすがに満員電車の中ではしないよな」
「…………」

 リクの話が聞こえていたのでしょう。
 ソラが料理をしながら、ぽつりと呟きます。

「今日はキララも魔女っ子の衣装を着ていたよね。とっても、可愛かったよ」
「え?それって……」
「マジカルクラッシュ!」
「ぐっ!?」

 特に理由はありませんが、私はリクにマジカルクラッシュを食らわせます。
 リクが悶絶して蹲ります。
 特に理由はありませんが、それ以上なにかを言わせたらいけない気がしたのです。
 魔女っ子としての勘です。

「じゃあ、私は帰るわ。ソラ、また明日」
「うん、また明日」
「お、おまえ、いきなりなにすんだ……」

 ソラの爽やかな声と、リクの絞り出すような声を聞きながら、私は玄関から外へ出ました。
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