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第三話 女性たちを返せ! 残虐イケメン俳優
本性
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神里は七分袖のトレーナーにジーンズのズボンというラフな出で立ちで、昨夜寝付けず心体ともに気怠かったが、遅刻することなくゲスト出演するテレビ番組の撮影するスタジオを訪れた。
楽屋へ向かい廊下を歩いていると、今日も元気かい、と本人が一番元気そうな声で、不意に後ろから背中を叩かれそうになる。
神里は叩く手が背中に至る前に、忍者のごとき素早さで反転して相手の手首を掴んだ。
「ありゃ」
背中を叩こうとしていた柴田は、神里の思わぬ反応速度で阻止されて、呆然と掴まれた手首を見つめた。
背後にいた人物が柴田だとわかると、神里は手を放して微笑みかけた。
「なんだ、柴田さんか。いきなり後ろから襲わないでほしいな」
「襲ったわけじゃないっすけど。そんなことより、さっきの動きどこで覚えたんすか?」
「え、さっきの動き?」
「ほら、すごい速さで私の手を掴んだじゃないっすか」
「ああ、あれね。あれはね、ええと……」
もごもごと神里は答えに窮した。
「合気道とかっすか?」
柴田が頭に浮かんだままに言う。
「まあ、そんなところかな」
「へえ、神里さん。合気道やってたんすか、驚きっす」
「やってたという程でもないよ。ほんの触りだけだよ」
さらなる詮索を断つように謙遜した。
「そういえば、昨日私いなくて大丈夫だったすか?」
柴田が話題を切り換えて尋ねる。
「問題なかったよ。昨日はテレビ撮影が一本だけだったから、幸いだったよ」
「そういえば、そうだったすね。スケジュール覚えたつもりだったんすけどねぇ」
えへへ、と苦笑いをする。
二人は他愛無いことを喋りながら、並んで神里の楽屋へ向かう。
楽屋の前に来ると、柴田が拳を小さく掲げて告げる。
「神里さん。今日も一日頑張ってください」
「うん」
神里は頷いた。が、実際は言い様のない気怠さで仕事にやる気も起きない。気怠さに付随しているのか、妙に胸が騒めきもしていた。
「それに今日は、午後からドラマの撮影ですよ」
「ああ、そうだね」
騒めく胸が一度強く拍動した。共演者である若手女優の遠野未希の事が頭に過ぎり、神里の中に他者の血が堰を切って流れ出す、ような言い様のない夾雑の感覚が巡る。
「さあ、早く準備をしてきてください」
柴田に促されて、神里は先の感覚を気にも留めず、楽屋に入って身支度を始めた。
ドラマの撮影が終わると、未希は神里に誘われ、隠れ家のような仄暗い雰囲気のスタンドバーで、普段あまり馴染みないカクテルを嗜んでいた。
「どう、おいしいかい?」
未希がカクテルを口に含むと、隣に座る神里が尋ねる。
「美味しい。といってもカクテルなんて初めてだから、ほかの店との違うはわからないけど」
見識の浅さを恥じるように苦笑を滲ませる。
「マスター、美味しいってさ」
神里はバーカウンター越しに、無言でグラスを磨いているバーテンの店主に話しかける。
店主は何も言わずに、グラス磨きに意識を傾けている。
「マスターっていつもこんな感じ?」
未希が黙しているバーテンの店主を不思議そうに見つめる。
「そうだね。頷くか首を振るだけかな。だからなんとかマスターの声を引き出そうと、いつも話しかけるんだけど、終始無言だよ」
「ふーん、人と喋るのが好きじゃないのかな?」
「多分、そうだよ」
未希の憶測に、神里は同意見のように答えた。
カクテルのグラスを片手に他愛のない談笑をすること数十分、未希は頭がふんわりと軽くなるような眠気を感じ欠伸が漏れた。
「もう夜遅いし、疲れたかい?」
未希の欠伸を見て、神里は気遣って訊いた。
「そうかも。少し眠たい」
その時、ズボンのポケットに入っている携帯電話が軽やかな着信音を鳴らした。
神里は携帯を取り出して、メッセージを確認する。口の形だけ悪態をついて、席を立ち上がる。
「どこにいくの?」
「ごめん、少しだけ待ってて。仕事の話みたいだ」
片手を顔の前にやって軽く謝り、店の隅まで行って誰かと通話し出した。
未希はうつらうつらと眠りそうになりながら、神里の通話が終わって戻ってくるのを待った。
しかし眠気に抗えず、すとんと席の上で寝落ちてしまった。
未希が眠ったのと同時に、神里は通話を切った。
「そいつを監禁室に運べ」
別人に取り換わったかのように神里は淡々とした口調で、未希を指さしバーテンに令した。
バーテンは身に付けているネクタイ付きのワイシャツにスラックスの装いを脱ぎ、ピンクの全身タイツ一枚だけの格好になる。
ピンクタイツはシキヨクマーの別隊が調剤した強力睡眠剤で眠らされた未希を、荷物の少ないリュックでも肩に掛けるように店の奥へと負ぶって運ぶ。
「これで一人目だ」
部下に背負われ運ばれる未希を、神里は酷薄な眼で見つめる。
唇を剥いてほくそ笑むと、狼に似て太く尖った牙が覗いた。
楽屋へ向かい廊下を歩いていると、今日も元気かい、と本人が一番元気そうな声で、不意に後ろから背中を叩かれそうになる。
神里は叩く手が背中に至る前に、忍者のごとき素早さで反転して相手の手首を掴んだ。
「ありゃ」
背中を叩こうとしていた柴田は、神里の思わぬ反応速度で阻止されて、呆然と掴まれた手首を見つめた。
背後にいた人物が柴田だとわかると、神里は手を放して微笑みかけた。
「なんだ、柴田さんか。いきなり後ろから襲わないでほしいな」
「襲ったわけじゃないっすけど。そんなことより、さっきの動きどこで覚えたんすか?」
「え、さっきの動き?」
「ほら、すごい速さで私の手を掴んだじゃないっすか」
「ああ、あれね。あれはね、ええと……」
もごもごと神里は答えに窮した。
「合気道とかっすか?」
柴田が頭に浮かんだままに言う。
「まあ、そんなところかな」
「へえ、神里さん。合気道やってたんすか、驚きっす」
「やってたという程でもないよ。ほんの触りだけだよ」
さらなる詮索を断つように謙遜した。
「そういえば、昨日私いなくて大丈夫だったすか?」
柴田が話題を切り換えて尋ねる。
「問題なかったよ。昨日はテレビ撮影が一本だけだったから、幸いだったよ」
「そういえば、そうだったすね。スケジュール覚えたつもりだったんすけどねぇ」
えへへ、と苦笑いをする。
二人は他愛無いことを喋りながら、並んで神里の楽屋へ向かう。
楽屋の前に来ると、柴田が拳を小さく掲げて告げる。
「神里さん。今日も一日頑張ってください」
「うん」
神里は頷いた。が、実際は言い様のない気怠さで仕事にやる気も起きない。気怠さに付随しているのか、妙に胸が騒めきもしていた。
「それに今日は、午後からドラマの撮影ですよ」
「ああ、そうだね」
騒めく胸が一度強く拍動した。共演者である若手女優の遠野未希の事が頭に過ぎり、神里の中に他者の血が堰を切って流れ出す、ような言い様のない夾雑の感覚が巡る。
「さあ、早く準備をしてきてください」
柴田に促されて、神里は先の感覚を気にも留めず、楽屋に入って身支度を始めた。
ドラマの撮影が終わると、未希は神里に誘われ、隠れ家のような仄暗い雰囲気のスタンドバーで、普段あまり馴染みないカクテルを嗜んでいた。
「どう、おいしいかい?」
未希がカクテルを口に含むと、隣に座る神里が尋ねる。
「美味しい。といってもカクテルなんて初めてだから、ほかの店との違うはわからないけど」
見識の浅さを恥じるように苦笑を滲ませる。
「マスター、美味しいってさ」
神里はバーカウンター越しに、無言でグラスを磨いているバーテンの店主に話しかける。
店主は何も言わずに、グラス磨きに意識を傾けている。
「マスターっていつもこんな感じ?」
未希が黙しているバーテンの店主を不思議そうに見つめる。
「そうだね。頷くか首を振るだけかな。だからなんとかマスターの声を引き出そうと、いつも話しかけるんだけど、終始無言だよ」
「ふーん、人と喋るのが好きじゃないのかな?」
「多分、そうだよ」
未希の憶測に、神里は同意見のように答えた。
カクテルのグラスを片手に他愛のない談笑をすること数十分、未希は頭がふんわりと軽くなるような眠気を感じ欠伸が漏れた。
「もう夜遅いし、疲れたかい?」
未希の欠伸を見て、神里は気遣って訊いた。
「そうかも。少し眠たい」
その時、ズボンのポケットに入っている携帯電話が軽やかな着信音を鳴らした。
神里は携帯を取り出して、メッセージを確認する。口の形だけ悪態をついて、席を立ち上がる。
「どこにいくの?」
「ごめん、少しだけ待ってて。仕事の話みたいだ」
片手を顔の前にやって軽く謝り、店の隅まで行って誰かと通話し出した。
未希はうつらうつらと眠りそうになりながら、神里の通話が終わって戻ってくるのを待った。
しかし眠気に抗えず、すとんと席の上で寝落ちてしまった。
未希が眠ったのと同時に、神里は通話を切った。
「そいつを監禁室に運べ」
別人に取り換わったかのように神里は淡々とした口調で、未希を指さしバーテンに令した。
バーテンは身に付けているネクタイ付きのワイシャツにスラックスの装いを脱ぎ、ピンクの全身タイツ一枚だけの格好になる。
ピンクタイツはシキヨクマーの別隊が調剤した強力睡眠剤で眠らされた未希を、荷物の少ないリュックでも肩に掛けるように店の奥へと負ぶって運ぶ。
「これで一人目だ」
部下に背負われ運ばれる未希を、神里は酷薄な眼で見つめる。
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