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零章 第四部『加速と収束の戦場』

六十三話 「RD事変 其の六十二 『紅虎の動き② 竜水晶賜儀国』」

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 この世界には【亜人】と呼ばれる種族がいる。

 彼らは人間に近しい種族であり、基本的には人間の身体的特徴と酷似した外観(五体等)を持ち、人間と交配が可能であることが亜人種の条件となっている。

 亜人がモンスターと違うのは、特に最後の一点、人間と交配できるという点が最大のポイントである。

 これがモンスターである場合、何をどうやっても受胎することはない。そもそもの存在が違うからである。この点から、亜人と人間はほぼ同一の因子によって構成されているといえる。

 そして、もっと言ってしまえば【魂の仕組み】そのものが同じである。

 亜人という言葉から人間を粗雑にしたもの、というイメージが湧くが、この用語自体人間から見た場合の呼び方にすぎない。こうなると【人間とは何か】という問いに答えを出さなくてはならなくなるだろう。

 では、人間とは何か。
 それは―――

 【物的体験を経て進化し、いずれ神域に至る霊】

 これが人間の定義である。

 あえてこう定義するのは、動物やモンスターもまた物的体験を経て成長する霊という存在だからだ。しかし彼らの霊魂というものは、人間のものとは違って個性を持続させない。種全体としては維持されるが、個別の存在として神域に至ることはできないのである。

 しかし、亜人は人間と同じく物的体験を経て神域に至ることができる。

 この人間の定義からすると、亜人種もまた同じ人間であるということができる。外観は多少違えど、中に宿る魂に違いはないからだ。最終的に行き着く場所は同じなのだから区別する必要性はない。両者が交配できるという点を考慮すれば、この答えにたどり着くことは困難ではないだろう。

 ただし、人間と亜人には多少ながら違いが存在するのも事実である。

 それは、【担当している神が違う】という点である。

 人間は光の女神マリスによって神性の光を与えられた存在であり、それを闇の女神マグリアーナによって形態を与えられて産み落とされている。ここまでは人間も亜人も同じ工程を辿っている。

 しかしながら、それ以後の担当は少しばかり違う。人間がかつて同じく人間であった白狼たちによって管理されているのに対し、亜人種を管理しているのは、同じ偉大なる者でありながらもかつての神々であった者たちである。

 この星を再生したのは人間だけではない。かつての生き残った神々も協力して新しい生態系を生み出したのだ。

 もともと亜人という存在種自体、かつての神々の因子を覚醒させた者たちである。神々は自然を模して作られていたので、通常の人間に比べて実に多様な形態を持っていた。それゆえに亜人もまた多様になるのは当然のことだろう。

 そして、元神々は自然と関わる存在であったので、大地に直結した生活をしている亜人との結びつきも強い。そのため元人間である白狼たちよりも彼らのほうが、亜人の管理に向いているのである。

 このことから亜人が崇める神は人間と違うことが多い。

 人間は女神信仰や白狼信仰など、自身に強く関係する偉大なる者を崇めるが、亜人は自己に関係が強い偉大なる神々を崇拝している。よって、直系に対する扱い方も一般の人間とは多少異なる。

「やっ、どうも」
「むっ、紅虎か」

 紅虎が次に訪れたスペースの入り口には、今説明したような亜人が佇んでいた。ここに立っているということは護衛の亜人、戦闘タイプの亜人であることは間違いないだろう。

 門番の亜人は、紅虎に対して普通に話す。特に敬語を使うわけでもなく、お互いに対等の者として接している。これが人間と亜人の最大の違いと言ってもよいだろう。

 亜人にとってみれば、紅虎は自身が崇拝する神とは違う系統の者の子である。直系としての進化の程度に敬意を払うことはあれど、他の人間のように動きが制限されるということもない。少しややこしいが、違う宗派が崇めている神の子、という気持ちである。

 そういうわけなので、ただ紅虎だからといって簡単に通すわけにはいかない。門番はしっかりと自己の役割を果たす。

「何の用だ?」
「ちょっと話があってね。里長いる?」
「揉め事は困るぞ」
「大丈夫だって。信用してよ」
「どこを信用すればよいのか…。だが、出向いてきた客人を迎えぬは無礼であろう。少し待て」

 亜人は紅虎を入り口の扉前で止めると、確認を取るために中に入っていく。しかしまあ、亜人にまで警戒されるとは紅虎のトラブルメーカーぶりが如実に示されている一例である。

 紅虎は手持ち無沙汰に周囲を見回す。

 このスペースはホールの中でも中心部に近いエリアにある。近くにはロイゼン神聖王国を筆頭とする大国から中堅国家のスペースが並んでいる特級エリアである。

 その中にはグレート・ガーデンのスペースもあるので、紅虎は少しだけ嫌な顔をして注意深く様子をうかがっていた。もしアダ=シャーシカにでも会えば、また面倒くさいことになるからだ。

 が、その心配をよそにグレート・ガーデンのスペースは静かなものであった。今回来ている人数も少ないし、さすがのアダ=シャーシカも部屋で暴れるような人物ではないので、むしろ他のスペースのほうが賑やかにすら感じる。

(まっ、あいつだって無茶しないでしょう。今は、だけど)

 アダ=シャーシカという人物は、紅虎にとっても推し量るのが難しい人間である。唯一確実なのは、彼女は旧時代と呼ばれる古代の力を発見した者であり、すでに地上の人間の理から外れているということ。その意味では紅虎に近しい存在であるといえる。

 同時に最大の要注意人物でもある。なにせ紅虎と対等に戦うことができる可能性を秘めているのだ。彼女が見つけ出した技術で作られたアイテムはもちろん、賢人の遺産とは系統が違う遺物を数多く見つけているはずだ。

 そう、問題はそこである。

 彼女単体はどうにでもできる。側近のサーティーンズも強いが、紅虎ならば対応はできるだろう。が、その技術が拡散することが怖いのだ。第二、第三のアダ=シャーシカが生まれることが一番の脅威である。

 ただでさえ地上世界は、ブループリント〈進化の工程表〉から外れつつあるのだ。これ以上の遅延や遅滞は望むところではない。だが、事態はそう簡単ではない。

(私も知らない昔の遺物がごろごろしているのよね。天国だって一つじゃないらしいし…頭が痛いわ)

 紅虎は山積している地上の問題に、もともとあまり使っていない頭を悩ませることになる。

 紅虎が生まれたのは、すでに黒賢人がいなくなった後であるし、彼が地上で遺したといわれる遺産も全容が掴めていない。愛の園のデータベースには全部記録されているらしいが、紅虎はそこまで見せてもらえていない。

 その理由は「もっと自分で勉強しろ」とのこと。

 母親からのお達しで、紅虎には詳細を知らせないようにしているのだ。父親の紅虎丸は娘に甘いが、母親の紅御前は同性ということもあって比較的厳しい。というか、かなりのスパルタである。

 紅虎は遊びで地上にいるわけではない。彼女の使命を果たすと同時に、自身の進化のために勉強をしなくてはいけない。本当は来たくなかった連盟会議に出席しているのも、今ここでこうして仕事をしているのも、すべて後学のためである。

 それに半ば飛び出した形で出てきているので、母親からの援助や譲歩は考えられない。それは使命とは違う紅虎独自の目的が関係している。わがままで地上に来ているのだから、できるかぎり自力でやるべきだろう。

(そのうちバン・ブックにでも接触してみようかしら。あそこなら地上の情報は全部記録されているはず…。いや、アナイスメルのほうが早いのかな? でも、ああいう場所は苦手なのよね)

 各人に担当があるように、偉大なる者にも得手不得手は存在するのならば、直系である者にもそれぞれ得手不得手があってしかるべきだ。紅虎は物質化や戦闘に関しては得意だが、いかんせん探知捜索系の能力はまるで駄目である。

 それは武人と術者、ダイバーがそれぞれ違うのと同じことである。この因子の覚醒というものも、各々が所属する霊系に深く関係している。もともと戦闘系に秀でた偉大なる者の系譜の者が武人となり、術者系統だった者は術者、さらに霊魂の扱いに秀でた者がダイバーなどに連なる。

 ルイセ・コノなどは、偉大なる赤猫の外観的特長と隠密系のスキルを持っているが、実際の系譜は白狼側に近い。本来、赤猫は剣士型暗殺者系の系譜なので彼女とは違うのだが、こうして外観的に他の系譜の因子が覚醒することもある。マッチョなのに術者、というケースもそういうことなのだろう。

 紅虎はバン・ブックに接触することはできるだろうが、情報を引き出すには特別な因子が必要らしいので、この世界の秘密に関わるSSSレベルまでアクセスできる可能性は低い。同時にアナイスメルへの接触も危険だと思われる。

 アナイスメル自体、紅虎にはあずかり知らぬことである。そもそも黒賢人自体、何であるかまでは知らない。愛の園の上層部ならば知っているだろうが、紅虎の管轄は非常に下層部までに限られているので、自力で発見するのは難しいだろう。

 それならば、むしろ地上にいたほうが手がかりを得ることができるかもしれない。なにせ賢人の遺産を使う人間は確実に存在するのだから。

「入れ。長が会う」
「…ん。ありがとさん」

 普段使わない頭が悩みすぎてオーバーヒートする寸前、門番の亜人が戻ってきた。

 紅虎は開けられた扉から中に入る。

 中のスペース自体は、他の国家のスペースとまったく同じである。壁や床などの材質も同じだ。ここは国際会議場なのだから同じに決まっている。

 さて、この状況をよく考えてみてほしい。
 ここは国際連盟会議場のスペースである。

 いくら頭では同じ魂の者とわかっていても(それを知っている者は少ないが)、やはり亜人と人間は生活様式が相当異なるし、種族によっては動物のような生活を好む者もいる。人間同士でさえ差別があるように、それを簡単に受け入れられないのが現在の地上人類のレベルである。

 普通の亜人が連盟会議に迎え入れられるわけがないし、そもそも国家として認められる存在などほとんどいない。また、人間のほうが数が多いために、近年では徐々に生活圏も削られていると聞く。

 亜人にも多様な種類がいることは前述の通りであるが、その中でもより人間に近く、さらに特別な役割を持った亜人種がいる。彼らは人間と同様の国家と都市を生み出し、他の人間との交流も大々的に行っている。

 そうした亜人種は、特に人間と敵対しない限りは一つの国家として迎え入れられている。ただ、さすがに国際連盟は人間たちの集まりなので、普通の亜人国家が迎え入れられることは少ない。

 だが、例外もある。

 人間の生活に大きな影響力を持ち、人間に対して恩恵を与えるか、何かしらの貢献をしている種族に対しては人間の国家と同様に扱われることがある。

 紅虎が入ったスペースには、ほぼ人間と同じ外観をしている亜人たちがいた。もし指摘されなければ気がつかないほど、それは人間にそっくりの存在である。

 その【鱗】がなければ。

 彼らの中には鱗が表に出ている者たちがいる。それも魚のような鱗ではなく、もっとしっかりとした鉱物のような光沢を持ち、見ただけで頑丈だとわかるほど強固なものである。

 鱗が出ている箇所はそれぞれ異なり、腕に出ている者もいれば顔の一部に出ている者もいる。そして、そうした者の大半は戦士である。彼らの文化では、鱗が表面化している部分が多い者ほど優れた戦士という概念がある。

 この場にいるのは鱗の量も多いので、誰もが優れた戦士であることが一目でわかる。また、戦士は一回りか二回り身体が大きいので圧力は桁違い。普通の人間ならば対峙しただけでへたり込んでしまうに違いない。

 そんな彼らの種族は【竜人りゅうじん】と呼ばれている。

 竜人は、偉大なる神々の直系である竜爪りゅうそう神に連なる者たちである。人間とほぼ同じ姿をしながらも宿す力は神々に起因したものなので、基礎能力は人間よりも遥かに上に位置する。

 大陸暦が始まる前、そのもっとずっと前、地上には何人かの直系が降り立ったといわれている。

 その中で女神マグリアーナの子マリス――同名だが光の女神とは違う――は人々を導き、一方で竜爪神は、人間以外の亜人や動物たちを導いたという。その際に竜爪神が自らの因子を強く遺した者が、のちの竜人となったとされる。

 竜人たちが人間と交配を続けたことも、人間社会から認められた要因の一つだろう。一部の身体の大きさを除けば、生殖的にも彼らとの差はほぼなく、知能も人間と同じか、むしろ高いほうである。

 顔つきも人間のそれとあまり変わらないが、その生来の原始的な強さからか、人間より精悍で荒々しい顔つきのように見える。といっても、この場にいる者は戦士が大半なので、人間の世界同様、戦う者はこういう顔つきなのだろう。

 ちなみにこの世界には【龍人】と呼ばれる者たちもいる。読み方は同じだが、彼らの外観はまさに二足歩行の竜あるいは蛇であるので、人間社会との交流はほとんどないのが実情である。ただし、人間との交配は可能なので、霊魂としては同じ存在なのだろうと思われる。

 ここはその竜人国家、竜水晶りゅうすいしょう賜儀しぎ国のスペース。

 なかなか特徴的な名前だが正式名称である。

 竜水晶賜儀国は、南東大陸にある国で、総人口は二十万程度の小さな国である。この人数の中には移住した人間の数も含まれているので、実際の竜人の数は十五万程度だと思われる。それも混血が進んでいるので、あえて分けて考える必要はないかもしれない。

 この地には、彼らの国家名の由来となった竜水晶と呼ばれるものが存在する。かつて竜爪神から特別な儀式を行うために賜ったものとされ、それを守護するのが彼らの使命であるという。

 水晶は色違いに五つあり、それぞれが五芒星を描くように離れた場所にあるために、各水晶を中心部として五つの里が作られている。

 その五つとは―――

 メタルドラゴンが守護する【芽吹き水晶の里】
 コバルトドラゴンが守護する【育する水晶の里】
 エメラルドドラゴンが守護する【開くり水晶の里】
 ルビードラゴンが守護する【実り水晶の里】
 アンバードラゴンが守護する【転ずる水晶の里】

 である。

 水晶の中心部には竜爪神が使わしたとされる純粋竜が鎮座し、守護神竜として崇められている。いや、鎮座というより【彼ら自身が水晶】なのだ。それゆえに自ら動くことはできない。

 その代わり、竜人が彼らを守っている。その最高責任者こそ、各々の里の長である【竜姫りゅうき】である。

 五人の竜姫は巫女のような役割を持ち、守護神竜の思念を感じて里の方向性を決めている。年に数度、彼女たち五人が集まり国策を決定するので、評議会に近い最高意思決定機関を持っているともいえる。

 この竜姫はもっとも竜爪神の因子を覚醒させた者たちであり、子を残さずに死亡しない限りは世襲制をとっていた。

 そして、紅虎がこれから出会う者は、その竜姫の一人である。

「久しいな、紅虎」

 さきほどのエイロウ魔法王国と比べると遥かに巨大なスペース、大国が使うスペースの中央には巨大な玉座が存在し、そこには一人の少女が座っていた。

 玉座の周囲は、まるで謁見の間のような造りになっており、黄土色の絨毯の両側には竜人の戦士たちが居並んでいた。これが人間の国家ならば綺麗どころの騎士や儀仗兵になるのだろうが、居並ぶ戦士はどれも屈強で無骨な風体をしている。

 この場にはそれなりの数の戦士がいるが、その中でも特に強そうな者たちばかりである。おそらく竜姫を守るための親衛隊のような者たちなのだろう。見ると、他の竜人よりも鱗が占める面積が多い。それは強者の証である。

 しかも持っている武具は、どれも高度な術式を秘めたものである。人間の世界ならば準魔剣や準聖剣と呼ばれてもおかしくないものばかりで、扱う竜人の技量も含めれば、この少ない人数でも一騎当千の働きをする猛者ぞろいであろう。

 そんな屈強な護衛に守られる少女の身長は人間と比べても小さく、おそらくは百四十センチ程度しかない。小さな体躯なので、巨大な玉座のごくごく一部しか使用していない、やや不自然な格好に見える。

 それは少女も自覚しているのか、時折もぞもぞと居心地が悪そうに動いている。別途用意した小型の肘掛けがなければ、もはや寝そべったほうがよいほど幅が余っていた。

 その姿が面白く、ついつい紅虎もいじる。

「その椅子、似合ってるよ」
「嫌味のつもりか? 人間は私を人形とでも勘違いしているとしか思えん」
「誠意を示したつもりなんだよ。ほら、何でも人間は大きいものが好きだから」
「まったく理解できん価値観だ。あのアピュラトリスというものも理解しがたいが…」

 巨大な椅子に腰掛けた、もとい、座らされている少女が首を傾げる。

 この椅子はダマスカスが用意したものであり、竜水晶賜儀国に失礼がないように細部に相当な意匠が施された超高級品である。座り心地もよく、少女が半分埋まっているほどの柔らかさを誇る。(そのせいでひっくり返りそうだ)

 が、竜人は普段、このような柔らかいものには座らない。もともと鱗を持っているので、石だろうが岩だろうが気にしないのだ。むしろ大地の力を感じられる鉱物のほうがしっくりくるだろう。

 また、竜人はあまり派手なものを好まない。一部には伝承にもあるように宝石を集めるような下等種もいるが、竜水晶賜儀国の竜人にはそういった習慣はない。人間が好むような贅沢品や嗜好品は、あくまで人間の経済様式に合わせて都市で流通させる程度の価値しかない。

 それもダマスカス側は知っているのだが、やはり人間の習慣というものは抜けないようで、不要とわかっていてもこうしたものを用意してしまう。竜姫もせっかく用意してくれたのだからと座っているが、やはり馴染めないようだ。

 その様子を見て、紅虎は心から安堵する。仲間を見つけた、という表情である。

「いやー、なんだかここはしっくりくるね」
「何かあったのか?」
「私が行くと弟や妹たちが騒ぐんだよ。それだけならいいけど、たまに崇められたり拝まれたりするとね…」
「せっかくだ。踏んでやれば喜ぶだろう」
「あはは、私の弟子なら喜ぶだろうけど、普通の子らにはハードすぎるかな」

 紅虎としては、もっと普通に接してくれたほうが楽なのだが、そのように接してくれる者はほとんどいない。せいぜいカーシェルやラナーくらいだが、やはりそこには一定の距離があるようにも思える。その点、竜人ともなれば普通に接してくれるので気が楽であった。

「ふむ、人間からすると直系は珍しいのか」
「姿も変わらないからね。そこが珍しいみたいだよ」
「変わらぬのはそれほど不思議なことか?」

 竜姫である彼女の寿命は長く、紅虎とは多少事情が違うが、彼女の姿もかつて見た時とまったく変わっていない。竜爪神の因子を覚醒させた彼女にとって、外観とは飾り物にすぎないのである。

 それを証明するように、竜姫は自分の指を伸ばしたり縮めたりする。これは屈伸ではなく、実際に伸縮しているのだ。【竜態】と呼ばれる竜人特有の能力である。

「我らにとって竜爪神様は身近な存在。少し瞑想すれば、その温かき御心を感じるものだ。それがわからぬとは、人間はかわいそうだな」
「まっ、人間の社会は狭いからね。まだまだ知らないこともあるよ」
「うむ、まだ壁は厚い。私も人間のことは勉強しているつもりだが、いまだわからぬことも多いしな」
「ところで結婚したんだっけ? 相手は人間でしょ?」
「ああ、四年ほど前にな。子作りはしておるが…なかなか身篭らぬ」

 竜姫の少女、琥硝姫こしょうきは本気で困ったような顔で玉座に腰を沈める。

 転ずる水晶の里長、琥硝姫。

 金髪とは違う不思議な光沢をした深い黄色の髪は、左右に二つずつ四つに結いまとめられ、少女の姿をより愛らしくしている。肌は黄色人種を少し白くしたような色だが、その表面にはうっすらとひび割れたような跡がある。

 鱗である。

 よくよく見ると、彼女の顔の大半には鱗が生えている。それこそ彼女の力の強さを示すものであるが、竜人の鱗は男女でだいぶ違う。男性が硬い鉱物のようであるならば、女性は脱皮したての蛇のように柔らかくぬめっとした鱗をしていた。

 触ると生温かく、もちっとした感触の中にぬるっとしたぬめりがあるので、竜人の女性は人間の男性からしても非常に魅力的な存在に映るはずだ。彼女はそれが全身の八割に生えているので、お風呂場ではよく転んで滑っていく光景が見られるだろう。(足の裏にもあるから)

 その滑りを帯びた肌を、身体に巻きつけたキトン調――古代ギリシア人の服装――の服で覆っている。さすがに竜姫が身につける服なので、その布の質は上等で、華美な装飾を好まない竜人であっても多少ながら意匠が施されている。

 その見た目は、少々エキゾチックなウェディングドレスに近いだろうか。もちろん、普段からこの格好をしているわけではない。通常はもっと落ち着いた服を着ているので、これが余所行き用の礼服なのであろう。

 ウェディングドレスを着た少女が巨大な玉座に座っている。たしかに竜姫たる者の貫禄を示すようである。当人は嫌がっていても。

 そうした姿も愛らしいのだが、彼女の最大の魅力は何よりもその瞳。

 【琥珀色の瞳】、アンバーアイである。

 転ずる水晶の里が守る水晶は、琥珀なのだ。琥珀とは、もともと樹脂が化石になったものを指すので厳密には水晶ではない。実は他の竜水晶もクリスタル(クォーツ)ではないので、あくまで伝承の通りに水晶と呼ばれているにすぎない。

 竜姫である彼女の瞳はまさに琥珀から出来ており、それ自体が竜水晶から生まれた強力なジュエルである。これは生後に埋め込まれたものではなく、竜姫となる竜人は生まれながらにこの眼を持っているのである。

 こうした竜人が持つ眼を【竜眼】と呼び、強力な能力を持つことで有名である。すべての竜人が持つわけではないので、竜眼を持っているだけでその竜人の価値は一気に上がる。それも竜姫クラスとなれば、世界で数えるほどしかいない超レアな竜人ということになる。

 琥硝姫は、その希少価値の高いアンバーアイを潤ませ、子供ができないことを嘆く。

「子供が欲しい。子供が欲しい。子供が欲しい」

 まだ少女のような愛らしい顔で、まるで呪文のように繰り返す姿はなんとも奇妙である。

 顔立ちはまだ子供といった丸みを帯びた童顔なので、人間からすれば十二歳かそこらの年齢に見えるかもしれない。しかし、さきほど見せた竜態という技能があるため、竜人はそのまま見た目通りの姿とは限らない。

 彼女たちは竜爪神の因子を一時的に強めることで、自身をより一般的な竜に近い形に変態することができる。その状態になると戦闘力は人型の状態の数倍以上になるという話である。

 ただ、もともと人間と交配をしてきた者たちなので、古代竜人のように全身が竜になるという芸当はもうできない。せいぜいが人と竜を混ぜたような、五体が多少竜化するといった程度の変態で収まることが多い。

 それも交配が進んでいくと、年々竜態できない者も増えていく。このままではいずれ人間と相違ない存在となるのでは、といわれていた。

「相手が人間だからね。精力が弱いんじゃないの?」
「そんなことはない。お前たちで言うところの【ゼツリン】なる者を見つけてきたはずだ。もしや私に異常があるのかもしれん。そのうち不妊治療も考えねばな…」
「竜人も大変だね…」

 竜人の不妊治療ってどんなのだろう、と紅虎は苦笑しながら考える。因子が人間と多少違うため、そのあたりは難しそうだ。

 この会話でもわかるように琥硝姫の夫は人間である。彼女が特別なのではなく、竜姫は必ず人間の夫を迎えねばならない、という決まりがあるのだ。

 竜人の血を強く残したいのならば、力の強い竜人同士で子を成すのが一番である。そうすれば竜態のできない子供が生まれる確率も減るだろうし、竜人の数も増えるかもしれない。そのほうがよいと考える者たちもいる。

 だが、創造主(親霊)の竜爪神はこの制約を作り、遵守するように言い聞かせたという。その理由は諸説あるが、もともと亜人という存在が、人間と自然神の中間の存在として作られたという話が有力である。

 その中で竜人は人間と交わることで人間寄りに近づくことを課せられ、龍人はその形態を保つために人とはあまり関わらないように生きている。それならば祖を同じくする二種類の存在が、別々の生き方をしている理由が説明できる。

 ただ、その過程においては困難は付き物だ。
 その最大の障害が【子作り】である。

 因子が違いすぎるので、なかなか人間との間で子供が生まれない。力が弱い竜人ならば人間とでもすぐに子が出来るが、竜姫ほどの強い力を持つ者となると受精する確率はかなり低くなる。

 人間の女性でも、武人の血が強すぎると肉体が活性化してしまい受胎しにくくなる。ベラ・ローザが不妊で長年苦しんだのも、レマールの血が悪影響を及ぼした結果であると思われた。

 この場合の救いが、自分以上の因子の強さを持つ人間と交配すれば、受胎する確率が飛躍的に高まるということである。ハーレムの強い血がレマールの血を呑み込んだように、竜姫の血を呑み込むほど強い人間がいれば子作りも順調に進むだろう。

「紅虎よ、誰かおらぬか。私より強い力を持つ人間は」
「そんなこと言われてもね…って、結婚してるんだよね?」
「我らは子作りが重要視される。私を孕ませた者こそが夫よ」

 このあたりの価値観も人間とは多少違うようであるが、どちらかといえば人間の王族などの思考に近いので、やはり子孫を残すことが義務になっている者はどの種族も大変なのだろう。

(うーん、いるにはいるけど…。シャイ坊とか薦めたら怒るかな?)

 ラナーならば因子的にも体力的にも推薦できる。紅虎の体感上、唯一精力が若干弱いかもしれないが、それ以外は概ね問題ないだろう。が、当人が望むかどうかは別の話である。いや、けっして望まないだろう。

(相性もあるからね…。それに結婚は、できれば愛によって結びつくのが理想的だし)

 結婚が持つ意味は、実はとても大きい。結婚とは、男女という別々のアプローチを持った者同士が一つになる過程で、本当の愛を理解できるように仕組まれた【神聖な儀式】なのである。

 それを多くの地上人類は、肉体的な要素だけで判断して結婚することが多い。そのため物的な要因で離婚し、結果的に真実の愛に至らぬまま終わってしまう。それは不幸なことである。

 紅虎は、両親がそうであるように本当の夫婦愛を子供の頃から見てきた。すでに彼らに肉体はない。だからこそ本当の愛によって結ばれているのである。愛は光り輝き、燃えるように熱い。

 それを知る紅虎は、さすがに軽はずみなことは言えない。ラナー、命拾いである。

「まだ焦ることはないんじゃないの。そのうち出来るかもしれないじゃん」
「何やら人間の世界もきな臭い。万一にそなえて子作りは早いほうがよいだろう」
「竜人は強いから人間には負けないでしょ?」
「そうとも言いきれん。特に人間があのような力を持っていてはな」

 琥硝姫もナイト・オブ・ザ・バーンの戦いを見て驚いたものである。それは彼個人というより、人間全体の軍事力の増加についてだ。

「魔人機だったか。あれの量産が続けば我らが里も安全ではない。不用意に力を得れば、よからぬことを考える輩もいるかもしれんしな」

 竜人たちは高い戦闘力を持つが、魔人機が一般的な兵器となれば安全とは言いきれない。

「竜神機は? あれの戦闘力は高いはずだけど」
「あれは最後の手段だ。それに防衛専用だしな」

 竜水晶賜儀国には、五つの竜水晶を守るために五機の神機がある。それは竜界出身の神機で、代々の竜姫だけが扱える特別なもの。それを竜神機と呼ぶ。

 竜神機は名の如く、竜の姿をした神機である。その大きさも通常の人界のものとは異なり、一番大きなものでは三百メートル以上はある巨大な機体だ。人界や獣界の神機が数機いても太刀打ちできないだろう。あれを倒すには神機編成の大隊が必要になる。

 しかし、竜界の神機は大きさもパワーも最高クラスだが、精霊界の神機と同じく状況に大きく左右される弱点を持つ。琥硝姫の神機、アンバー・オージード〈琥なる珀の竜王〉も竜水晶の近くでは無敵に近い防御力と再生能力を持つが、離れれば離れるほど力が落ちていく。

 相手の狙いが竜水晶ならばよいが、それを陽動に都市を攻撃される可能性もある。さすがに神機一機で里を守るのは難しい。水晶と都市、どちらが大切かという議論はできない。両方大切なのである。

 その話を聞いて、紅虎の脳裏に閃くものがあった。

「ああ、だから連盟会議に来たのね。竜水晶賜儀国って、たしかあいつの陣営だよね。あいつ、おべっか好きだから、おだてれば喜んで協力するかもね」
「そう邪険にするな。お前がやつを嫌っているのは知っているがグレート・ガーデン自体は悪い国ではない。我々にも対等だし、あそこには活気と知恵がある。世界最高の技術もな」

 竜水晶賜儀国が連盟会議に参加したのは、単純に現在の世界情勢を鑑みてのこともあるが、もう一つの目的が【商談】である。普段は里から出ることがあまりない彼らにとって、今回の会議はいろいろと都合がよい場所なのだ。

「現在開発中のものだ。名を【竜人機】という」

 琥硝姫が指を動かすと、紅虎の前に映像が表示される。そこには魔人機に似た人型駆動兵器が映っていた。ただ、魔人機よりも少し大きく、どちらかといえばドラグニア・バーンに近い半竜半人の姿をしている。

 明らかに魔人機を意識した機体である。竜水晶賜儀国では、これをグレート・ガーデンの技術支援のもとで開発しようとしているのだ。

「ふーん、竜神機のレプリカってわけね。MGとコンセプトは同じか」
「竜人が操るように作られているから性能は高い。ほれ、あの映像で見たやつよりは数段上だぞ。さすがに黒機ほどではないがな」

 琥硝姫が言うのは、ゼルスセイバーズの機体のことである。オブザバーンシリーズに敗れはしたが、量産機の中では相当に優秀なものである。それを超えるとなれば、竜人の力も相まって雪騎将並みの実力を発揮できるかもしれない。

 ただ、問題もある。

「生産にはダマスカスの援助が必要であった。期待していたのだが……状況は悪くなる一方だな」

 竜人機を開発生産するには金が必要である。さすがに竜人だけでは造れないので、技術をグレート・ガーデンから、資金と生産力をダマスカスより借り受けるつもりでいた。

 もちろん無料ではない。竜水晶賜儀国には、実はかなり希少な金属が存在している。竜水晶の影響か、周囲の地層には高品質のジュエルがよく生成されるのである。それは最低Bランク以上の高品質で、ハイ・ジュエルと呼ばれるAランク以上のものもかなりの確率で見つかる。

 ジュエルは魔人機製造にとっても必要な鉱物である。これから人間社会が魔人機に依存していくのならば、こうした資源の値も釣り上がっていくだろう。竜水晶賜儀国は、資源国家として周囲から注目されているのだ。これからが勝負である。

 そんな時期にダマスカスが痛手を被るのは困る。経済がずたずたになれば、竜人機生産計画も飛沫のように消え去ってしまうだろう。

「だからこそ、この騒動を早く鎮めなければならない。そして被害も最小限にしなければならない。我々も他人事ではないからな。それに、鎮圧に協力したとなればダマスカスの心証も良かろう。商談が有利に運ぶかもしれん。いや、運ばせてもらう。我々には人間の国家間のしがらみはない。迷惑にはならぬだろうよ」

 琥硝姫は、そう一気にまくし立てたあと、手の甲に顎を乗せて足を組むと完全武装の紅虎を見据える。その顔は、にやりと笑っていた。

「ということで、お前の言いたいことを言ってみたわけだが、どうだ?」
「あらら、さすが琥硝姫。見え見えだったかね」
「お前がそのような格好で来るなど、とてもまともなこととは思えん。で、どれくらい必要だ?」

 琥硝姫はダマスカスの大統領が紅虎にぞっこんであることを知っている。紅虎に協力することはダマスカスに貸しを作ることになる。それは明らかにメリットであった。琥硝姫もできることは何でもするつもりだ。

 が、次に出た紅虎の言葉で一気に室内の温度は冷え込む。

「竜眼が欲しい。できれば琥珀の」

 その瞬間、周囲の竜人たちがざわついた。

 琥珀の竜眼。琥硝姫が持つ琥珀の眼である。べつに紅虎は眼を抉り取れと言っているわけではない。琥硝姫の竜眼の力が借りたいと言っただけである。

 しかし、竜水晶賜儀国にとって、竜姫は神の代行者とされる巫女である。その力は竜水晶を守ることだけに使われるもの。それ以外の俗世のことに使うなどありえないものだ。この国の竜人にとっては、そう提案することだけでも大事である。

 琥硝姫はしばらく紅虎を見つめていた。琥硝姫とは違うが、彼女が持つ赤い瞳を。

熱粉姫ねつふんきよりも赤い瞳。そこにどれだけの炎が宿っているのか…。それも使うのか?」
「かもしれないね」
「理由は?」
「備えあれば憂いなし、かな。あんたたちの損にはならないことは保証するよ」

 紅虎は多くを語らない。語れないのだろう。直系にはそれぞれ使命があり、話せる内容にも制限がかかっていることがある。それは人が知らないほうがよい、と判断されたからだ。

 知識は力となるが、必要以上のことを知るのは危険である。実際、それによって今の地上は滅茶苦茶になっているのだから。

「事情は理解した。だが残念だ。私の眼はしばらく使えない。離れる前に力を使ってきたからな」

 琥硝姫は、自身の琥珀の瞳を指で触る。言われなくては気がつかないが、その琥珀の色は従来の透明度からすると若干濁っており、大きな力をあまり感じない状態にあった。

 それは力を失ったものではなく、休眠に入っている状態を連想させる。つまりは、彼女の言う通りに力を回復させている途上なのだ。

 竜姫の役割は、竜水晶に力を補充すること。いわば彼女たちはエネルギータンクなのである。そのためさまざまなジュエルから力を吸い取り、それを琥珀の竜眼で純粋な力に変換し、竜水晶を活性化させる。これを続けることで竜水晶はかつての力を維持し続けるのである。

 琥硝姫は里を離れる前、長く戻れない可能性を考慮して力を多めに注入してきた。余剰の力を注ぐことで、万一里に何かあっても竜神機が自立して動けるようにである。それゆえに、すでに琥珀の竜眼は使えないのだ。

(琥珀の力を欲するとは、封竜術が目的か)

 琥硝姫は、紅虎が何をしようとしているのか理解した。

 竜水晶にはそれぞれ役割がある。そして、それぞれの竜姫の力は水晶に対応しており、宿った竜眼も各々能力が違う。その中で、転ずる水晶の里の琥珀が宿す力は【封術】である。

 力を蓄え、封じ込める術。
 新しいものが芽吹くために、一度種の状態に封じ込める力。

 そして、それがまた芽吹き、生育し、花開いていき、朽ち果てまた種に戻る。竜水晶はそうした循環を経て力を均一に保っている。その最後の役割を果たすのが琥珀なのである。

 これを転用すれば、あらゆるものを封じ込めることができる術式が組める。結界術と封術が違うのは、結界は外からの力に強く、封術は内からの力に強いこと。護るためのものか、封じるためのものかの違いである。

 人間の世界には優秀な封術の使い手はなかなかおらず、おそらく世界を見回しても琥硝姫に勝る者はいないだろう。彼女こそ世界最強の封術士と呼ぶことができる存在だ。

 しかし、琥珀の竜眼が持つ力は絶大である。

 彼女の力は封竜術といって、通常の封術の何倍も強いものだ。これはかつての神々でさえ封印することができるほどの力。そう気軽に使うものではない。

(致し方ない、か)

 紅虎の瞳に迷いはない。普段はおちゃらけているように見えるが、己の使命に対しては案外真面目な女なのである。彼女が嘘を言うことはないし、無意味なことで人を巻き込むことはない。

 ならば、竜人の長の一人である竜姫として対応しなければならない。

「アン・アデイモン」
「はっ、ここに」

 琥硝姫が名前を呼ぶと、一人の竜人が玉座の前にやってきた。その竜人は居並んでいたような戦士ではなく、もっと普通の人間っぽい、ひょろっとした体躯をしている。

 顔立ちは綺麗で、男性のようにも女性のようにも見える。顔に鱗は生えておらず、全身を肌が露出しないほど何重にもキトン調の服で覆っているため、その身体がどうなっているのかまではわからない。

 ただ、左目に眼帯をしているのが、他の竜人とは大きく異なる点である。

「紅虎に帯同せよ。力を使うことを許す」
「仰せのままに」

 アン・アデイモンは琥硝姫の言葉に頷く。

 竜人の世界では人間の世界以上にヒエラルキーが厳然と存在しており、里の長である竜姫の命令は絶対に等しい強制力がある。

 特に竜水晶賜儀国にとって竜姫の存在は神にも匹敵する。彼女がいなければ竜水晶は維持されず、一つの里どころか、それに連動して他の四つの里も滅びるからである。

「私以外に琥珀の眼を持つ二人のうちの一人だ。本当は切り札なのだが、お前に貸してやろう」
「ん、借りとく。サンキュー! 愛してる!」
「貸しだぞ。ちゃんと男を紹介しろよ」

 力の強い武人かつ竜人の女性に抵抗がなく、しかも少女趣味の男。さらに言ってしまえば、最低でも子供が生まれるまでは竜水晶賜儀国で暮らすことを許容できる人物。そして、できれば独身男性で精力絶倫で、ぼこぼこ子供を孕ますことができる者。なかなかハードルが高い注文である。

「努力はするけどねぇ、そんなの地上にいるのかな?」
「頼むぞ! 我らの命運がかかっているのだからな!」
「はいはい、わかったわよ。借りは返すって」
「絶対だぞ! 見つけたらすぐに連絡するのだ! 直々に会いに行ってもいいからな!」
「あー、うん。わかった」

 ものすごい熱意である。明らかに竜人機の話より熱意を感じる。出産適齢期に入った女性はどの種族でも獰猛になるのだろうか。とても恐ろしい。

 しかも竜人という種族は義理を重視するので、貸し借りにはうるさいのだ。探さねば一生ねちねち責められるだろうから、そのうち本気で探さねばならないだろう。

「あー、めんど」

 そう愚痴りながら、紅虎は竜水晶賜儀国のスペースを去るのであった。
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