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【謎の爪痕】

33:未完成兵器

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 モルト達が拘束された次の日の夜。
 オルフとオーエン、カイはプレアデン重工へと赴いた。何しろ、急なアポイントのため、ケルガーと面会出来る時間となると、業後のそんな時間しか無かった。

「社長、この度は突然の話で申し訳ありません。時間を作って頂き、ありがとうございます」
 社長室に入るなり、オーエンは深々と頭を下げた。
 そんな彼の様子を見るなり、ケルガーは僅かに顔をほころばせる。

「まあ、構わねえよ。どうしても電話じゃダメだってんなら、それなりに重要な話なんだろう。ただ、なるべく手短に頼む。俺もまだ若いつもりだが、流石に深夜まで会社に残り続けるっていうのは辛いんでな」
「はい、承知しています」
 オーエンに続いて、オルフとカイもケルガーの前のソファに腰掛けた。

「それと、余所行きみたいに社長とか呼ばなくていい。その呼び方は好かねえって言っていただろうが。昔みたいに呼べよ」
「はい」
 若干拗ねたように言ってくるケルガーに、オーエンは苦笑を浮かべる。

「それでどうしたオーエン? お前がちったあマシな顔を見せてきたのは、俺としても嬉しいが。何があった? そいつらに言われた、戦闘機の開発が難航でもしているのか?」
「いえ、お陰様でそちらはそれなりに形になるものが造れました。なので、今日はその相談ではありません。乗ってくれるのでしたら、ご助言頂きたいところもあるのですが、そちらは機会があれば後日に」
「ふむ? そうか? じゃあ、今日は何の用だ?」
 怪訝な顔を浮かべるケルガーに、カイは頷く。

「おやっさん。自分は当時、風の噂で聞いた気がするという程度の話なのですが。戦時中に、通信妨害装置のようなものの開発について、何か聞いたことは無いでしょうか?」
「通信妨害?」
 ケルガーは眉をひそめ、顎に手を置いた。

「そんな話を聞いてどうする? 何かあったのか?」
「すまないが、それは話せない。他言もしないで頂きたい」
 ケルガーの疑問に、カイが答える。その反応に、ケルガーは嘆息した。

「話はよく分からんが、訳ありってことだな? 分かった、余計な詮索は無しだ」
「ご理解頂き、感謝する。それで? 何か知っていることは?」
「生憎だが、俺も詳しくは知らない。ただ、兵器局でそんなものを研究していたという話は聞いたことがある」
「おい、マジかよ? カイ? 聞いたことがあるか?」
 オルフが訊くと、カイは首を横に振った。

「いいや? 知らない。探せば残っているかも知れないが、ミルレンシア軍の資料が全部残っているわけじゃないし、俺もそんなものを全部把握しているわけじゃない」
「まあ、そんなところだろうな。当時の話が全部残っているとは、俺も思えん」
 静かに、ケルガーは頷く。

「先に言っておくが、俺も詳しくは知らん。ただ、兵器局の人間から世間話的に聞いたことがあるという程度だ。次はどんな兵器を開発すれば、戦況を有利に持って行けるかという相談や実現性、次の注文に対する見込みやらで、こっちも度々出向いていたからな」
「それは、どうなった?」
 カイの問いに、ケルガーは鼻で嗤う。

「実際に戦場に出てきたか? つまりはそういうことだ」
「実用化には至らなかった?」
「そうだ。彼らが考えていたようなものにはならず、計画は頓挫した」
「何故?」
「そこまでは知らん。ただ、推測出来る話はある」
「どういうことだ?」

「通信妨害装置っていうのは、原理としては強力な電波を飛ばして、本来の通信を邪魔するという単純な理屈だ。要するに、俺達がこうして会話しているところに、大音量で太鼓やらサイレンやらを鳴らしてみろ? まともに会話が聞こえなくなる。それを音波じゃなく電波でやるというだけだ。発想だけなら、ヤハール軍も考えていたかも知れんがな」
 なるほどと、オルフ達は頷く。

「あくまでも推測だがな。上手くいかなかったのは、用途と電力の問題だ」
 目を細め、考えをまとめるように少し間を置いて、ケルガーは続ける。
「可能なら、妨害したいのは敵の通信だけだ。しかし、あの様子だと味方の通信を維持させる方法はまだ考えられていないようだった。更には、妨害するとしたら、どこの戦場だろうと広範囲に妨害したい。しかし、そうなるとそれだけの電力を食うことになる。何しろ、通信が出来なくなるほどの強力な電波を発する必要があるんだからな」

「それだけの電力を賄うだけの蓄電器や発電機は開発出来なかったということか」
「そうだ。特に、小型化はな。限定された場所で使うというのなら、まだ何とかなるかも知れないが。そんなものをどこでどう使うっていう話だ」
「なるほど」

「他には、通信の妨害じゃなく、強力な電波を発生させることで、レーダーを欺くデコイとして使うという手も考えられるが。それも結局、何にどう乗せて使うんだという話だな」
「それは、逆に言えば限定された場所で使うなら、実現性はあるという意味なのか?」
 カイの問いに、ケルガーは小首を傾げたものの、頷いた。

「ああ。俺の勘でしかないがな。それくらいなら、造れたかも知れないと思う」
 その答えに、オルフ達は拳を握った。
「おやっさん。教えて頂き、ありがとうございます。ただ他にも、ご存じでしたら教えて頂けないでしょうか?」
 オーエンは身を乗り出して訊いた。
「話が長くならないならな。で? 何だ?」

「はい。他に何か、当時は実現しなかった兵器のようなものの話は、ご存じないでしょうか?」
「そうは言われてもな? 例えば、どんなものだ?」
「馬鹿なことを言っていたらすみません。例えば、飛躍的に飛行機の航続距離を伸ばす方法とか、無いでしょうか?」
「飛躍的にか? 機体性能に拘らない形なら、あったな」

「どんなものですか?」
 ケルガーは虚空を見上げる。
「確か、給油機とか言っていたな。燃料を積んだ大型機を用意して、戦闘機やら何やらは、それから空中で燃料を給油しようという話だ。これも結局、研究や開発の時間と戦局の都合で実現はしなかったようだがな」
 「そいつだ」と思わずオルフは叫びそうになる。だが隣を見ると、カイもオーエンも同じ気持ちだったようだ。
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