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【謎の爪痕】

32:謎と手がかり

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 オルフ、オーエン、カイの三人は食堂で夕食を摂りながら、意見や情報の交換をすることにした。
「取りあえず、彼らも事情は理解してくれたようで、その点はまだ救いか。あれで下手に暴れられたら、余計に状況が悪化しかねない」
「意外だと言ったら気に触るか? 立場的に、あんたはこれを機に連中が何か、隠していた新事実を白状することを期待してると思っていたんだが」

 オルフが訊くと、カイは軽く嘆息した。
「正直に言うと、そんな期待はある。しかし、こっちもあちこちを捜査はした。それで、彼らが何らかの組織と繋がっていたような形跡というものが何一つとして掴めていない。だから、締め上げれば何か有益な情報が出てくるかというと、期待薄だと俺は見ている」

 やはりそうだよなと、オルフは思う。
 実は彼らが何かを隠していたというのは、オルフにとっては考えたくない可能性だ。甘いと言われればその通りだが、もしそうなら、裏切られた気分になる。ただ、盲信しているわけでもない。色々と可能性を考えた上で、オルフはカイと同意見だった。

「これからの捜査については、どんな感じになるとか、聞いているのか?」
「シンが見たという正体不明機の目撃情報が無いか、ウルリッツァ湿原周辺の駐屯地に聞き込みをしている。ただ、今のところはそれも有益な情報は無い」
「何が起きたかは伏せて。か?」
 カイは頷く。

「そうだ。そういう意味で言えば、難しい立場に追い込まれたのはシンも同じだ。彼らは訓練中の事故により行方不明という扱いになる。どういう結末になったとしても、真相は闇の中に消えることとなるだろうな。流石に、シンは頃合いを見て生還したという話になるだろうが」
「まあ、そうなるだろうな」
 こんな話を公開すれば、どこでどんな影響が出るか分かったものではない。

「あと、捜査については戦後の行方不明者や不審死は引き続き追っていく」
「そっちは、何か分かったことがあるのか?」
「いや? 残念だが、こちらもあまり進展は無い。何人かは見付かったが、消息不明な人間がまだ残っている。オルフ、君の知り合いと思われる人間もだ」
「誰だ?」
「アルノゥ=ハウアーとレパン=ラルクだ。知っているか?」
 オルフは舌打ちした。

「マジかよ。ああ、知っている。アルノゥ中尉はシュペリ中尉とは親友だった。俺はあまり絡んだことは無いが、中尉と馬が合っていたようだ。レパンは俺の一つ歳上の先任だ」
「一応、消息不明だったが見付かった人間も教えておく。ヴォイグは無事だ。家族と喧嘩した末に追い出されたそうだ。放浪生活を続けて、今はまだ余裕が無いものの、少しずつ生活を再建しているようだ」
「そうか、あいつも苦労しているんだな。連絡先、分かるなら後で教えてくれるか? 出来ることがあるなら、手を貸してやりたい」

「いいだろう」
 あの陽気で穏やかな性格をした戦友がそんな境遇に追いやられることになるとは、オルフは想像出来なかった。あいつなら、どうなってもいい仲間を見付けてやっていけると、終戦した頃は思っていたのだが。

「そしてアルノゥとレパンだが、彼らは不可解な消え方をしている」
「どんな具合にだ?」
「ヴォイグもそうだが、消息が分かった人間は、誰もが借金や親類、家族とのトラブルを抱えていた。しかし逆に、そういう理由が見当たらない人間だけは見付からない。ある日、忽然と姿を消したんだ。財産となるようなものを何一つとして持たずにだ。アルノゥについては、仲の良さから兄妹での駆け落ちという可能性も噂されていたようだがな」
「怪しすぎるな。それは」
 オルフは顔をしかめた。

「それと、オーエン? フリッツの方も調べてみたが、妙な点がある。自殺か他殺かを調べた形跡がほとんど残っていない。自殺という結論ありきだったかのようにな? まあこれは、よほどはっきりしない限りは、警察にも忙しさを理由にそう処理する連中っていうのがいるから、その可能性もある」
「そうか、調べてくれて感謝する」
 そう言って、オーエンは小さく頭を下げた。
 少し間を置いて、オルフはカイに訊く。

「正直なところ、あんたはどう考えている? ハクレから聞くに、そっちのお偉方は、この国に潜伏している、極右思想を持ったテロ組織とやらの存在を疑っているらしいが。俺は、とてもそうは思えない」
「西部諸国か?」
 オルフは頷く。

「そうだな。それについては俺も同感だ。動機や想定される相手の規模を考えると、それが一番考えやすい。しかし、どうやってと考えると、そこは難しい話になる」
「まあな」
 オルフは頭を掻いた。

「ウルリッツァ湿原は広大だ。国境と不可侵領域を跨いであちら側にも広がっている。しかも、その奥にはこれまた広大な森林地帯だ。滑走路は造れない。そして仮にシンの言うとおりに敵機がブリッツ=シュヴァルベで、性能もその通りだったとしたら、増槽を付けていたとしても、森林や湿原を越えての往復は無理だ。艦載機型の鷹でもかなり厳しいだろう。ましてや、戦闘までしたらな」
「そうだ。更に言えば、俺達も当然、国境沿いには対空レーダーを配備している。それも、反応無しだった」
 その理屈はオルフも分かっている。ひょっとしたら、ヤハール上層部も国内テロ組織何て可能性は半信半疑で動いているのではないかと考えているくらいだ。

「一つ、俺からもいいか?」
 訊いてくるオーエンに、オルフとカイは頷く。
「少し、話が変わるが、シンは戦闘中に急に通信機が使えなくなったと言っていたんだよな?」
「何か心当たりでもあるのか?」
「あくまでも昔、ちらっと聞いた気がするかどうかというものでしかないがな」
 唸りながら、顔をしかめるオーエンに対し。それでもいいとオルフは促した。今は、どんな情報だろうと欲しいところだ。
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