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【謎の爪痕】
34:観念
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プレアデン重工から戻って来た翌日、オルフとオーエンはシュペリが乗っていた機体へと向かった。
分解された機体に、何か不自然な箇所は無いか。特に、空中給油を実現出来るような給油口や、配管の類いが無いかを再確認していく。
もしも、この機体が本当は西部諸国で造られたもので、モルト達はそれを整備し直しただけだったとしたら、何らかの痕跡が残っているのではないかと考えた。
分解される前に撮影された写真を眺めながら、オルフは唸る。
「悪い。こっちはダメだ。俺にはどう見ても、ブリッツ・シュヴァルベにしか見えねえ」
朝から昼にかけて、取り組んできたがそれらしいものは見付からず、オルフは根を上げた。
「そっちはどうだ?」
オルフはオーエンに訊いたが、彼も首を横に振った。オーエンは部品をくまなく確認していた。
「ダメだな。何か見当たらないものでもあるかと思ったが、それらしいものは見付からない。翼内タンクあたりから探れば、何か見付かると思ったんだが」
オーエンは顔をしかめた。
と、倉庫の入り口から足音が響いた。
オルフらが視線を向けると、カイが立っていた。地下の独房から戻ってきたらしい。
「そっちの様子は?」
カイの問い掛けに対し、オルフ達はお手上げだと肩を竦めた。
「そうか。それならそれで、彼らの証言通りという話にではあるから、そっちの裏付けは取れたという話になるが」
「というと、彼らが何か秘密を白状したとか、そういう事は無いんだな?」
カイは首肯した。
「その通りだ。この機体については、自分達で造ったの一点張りだったよ。俺達も検証はしたが、改めて二人で探して何も見付からないとなると、やはり彼らの証言は事実と考えた方がよさそうだな」
「そうか」
オルフは深く息を吐いた。ここから、何をどう考えれば良いのかも思い浮かばず、がりがりと頭を掻く。
「だがオルフ。悪いが、一緒に向かって欲しいところがある。正直なところ、仮に来て貰ったところで、どれだけの意味があるかも分からん。完全に無駄足になるかも知れんが」
「分かった。少しでも可能性があるなら、俺は構わねえよ」
「助かる」
そう言って、カイは踵を返した。オルフもまた、彼に続いて倉庫を後にする。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
寂れた町の中。運転席にはカイが。後部座席にはオルフが。助手席にはオットが乗り込む形で、三人は車に乗った。
エンジンは切ってある。無理矢理にオットどこかに行くつもりは無い。車は陸軍の駐屯地で借りた。
「そっちの兄ちゃんは、少し驚いたんじゃねえか? ここが、こんな辺鄙な田舎で、まだ戦争の後片付けが終わってないってことに」
「いや? 俺の故郷もこんな感じだ。驚きはしない」
「そうかい。兄ちゃんはオルフっていったな。故郷はどこなんだ?」
「東の方だ。実家は農家をやっている。山を越えたところに工場が集まった集落があったんだが、そこが今もこんな感じだ。空襲跡があちこち残っている」
「そうか、やはりどこも大変なんだな」
オットは嘆息した。
「あと、弟から聞いたが兄ちゃんが模擬戦で、あいつらが造った戦闘機に乗ってヤハールの奴を一蹴したんだってな。こういう事を言う筋合いじゃないのかも知れないが、ありがとよ。それを聞いて、力が湧いた」
「いや、俺の方こそ、戦時中に結果を出せなくてすまないと思う。だが、そう言って貰えたなら、俺も報われる」
静かに、オルフは笑みを浮かべた。
「そろそろ、本題に入ってもいいか? まだ話したいことがあるなら、別に構わない」
「そうだな。メルテナから丸二日近く使って来て貰ってんだよな。あまり、無駄に話を長引かせても悪いか。で? 今度は何の用だ? ここ最近、あいつらからの連絡が来なくなったことと、何か関係あるのか?」
「ああ、関係がある話だ」
「そうか」
軽く息を吐いて、オットはボンネットの向こうへと視線を移した。
「まず、ここで聞いたことは、絶対に他言はしないと約束してくれ。最悪、命の保証が出来ない」
「分かった」
「シュペリが載っていたものと同じような機体がどこからか現れ、空軍機を撃墜した。何か心当たりはあるか?」
「何だと? いや、そんな話、心当たりなんか無い」
明らかに狼狽した声で、オットは応えてくる。
「そうか。だが、そのせいで君の弟達は再び地下の独房へと戻された。証拠は何も無いが、この件と何か関わりがあるのではないかと風当たりが強くなった。これは、そんな声に対する牽制のために執った措置だ。こういう真似をしないことには、より悪い環境へと彼らを連れて行かれる可能性がある」
「もしそうなると、あいつらはもう、下手するとこの町には戻れないということか?」
「その通りだ」
オットは呻き声を上げた。
それっきり、オットは押し黙る。重苦しい沈黙の中で、オルフはいたたまれないものを感じた。と、同時に悟る。この反応は、何かを知っている反応だと。カイは、だから待っているのだと。
やがて、深くオットは息を吐いた。
「なあ? 弟達は何か言っていたのか?」
その問い掛けにも、カイは答えなかった。
数分待って、カイに答える気が無いことをオットは悟り――
「分かった。俺が知っている限りのことは話す」
どこか諦めたようで、同時に何か抱え込んでいるものを捨てたような、そんな清々しさを含んだ声色で、オットは言った。
分解された機体に、何か不自然な箇所は無いか。特に、空中給油を実現出来るような給油口や、配管の類いが無いかを再確認していく。
もしも、この機体が本当は西部諸国で造られたもので、モルト達はそれを整備し直しただけだったとしたら、何らかの痕跡が残っているのではないかと考えた。
分解される前に撮影された写真を眺めながら、オルフは唸る。
「悪い。こっちはダメだ。俺にはどう見ても、ブリッツ・シュヴァルベにしか見えねえ」
朝から昼にかけて、取り組んできたがそれらしいものは見付からず、オルフは根を上げた。
「そっちはどうだ?」
オルフはオーエンに訊いたが、彼も首を横に振った。オーエンは部品をくまなく確認していた。
「ダメだな。何か見当たらないものでもあるかと思ったが、それらしいものは見付からない。翼内タンクあたりから探れば、何か見付かると思ったんだが」
オーエンは顔をしかめた。
と、倉庫の入り口から足音が響いた。
オルフらが視線を向けると、カイが立っていた。地下の独房から戻ってきたらしい。
「そっちの様子は?」
カイの問い掛けに対し、オルフ達はお手上げだと肩を竦めた。
「そうか。それならそれで、彼らの証言通りという話にではあるから、そっちの裏付けは取れたという話になるが」
「というと、彼らが何か秘密を白状したとか、そういう事は無いんだな?」
カイは首肯した。
「その通りだ。この機体については、自分達で造ったの一点張りだったよ。俺達も検証はしたが、改めて二人で探して何も見付からないとなると、やはり彼らの証言は事実と考えた方がよさそうだな」
「そうか」
オルフは深く息を吐いた。ここから、何をどう考えれば良いのかも思い浮かばず、がりがりと頭を掻く。
「だがオルフ。悪いが、一緒に向かって欲しいところがある。正直なところ、仮に来て貰ったところで、どれだけの意味があるかも分からん。完全に無駄足になるかも知れんが」
「分かった。少しでも可能性があるなら、俺は構わねえよ」
「助かる」
そう言って、カイは踵を返した。オルフもまた、彼に続いて倉庫を後にする。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
寂れた町の中。運転席にはカイが。後部座席にはオルフが。助手席にはオットが乗り込む形で、三人は車に乗った。
エンジンは切ってある。無理矢理にオットどこかに行くつもりは無い。車は陸軍の駐屯地で借りた。
「そっちの兄ちゃんは、少し驚いたんじゃねえか? ここが、こんな辺鄙な田舎で、まだ戦争の後片付けが終わってないってことに」
「いや? 俺の故郷もこんな感じだ。驚きはしない」
「そうかい。兄ちゃんはオルフっていったな。故郷はどこなんだ?」
「東の方だ。実家は農家をやっている。山を越えたところに工場が集まった集落があったんだが、そこが今もこんな感じだ。空襲跡があちこち残っている」
「そうか、やはりどこも大変なんだな」
オットは嘆息した。
「あと、弟から聞いたが兄ちゃんが模擬戦で、あいつらが造った戦闘機に乗ってヤハールの奴を一蹴したんだってな。こういう事を言う筋合いじゃないのかも知れないが、ありがとよ。それを聞いて、力が湧いた」
「いや、俺の方こそ、戦時中に結果を出せなくてすまないと思う。だが、そう言って貰えたなら、俺も報われる」
静かに、オルフは笑みを浮かべた。
「そろそろ、本題に入ってもいいか? まだ話したいことがあるなら、別に構わない」
「そうだな。メルテナから丸二日近く使って来て貰ってんだよな。あまり、無駄に話を長引かせても悪いか。で? 今度は何の用だ? ここ最近、あいつらからの連絡が来なくなったことと、何か関係あるのか?」
「ああ、関係がある話だ」
「そうか」
軽く息を吐いて、オットはボンネットの向こうへと視線を移した。
「まず、ここで聞いたことは、絶対に他言はしないと約束してくれ。最悪、命の保証が出来ない」
「分かった」
「シュペリが載っていたものと同じような機体がどこからか現れ、空軍機を撃墜した。何か心当たりはあるか?」
「何だと? いや、そんな話、心当たりなんか無い」
明らかに狼狽した声で、オットは応えてくる。
「そうか。だが、そのせいで君の弟達は再び地下の独房へと戻された。証拠は何も無いが、この件と何か関わりがあるのではないかと風当たりが強くなった。これは、そんな声に対する牽制のために執った措置だ。こういう真似をしないことには、より悪い環境へと彼らを連れて行かれる可能性がある」
「もしそうなると、あいつらはもう、下手するとこの町には戻れないということか?」
「その通りだ」
オットは呻き声を上げた。
それっきり、オットは押し黙る。重苦しい沈黙の中で、オルフはいたたまれないものを感じた。と、同時に悟る。この反応は、何かを知っている反応だと。カイは、だから待っているのだと。
やがて、深くオットは息を吐いた。
「なあ? 弟達は何か言っていたのか?」
その問い掛けにも、カイは答えなかった。
数分待って、カイに答える気が無いことをオットは悟り――
「分かった。俺が知っている限りのことは話す」
どこか諦めたようで、同時に何か抱え込んでいるものを捨てたような、そんな清々しさを含んだ声色で、オットは言った。
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