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序章 前日譚
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邪魔な相手の首を絞めた。
確かに殺意を持って、愛した人を殺した。
そして、君は、僕にとって絶対神になった。
本当の君を殺して、虚像の君を作り上げた。
……ねぇ、エレーヌ。
君も、そうしたかったの?
──カミーユ
心に刻まれた呪詛だけが、僕を罰してくれる。
──あなたとなんか、出会わなければよかったわ
でも、それなら……それならどうして、
君は、僕を愛したの?
どうして、僕を惑わしたの?
僕を殺そうとするほど憎んでまで、君は、何が欲しかったの?
答えは、いつまでも帰ってこない。
***
おっと、俺の情報も必要かい?
仕方ねぇな。語ってやるよ。
いつのことか……ってのも言った方がいいか?……ま、この空間に時系列なんてあってねぇようなモンだけどよ。
そうさな、キースが「キース・サリンジャー」の噂で自我を補強した頃……っていやぁ、分かるかい?そのつもりで聞いてくれや。
***
「……なんだ、これ」
白衣の男はじっと壁を見つめ、呟いた。……正確には壁でなく、壁にできた裂け目を。
「壁紙が剥がれてる……?にしては……」
手を突っ込むのを本能が拒否しそうなほどの、黒々とした空間がぽっかりと口を開けている。……さすがに、ネズミや猫が開けた穴には見えねぇだろう。
「……奥、どうなってんだ?」
覗き込む勇気はないが、気になりはするらしい。手を突っ込もうとして、引っ込めるを繰り返している。
とりあえず、声をかけてみた。
「さっき通ってきたが、俺にとっちゃここより居心地は良かったぜ。……ま、お前さんにとってどうかは分からねぇけどな」
「んー……結構深そうだよなぁ」
……だが、相手は隣に立つ俺には目もくれず、覗き込んでは顔を離す。
と、異変は起こった。
「ん?……人影か……?」
ぬっ、と音を立てるように、腕が飛び出してきた。
声にすらならない悲鳴を上げて、医者は尻もちをつく。
「……ああ……死ぬかと思った……」
その言葉に反するように、恍惚とした表情で奴は現れた。
熱に浮かされた瞳は焦点が合わず、肩が上下するたびはぁ、はぁと荒い吐息が漏れる。
いやぁ、さすがの俺もびっくりだ。世の中とち狂った奴は案外多いもんだが、このレベルは滅多にお目にかかれねぇからな。
「自我が切り刻まれ混濁し、自分が自分じゃなくなっていくこの感覚……肉体の死に続き精神の死を繰り返し味合わされているような苦痛……ああ……もう我慢できない……!!今すぐこの情熱(パッション)を放出したい!!」
「ギャァアなんか変態が出た!!」
医者は腰を抜かしたまま後ずさり、そこで初めて変態野郎は俺たちに気づく。
しばし、流れる沈黙。
野郎は無駄に整った顔で、気まずそうに目を泳がせた。
「……もう1回出てくるところからやっていい?」
「あ、うん、いいよ。思う存分やり直そっか。俺も記憶飛ばしとくから」
「ありがとう。ごめんね、さすがに子供の前で叫んでいいことじゃないし」
「……へ?子供?」
きょとん、と小さな目を瞬かせ、医者は周りを見渡した。
「いねぇじゃん。……俺、子供嫌いだからそういう冗談やめろよな」
「は?いるじゃん。君の目どうなってるの?」
蒼い瞳が俺を捉え、こちらも数回瞬く。
「うるせぇええ!誰が目がちっちゃい割に彫りが深すぎてもはや見えねぇブ男だよこれだから美形はよぉ!!!」
「誰もそんなこと言ってないし、さすがに目の形は見えてるから安心しなよ……」
がなり立てる医者と、呆れる変態。
ちなみに俺は幽霊だから、見えなくても仕方はねぇ。
「……って、お前の顔……」
「何?美形のくせに変態趣味なんだ……って言いたいわけ?」
「正直それも言いてぇけど、そうじゃなくて……。……いや、まさかな。そんなわけねぇよな。確かにアイツもドMで若い女の子の通り魔に理不尽に殺されてみたいとか言いやがるようなヤツだったけど……」
首を横に振る医者。思わず口を挟む。
「おいおい、現実を見やがれ、そんな野郎この世に2人といるわけねぇだろ」
……まあ、聞こえてねぇだろうけどな。
まったく、肉体がねぇと不便で仕方ねぇぜ。
「……顔面にコンプレックスがあって……僻み根性が凄くて……医者……まさか、君、グリゴリー?」
「うるせぇぇぇぇぇ誰が映画の特殊メイクレベルのブ男だ!!!!」
「誰もそんなこと言ってないから落ち着いて」
さっきのテンションが嘘のように、今度は変態野郎の方がキレる医者……グリゴリーをたしなめている。
……知り合いだったのか、こいつら。
***
「……もっかい言って?」
「あ、うん。死んだと思ったら謎の空間にいて、頭と手足だけは保存しといてって友達に頼んどいたからローコストで本来の肉体に近い状態を維持でき」
「ごめん全然わかんねぇわ……メールでも意味不明だったのに顔合わせたらもっとやべぇな……あと顔が良くて腹立つ」
変態野郎……カミーユは医者……グリゴリーの知り合いだったらしい。顔は合わせたことがねぇらしいが……文通かなにかでダチだったのは話からわかる。
「端的に言やぁ、よく分からねぇ空間にこの世界が繋がっちまったってこったな」
「そうそう、だいたいこの子が言ってる通り」
「……どの子?何も聞こえなかったよ?」
カミーユは俺の方を視線で示すが、グリゴリーはキョロキョロと周りを見渡し、首を捻る。
……ったく、これだから霊体ってのは面倒で仕方がねぇ。
「俺はレニー。幽霊経験なら、そんじょそこらの霊魂にゃ負けねぇぜ」
「幽霊の男の子が君の隣にいるんだよ。僕と同じ空間から出てきた子かも」
「おいおい、誰が男の子だよ。お前さんよかずっと年上だぜ。……たぶんな」
グリゴリーは「へぇ……」と遠い目をし、大きくため息をついた。
「今日の夢はやけに盛り込まれてんな……」
「夢じゃないから。現実だから。ねぇちょっと、スルーしないでこっち見てよ」
こりゃ、説明には骨が折れそうだな……。
確かに殺意を持って、愛した人を殺した。
そして、君は、僕にとって絶対神になった。
本当の君を殺して、虚像の君を作り上げた。
……ねぇ、エレーヌ。
君も、そうしたかったの?
──カミーユ
心に刻まれた呪詛だけが、僕を罰してくれる。
──あなたとなんか、出会わなければよかったわ
でも、それなら……それならどうして、
君は、僕を愛したの?
どうして、僕を惑わしたの?
僕を殺そうとするほど憎んでまで、君は、何が欲しかったの?
答えは、いつまでも帰ってこない。
***
おっと、俺の情報も必要かい?
仕方ねぇな。語ってやるよ。
いつのことか……ってのも言った方がいいか?……ま、この空間に時系列なんてあってねぇようなモンだけどよ。
そうさな、キースが「キース・サリンジャー」の噂で自我を補強した頃……っていやぁ、分かるかい?そのつもりで聞いてくれや。
***
「……なんだ、これ」
白衣の男はじっと壁を見つめ、呟いた。……正確には壁でなく、壁にできた裂け目を。
「壁紙が剥がれてる……?にしては……」
手を突っ込むのを本能が拒否しそうなほどの、黒々とした空間がぽっかりと口を開けている。……さすがに、ネズミや猫が開けた穴には見えねぇだろう。
「……奥、どうなってんだ?」
覗き込む勇気はないが、気になりはするらしい。手を突っ込もうとして、引っ込めるを繰り返している。
とりあえず、声をかけてみた。
「さっき通ってきたが、俺にとっちゃここより居心地は良かったぜ。……ま、お前さんにとってどうかは分からねぇけどな」
「んー……結構深そうだよなぁ」
……だが、相手は隣に立つ俺には目もくれず、覗き込んでは顔を離す。
と、異変は起こった。
「ん?……人影か……?」
ぬっ、と音を立てるように、腕が飛び出してきた。
声にすらならない悲鳴を上げて、医者は尻もちをつく。
「……ああ……死ぬかと思った……」
その言葉に反するように、恍惚とした表情で奴は現れた。
熱に浮かされた瞳は焦点が合わず、肩が上下するたびはぁ、はぁと荒い吐息が漏れる。
いやぁ、さすがの俺もびっくりだ。世の中とち狂った奴は案外多いもんだが、このレベルは滅多にお目にかかれねぇからな。
「自我が切り刻まれ混濁し、自分が自分じゃなくなっていくこの感覚……肉体の死に続き精神の死を繰り返し味合わされているような苦痛……ああ……もう我慢できない……!!今すぐこの情熱(パッション)を放出したい!!」
「ギャァアなんか変態が出た!!」
医者は腰を抜かしたまま後ずさり、そこで初めて変態野郎は俺たちに気づく。
しばし、流れる沈黙。
野郎は無駄に整った顔で、気まずそうに目を泳がせた。
「……もう1回出てくるところからやっていい?」
「あ、うん、いいよ。思う存分やり直そっか。俺も記憶飛ばしとくから」
「ありがとう。ごめんね、さすがに子供の前で叫んでいいことじゃないし」
「……へ?子供?」
きょとん、と小さな目を瞬かせ、医者は周りを見渡した。
「いねぇじゃん。……俺、子供嫌いだからそういう冗談やめろよな」
「は?いるじゃん。君の目どうなってるの?」
蒼い瞳が俺を捉え、こちらも数回瞬く。
「うるせぇええ!誰が目がちっちゃい割に彫りが深すぎてもはや見えねぇブ男だよこれだから美形はよぉ!!!」
「誰もそんなこと言ってないし、さすがに目の形は見えてるから安心しなよ……」
がなり立てる医者と、呆れる変態。
ちなみに俺は幽霊だから、見えなくても仕方はねぇ。
「……って、お前の顔……」
「何?美形のくせに変態趣味なんだ……って言いたいわけ?」
「正直それも言いてぇけど、そうじゃなくて……。……いや、まさかな。そんなわけねぇよな。確かにアイツもドMで若い女の子の通り魔に理不尽に殺されてみたいとか言いやがるようなヤツだったけど……」
首を横に振る医者。思わず口を挟む。
「おいおい、現実を見やがれ、そんな野郎この世に2人といるわけねぇだろ」
……まあ、聞こえてねぇだろうけどな。
まったく、肉体がねぇと不便で仕方ねぇぜ。
「……顔面にコンプレックスがあって……僻み根性が凄くて……医者……まさか、君、グリゴリー?」
「うるせぇぇぇぇぇ誰が映画の特殊メイクレベルのブ男だ!!!!」
「誰もそんなこと言ってないから落ち着いて」
さっきのテンションが嘘のように、今度は変態野郎の方がキレる医者……グリゴリーをたしなめている。
……知り合いだったのか、こいつら。
***
「……もっかい言って?」
「あ、うん。死んだと思ったら謎の空間にいて、頭と手足だけは保存しといてって友達に頼んどいたからローコストで本来の肉体に近い状態を維持でき」
「ごめん全然わかんねぇわ……メールでも意味不明だったのに顔合わせたらもっとやべぇな……あと顔が良くて腹立つ」
変態野郎……カミーユは医者……グリゴリーの知り合いだったらしい。顔は合わせたことがねぇらしいが……文通かなにかでダチだったのは話からわかる。
「端的に言やぁ、よく分からねぇ空間にこの世界が繋がっちまったってこったな」
「そうそう、だいたいこの子が言ってる通り」
「……どの子?何も聞こえなかったよ?」
カミーユは俺の方を視線で示すが、グリゴリーはキョロキョロと周りを見渡し、首を捻る。
……ったく、これだから霊体ってのは面倒で仕方がねぇ。
「俺はレニー。幽霊経験なら、そんじょそこらの霊魂にゃ負けねぇぜ」
「幽霊の男の子が君の隣にいるんだよ。僕と同じ空間から出てきた子かも」
「おいおい、誰が男の子だよ。お前さんよかずっと年上だぜ。……たぶんな」
グリゴリーは「へぇ……」と遠い目をし、大きくため息をついた。
「今日の夢はやけに盛り込まれてんな……」
「夢じゃないから。現実だから。ねぇちょっと、スルーしないでこっち見てよ」
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