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第十五話 風呂場に潜む影 ※
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風呂場に足を踏み入れたところで、銀狐は、得体の知れない悪寒を覚える。
「……貫八か……?」
風呂を沸かしに行ったのではなく風呂場に潜んだのでは……と疑ったものの、頭上の格子窓から「銀狐さーん! そろそろいい湯加減だと思います!」と朗らかな声が飛んでくる。
銀狐は辺りに注意を払いながら、風呂桶へと手をかけ……
「それ」と目が合った。
「──っ! 中津ッ!!!!」
銀狐の怒号が、廊下にまで響き渡る。
もはや、怒号というよりも悲鳴に近かった。
「な……中津? 誰ぞなもし?」
貫八の困惑した声が、格子窓から響く。
「さっきの話の続きや! うちの付喪神はすーぐ怠ける奴らばっかやさかい……! またやりよったな、中津……!」
格子窓の向こう。風呂場の外にて、貫八は訳も分からず目を白黒させていた。銀狐の説明の端々から、「中津」という相手への怒りが迸っていることだけはよく伝わる。
「え、あ、はい。なんかあったんですね……!?」
何が何だかよく分からず、混乱している貫八の耳に、届いてはいけない声が届いた。
「あっ」
それは、間違いなく、「喘ぎ声」そのものだった。
「や、やめぇ……っ、そんなとこ……っ、あぁあっ」
「……は?」
貫八は風呂沸かし用のうちわをその場に放り投げ、凄まじい速度で室内に戻り、廊下を走り抜ける。
脱衣場の前に来たところで、折れ箒の付喪神と鉢合わせした。
「おっ、お客様!? わ、わたくしは中津というものでして、主にこのお屋敷のお掃除を……」
内心「こいつか」と思ったものの、応対している暇は貫八にはない。
勢いよく引き戸を開け放ち、「銀狐さん! どうしました!?」と叫ぶが……
目の前の光景は、貫八にとっては悪夢のようなものだった。
「あっ、ぅあっ、そんなんあかん……っ」
風呂場の床に尻もちをつき、涙目で喘ぐ銀狐。
銀狐の胸元には、「それ」がしっかりとしがみついていた。全身真っ赤な、舌の長い、一見人間の子どもにも見えるような異形……。
「それ」はあろうことか長い舌でぺろぺろと銀狐の身体を舐め回し、銀狐は時折性感帯に触れられるのか「あっ、あっ」と淫らな声で喘ぐ。
白い腕でどうにか引き剥がそうとしているが、どうにも力が入っていないようで、ほとんどされるがままの状態になっていた。
「中津……っ、あっ、あかなめが……っ、出とるや、ないかあっ!」
あかなめ。
風呂場に溜まった瘴気から発生する妖怪で、主に風呂釜や桶の水垢などを舐めるとされている。
……が、銀狐の屋敷に出る「あかなめ」は少々質が悪い。
最初に発生した際、美青年である銀狐に何かしらの欲を抱いてしまったらしい。銀狐の人間体の、色々な部分が既に開発されてしまっていたことも良くなかった。
要するに銀狐の屋敷では、掃除を怠るたびに、変態のあかなめが出るのである。
「げへへへへへ……銀狐ちゃん、知らない人の味がするよ。もしかして、お相手ができたのかな」
「なんで……っ、んんっ、そんなん……っ、わかるんや……!」
下卑た声で、あかなめは銀狐の隆起した胸板と、その先端の突起をぺろぺろと舐め回す。
銀狐は顔を真っ赤にしつつも、潤んだ瞳は間違いなく快楽に蕩けていた。
「あわわ、どうしましょ。夜にやればいいやって油断してましたねぇ」
その場で慌てふためく中津には目もくれず、貫八はずかずかと風呂釜の方へと歩み寄る。
「げへ?」
あかなめが首を傾げたのも束の間。
思い切り首根っこを掴まれ、銀狐から引き剥がされる。そのまま瞬く間に、あかなめは風呂場の壁へと叩き付けられた。
「げへぇ……っ」
真っ赤な全身が、瘴気に戻って散っていく。
後には、とろんとした表情で風呂場に倒れ伏す銀狐と、修羅の顔で壁を睨みつける貫八と、風呂場の入口で腰を抜かした中津だけが残された。
「……銀狐さん、大丈夫ですか」
貫八が銀狐の肩を抱き、助け起こす。
「あっ」
全身が敏感になっているのか、銀狐は、それだけで甘い嬌声を漏らした。
ジー、とジッパーの音が風呂場に響き、銀狐の顔の前に黒光りする屹立が晒される。
「どうせこの後また清めますし、良いですよね」
にっこりと、それでいて嫉妬と独占欲と劣情がごちゃ混ぜになった表情で、貫八は銀狐を見下ろす。
「……っ、中津……」
銀狐は、縋るような目で、折れ箒の中津の方を見る。
助けを求められたのかと思い、中津は折れた自分の柄でどう攻撃するかぐるぐると考え始める。
背中を刺すか、いや、向こう脛を叩くか……
「早う……帰り。次からは、気ぃつけや……」
……が、銀狐の口から漏れ出た言葉に、全てを察した。
「……お邪魔いたしましたです!! ごゆっくり!!」
ぴしゃりと引き戸を閉め、中津はふぅ、とひと仕事を終えたような顔で元来た方向へと帰っていく。
「やっぱり、事後だったんじゃん!」
そんな独り言を、呟きながら……
「……貫八か……?」
風呂を沸かしに行ったのではなく風呂場に潜んだのでは……と疑ったものの、頭上の格子窓から「銀狐さーん! そろそろいい湯加減だと思います!」と朗らかな声が飛んでくる。
銀狐は辺りに注意を払いながら、風呂桶へと手をかけ……
「それ」と目が合った。
「──っ! 中津ッ!!!!」
銀狐の怒号が、廊下にまで響き渡る。
もはや、怒号というよりも悲鳴に近かった。
「な……中津? 誰ぞなもし?」
貫八の困惑した声が、格子窓から響く。
「さっきの話の続きや! うちの付喪神はすーぐ怠ける奴らばっかやさかい……! またやりよったな、中津……!」
格子窓の向こう。風呂場の外にて、貫八は訳も分からず目を白黒させていた。銀狐の説明の端々から、「中津」という相手への怒りが迸っていることだけはよく伝わる。
「え、あ、はい。なんかあったんですね……!?」
何が何だかよく分からず、混乱している貫八の耳に、届いてはいけない声が届いた。
「あっ」
それは、間違いなく、「喘ぎ声」そのものだった。
「や、やめぇ……っ、そんなとこ……っ、あぁあっ」
「……は?」
貫八は風呂沸かし用のうちわをその場に放り投げ、凄まじい速度で室内に戻り、廊下を走り抜ける。
脱衣場の前に来たところで、折れ箒の付喪神と鉢合わせした。
「おっ、お客様!? わ、わたくしは中津というものでして、主にこのお屋敷のお掃除を……」
内心「こいつか」と思ったものの、応対している暇は貫八にはない。
勢いよく引き戸を開け放ち、「銀狐さん! どうしました!?」と叫ぶが……
目の前の光景は、貫八にとっては悪夢のようなものだった。
「あっ、ぅあっ、そんなんあかん……っ」
風呂場の床に尻もちをつき、涙目で喘ぐ銀狐。
銀狐の胸元には、「それ」がしっかりとしがみついていた。全身真っ赤な、舌の長い、一見人間の子どもにも見えるような異形……。
「それ」はあろうことか長い舌でぺろぺろと銀狐の身体を舐め回し、銀狐は時折性感帯に触れられるのか「あっ、あっ」と淫らな声で喘ぐ。
白い腕でどうにか引き剥がそうとしているが、どうにも力が入っていないようで、ほとんどされるがままの状態になっていた。
「中津……っ、あっ、あかなめが……っ、出とるや、ないかあっ!」
あかなめ。
風呂場に溜まった瘴気から発生する妖怪で、主に風呂釜や桶の水垢などを舐めるとされている。
……が、銀狐の屋敷に出る「あかなめ」は少々質が悪い。
最初に発生した際、美青年である銀狐に何かしらの欲を抱いてしまったらしい。銀狐の人間体の、色々な部分が既に開発されてしまっていたことも良くなかった。
要するに銀狐の屋敷では、掃除を怠るたびに、変態のあかなめが出るのである。
「げへへへへへ……銀狐ちゃん、知らない人の味がするよ。もしかして、お相手ができたのかな」
「なんで……っ、んんっ、そんなん……っ、わかるんや……!」
下卑た声で、あかなめは銀狐の隆起した胸板と、その先端の突起をぺろぺろと舐め回す。
銀狐は顔を真っ赤にしつつも、潤んだ瞳は間違いなく快楽に蕩けていた。
「あわわ、どうしましょ。夜にやればいいやって油断してましたねぇ」
その場で慌てふためく中津には目もくれず、貫八はずかずかと風呂釜の方へと歩み寄る。
「げへ?」
あかなめが首を傾げたのも束の間。
思い切り首根っこを掴まれ、銀狐から引き剥がされる。そのまま瞬く間に、あかなめは風呂場の壁へと叩き付けられた。
「げへぇ……っ」
真っ赤な全身が、瘴気に戻って散っていく。
後には、とろんとした表情で風呂場に倒れ伏す銀狐と、修羅の顔で壁を睨みつける貫八と、風呂場の入口で腰を抜かした中津だけが残された。
「……銀狐さん、大丈夫ですか」
貫八が銀狐の肩を抱き、助け起こす。
「あっ」
全身が敏感になっているのか、銀狐は、それだけで甘い嬌声を漏らした。
ジー、とジッパーの音が風呂場に響き、銀狐の顔の前に黒光りする屹立が晒される。
「どうせこの後また清めますし、良いですよね」
にっこりと、それでいて嫉妬と独占欲と劣情がごちゃ混ぜになった表情で、貫八は銀狐を見下ろす。
「……っ、中津……」
銀狐は、縋るような目で、折れ箒の中津の方を見る。
助けを求められたのかと思い、中津は折れた自分の柄でどう攻撃するかぐるぐると考え始める。
背中を刺すか、いや、向こう脛を叩くか……
「早う……帰り。次からは、気ぃつけや……」
……が、銀狐の口から漏れ出た言葉に、全てを察した。
「……お邪魔いたしましたです!! ごゆっくり!!」
ぴしゃりと引き戸を閉め、中津はふぅ、とひと仕事を終えたような顔で元来た方向へと帰っていく。
「やっぱり、事後だったんじゃん!」
そんな独り言を、呟きながら……
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