【R18】はぐれ妖怪の隠れ里にて、狐は執着に抱かれる ~化かし狸と釣られ狐 ~

譚月遊生季

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第十五話 風呂場に潜む影 ※

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 風呂場に足を踏み入れたところで、銀狐は、得体の知れない悪寒おかんを覚える。

「……貫八か……?」

 風呂を沸かしに行ったのではなく風呂場に潜んだのでは……と疑ったものの、頭上の格子こうし窓から「銀狐さーん! そろそろいい湯加減だと思います!」とほがらかな声が飛んでくる。
 銀狐は辺りに注意を払いながら、風呂桶へと手をかけ……

「それ」と目が合った。

「──っ! 中津なかつッ!!!!」

 銀狐の怒号が、廊下にまで響き渡る。
 もはや、怒号というよりも悲鳴に近かった。

「な……中津? 誰ぞなもし?」

 貫八の困惑した声が、格子窓から響く。

「さっきの話の続きや! うちの付喪神はすーぐ怠ける奴らばっかやさかい……! またやりよったな、中津……!」

 格子窓の向こう。風呂場の外にて、貫八は訳も分からず目を白黒させていた。銀狐の説明の端々はしばしから、「中津」という相手への怒りがほとばしっていることだけはよく伝わる。

「え、あ、はい。なんかあったんですね……!?」

 何が何だかよく分からず、混乱している貫八の耳に、届いてはいけない声が届いた。

「あっ」

 それは、間違いなく、「喘ぎ声」そのものだった。

「や、やめぇ……っ、そんなとこ……っ、あぁあっ」
「……は?」

 貫八は風呂沸かし用のうちわをその場に放り投げ、凄まじい速度で室内に戻り、廊下を走り抜ける。
 脱衣場の前に来たところで、折れ箒の付喪神と鉢合わせした。

「おっ、お客様!? わ、わたくしは中津というものでして、主にこのお屋敷のお掃除を……」

 内心「こいつか」と思ったものの、応対している暇は貫八にはない。
 勢いよく引き戸を開け放ち、「銀狐さん! どうしました!?」と叫ぶが……

 目の前の光景は、貫八にとっては悪夢のようなものだった。

「あっ、ぅあっ、そんなんあかん……っ」

 風呂場の床に尻もちをつき、涙目で喘ぐ銀狐。
 銀狐の胸元には、「それ」がしっかりとしがみついていた。全身真っ赤な、舌の長い、一見人間の子どもにも見えるような異形……。
「それ」はあろうことか長い舌でぺろぺろと銀狐の身体を舐め回し、銀狐は時折性感帯に触れられるのか「あっ、あっ」と淫らな声で喘ぐ。
 白い腕でどうにか引き剥がそうとしているが、どうにも力が入っていないようで、ほとんどされるがままの状態になっていた。

「中津……っ、あっ、が……っ、出とるや、ないかあっ!」

 あかなめ。
 風呂場に溜まった瘴気しょうきから発生する妖怪で、主に風呂釜や桶の水垢などを舐めるとされている。
 ……が、銀狐の屋敷に出る「あかなめ」は少々たちが悪い。
 最初に発生した際、美青年である銀狐に何かしらの欲を抱いてしまったらしい。銀狐の人間体の、部分が既に開発されてしまっていたことも良くなかった。

 要するに銀狐の屋敷では、掃除をおこたるたびに、あかなめが出るのである。

「げへへへへへ……銀狐ちゃん、知らない人の味がするよ。もしかして、お相手ができたのかな」
「なんで……っ、んんっ、そんなん……っ、わかるんや……!」

 下卑げびた声で、あかなめは銀狐の隆起した胸板と、その先端の突起をぺろぺろと舐め回す。
 銀狐は顔を真っ赤にしつつも、潤んだ瞳は間違いなく快楽に蕩けていた。

「あわわ、どうしましょ。夜にやればいいやって油断してましたねぇ」

 その場で慌てふためく中津には目もくれず、貫八はずかずかと風呂釜の方へと歩み寄る。

「げへ?」

 あかなめが首を傾げたのも束の間。
 思い切り首根っこを掴まれ、銀狐から引き剥がされる。そのまままたたく間に、あかなめは風呂場の壁へと叩き付けられた。

「げへぇ……っ」

 真っ赤な全身が、瘴気に戻って散っていく。
 後には、とろんとした表情で風呂場に倒れ伏す銀狐と、修羅の顔で壁をにらみつける貫八と、風呂場の入口で腰を抜かした中津だけが残された。

「……銀狐さん、大丈夫ですか」

 貫八が銀狐の肩を抱き、助け起こす。

「あっ」

 全身が敏感になっているのか、銀狐は、それだけで甘い嬌声を漏らした。
 ジー、とジッパーの音が風呂場に響き、銀狐の顔の前に黒光りする屹立きつりつが晒される。

「どうせこの後また清めますし、良いですよね」

 にっこりと、それでいて嫉妬と独占欲と劣情がごちゃ混ぜになった表情で、貫八は銀狐を見下ろす。

「……っ、中津……」

 銀狐は、縋るような目で、折れ箒の中津の方を見る。
 助けを求められたのかと思い、中津は折れた自分の柄でどう攻撃するかぐるぐると考え始める。
 背中を刺すか、いや、向こうずねを叩くか……

「早う……帰り。次からは、気ぃつけや……」

 ……が、銀狐の口から漏れ出た言葉に、全てを察した。

「……お邪魔いたしましたです!! ごゆっくり!!」

 ぴしゃりと引き戸を閉め、中津はふぅ、とひと仕事を終えたような顔で元来た方向へと帰っていく。

「やっぱり、事後だったんじゃん!」

 そんな独り言を、呟きながら……
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