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第十六話 理性と欲望の狭間で ※

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 中津が立ち去った後。
 銀狐は頬を上気させたまま、はぁ、はぁと肩で息をし、顔の前に差し出された竿をぼんやりと見上げた。

「……さすがに……絶倫すぎひんか」

 既に何度も精を吐き出したにも関わらず、貫八のそれは、未だに堂々たる存在感を放っている。 

「それが狸ぞな」
「伊達に陰嚢きんたま陰嚢きんたま言うてへんわけや。ほんまにおもろいなぁ」
「真顔でぜちがう嫌味を言うんは心にくるけん、やめよか……」

 銀狐は肩で息をしたまま、なかなか起き上がろうとしない。
 ……どうやら、あかなめによって性感帯を舐め回されたことが、疲れ切った身体にトドメを刺したらしい。

「……体力、のうなったんか」
「そんなにヤワちゃうわ」
「けんど、しんどそうぞな」

 貫八は、逸物を硬くしたまま、それでもどうにか思考を働かせる。
 貫八がここに来て一日しか経っていないのに、銀狐の中に射精した回数は既に両手ですら数えられない。……無理をさせるつもりはなかったはずなのに、したことといえば、どう考えても無体を働いているとしか言いようがない。

 貫八は欲望と気遣いを天秤にかける。
 数秒の後、貫八が導き出した結論は……

「……く、口でするんはどうじゃ」

 本人としては、「折衷せっちゅう案」のつもりだった。
 銀狐は金の隻眼せきがんで貫八をにらむように見上げ、てらてらと黒光りする竿に指を這わせる。

「んお……っ」
「すぐ出そうやな。さっさと終わらせたるわ」

 そう啖呵たんかを切り、銀狐は貫八の亀頭きとうにざらついた舌を乗せた。

「……っ、こりゃ、ええのう……」
「ん……っ、ふ、ぅう……」

 銀狐は早く終わらせようと、一心不乱に舌を動かす。
 やがて、無意識にか、それとも意図的にか上顎うわあごに貫八の先端をこすり付け、甘い吐息を漏らし始めた。

「……いやらしい狐じゃ 」

 ぼそりと呟く貫八を上目遣いで睨み、銀狐は竿をくわえたまま、尿道にざらざらとした舌を這わせる。

「ぬぅおっ!?」

 貫八は衝撃であっという間に達し、白濁がぱたぱたと銀狐の顔に散った。

「……」

 不機嫌そうに眉をひそめ、銀狐は顔についた白濁を風呂釜の湯でさっと洗い流す。

「……まだちゃんとぬくいな。そのうち行水ぎょうずいになってまうやろけど、まあ、ええか」

 溜まった湯に手をつけ、銀狐は淡々と呟く。
 その声で貫八もハッと我に返り、格子窓の外が暗くなりかけていることに気付いた。

「あ、何なら沸かし直して……」
「あんたも入り」
「え」
「どうせしばらく帰る気もあらへんのやろ。しーっかり清めてもらわな」

 貫八はしばらく目をぱちくりとさせていたが、銀狐の言葉の真意に気が付き、ぱあっと顔を輝かせる。

「……はい! しばらくお世話になりますね、銀狐さんっ!」
「食事と部屋だけは何とかしたるさかい、あとは好きにしはったらよろしおす」
「もちろんです……!」 

 貫八の嬉しそうな顔を横目で見、銀狐は赤くなった顔を誤魔化すように明後日の方向へと背けた。



 その後、輪島が夕食の時間を伝えに風呂場へと現れる。

「……ど、どういう状況ですかな……!?」

 大の男が二人、同じ風呂釜に浸かる姿に、輪島は困惑を隠せなかった。
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