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第十一話 千年前の呪い ※
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貫八の施術が効いたのか、銀狐はうつ伏せのまま次第にうとうとし始めた。
まどろむ銀狐の顔の前で、貫八がひらひらと手を振る。
「銀狐さん、銀狐さん。身体、変わってますよ」
「ん……あぁ、もう、そないな時間か……」
銀狐は目を擦りながら身体を起こし、んん、と大きく伸びをする。
浴衣の胸元から立派な乳房が覗き、貫八の視線が見事にそちらへと吸い寄せられた。
「き、狐に戻るなら、早く戻ってください。……正直、辛抱堪らなくて……」
「あんだけ激しくしておいて、まだ物足りへんのか」
「うう、無理させるつもりはなかったんですよ~……」
貫八は必死で銀狐の胸元から目を逸らすが、銀狐は何を思ったか、胸元を隠しもせず貫八の元ににじり寄った。
今までとは異なり、今回の銀狐の行動は貫八にとって全くの予想外。意図が読めずに目を白黒させていると、銀狐は浴衣の胸元をわずかに広げ、真剣な声で言い放つ。
「見ての通り、例の呪いは現役どす。早う解いてもらいまひょか」
今にもまろびでそうな双丘が、たゆんと揺れる。
貫八は決して視界に入らないようにと、首をさらに後方へとねじった。無理な方向に曲げすぎたせいか、首筋からみしみしと音が鳴る。
「と、解いてますよ! ……っていうか解けてます! とっくに! 未熟者のおれがかけた呪いが、千年も続くわけないじゃないですか!」
「……さすがはホラ吹きの狸やな。まだまだうちを弄びとうてしゃあないんやねぇ」
「ち、違います! しんから言うとります! まだ続いとるのはわしのせいじゃのうて別の原因じゃあ!」
目線を逸らしたまま後ずさる貫八に、銀狐は更に詰め寄った。
銀狐の身体に例の「癖」が残っているのは、霊力の流れを視れば分かった。……使えると思ったのは紛れもない事実だが、呪いの効果が続いている原因自体は貫八にも分からない。
「何が目的や。言うたら何でも好きなことしたる」
「ま、まさか、色仕掛けですか」
「もうあんたには何度も抱かれてもうたさかいな。今更色仕掛けぐらい、屁でもあらへんのや」
まったく想定していなかった事態に、貫八は必死に理性を総動員する。
目的を言えと銀狐は言うが、貫八の目的は銀狐の傍にいる時点で既に達成されているし、過去に呪いをかけたのが事実でも、とっくに解けているはずだというのも事実だ。
貫八が腹黒いことに間違いはないが、それはそうとして、今回ばかりは騙すつもりも化かすつもりも毛頭ない。……はずなのだが。
ちらりと、貫八の視線が再び銀狐の方を見る。
たわわな乳房が視界に入り……貫八の理性の針が急速に欲望の方へと触れかける。
ぶるぶると首を左右に振り、貫八は邪な感情をどうにか追い出した。
「……銀狐さん、一旦落ち着きましょう」
大きく深呼吸をし、貫八は銀狐の両肩を掴んで目を合わせる。
「腰、痛めたんじゃないんですか」
「そんなん、もう良うなったに決まっとるやろ。回復させる力もうちには備わっとるさかい」
「……でも、さすがに無理はさせられませんよ。だって……」
貫八はぼそぼそと口篭りながら、気まずそうに眉をひそめる。
肩を掴む手が、わずかに震えた。
「急に慎ましくなりはったな。昨晩はあんなに元気やったんに」
「……だって、片目、見えてないんじゃろ」
貫八の言葉に、銀狐の表情がさっと険しくなる。
現在、銀狐の右目は、常に髪で隠されている。先日の情事の際ですら、隠された右目が顕になることはついぞなかった。
けれど、千年前も似たような髪型をしていたとはいえ、片目の方は常に隠されていたわけでもない。……少なくとも、貫八はそう記憶している。
「さっき……顔の前で手を振ったんぞな」
「……? 反応したやないか」
「……二回、振ったんぞな」
気まずそうな貫八の言葉に、銀狐は全てを察する。
要するに片側で反応がなかったから、もう片側でも振ってみたと、そう言いたいのだろう。
「あほ言いな。うちが可哀想になったて言いたいんか」
端整な顔を不快そうに歪め、銀狐は貫八の胸ぐらを掴む。
「確かにうちの右目はもう見えてへん。そやけどな、そんなん数百年も前からや。もうとっくに慣れたし、あんたに憐れまれる謂れはあらへん」
銀狐の身体が、更に貫八に近づく。
腿が貫八の腿に重なり、布越しに主張し始めたそれに触れた。
「ほれ見ぃ。元気になっとるやないか」
額に青筋を立てながら、銀狐は貫八を挑発する。
「……銀狐さん、これ以上はいけん」
眉根を寄せ、息を荒げ、貫八はどうにか溢れ出す衝動に耐える。
数百年前、銀狐が酷い負傷をしたことは、貫八もよく知っている。……それが今もなお影響を及ぼしているのだとするなら、さすがに欲に溺れて負担を強いるわけにはいかない。
多少歪んではいるが、貫八は貫八なりに、銀狐を愛しているのだ。
「……っ、今更ええ顔しんといて!」
銀狐は泣きそうな顔で、貫八の胸元にしなだれかかる。
「あんたのこと……どう思うたらええか、分からへんくなるやろ……」
かつては同じ痛みを抱き、慰め合いながら共に鍛錬をする仲だった二人。……が、貫八は銀狐を騙し、手篭めにした上で、永遠になるかもしれない別れの時でさえ真実を言わずに綺麗事を並べて誤魔化した。再会の時も、半ば無理やり押し倒し、嫌がる銀狐をめちゃくちゃに抱いた男だ。
けれど、妻を娶ることもせず、何度も何度も命がけで、血を分けた家族すら投げ打って、銀狐と再び巡り会おうとしてくれたのも……今、こうして身体を気遣ってくれているのも、紛れもない事実。
銀狐の心は、酷くかき乱されてしまっていた。
「銀狐さん」
吐息混じりの声が、銀狐の名を呼ぶ。
「もう……もう、いけん。耐えられんぞ……」
銀狐の腿に触れた感触が、更に硬度を増し、熱を帯びる。
「……腹の底は見せへんくせして、ここは正直もんやなあ」
男性の身体よりも一回り小さい手のひらが、膨らんだ箇所をそっと包み込む。
瞬間。
貫八の中で何かが弾け飛んだ。
「……っ! わしゃ、きちんと耐えたぞな……!」
布団に銀狐を押し倒し、貫八は浴衣の前合わせに手をかけた。
柔らかな双丘がこぼれ、先端にて桃色の突起が誘う。
「あっ!?」
貫八の浅黒い手が、柔肌に伸びる。
獣じみた眼光に射抜かれ、銀狐の心臓がどきりと跳ねた。
まどろむ銀狐の顔の前で、貫八がひらひらと手を振る。
「銀狐さん、銀狐さん。身体、変わってますよ」
「ん……あぁ、もう、そないな時間か……」
銀狐は目を擦りながら身体を起こし、んん、と大きく伸びをする。
浴衣の胸元から立派な乳房が覗き、貫八の視線が見事にそちらへと吸い寄せられた。
「き、狐に戻るなら、早く戻ってください。……正直、辛抱堪らなくて……」
「あんだけ激しくしておいて、まだ物足りへんのか」
「うう、無理させるつもりはなかったんですよ~……」
貫八は必死で銀狐の胸元から目を逸らすが、銀狐は何を思ったか、胸元を隠しもせず貫八の元ににじり寄った。
今までとは異なり、今回の銀狐の行動は貫八にとって全くの予想外。意図が読めずに目を白黒させていると、銀狐は浴衣の胸元をわずかに広げ、真剣な声で言い放つ。
「見ての通り、例の呪いは現役どす。早う解いてもらいまひょか」
今にもまろびでそうな双丘が、たゆんと揺れる。
貫八は決して視界に入らないようにと、首をさらに後方へとねじった。無理な方向に曲げすぎたせいか、首筋からみしみしと音が鳴る。
「と、解いてますよ! ……っていうか解けてます! とっくに! 未熟者のおれがかけた呪いが、千年も続くわけないじゃないですか!」
「……さすがはホラ吹きの狸やな。まだまだうちを弄びとうてしゃあないんやねぇ」
「ち、違います! しんから言うとります! まだ続いとるのはわしのせいじゃのうて別の原因じゃあ!」
目線を逸らしたまま後ずさる貫八に、銀狐は更に詰め寄った。
銀狐の身体に例の「癖」が残っているのは、霊力の流れを視れば分かった。……使えると思ったのは紛れもない事実だが、呪いの効果が続いている原因自体は貫八にも分からない。
「何が目的や。言うたら何でも好きなことしたる」
「ま、まさか、色仕掛けですか」
「もうあんたには何度も抱かれてもうたさかいな。今更色仕掛けぐらい、屁でもあらへんのや」
まったく想定していなかった事態に、貫八は必死に理性を総動員する。
目的を言えと銀狐は言うが、貫八の目的は銀狐の傍にいる時点で既に達成されているし、過去に呪いをかけたのが事実でも、とっくに解けているはずだというのも事実だ。
貫八が腹黒いことに間違いはないが、それはそうとして、今回ばかりは騙すつもりも化かすつもりも毛頭ない。……はずなのだが。
ちらりと、貫八の視線が再び銀狐の方を見る。
たわわな乳房が視界に入り……貫八の理性の針が急速に欲望の方へと触れかける。
ぶるぶると首を左右に振り、貫八は邪な感情をどうにか追い出した。
「……銀狐さん、一旦落ち着きましょう」
大きく深呼吸をし、貫八は銀狐の両肩を掴んで目を合わせる。
「腰、痛めたんじゃないんですか」
「そんなん、もう良うなったに決まっとるやろ。回復させる力もうちには備わっとるさかい」
「……でも、さすがに無理はさせられませんよ。だって……」
貫八はぼそぼそと口篭りながら、気まずそうに眉をひそめる。
肩を掴む手が、わずかに震えた。
「急に慎ましくなりはったな。昨晩はあんなに元気やったんに」
「……だって、片目、見えてないんじゃろ」
貫八の言葉に、銀狐の表情がさっと険しくなる。
現在、銀狐の右目は、常に髪で隠されている。先日の情事の際ですら、隠された右目が顕になることはついぞなかった。
けれど、千年前も似たような髪型をしていたとはいえ、片目の方は常に隠されていたわけでもない。……少なくとも、貫八はそう記憶している。
「さっき……顔の前で手を振ったんぞな」
「……? 反応したやないか」
「……二回、振ったんぞな」
気まずそうな貫八の言葉に、銀狐は全てを察する。
要するに片側で反応がなかったから、もう片側でも振ってみたと、そう言いたいのだろう。
「あほ言いな。うちが可哀想になったて言いたいんか」
端整な顔を不快そうに歪め、銀狐は貫八の胸ぐらを掴む。
「確かにうちの右目はもう見えてへん。そやけどな、そんなん数百年も前からや。もうとっくに慣れたし、あんたに憐れまれる謂れはあらへん」
銀狐の身体が、更に貫八に近づく。
腿が貫八の腿に重なり、布越しに主張し始めたそれに触れた。
「ほれ見ぃ。元気になっとるやないか」
額に青筋を立てながら、銀狐は貫八を挑発する。
「……銀狐さん、これ以上はいけん」
眉根を寄せ、息を荒げ、貫八はどうにか溢れ出す衝動に耐える。
数百年前、銀狐が酷い負傷をしたことは、貫八もよく知っている。……それが今もなお影響を及ぼしているのだとするなら、さすがに欲に溺れて負担を強いるわけにはいかない。
多少歪んではいるが、貫八は貫八なりに、銀狐を愛しているのだ。
「……っ、今更ええ顔しんといて!」
銀狐は泣きそうな顔で、貫八の胸元にしなだれかかる。
「あんたのこと……どう思うたらええか、分からへんくなるやろ……」
かつては同じ痛みを抱き、慰め合いながら共に鍛錬をする仲だった二人。……が、貫八は銀狐を騙し、手篭めにした上で、永遠になるかもしれない別れの時でさえ真実を言わずに綺麗事を並べて誤魔化した。再会の時も、半ば無理やり押し倒し、嫌がる銀狐をめちゃくちゃに抱いた男だ。
けれど、妻を娶ることもせず、何度も何度も命がけで、血を分けた家族すら投げ打って、銀狐と再び巡り会おうとしてくれたのも……今、こうして身体を気遣ってくれているのも、紛れもない事実。
銀狐の心は、酷くかき乱されてしまっていた。
「銀狐さん」
吐息混じりの声が、銀狐の名を呼ぶ。
「もう……もう、いけん。耐えられんぞ……」
銀狐の腿に触れた感触が、更に硬度を増し、熱を帯びる。
「……腹の底は見せへんくせして、ここは正直もんやなあ」
男性の身体よりも一回り小さい手のひらが、膨らんだ箇所をそっと包み込む。
瞬間。
貫八の中で何かが弾け飛んだ。
「……っ! わしゃ、きちんと耐えたぞな……!」
布団に銀狐を押し倒し、貫八は浴衣の前合わせに手をかけた。
柔らかな双丘がこぼれ、先端にて桃色の突起が誘う。
「あっ!?」
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