ナチュラルサイコパス2人に囲われていたが、どうやら俺のメンヘラもいい勝負らしい。

仔犬

文字の大きさ
34 / 75
依々恋々

1

しおりを挟む


「美人と男前に挟まれたんだけど俺!やっぱり並ぶだけの価値ある顔してるって事だろ?」


そう彼が言うとクラスメートの数人が笑い出した。

「はいはい。イケメン自慢してんじゃねーよ!」

「ふふん、僻むな僻むな」


ぱっちり二重に整った鼻と口、少し幼く見える顔は愛嬌があった。中身は案外潔く、男子校生らしい馬鹿なところもあってそんな顔を見ていたらどんどん惹かれていった。

ころころと変わる表情が太陽みたいだ。
でも本当に太陽なら掴めない。





クラス替え当日、知秋はクラスメートには一切目を向けず寝てばかりだった。出席番号順に並べられた席に興味もない。
女子たちの黄色い悲鳴は頭痛がするし男子の興味関心がこちらに向くのも鼻につく。知秋は嫌になって顔を伏せて時間が過ぎるのを待った。下らない、楽しくもない。興味がない。

知秋から2個下がった席にいた来夏も校庭に飛ぶ蝶をただ眺めていた。どちらかと言えば蝶は嫌いだ。虫なんて美しいと思えない。だけどあの模様は良い、金の刺繍であの模様だけを入れるのはどうだろうかと服のデザインが思いつく。まだ1人もクラスメートの顔すら見ていないのに。


その2人の間にガタンと勢いよく座った来夏は一瞬で2人を会話の中に引きずり込んだのだ。


「来夏と知秋でしょ?俺、英羅!よろしくな?」


寝ている知秋を指で突き、外を見ていた来夏の視界に笑顔いっぱいで英羅は笑いかけた。驚いたのも束の間、周りのクラスメートも一気に近寄って来たのだ。

英羅がいるなら2人も話せる。そう思った者もいれば英羅と話したいだけの者も多かった。とにかく彼は人を引き寄せる、そんな魅力があった。


「いつも2人どこで昼飯食ってんの?」

「……その辺で」

「その辺ってどの辺?」

こんな調子でポンポンと会話が投げる英羅はだいたい突拍子もなく2人に話しかける。

それでも英羅はいつもクラスメートに囲まれてばかりで自分たちの事などすぐに忘れるだろう、できることなら巻き込まないでほしい。

そして最初の挨拶から3日ほど経った。
2人も最初こそ驚いたが興味はすぐに消えてしまう、それでもまた春の嵐のように彼はやってくるのだ。


「じゃあ今日は2人と一緒に食べよ」

「あ?」

「え……何で?」

「一緒に食べたいから?嫌だったらやめるけど……前後席のよしみじゃん」



とは言われてもいきなりだった。
普通なら2人はこんな勝手な話は無視だ。耳にも入らないが悪戯に笑う英羅に毒気を抜かれ仕方なく席を立つのをやめた。

席を向き直すような事もせず英羅と知秋が横を向いて、後ろの席の来夏は机に向かったままそれぞれ食べ始めた。お腹は空いていなかったが英羅がバックからお昼ご飯を探すので仕方なく2人もお昼ご飯を取り出した。


「つっても今日俺昼飯買えなくてこれしか無いんよなぁ」


ぱさりと机の上に置かれた菓子パンがひとつ。知秋は視線だけを菓子パンに移し、流石に驚いた来夏が静かに尋ねる。


「これだけ……?」

「今月ピンチでさー」


ピンチと言っても学生ならば家に何かしらはあるのではないか。来夏が黙り込むと英羅は話し出した。

「父さん仕事で帰って来れないし、母さん病院だからやりくり自分でやろって思ったんだけど、バイト代足りなかったわー。あ、でも明日給料日だから滑り込みセーフ!」

「……バイトしてんのか」

「おお、知秋が初めて話しかけてくれた……睨むなっつの」

英羅がにやけると知秋は眉間に皺を寄せる。むず痒さによるものだったので睨んだわけではなかった。

「してるよー先生にも許可もらってさー。今はカラオケと居酒屋!」

掛け持ちだ。
この会話だけでも英羅の環境が伺えたが2人はまだ踏み込むような関係性ではなかった。ぱくぱくと菓子パンを食べる英羅の腕は細くて、どこにそんな元気があるのか不思議だった。あっという間に食べ終えてしまう英羅を見て来夏は自分のお弁当と英羅を交互に見て1番カロリーのありそうな肉をフォークに突き刺した。


「あげる……」

「え、ん?」

「足りなそうだから、あげる」


来夏が静かにそう言うと英羅の瞳がたちまちきらきらと光る。来夏は驚いた。人の瞳がこんなに光るのかと。


「まじでいいの?うまそー!」


フォークごと貸すつもりだったのだが英羅はパクりと来夏の腕から肉を口に入れる。蕩けるような笑顔を見せた英羅。


「んま~、やっぱり肉だよな」

「……これもやる」


それ見ていた知秋も自分のおにぎりを差し出した。よく食べる知秋は数個おにぎりを持っていたし、目の前でそれほど嬉しそうに食べられいつのまにか手が動いていた。

「なに、何何。お前ら天使?!」


けらけらと笑いながら嬉しそうにおにぎりを頬張る英羅。知秋も来夏もただその姿を見ていた。


見飽きなかった。誰に声をかけられても誰と付き合ってもこんな感情生まれなかった。だけど英羅は一瞬で2人の心の何かを掴んだのだ。


「んーまじでありがと!米もあれば元気100倍~!」

上履きを抜いで椅子の上で体育座りをした英羅がなあなあとまた2人問いかける。

「2人っていつも一緒にいるけど、友達って割には喋らないし、もしかして幼馴染とか?」

「……まあ、親同士が仲良い」

とは言っても他の奴といるよりは幾分か楽、と言うレベルの仲だった。お互いに興味がない分邪魔にもならないし、2人でいた方が割り込みもなく都合が良い、というくらいの関係だ。

それでも英羅は自分のことのように喜んだ。


「え、そーなんだ!良いなぁ俺親戚とかも居ないからさ、ちっちゃい頃からの友達とか憧れる」

「そんな良いもんじゃねぇよ、だいたいこいつ何考えてるか分かんねぇし」

「……知秋はすぐイライラする」

「あ?テメェが分かりずらいからだろ」

「おっと?!何何、喧嘩すんの?!」


物理的に板挟みの英羅が2人に向かってストップの合図で手のひらを向けた。焦った様子の英羅だが数秒経つとぷっと吹き出す。


「変なの、だったら一緒に居なきゃ良いのに」


窓から柔らかい風が入ってくると英羅の髪を撫でた。体を丸め小さくなってくすくすと笑うのだ。目尻を下げて楽しげに屈託なく。
光に当たっているのにまるで光っているのは英羅自身だった。


2人の恋は簡単に始まった。








しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...