sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
358 / 379
misunderstanding!!!

3

しおりを挟む
「なんだか面白い事になってますね」

ドアを開けた赤羽さんがいつもと変わらぬさわなかな笑顔で立っていた。赤羽さんは容姿だけならものすごくスポーツなんかが似合う爽やか青年だけど中身を知っていると頭脳派にしか見えながら不思議だ。
瑠衣先輩に群がる俺たちを見て面白そうに微笑みながら部屋の中に入っていく赤羽さん。


「赤羽、これ調べて」

「また物騒な物仕込まれましたね」

暮刃先輩から渡されたものを見てすぐに何か分かったのか了解ですと微笑んだ。物騒と言いながらも驚いた様子はないしどちらかといえば楽しそうにすら見える。

俺はふと盗聴機が仕掛けられていたと言うことは発見するまでの間に何か情報でも漏れてしまったのではと不安になった。

「この袋に入ってたんですけど、大丈夫かな。ここの話が筒抜けだったかも……」

「大事な話向こうではしてないから。それに漏れて困るものでもないし」

「これでどうにかしよう、というより喧嘩を売ってるつもりだと思いますよ」

赤羽さんは盗聴器を指先で弄ると少し楽しげな様子で握り直す。綺麗な唇で微笑むと視線が俺の方を向いた。

「少し調べてみます。それから相手の名前は聞きました?」

「あ、いえ。でもチャットIDなら貰いました。あだ名はキツネさんです」

スマホの画面を見せると赤羽さんが笑顔のまま固まった。

「……交換しちゃったんですか」

「なんでもする代わりに逃してくれって言ったら」

「また大博打して……」

やっぱり苦笑だ。
今日あと何人かにこの顔をされることは覚悟しよう。

「それで、返信はどうするんですか?」

「えーと返すようには言われているんですけど……うーん、先輩達を通したら良いですかね?」

「その方が良いかと、向こうも俺たちに筒抜けだなんて分かるでしょう」

「じゃあ、そうします」

はい、と微笑んで赤羽さんはすぐに部屋を出て行ってしまった。キツネさんの情報が知りたかったのか見た目とか性格何かを伝えるとタブレットに入力していた。

それにしても連絡なんて来るのだろうか。おはようとか来たらどうしよう。来る可能性は低くあって欲しい。

「ね、キツネさんとやらのチャット見てみたい」

「良いけど、はい」

瑠衣先輩の腕の中が渋滞しているので流石に唯が席を一つずれた。秋と俺だけ瑠衣先輩シートのままスマホを渡すと楽しげに見始める唯。氷怜先輩も見るのか唯の横に移動する。

「勝手に返信すんなよ」

「しませんよー」

唯がピースをすると瑠衣先輩が俺の頬をつつきながらけらけらと笑う。
向こうからはまだ何も来ていないので最後の言葉は笑顔で手を振らなきゃ帰らない、だ。唯がそれをみて眉を寄せた。

「わがままな人……?」

「わがままで済めば良かったけど……」

やっぱりこんなふうに可愛い顔は可愛らしい発言をしてくれないと、キツネさんは勿体ない。

「そう言えばどうして暮刃先輩はそのチームの人だって分かったんですか?キツネさんが誰かと言うのは知らなかったんですよね……あ、腕にタトゥーがありました。フード被った死神みたいな」

「そう、それが奴らのマークなんだよ」

「でも服で隠れてたのによく気がつきましたね」

「腕を最初に確認するくらいには有名なんだよね……」

言葉の後に忌々しいとでも続けるのかと思ったくらい暮刃先輩が綺麗な顔を歪めた。髪をかきあげると仕方ないと言って足を組み直す。

「あんまりこう言う話君たちにするの好きじゃないけど、今回は話そうかな……良い?」

「こいつらに関係ある時はしょうがねぇ……」

氷怜先輩も本当に仕方がないと言った様子で頷いた。先輩達がこうして俺たちにチーム関係の話してくれた時と言えば桃花と初めて会ったあの試合の時くらいだ。

チームの試合があったり、テリトリーをかけた争いが生まれたりと何となくは知っててもどんなチームがどういう動きをしてるのかみたいな深い話は全く知らない。幹部の人たちからもその下に付く人たちからももちろん聞いたことはないから俺たちに下手な事は言わないようにしてるんだろうな。まあ俺たちも聞いたりはしないようにしてるから余計に。

「ヘッドイーターはねかなり前から存在してるんだよ、しかもチームなんだけどチームじゃないから情報掴みづらいんだよね……」

「チームだけどチームじゃない……?瑠衣先輩も知ってます?」

秋が見上げるとこくんと頷いた瑠衣先輩。

「オレ1番試合したかったんだー……今はほんとに殺りたいケド」

「あ、ちょまた地雷踏む!進めてどうぞ!」

また黒いオーラが見えた気がして慌てて秋が暮刃先輩に続きを促した。

「ヘッドイーターのヘッドはさチームの頭を意味してる。それを食らう、だからヘッドイーター」

とても分かりやすい。あのキツネさんのなんとも言えない怖さもそのチーム名なら納得だ。

「失礼します」

「ああ、紫苑ありがとう」

丁度そこで紫苑さんが顔を出して俺たちの分までドリンクを置いてくれた。ついでに痛くないけど頭をこつんと小突かれたので赤羽さんから話を聞いたようだ。
紫苑さんの王子様フェイスが少し硬め。ごめんなさいと手を合わすとため息をつきながらも頭を撫でて部屋を出ていく。心配かけてしまった。みんなにも謝らないとな。

ちなみに瑠衣先輩には例のごとく巨大なケーキも運ばれたおかげで、漏れ出てしまった黒いオーラも消えてご機嫌に食べ出した。ついでに秋の口と俺の口にもたまに運ばれる。

「先輩達は出会ったの初めてなんですか?」

「ああ、俺たちがここに居付く前から存在してるけど出会した事は一度も無い。だいたいそいつらの目的も分からねえし」

「わがままそうだしなぁ……」

唯がまだチャット見ながら呟いた。
たまたま連絡がくるのでも待っているんだろう。

秋は少し考えるように唸る。

「えーと、テリトリー目的じゃないって事ですか?」

「そう。チームはある、らしいがどこにいるのかも不明、そもそも拠点すらねぇと思う。赤羽が言うにはほぼ単独で動いてるからヘッドイーターだと名乗らない限りは区別もつかない」

「だからチームだけど、チームじゃないと」

唯がスマホを持ったまま真面目に言葉を繰り返した。暮刃先輩は指の甲を顎に添えてそれでねと話を続けた。

「チームそのものを壊したい、乗っ取りたい、それだけなら他のチームとやってる事はほとんど同じだし別に困ったものでも無いけど……奴らは食べるだけじゃない。頭を取り込む。つまり自分たちのところに引き抜くんだ」

暮刃先輩が手を伸ばした紅茶は湯気が立ちいい香りがしていた。口をつける前にカップを見つめる。

「誘う方が強い力とか繋がりが欲しいって言うのは分かるんだけど……正直自分が誘われたとして入るメリットが分からなくてね。だって全員が元トップで動きもバラバラ、やることも明確じゃ無い。うちに入った桃花みたいに誰もが良い子なわけでも無いだろうし」

「桃花はとくべつ優しいですしね」

何故か唯が嬉しそうだ。
でも暮刃先輩の言いたい事はわかる。テリトリーも戦力も欲しい訳でもなくただトップだけを集めてる。集めたところで何をするわけでも無い。確かに不思議だ。

しかしそれが本当であれば先輩たちが知っているくらい長く存在し、なおかつ全員が元トップの集まり。未だにその引き抜きが続いているのであればそれなりの数がいるのではないだろうか。


「それってつまり……」

「うちで言えば幹部より上の、つまり俺たちレベルしかヘッドイーターには存在しない」






嵐の予感がする。


しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

処理中です...