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escape!
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しおりを挟むドキドキする、顔が熱い。
先輩は見つめられるのなんて慣れているみたいで気にも止めていない。
女の子はよくあるけど同性で目が離せないってなかなか無い。
そこまで考えて、あれ、それよりもおれなんか忘れてないかと気付く。
「ああ!秋と優助けにいかないと!」
忘れていた事に驚いて立ち上がった。
しかも、立てないことも忘れていた。
おもいっきり脚に力を入れて立ち上がったら結局バランスを保てずそのまま落下。うわ、このまま倒れるとさっきの壁に激突した肩に当たる。
「……っと」
衝撃は来ず柔らかい壁に当たった。
「……え、わ、度々すみません」
タバコを持っていた手と逆の手で支えられちゃってるよ。背中に回る安定感のある腕。立ってみて分かったけど身長差が予想よりもかなりある。おそらく、180越えだろうか。いやもっとかな。この人にしてみれば160代のおれめちゃくちゃ軽いんじゃないか。
向かい合うように支えられたおれに先輩が投げかけた。
「……なに、立てねぇの?」
「壁にぶち当たったのと全力疾走で全て使い切ったみたいです……」
情けないし最悪だ。行かなきゃいけないのに、巻き込んだのはおれなのに。
「急ぎの用でもあんのか」
「おれの友達もこの人の仲間に多分追われてるんです。助けに行かないといけないのに……」
先輩はじっと見つめるだけで何も言わなかった。立てない男が何言ってんだって感じだし、先輩にはまったく関係がない。だから行かないといけないんだけど頑張れおれの足!
そう思っても身体は別物のように動かず無言で数秒が過ぎ去った。
だがそれも独特な機械音で終了した。
ぴろりろりーん。
「……」
「……」
獅之宮先輩のポケットから聞こえるお茶目な着信音。最初の設定のままだなこれ。タバコの煙を一度吐く先輩。ちゃんと煙がおれにかからないようにしてくれるとこ、ときめいて良いですか?
視線が腰に動いた。
「俺の尻のポッケにスマホ入ってんだけど」
「はい」
「取って」
「わぷ!」
先輩の腕にぶら下がったキーホルダーのようになったおれを自分の胸板に当ててスマホを取れるようにしているらしい。前は全く見えないが先輩の背中から腰と辿りポッケに四角いスマホらしいものを取った。
スマホを渡すとタバコをくわえて受け取り、先輩は無表情のままスマホの画面を弄る。
ど、どうしたらいいのだろう。
この体勢いくら路地裏とはいえ恥ずかしい。しかし恩人の先輩の手を退かす訳にもいかないし、離されたら地面にただいま。
「なあ」
「はい」
「これ見てみろ」
「え?わっ!」
支えられている手に力が入ったと思ったら両脇にその腕を通され、足はつくもののぶら下がるみたいなる。おれの背中が先輩のお腹に付いた。
何の不自由もなく片手で回転されたのだ。チカチカする目を見開いた先に先輩のスマホの画面が見える。
「これ、こいつの仲間だろ」
「え、……あ、そうです!」
見せられた画面には見覚えのある赤とオレンジの不良ふたり。
……のボコボコにされた姿の写メ。
「瑠衣と暮刃から」
「……って、まさか豹原先輩と天音蛇先輩……?」
「ああ」
マジですか。
豹原瑠衣先輩と天音蛇暮刃先輩もそれはもう有名なお二人。獅之宮先輩とはよく一緒にいてチームのトップ3だ。噂は獅之宮先輩と同じくらいある。
そんなふたりが金髪不良のお仲間を?
偶然ってすげー。
「で、これ」
「あ、秋と、優……」
おれ、奇跡の一枚見てるかも。
豹原先輩と天音蛇先輩に挟まれて、よく知る親友が写ってる。
しかも、ピースって……きみたち最高なんだけど。
因みにこのメールは豹原先輩かららしく写メの下に「なんかウケる子ゲットしたぁー」って。
……そりゃ、そんな凄い先輩たち前にピースなんてしてれば面白い認定です。
大人しくゲットされときなさい。
「……ふふっ、良かったあ」
安心したら笑えてきた。
「……へえ」
ぐりんっ、と視界が回ってと思ったらいつのまにやら先輩の顔が目の前に。やだ、美形。
じゃなくて、また片手で逆向きにされたのか。早業。
「名前は?」
「……高瀬唯斗です」
「唯斗ね、……なぁお前、笑うと雰囲気変わるな」
「そうですか?」
物色するように見られて、おれも改めてこの人の綺麗さに驚く。また視線が合うとそらすわけにもいかずそのままの向き、なんだろこの状況。
「あの、お?」
「タバコ邪魔だな……」
突然タバコの話なる意味はわからないがおれを持ってるので捨てたくても捨てられないのだろうか。視界の端に先輩がアッシュトレイをぶら下げている事に気付いたおれはすぐにタバコを受け取りその中に捨てた。
「先輩、こう言っては何ですが、ポイ捨てしないんですね」
「無駄に汚すのは趣味じゃねぇからな」
不躾なおれの質問にも返してくれる先輩に話しやすさを感じ始めてきたおれはにっこりと笑う。そうするとまた先輩が覗き込んでくるのだ。不思議そうに楽しそうに。だんだん、先輩がかわいく見えてきた。
「せんぱい、なんだか可愛いですね」
そう言って笑った瞬間動きを止めた先輩。
そして向けられたあのニヒルな笑み。
瞬時に醸し出す色気はこの男だからできるんだろうな。その口端が緩く動き出すとおれはそれを目で追っていた。
「いいなお前。俺のものになれよ、唯斗」
「え、はい。いいですけど」
「……」
また沈黙が始まった。
返事が飛び出たので、口が勝手動いたとしてもおれは後悔することがない。こういう時の言葉は本当にいいって思ったから飛び出るのだ。
「まあ……とりあえず、いいか」
とりあえず納得した先輩の赤い目が一瞬だけ揺れた。おれの返事が困らせてしまったか。
質量が違うのだろうか、気持ちの質量が。でもそれは断らなければいけないというか定義には至らない筈だ。差はどうであれお互いの気持ちが同じ方向である。それは伝えたのだからあとは先輩次第。
「えっと、見定めてからの返品可能です」
「ん?しねぇよ」
くしゃっと頭を撫でられた。その笑顔におれは初めて赤面してしまった。
「どんだけかっこいいんですか~~」
「何言ってんだ。つかそろそろ歩けるか」
そう言えば足は生き返っただろうか。そっとバランスを取って先輩の腕を外してみる。
すぐに腰から崩れ落ちた。何故だ。
絶望するおれの横にしゃがんだ先輩は先ほどと同じようにタバコに火をつけるのかと思いきや。さっきのとは違うタバコだ。最新型で本当に喫煙者も非喫煙者も人体にも影響をがないとニュースでやっていた。それでも味気なさはまだある筈だ。
おれの視線に気がついたのかなぜか仕舞おうとする先輩に慌てて大丈夫だと伝える。
「いやいや顔にかけられたりしなければ大丈夫ですよ。それ味気ないんじゃ……」
「いつもの癖で吸ってた」
まさかそんなことを男の人から言われる日が来るとは。女の子を喫煙方に近づけないようにとか配慮したことはあるけど、される側に行くとは思っても見なかった。なんだかムズムズしてきて大げさに大丈夫ですと伝えた。
「というかおれのこと待たなくても大丈夫ですよ?」
「自分の物はちゃんと管理するタイプなんで。だいたい、あいつらお前の友達持ったままだしな、ちょうど良いから会ってけよ」
なるほど、先輩超良い人だわ。そしてなんだかんだ顔が熱いほどにかっこよさにやられているおれ。腰抜けのおれを待ってくれるし。おれのためにタバコまで配慮して、さらにお仲間に紹介までしてくれるらしい。そりゃもう黙って管理されろおれ。というか、あのお二人に会うなんて今日はなんだか色々あるなぁ。
「つうか、全然起きねぇなこいつ」
「え、ああ」
本日2度目の忘却。
白目の金髪くん。ごめんね。
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