逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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黎明

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親彬が迎えに行くと、尊はきっちりと準備をして待っていた。女房の視線を一身に浴びていることには気付いていないだろう。もとどりを結い、どこからどう見ても男だけど、やはり幼い。出会ったあの時の姿がちらつき、目が離せない。

一番近い上東門から大内裏に入る。本来なら、十六歳はまだ官位はない。今回、特例として従五位上を叙され、昇殿を許される殿上人となった。でなければ、昨日の拝謁は許されなかっただろう。

(どんな高待遇だよ!俺より官位が上とか…信じらんねー)

土御門の宮邸ではあの不思議な着物で寝たのだろうか?
あんな無防備な姿を誰かに見られてはいやしないか?
積極的な女房に、誘われたりしていないだろうか?
ーーー不思議な感情に戸惑う親彬であった。

役所を囲む塀に沿って、南に進む。キョロキョロと挙動不審な尊を伴って陰陽寮へ行く。鐘楼のあるところが陰陽寮だ。門をくぐり入る。くつを脱ぎ、きざはしを上がる。簀子すのこを進み、角を曲がった先の御簾みすが上げられている部屋に入った。

そこには昨日も会った、陰陽頭おんようのかみが待っていた。仕方がない。尊に会わせたくないと思っても、上司だ。今回の仕事は親彬に任されたと云っても、一人で解決できるわけじゃない。実際、島田実視に会えたのはこの上司の人脈のお陰だ。親彬は〈氷の君〉の被害者が三条殿の家人だとは知っていたが、名前まで知らなかった。取り調べだと云えば会えたかもしれないが、もう少し時間がかかったかもしれない。

「安倍さま、賀茂尊殿をお連れいたしました」
「ああ、待っていたよ」
「昨日はありがとうございました」
「土御門の宮のところに移ったんだって?」
「あっ、はい」
「わたしの屋敷でも構わないのに」
「えっ?いや、遠慮…いえ、せっかく宮さまが来いと云ってくださったので、そちらにお世話になろうと思います。お心遣い、感謝いたします」

(おいおい!尊を狙ってるのか?それより、尊もなかなかに勘が働くようだな)

二人の会話を観察しながら、親彬は助け舟は必要ないかと胸をなでおろした。

「明日、太政大臣が会いたいと云っていた。よろしく頼む。ああ、昨日も今日も忙しいらしくてな」

今日はダメなのかと、聞く前に、素早く返事を返された。時々不気味に先読みされる。読心術でも使えるのかと身構えてしまう。しかし、天下の太政大臣相手に、この口調。元々の知り合いなのかもしれない。
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