34 / 89
黎明
14
しおりを挟む
親彬が迎えに行くと、尊はきっちりと準備をして待っていた。女房の視線を一身に浴びていることには気付いていないだろう。髻を結い、どこからどう見ても男だけど、やはり幼い。出会ったあの時の姿がちらつき、目が離せない。
一番近い上東門から大内裏に入る。本来なら、十六歳はまだ官位はない。今回、特例として従五位上を叙され、昇殿を許される殿上人となった。でなければ、昨日の拝謁は許されなかっただろう。
(どんな高待遇だよ!俺より官位が上とか…信じらんねー)
土御門の宮邸ではあの不思議な着物で寝たのだろうか?
あんな無防備な姿を誰かに見られてはいやしないか?
積極的な女房に、誘われたりしていないだろうか?
ーーー不思議な感情に戸惑う親彬であった。
役所を囲む塀に沿って、南に進む。キョロキョロと挙動不審な尊を伴って陰陽寮へ行く。鐘楼のあるところが陰陽寮だ。門をくぐり入る。沓を脱ぎ、階を上がる。簀子を進み、角を曲がった先の御簾が上げられている部屋に入った。
そこには昨日も会った、陰陽頭が待っていた。仕方がない。尊に会わせたくないと思っても、上司だ。今回の仕事は親彬に任されたと云っても、一人で解決できるわけじゃない。実際、島田実視に会えたのはこの上司の人脈のお陰だ。親彬は〈氷の君〉の被害者が三条殿の家人だとは知っていたが、名前まで知らなかった。取り調べだと云えば会えたかもしれないが、もう少し時間がかかったかもしれない。
「安倍さま、賀茂尊殿をお連れいたしました」
「ああ、待っていたよ」
「昨日はありがとうございました」
「土御門の宮のところに移ったんだって?」
「あっ、はい」
「わたしの屋敷でも構わないのに」
「えっ?いや、遠慮…いえ、せっかく宮さまが来いと云ってくださったので、そちらにお世話になろうと思います。お心遣い、感謝いたします」
(おいおい!尊を狙ってるのか?それより、尊もなかなかに勘が働くようだな)
二人の会話を観察しながら、親彬は助け舟は必要ないかと胸をなでおろした。
「明日、太政大臣が会いたいと云っていた。よろしく頼む。ああ、昨日も今日も忙しいらしくてな」
今日はダメなのかと、聞く前に、素早く返事を返された。時々不気味に先読みされる。読心術でも使えるのかと身構えてしまう。しかし、天下の太政大臣相手に、この口調。元々の知り合いなのかもしれない。
一番近い上東門から大内裏に入る。本来なら、十六歳はまだ官位はない。今回、特例として従五位上を叙され、昇殿を許される殿上人となった。でなければ、昨日の拝謁は許されなかっただろう。
(どんな高待遇だよ!俺より官位が上とか…信じらんねー)
土御門の宮邸ではあの不思議な着物で寝たのだろうか?
あんな無防備な姿を誰かに見られてはいやしないか?
積極的な女房に、誘われたりしていないだろうか?
ーーー不思議な感情に戸惑う親彬であった。
役所を囲む塀に沿って、南に進む。キョロキョロと挙動不審な尊を伴って陰陽寮へ行く。鐘楼のあるところが陰陽寮だ。門をくぐり入る。沓を脱ぎ、階を上がる。簀子を進み、角を曲がった先の御簾が上げられている部屋に入った。
そこには昨日も会った、陰陽頭が待っていた。仕方がない。尊に会わせたくないと思っても、上司だ。今回の仕事は親彬に任されたと云っても、一人で解決できるわけじゃない。実際、島田実視に会えたのはこの上司の人脈のお陰だ。親彬は〈氷の君〉の被害者が三条殿の家人だとは知っていたが、名前まで知らなかった。取り調べだと云えば会えたかもしれないが、もう少し時間がかかったかもしれない。
「安倍さま、賀茂尊殿をお連れいたしました」
「ああ、待っていたよ」
「昨日はありがとうございました」
「土御門の宮のところに移ったんだって?」
「あっ、はい」
「わたしの屋敷でも構わないのに」
「えっ?いや、遠慮…いえ、せっかく宮さまが来いと云ってくださったので、そちらにお世話になろうと思います。お心遣い、感謝いたします」
(おいおい!尊を狙ってるのか?それより、尊もなかなかに勘が働くようだな)
二人の会話を観察しながら、親彬は助け舟は必要ないかと胸をなでおろした。
「明日、太政大臣が会いたいと云っていた。よろしく頼む。ああ、昨日も今日も忙しいらしくてな」
今日はダメなのかと、聞く前に、素早く返事を返された。時々不気味に先読みされる。読心術でも使えるのかと身構えてしまう。しかし、天下の太政大臣相手に、この口調。元々の知り合いなのかもしれない。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ホントの気持ち
神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、
そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。
夕紀 空(ゆうき そら)
年齢:13歳(中2)
身長:154cm
好きな言葉:ありがとう
嫌いな言葉:お前なんて…いいのに
幼少期から父親から虐待を受けている。
神山 蒼介(かみやま そうすけ)
年齢:24歳
身長:176cm
職業:塾の講師(数学担当)
好きな言葉:努力は報われる
嫌いな言葉:諦め
城崎(きのさき)先生
年齢:25歳
身長:181cm
職業:中学の体育教師
名取 陽平(なとり ようへい)
年齢:26歳
身長:177cm
職業:医者
夕紀空の叔父
細谷 駿(ほそたに しゅん)
年齢:13歳(中2)
身長:162cm
空とは小学校からの友達
山名氏 颯(やまなし かける)
年齢:24歳
身長:178cm
職業:塾の講師 (国語担当)
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる