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黎明
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迫力ある読経が屋敷中に響く。
上皇は件の妖を殊更警戒されている。
こちらに着いた翌日、爺の屋敷に行く前に、尊がこの時代に来る原因となった怪異のことを聞いていた。
上皇は自分が襲われることを恐れているのか?そんな弱そうな人には見えない。いや、力ではなく心。さすが、国を治めていた人だと思わせるオーラに満ちている。一般人の尊では遠く及ばない。病気や老いが退位の原因ではないのか?
頭にクエスチョンマークを浮かべる尊に、極秘事項だと親彬が耳打ちした。上皇の奥さまは、実は男らしい。『俺もびっくりだよ』と云う表情は本当に驚愕したと物語っていた。
寝殿の孫庇に座を設けられ、更に恐縮する。庭にばかり目がいってしまい、興味津々であることがバレバレである。 現代に住んでいた頃の尊は、日本庭園が好きだった。仁に頼んで、いろんなお寺や有名な庭に連れて行ってもらった。
(これが本物か…凄い)
実は親彬の屋敷の庭は、趣はあるが小さかった。爺の屋敷は更に小さく、草がボウボウだった。
「お久しぶりです」
「ああ、本当に。最近は清涼殿に会いに来てくれなかったからね。いつでも来てくれと云っていたのに」
「よしてください。わたしは昇殿を許される官位ではないのです。何も知らなかった子どもの頃ならいざ知らず…」
「だから上げてやると云ったではないか?」
「いや、今のままで結構です。お心遣い感謝します」
「そんな他人行儀な」
親彬と上皇の不思議な会話は何を表すのか?尊は疑問に思いながらも、面差しが似ている二人を見守った。
「ところで、これから尊さまはどこに住まわれるのですか?」
「宮さま、その…そんな丁寧な言葉遣い、おやめください。名前も、敬称なんて付けないでください。お願いします」
「ああ、ごめんね。癖なんだ」
「住む所…」
サーっと血が抜けるような感覚。
(えっ?僕って宿無し?これから、どうすりゃ良いの?親の所…そりゃ、迷惑か…。ただ、迎えに来てくれただけなんだよね…。お爺ちゃんの所は…ちょっと寒いし…いや、そんな贅沢、云ってられない。お爺ちゃんにお願いしようかな…。相談しろって云ってくれたし…)
困惑の表情の尊に対して土御門の宮は笑顔である。
宮は尊の年齢を聞いて驚いていた。まさか、自分より三つも歳上だとは思いもしなかったのである。同じくらいか、もしくは一つか二つ下…そんなふうに見ていた。
「僕の屋敷においでよ。少し前に後宮から引っ越して、寂しいんだよね」
読経の音に追い立てられるように、二条堀川邸を退出した。
一度親彬の屋敷に寄ってもらい荷物を持って、宮の屋敷に向かう。牛車に乗るのも新鮮だ。親彬はそのまま今の部屋に居てくれてもいいと云ってくれたけど、きっと心細い尊を心配してくれたからだ。律儀な性格なのだろう。仕事熱心なのかもしれない。あそこに迎えに来てくれたのも仕事だしね。丁寧にお礼を云って、土御門大路の宮邸に送ってもらった。
「明日、迎えにくるから」
「うん、ありがとう。待ってる」
上皇は件の妖を殊更警戒されている。
こちらに着いた翌日、爺の屋敷に行く前に、尊がこの時代に来る原因となった怪異のことを聞いていた。
上皇は自分が襲われることを恐れているのか?そんな弱そうな人には見えない。いや、力ではなく心。さすが、国を治めていた人だと思わせるオーラに満ちている。一般人の尊では遠く及ばない。病気や老いが退位の原因ではないのか?
頭にクエスチョンマークを浮かべる尊に、極秘事項だと親彬が耳打ちした。上皇の奥さまは、実は男らしい。『俺もびっくりだよ』と云う表情は本当に驚愕したと物語っていた。
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実は親彬の屋敷の庭は、趣はあるが小さかった。爺の屋敷は更に小さく、草がボウボウだった。
「お久しぶりです」
「ああ、本当に。最近は清涼殿に会いに来てくれなかったからね。いつでも来てくれと云っていたのに」
「よしてください。わたしは昇殿を許される官位ではないのです。何も知らなかった子どもの頃ならいざ知らず…」
「だから上げてやると云ったではないか?」
「いや、今のままで結構です。お心遣い感謝します」
「そんな他人行儀な」
親彬と上皇の不思議な会話は何を表すのか?尊は疑問に思いながらも、面差しが似ている二人を見守った。
「ところで、これから尊さまはどこに住まわれるのですか?」
「宮さま、その…そんな丁寧な言葉遣い、おやめください。名前も、敬称なんて付けないでください。お願いします」
「ああ、ごめんね。癖なんだ」
「住む所…」
サーっと血が抜けるような感覚。
(えっ?僕って宿無し?これから、どうすりゃ良いの?親の所…そりゃ、迷惑か…。ただ、迎えに来てくれただけなんだよね…。お爺ちゃんの所は…ちょっと寒いし…いや、そんな贅沢、云ってられない。お爺ちゃんにお願いしようかな…。相談しろって云ってくれたし…)
困惑の表情の尊に対して土御門の宮は笑顔である。
宮は尊の年齢を聞いて驚いていた。まさか、自分より三つも歳上だとは思いもしなかったのである。同じくらいか、もしくは一つか二つ下…そんなふうに見ていた。
「僕の屋敷においでよ。少し前に後宮から引っ越して、寂しいんだよね」
読経の音に追い立てられるように、二条堀川邸を退出した。
一度親彬の屋敷に寄ってもらい荷物を持って、宮の屋敷に向かう。牛車に乗るのも新鮮だ。親彬はそのまま今の部屋に居てくれてもいいと云ってくれたけど、きっと心細い尊を心配してくれたからだ。律儀な性格なのだろう。仕事熱心なのかもしれない。あそこに迎えに来てくれたのも仕事だしね。丁寧にお礼を云って、土御門大路の宮邸に送ってもらった。
「明日、迎えにくるから」
「うん、ありがとう。待ってる」
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