龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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説得

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「スー、あのね、もっと良く考えて?

本当にショウで良いの? 貴方だったらもっと良い人が…」

1階への階段を下りながらマグノリアが尋ねた。

スーはちょっとプ~ッとしたようなほっぺをすると、

「お姉さん、私はショウが良いんです! 彼はと~っても素敵です!

キリッとしたキレの良い黒い瞳にサラサラの真っ黒な髪……

私に無いものばかりで、私…、ドキドキしちゃいます~」

マグノリアにはスーの目がハートの形に見えた。

マグノリアは苦笑いをすると、

「フフフ、そう言われると、二人って凄くお似合いよね……ハ…ハ…ハ~」

そう言うと、頭を垂れた。

“余計なこと聞いたわ~

ハ~ エルフにも色々いるのね~ 人間と変わらないじゃ無い!

もしかしたらこの二人って性格的にお似合いかも知れない……“

マグノリアは段々とそんな気がして来た。

スーはマグノリアの袖を摘むと、

「ねえ、お姉さん達っていつまで此処にいるの?」

スーが急に思い出したようにして尋ねた。

マグノリアは指で口をトントントンとすると、

“フ~ム”

と唸って、

「そうなのよね~ 最初は数日って思ってたけど、
赤ちゃん産まれるまで此処にいようかな?って思って…」

そう言うと、スーは顔をパーッと明るくして、

「お姉さん、赤ちゃんがお腹にいるの?!」

興奮したようにしてそう尋ねた。

「そうよ、私も分かったばかりなの。

これじゃ旅を続けるのは難しいからね~

だから此処で産もうかなって思って」

「そうなんだ! じゃあ、それまで此処に泊まるの?!

ねえ、ねえ、是非そうしてよ!」

スーが余りにも真剣に尋ねるから、

「じぇあ、お願いしても良いかしら?」

マグノリアはそう言って微笑んだ。

「うん! あ~ う~ん……

でもお姉さんとお兄さんの家族はそばにいなくて良いの?」

スーが心配そうに尋ねた。

マグノリアはニカっと笑うと、

「良いの、私達には家族はいないの!」

そう言うと、俯いて少し沈んだスーの顔を覗き込んだ。

「そうなんだ……じゃあ、私がお姉さんとお兄さんの家族になってあげる!

私は赤ちゃんのお姉さんだね!」

スーが大喜びでそう言うと、

「ねえ、お腹に触っても良い?」

と尋ねた。

「良いわよ~」

マグノリアが快くそう言うと、スーはお腹に顔を近付けて、

「スーお姉さんですよ~

赤ちゃん、宜しくね!」

そう言ってお腹を撫でた。

「ウフフ、赤ちゃんいつ産まれるの?!」

「そうね、お医者様は来年の5月ごろって仰ったわ」

「そうなんだ! じゃあ、まだまだだね。

早く赤ちゃんに会いたいね~」

そう言ってはしゃぐスーを見ながら、

「そう言えばショウは?」

そう尋ねると、

「ショウはね、大きな花束渡して結婚して下さいって一言言ったら逃げる様に帰っちゃった」

そう言うスーに、

”何なのあのヘタレ!

何のためにあんな早朝から叩き起こしに来たの?!“

そんな話をしながら階段を下り切ると、ルビーがスーを探してロビーをウロウロとしていた。

「あ、お母さん!」

スーが声を掛けると、ルビーは一緒に階段を下りて来たマグノリアに気付いて会釈した。

「おはようございます。

昨夜はお世話になりました」

マグノリアがそう言うと、

「え? 昨夜何かあったの?」

直ぐ様スーが尋ねた。

「うん、ちょっと聞きたいことがあってあ母さんにお世話になったのよ」

そうマグノリアが言うと、

「そうんなだ! あ、お姉さん今日の朝食はね!」

スーがそう言ってマグノリアの手を引いた。

でもスーはルビーに直ぐに呼び止められた。

「スー! ちょっと話があるんだけど!」

ルビーがそう言うと、スーはマグノリアの顔を見上げた。

「お母さんと話してらっしゃい。私は先に食堂に行ってるわね」

マグノリアはそう言うと、食堂に向かって歩き出した。

すると直ぐにスーとルビーの言い合いがロビーの方から聞こえて来た。

何事かとマグノリアが振り向くと、
スーがバンとドアを開けて宿から飛び出ていく所だった。

マグノリアは慌ててロビーへ戻ると、

「どうしたんですか?!」

と、戸惑うルビーに声をかけた。

「あ……いえ……」

ルビーが少し言い淀むと、

「もしかして……ショウですか?」

マグノリアがピンと来て尋ねた。

「もしかしてもうご存知でしたか?」

ルビーはそう尋ねると、

「ええ、少しスーから聞きました。

あの……追いかけなくても良いんですか?」

マグノリアが心配そうに尋ねると、

「大丈夫ですよ。

いくら魔力が封印してあると言っても
あの子はエルフの姫です。

それもあの子の母方はエルフの戦士の家系なのです。

魔力もかなりなのですが、身体能力も秀でています。

そこらの者は姫には何もできないでしょう……

かえって返り討ちに会ってしまいます」

そのセリフにマグノリアは

”ヒ~ スーを怒らせたらダメだな”

など思っていた。

ルビーは食堂を指さすと、

「朝食ですよね? アーウィンさんは一緒ではないのですか?」

そう尋ねた。

「あ、もう来るとは思うのですが……」

そう言うのと同時にアーウィンが2階から下りて来た。

「あれ? お二人ともどうしたの?」

アーウィンがニコニコとして来ると、マグノリアはアーウィンを見て、

「そうね、取り敢えずは朝食をとりましょう」

そう言ってマグノリアがアーウィンの腕に絡んだ。

「それでは私もご一緒させても宜しいでしょうか?」

ルビーが尋ねると、マグノリアもアーウィンも快く承諾した。

ルビーは蜂蜜のたっぷりとかかったフルーツのサラダとハムとエッグ、トーストを持って来ると、

「今朝はマグノリアさん達で最後になりますので」

そう言ってお皿をテーブルの上に置いた。

「有難う、

うわ~ 美味しそう!」

マグノリアはそう言ってお礼を言うと、

「いただきます」

と手を合わせてフルーツから手をつけ始めた。

「あ~ このオレンジ美味しい~

イチゴもちょっと酸味があって蜂蜜と合うわね~」

そう言ってフルーツをペロリと食べてしまった。

「そう言えば、マグノリアさんは妊娠してらっしゃるのでしたよね?

予定日はいつですか?」

「お医者様は5月だと……」

「それではもう少しありますね」

「ええ、もう今から楽しみで!」

「そうでしょうねえ、精霊達が男の子って言ってましたよね?

将来が楽しみですね」

ルビーがそう言うと、

「え? アレって本当に赤ちゃんが男の子って意味だったんですか?!」

とマグノリアはびっくりして尋ねた。

「フフフ、そうですよ。

精霊達はきっとお腹の中に入って赤ちゃんを実際に見て来たんでしょうね」

「精霊ってそんなこともできるのですね」

そう言ってマグノリアはお腹を優しくさすった。

「ええ、でもあそこで精霊が産まれたのは驚きました。

案外この宿も捨てた物ではありませんね」

そう言ってルビーが微笑んだ。

「精霊ってこの世界では生まれないんですか?」

マグノリアが不思議そうに尋ねると、

「ええ、精霊は普通エルフの里、
もしくは地の護り神の世界でしか生れる事はありません。

王には理由が分かってらしたようですけど、
私にはさっぱりわかりません」

ルビーの不思議そうにする顔にマグノリアも、

「う~ん、それは不思議ですね」

と相槌を打った。

「あの……つかぬ事をお伺いしますが、
エルフって人と夫婦になる事って出来るのでしょうか?」

マグノリアがフッと思い出したようにして尋ねると、

「スーの事ですよね?」

ルビーが尋ねた。

マグノリアが頷くと、

「答えは……出来ます…エルフも人と夫婦になる事は出来るのですが、
人と夫婦となったエルフは里へ帰ることができません。

それに……生きる時間が違いすぎるので……
伴侶に先立たれると言うのは……」

ルビーのもっともな答えにマグノリアはうんうん、と頷きながら聞いていた。

「先程人と結婚したエルフは里に帰れないって仰いましたが、
それは人と結婚したエルフは里から追放されると言う意味ですか?」

そう尋ねると、ルビーは首を振った。

「そうではありません。

帰れるには帰れるのですが、伴侶が里に入れない者であれば、
殆どのエルフは里へ帰って来ません…

それに産まれる子供も半分は人なので里へ来ることはできません……

だから……どんどん里への入り口を見失ってしまうのです……」

そうルビーに言われ、

“あ、子供はちゃんと作れるんだ”

マグノリアはふとそう思った。

「あの…スーとショウを反対するのは里に帰れなくなる事が理由ですか?」

マグノリアが尋ねると、

「何、何? もうスーとショウのこと話しちゃったの?」

アーウィンが横から尋ねると、

「いえ、話したと言うか、ロビーのデスクに大きな薔薇の花束が置いてあったから
スーに何気なくどうしたの?って尋ねたら今朝起こった事を話してくれて……」

ルビーのその答えに、

“あ~ あの花束ね。 ロビーに置いたままって……2本当にツメの甘い子達ね!”

マグノリアがそう呟いて舌打ちした。

するとルビーが急に

「私は姫を任されている立場ですのに、
何と王に言ったら良いのか…」

そう言って困惑するルビーに、

「そんなの、正直に言っちゃえば良いじゃない!」

そうマグノリアが言い切った。

ルビーが

”え?“

っとしたような顔でマグノリアを見ると、

「人の気持ちなんて他人と言うか、
他の人がどうこう言ってもどうにか出来るわけじゃないし、
さっきスーと話した感じから言うと、
結構スーもショウに気があるみたいだし……

もう手遅れかも……

そう言うと結構展開は早かったけど、
燃え上がってる時って何言っても聞かないしね~

恋は盲目よ? 多分これってスーの初恋なんじゃ無いの?

まあ、年上ってカッコよく見えちゃうしね~
(私は絶対あんなのイヤだけど!)

それもあんな花束持って現れちゃね~

スーみたいに免疫無いのは落ちちゃうわよ!

それに下手に刺激すると駆け落ちとかしちゃうかもよ?」

そう言ってマグノリアはアーウィンを見て微笑んだ。

ルビーはガクッとすると、

「そうですね…… 王にそのまま話してみますね。

でもどんなお咎めがくるか……」

しょぼんとして答えると、

「じゃあ、私が王に直接言いましょうか?

二人を出会わせたのは私達みたいな物だし……

それに人の世界にスーを落としたのは王様でしょう?

こう言うことが起きる覚悟くらいはしてるんじゃない?

スーって自分がエルフって自覚ないんだし……

基本的には自分の事、人間だって思ってるんでしょう?

人間的にはそろそろ結婚する年頃だし……

頭ごなしに反対できないでしょ?

そうで無いと、スーに本当の事を教えてあげないと、
フェアじゃなく無い?」

マグノリアがそう言うと、

「そうですね、私、直ぐに王様に連絡してみます」

ルビーは納得した様にそう言うと、昨夜の様に目を閉じて王と交信し始めた。

マグノリアとアーウィンが朝食を進めながらその光景を見守っていると、
暫くしてルビーが気抜けした様にして瞳を開けた。

「で? 王様は何と仰ったの?」

マグノリアが飛びついた様に尋ねると、
ルビーは戸惑った様にして、

「王はマグノリアさんの意見に賛成の様です……」

そう言って呆けていた。

「え? 賛成ってどの部分が?」

「あの……姫は人と結婚しても良いのでは無いかと……」

「え? 嘘! 私、王様はてっきり反対すると思ってたわ!」

マグノリアがビックリしてそう言うと、

「マグノリア~ 自分で王様に言えって言ってその驚きは何?」

アーウィンが揶揄ったように言った。

「いや、でもちょっと待って! 何で王様は人と結婚しても良いって言ってるの?!

一人娘なんでしょう?!

スーがエルフの里に帰ってこれなくてもいいの?!

あんな変態じみた龍オタクに嫁がせても良いって言うの?!
(しつこい様だけど、私は絶対イヤ!)」

マグノリアがそう言うと、アーウィンがマグノリアの脇腹を突いた。

「あ、御免なさい、失言だったわ。

まあ、ショウは変な人ではあるけど、
あの……一応東大陸のと言うか、東の大陸知ってますか?

とうの昔に海の底に沈んだんですけど、
ショウはですね、その東の大陸が栄えていた時の皇族の子孫であって、
身分的には釣り合うんでは無いかと…。
あ、でも人とエルフでは雲泥の差でしたね、ハハハ~」

と、マグノリアも信じられないようで、自分で何を言っているのか分からなくなって来た。

「マグノリア、落ち着いて!」

アーウィンのその声に、マグノリアが黙り込んだ。

「王様はいったいどのように仰ったのですか?」

アーウィンが落ち着きの無くなったマグノリアの代わりに話し始めた。

「王が言うには、姫はこのまま人として魔力に頼らず人に紛れて生きた方が良いと仰って……

王がそう言うのには理由がある様でした。

でも何故なのかは分かりませんが理由までは教えて下さいませんでした……」

ルビーは戸惑った様にしてそう言った。

「何だか拍子抜けね。

私はてっきり反対されると思ってたけど、
王様は半分覚悟はしてたのかな?

でも王様、ショウがどんなヤツか知ってるのかな?!」

「う~ん、それは分からないけど、
でも王様にも何か考えがあるんだろうね」

アーウィンが眉間に皺を寄せてそう言うと、

「えー、と言うことは、あの二人、結婚するんだよね?!

本当に展開早く無い? え? 先ずはお付き合いからでしょ?

え? 本当に? え? 結婚するの?!

王様本当にそれで良いの?!

だったら、早くスーに教えてあげないと!

どこ? スーが行きそうな場所ってどこですか?!

わたし、スーをみつけに行って来ます!」

そう言って慌ててマグノリアが立ち上がると、

「大丈夫ですよ、スーだったらさっきからそこに……」

そう言ってルビーが指差した宿の入り口のドアを開けると、
ドアの外にはスーがソワソワとしながら中に入ろうか迷っていた。

いきなり開いたドアにスーが驚いていると、

「スー! 聞いて!

ルビーがね、貴方とショウの事許してくれるって!」

マグノリアがそう言ってスーに抱きつくと、

「お母さん……本当に良いの?」

そう言ってスーが泣き出した。

それを見たマグノリアは、

“ひゃー 本当にショウの事好きなんだ! 何故?!”

と今更ながら再び心から不思議に思った。
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