龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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早朝

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次の朝、マグノリアは朝早いドアのノックの音で目覚めた。

“え? もう朝?”

マグノリアはうーんと唸って外を見ると、
丁度朝日が出て来たばかりの頃だった。

昨夜遅かったので未だ眠い目を擦り、擦りアーウィンを見ると、
アーウィンは未だスヤスヤと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。

マグノリアはアーウィンを揺り起こすと、

「アーウィン、アーウィンってば!

起きてよ。 誰かドアのところに来てるよ?

貴方出てよ」

そう言ってマグノリアに起こされたアーウィンは
まだ開かない目を半開きのままフラフラとドアのところまで行くと、

「フア~ どちら様~?」

と欠伸をしながら寝ぼけた様な声でガチャリとドアを開けた。

ドアのところに立って居た男は開口一番に、

「誰がドアの所に居るのか確かめもせず開けるのは非常に危険ですね」

そう言いながら、アーウィンを横に押しやると、
アーウィンが中へ通す前からスタスタと勝手に部屋の中へと入って来た。

一部始終をベッドの上でデューデューと戯れながら呆気に取られ見ていたマグノリアは、

「ショウ?!」

と素っ頓狂な声を出した。

「貴方こんな朝早くからちょっと非常識よ!

一体何をしに来たの?!」

そう言って怒るマグノリアに、

「聞いて下さいよ~ 私はそれどころでは無いんです!」

泣き言の様にそう言うと、スススっとマグノリアに近づいた。

「その花束は何?」

大きな花束を持つショウにマグノリアが尋ねた。

「これはですね、あの、こ…これは……ス…スーにですね……」

そう言って急にショウがどもり出した。

「スー?! もしかしてそれ、スーに持って来たの?!

まあ、呆れた! 昨日の今日でもうアプローチ?

貴方、気が早いわね」

マグノリアが呆れた様に言うと、

「だって、あんなに可愛いんですよ? 

早くしないと誰かに取られてしまいます!」

真面目顔でそうキッパリと言い放つショウに、

「誰かに取られるって…

もうお相手がいたらどうするの?!」

マグノリアが呆れた様に尋ねると、

「そうなんですよね~ ちょっと聞いてくださいよ~!」

そう言ってマグノリアの横に座り込んだ。

ショウはマグノリアに甘えた様にして膝の上に寝転がっているデューデューに目を落とすと、

「あ、デューデュー様、おはよう御座います。

今朝のご機嫌は如何で御座いますか?」

そう言ってデューデューには丁寧に挨拶した。

デューデューはショウをチラッと見ると、

“プッ”

と鼻で笑った様な顔を一瞬して真顔に戻った。

マグノリアが、

“ね、おかしいでしょ?

この人家柄もスキルも申し分無いのに本人はちょっと残念よね”

そうデューデューに囁くと、

「マグノリアさん、私、昨夜一睡もしてないんです!

もしスーさんにお付き合いしている方がいらっしゃったらと思うと、
変な胸の痛みが……

なので、今朝は1番にマーケットへ行ってこの花束を買って来ました。

どうです? 綺麗でしょう?」

ショウは両手に抱えた薔薇の花をマグノリアに見せた。

マグノリアは

“ほんと、昨夜起きた事も知らずに呑気ね……

この人、自分がアプローチしようとしてるのはエルフの姫だって、
これっぽっちも思ってないんでしょうね”

そう思うと頭を抱えた。

“一体どうやって諦めさせたら……”

その事が頭の中をグルグルとしていた。

そしてフッと思ってデューデューに、

“ねえ、ショウってスー達にかけられてる魔法を見破る事って出来てないわよね?”

そう耳打ちした。

”それは無理だろうな。

エルフの王が自ら魔法をかけてるんだぞ。

人に見破れるわけがない“

デューデューがそう返すと、

“そうよね、 う~ん、やっぱり彼女がエルフってことは知らないってことね…”

マグノリアが呟くと、

「マグノリアさん、どうしましたか?

何か問題でも?」

ショウがそう尋ねると、マグノリアは大きくため息を吐いて、

「ねえ、あなた、自分で無謀な事してるって思わないの?」

マグノリアがそう尋ねるとショウは

”何がですか?“

と言う様にキョトンとした顔をした。

「貴方さ、スーには昨日会ったばかりでしょう?

殆ど話してもいないのに、スーとどうにかなるとでも思ってるの?

スーの事なんて、全然と言っても良いくらいに何も知らないでしょう?!

もし彼女が強盗団だったらどうするの?

暗殺者だったらどうするの?!」

マグノリアが突っ込んで尋ねると、

「まさか~ ナナみたいに可憐な女の子がそんな危険なわけないじゃありませんか!

あの綺麗なピンクの髪を見たでしょう?! ピンクの髪をした子に悪い子はいません!

それに昨夜だって優しく僕に話しかけてくれたし……声まで可愛いですよね」

ショウは割と真面目な顔をして言った。

“えっ?! あれは話したとは言わないでしょう?!

一体この男の頭の中はどうなってるの?!”

そう思うと、

「じゃ、じゃあ、彼女がどこかのプリンセスで此処にはお忍びで来てるってだったらどうするの?!」

と聞いてみた。

“うん、うん、ちょっと足りない部分はあるけど、
嘘ではないわよね?”

そう思っていると、

「では私はどこかの島を買って私の王国を作りましょう。

基本私には東の大陸の皇族の血が流れていますし!」

と、とんでもない事を言い出した。

マグノリアはもうショウを諦めさるのは諦めて、

「まあ、やるだけやって見たら?」

どうせ断られると思ってそう答えた。

マグノリアにそう勧めてもらうと、ショウも少し勇気が出た。

首の蝶ネクタイをキュッと締め上げマグノリアに敬礼をすると、

「では行って参ります。

健闘をお祈りください!」

そう言うと、スタスタと部屋を出て行った。

マグノリアはバタンと閉められたドアを見つめると、

「ちょっと、あの人何しに来たの?!

言いたいことだけ言って去っていくなんて、
開いた口が塞がらないわ!

それもスーにアプローチって一体何考えてるのかしら?

彼女、見た目はどう見ても10歳くらいよね?

何? アイツ、幼女趣味?!

あー頭痛い。 私、二度寝するわ。

朝食に行く時また起こして」

マグノリはアーウィンにそう言うと、またデューデューに抱きついて目を閉じた。

マグノリアが目を閉じて5分もすると又ドアをノックする音がした。

「もう!! 又ショウ?! 今度は振られたって泣き付きに来たの?!

アーウィン、お相手お願い!」

そう言うと、又目を閉じた。

アーウィンは、

「は~」

っとため息をつくと、

「ショウ、あのさ……」

そう言いながらドアを開けると、
そこに立っていたのは真っ赤になったスーだった。

「ス……、スー?!」

アーウィンがビックリして驚いた声を出すと、
マグノリアもつられて飛び起きた。

「え?! スーなの?!」

マグノリアがドアの方を首を伸ばして覗き込むと、
顔を真っ赤にしたスーが、

「お姉さん!」

そう言って駆け込んできた。

「スー?! どうしたの?!」

ショウが尋ねにきた事を知っていたけど、
取り敢えずは聞いてみた。

「お姉さんどうしよう!

昨夜お姉さん達を送って来たショウって人が
お嫁さんになって下さいって薔薇の花持って来たの!!」

スーのその言葉にマグノリアは、

”そっちかよ~ 先ずはお知り合いからだろ~“

そう思ってベッドの上に転がった。

「お姉さん、どうしよう?!」

マグノリアは頭を抱えたながら、

「いや、どうしようじゃなくてスーはどうしたいの?」

そう尋ねてベッドの横に立つスーを見上げた。

“は~全くこの子がエルフの姫だって信じられないわ~

人と恋愛って出来るのかしら?

取り敢えずショウは東の大陸の王族だし…身分的には…

いや、待て、待て、一応姫ということは婚約者がいてもおかしくないわよね?

エルフも政略結婚ってあるのかしら?

それとも恋愛結婚?!

王様と王妃ってどうやって出会ったのかしら?!”

そんな事が頭をグルグルと回った後で、

“ちょっと待てよ? エルフの寿命って半永久的だったわよね?!

だったら寿命的にショウなんて圏外じゃない!!

ハ~ 頭痛いわ…… 全くショウにしろ、スーにしろ、ここは駆け込み寺かって?!”

そうゴチャゴチャと考えていると、

「私、実は彼に一目惚れしちゃって……

昨夜カッコいい人だなって……」

スーの言葉を聞いてマグノリアはクラっと来て、更に頭が痛くなった。

ショウのどこにカッコイイの要素があるのか全然理解できなかった。

性格なんて残念すぎて言葉も出ないほどだ。

見てくれも、いつも龍を追ってるせいか、キリッとした様な感じではない。

どっちかと言うと19歳の割にはくたびれた中年の様だ。

マグノリアも昨日はそれでビックリしたばかりだ。

まさかスーがショウの本当の歳を知っっているとは思えなかった。

“もしかしてこっちはオッサン趣味?!”

再度クラっと来た所で、

「ちょっと待って! スーあなた、今幾つなの?!」

実年齢はマグノリア達よりも上だと聞いていたけど、
成長の遅いエルフの身体年齢なんて分からない。

見た感じでは10歳くらいだ。

「私、ちょっと小さいけど12歳なの」

そう言うスーに、

「え? じゃあ来年成人?!」

とビックリして尋ねると、

「そうよ、見えないわよね」

と恥ずかしそうに言うスーを見ながら、

”ジェイドと同じ歳か……

婚約するには遅くはないわよね?

でもそれってエルフ的にはどうなのかしら?

エルフも13歳が成人?

それに確かスーって王様に記憶消されて魔力を封印されてるのよね?

自分の事人間だと思ってるのかしら?

この事があの王様に知れたら一体ショウはどうなるんだろう?!“

「そうだ、この事に貴方のお母さんのルビーはどう思ってるの?」

マグノリアがそう尋ねると、

「お母さんはまだ知らないの……

ショウがやって来た時、お母さんは食堂で忙しくしてたし、
私はショウをロビーで対応したから……

ねえ、お姉さん、どうしよう? 

お母さんにどう言ったら許してもらえるかな?!

お兄さんとお姉さんはどうだったの?

どうやってお父さんとお母さんに許可をもらったの?!

ぜひ参考にしたいの!」

そう言って横で目をキラキラと輝かせるスーに、
デューデューは

「ブブッ」

とこらえていた笑いが込み上げた。

デューデューの声にビックリしたスーがキョロキョロとして、

「え? 今のは誰の声?

ベッドの上から聞こえて来た様だけど……」

そう言うと、

アーウィンが慌てて、

「ち……違うよ! 今のは僕だよ!

ごめん、ごめん、ちょっと思い出し笑いしちゃって」

慌てて繕おうとすると、
又デューデューが

「ブッ」

と吹き出した。

すーは眉間に皺を寄せてアーウィンを見た。

アーウィンはあたまを掻きながら、

「ご……ごめん……ちょっとお腹の調子が……
少しだけベッドに転がらせて……」

そう言うと、デューデューが寝転んでいそうなところ目掛けて飛び乗った。

上手い具合にデューデューに飛び乗ったアーウィンは、

”デューデュー! 後でお仕置きだからね“

口を閉じたまま怒り声でデューデューにそう言うと、
スーを見て、

「へへへ、ごめんね。

マグノリアとゆっくり話したかったら、
食堂へ行ったらどうかな?

丁度朝食を頂きに行くところだったし、
ね、マグノリア、そうでしょう?」

そう言うと、スーは目をウルウルとさせて、

「そうね、お姉さん、食堂へ行こうよ!

お願い~ お母さんに言うの手伝って!

お姉さんがいたらきっとお母さんも聞いてくれるよ!」

そう言うと、マグノリアの手を取って食堂へと引っ張って行った。

マグノリアはアーウィンの方を見ると、

”あ~ 全く、頭痛いわ!!“

そう言ったジェスチャーをすると、
スーに手を引かれたまま、食堂へと下りて行った。




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