龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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ショウとスー

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「スー、考え直すなら今のうちよ?」

マグノリアはそう何度尋ねた事だろう。

でもマグノリアのその提案はことごとく却下された。

「スー、逃げるなら今よ?

逃げたかったら手助けするわよ?!」

そう迫るマグノリアに、

「お姉さん、私、幸せになります!」

そう言ってスーは大手を振って宿を出た。

「とうとうこの日が来たのね!」

マグノリアは朝からソワソワとして居た。

そう、今日はスーとショウの結婚式。

エルフの王がスーとショウを認めてから5ヶ月後、
スーが人年齢の13歳になるのを待ってから、
何と、二人は本当に結婚した。

「信じられない……」

マグノリアは未だ信じられない様で、
事あるごとに自分の頬を抓ってそれが夢でない事を確認した。

「マグノリア、準備しないの?

早く出ないと、お式に間に合わないよ!」

アーウィンが横で蝶ネクタイを嵌めながらマグノリアにボヤいた。

「だって、私のス~が~!!

何でショウなの?

顔? 違うわよね?

爵位? ううん、スーだって本人忘れてても、取り敢えずは王族…… だから違うわよね?

金? 金か~? ううん、お金には困ってそうになわよね?

一体ショウのどこにあんな可愛いスーを惚れさせる要素が……!!」

マグノリアは最後の最後までギャーギャーと騒いでいた。

「マグノリア! 今着替えなかったらもう置いて行くよ!」

アーウィンに怒られ、マグノリアはやっと重い腰を上げた。

「あっ……!」

顔を歪めてお腹に手を置くと、

「赤ちゃんが蹴ってる~

今朝から凄く強く蹴ってるの~

きっとこの子も反対なのよ~」

そう言いながらドレスに着替えた。

「お腹大きくなったよね」

マグノリアを待つ間アーウィンはマグノリアのお腹を眺めて居た。

「どっちに似るんだろうね?」

アーウィンがそう尋ねると、

「私、アーウィンによく似た赤毛の男の子がいいわ。

きっと、とっても可愛いわよ」

マグノリアがそう言うと、

「マグノリアに似たらきっと逞しい子になるだろうね!」

そう言ってアーウィンが笑った。

「早く会いたいわよね~」

そんな事を話しているうちにマグノリアの準備が出来た。

「それでは行きましょうか?」

アーウィンが腕を差し出すと、マグノリアはその腕をしっかりと掴んだ。

式が行われる教会までは歩いてすぐだ。

「凄いわね、結構人が来てるわね」

マグノリアがそう言いながら教会の階段を登ると、
登り切ったドアのところに長身のスラッとした紳士が入り口を塞ぐ様に立って居た。

「あの……入らないのですか?」

マグノリアが声をかけると、その紳士はマグノリアの方を向いた。

マグノリアはすぐにその人に気付いて、

「あ、貴方は!」

何とエルフの王が姿を変え、そこに立って居たのだ。

「王……」

と言いかけた所でレイクスが

“シーッ”

と口に人差し指を当てた。

マグノリアは両手で口を抑えると、
コクコクと頷いた。

今日はルビーの遠い親戚として結婚式に参加した様だ。

「もうスーには会ったのですか?」

マグノリアが尋ねると、

「いや……未だだが……もう始まるみたいだね」

レイクスはそう言うと、
マグノリア達と共に席に着いた。

オルガンの音と共にスーとショウがアイルを歩いて来た。

「スー、綺麗……」

マグノリアがそう言ってレイクスの顔を見た。

「まさかこんなに早く嫁ぐとは思わなかった……」

そう言ったレイクスに顔はしっかりと父親の顔になって居た。

式が終わり皆がスーとショウに挨拶に行く間マグノリアはレイクスに、

「レイクス様は何故この結婚に賛成だったのですか?

二人は出会ってから結婚まで凄く期間が短かったし、
それにショウは人だし……」

そう尋ねると、レイクスはスーとショウを見て、

「あの二人は結ばれなければいけない理由があったのだ。

運命がそう定めた……」

そう言って微笑むと、

「其方の方は体の調子はどうだ?」

そう尋ねた。

マグノリアは既にふっくらとしたお腹に目をやると、

「凄く重くなってきたんですけど、体調はすこぶる元気です!

赤ちゃんも毎日ポコポコ元気よく蹴りまくってます!

あと2ヶ月なんですよ」

そう言って微笑むと、

「以前よりも赤子の光が輝き増している。

きっと健康な子が産まれるだろう」

そう言ってスーとショウの方を見つめた。

「そしてあの子達にも光が近付いている……」

そう言って又マグノリアの方を見た。

マグノリアは

“ん?”

と言う様な顔をすると、

「え? もしかしてスーって既に……?!」

そう言うとレイクスは何も言わずマグノリアに微笑んだ。

“え~ あの子達、もうやっちゃってるの?!

一体何時?!

確かスーって何時も忙しそうにして
ショウはショウでデューデューを追いかけ回してたわよね?

カーッ! あの形でやる事はやってたのね!

奥手に見えたのに欲望には勝てなかったと言うことか~”

などとマグノリアは思っていた。

“あ、でも…… そうなると、スーってもう里には……”

そう思うと、マグノリアは悲しそうな顔をしてレイクスを見た。

「その様な顔をするで無い。

恐らくルビーから聞いたのだろうが、
私はこの選択に後悔はしていない。

むしろ、この選択は必然だったのだ……

今となってはその確信がある……」

レイクスがそう言うと、

「レイクス様には何か未来が見えたのですか?」

マグノリアが真剣な顔をして尋ねた。

レイクスはマグノリアを見つめると、

「其方らの子たちはきっと……」

そう言うと、スーとショウを見て、

「人が引けて来たな。 もう皆披露宴へと移動を始めたのだろう。
さあ、私達も祝福を授けに行こう」

そう言って席を立った。

レイクスの煮え切らない返答にマグノリアは苦虫を噛み潰した様な感覚がしたけど、
レイクスに続いて二人の元へと行った。

「二人共、いいお式だったよ!

でも、僕達の子が結婚するときは僕には耐えられないかもしれない!」

そう言ってアーウィンはマグノリアの顔を見た。

マグノリアはフフフっと笑うと、

「本当に良いお式だったわ。

何だかショウにスーを取られちゃった見たい……

私の妹なのに!って感じ!」

そう言うとマグノリアは少し滲んだ涙を拭った。

実際にスーとショウがくっ付いてからは、
二人は常時アーウィンとマグノリアの所に詰めかけていた。

その度に、色々と相談したりしてワイワイとしていた。

短い期間しか一緒に居てないけど、
既に彼等とは家族の様な付き合いをしていた。

良くジェイドやダリルの事を思い出しては二人を彼らと重ね合わせていたけど、
今ではジェイドやダリルとは違った形の関係を楽しんでいる。

ショウの龍オタクや変態じみた性格もちゃんとスーにもバレて、
それでもスーはショウを選んだ。

そんなショウを選んだスーだから、デューデューもスーの前に姿を現した。

スーは未だショウの領地に居る龍達には会った事は無かったけど、
結婚した後は帝国への移住が決まって居た。

ルビーも一緒に移住する様で、
マグノリアとアーウィンは赤ちゃんが産まれて落ち着くまでは、
ショウが今住んでいる森の中の家を借りる事になった。


「スー、すごく綺麗よ。

幸せになるのよ?

貴族の生活は大変かもしれないけど、
スーだったら大丈夫よ」

そう言って祝福するマグノリアに、

「なあに、家の者達は身分で差別する者は一人もいません!

皆、スーが来るのを心待ちにして居ますよ!」

ショウがドヤ顔でそう言い張った。

スーはエルフの王族だが、ショウにはそれを話して居ない。

だからスーは現時点で平民の子となっている。

何時までも成長しないスーに何時かは何かが違う事に気付くだろうけど、
王様も今の時点では何も言うつもりは無かった。

“子供にエルフの耳って出るのかしら?”

マグノリアはショウと話しながらそんな事を考えて居た。

「では私達も披露宴会場に移りましょう。

もう大方の人が向こうへ移動した様です」

ショウの誘いに、

「ちょっと待って!」

そう言ってマグノリアが止めた。

教会に残されたレイクスには我が子との別れが迫っていた。

「スーは未だレイクス様とお話しして居ないでしょう?」

マグノリアがそう言うと、ルビーが

「スー、この方は貴方の遠縁の叔父に当たる方よ。

レイクス様と言うのよ」

そう言ってルビーが紹介した。

「良い式だったな。

残念だが、私はもう行かなければならない」

「え? もうですか? せっかくお会い出来たのに…

責めて宴会場で皆に叔父だと紹介がしたかったのですが……」

スーが寂しそうにそう言うと、

「又すぐに会える。

其方達に私の祝福を残していこう」

そう言ってレイクスはショウとスーに手を翳した。

二人が俯くと、レイクスの手から金色の光が二人に注がれた。

”これは魔力による祝福……”

ショウにはすぐにレイクスの祝福が魔力によるものだと分かった。

レイクスが祝福をし終えるや否や又、
マグノリア達に起こった事と同じ様にあたり一面に金色の粉が舞い散った。

ショウとスーが、

“えっ?“

とした様に辺りを見回すと、
その光景が見えているのは彼らだけの様だった。

スーやショウがキョロキョロと舞い散る金粉を見上げる中、
他の人々は笑い話をしながら次々と教会から宴会場へと移り進んでいた。

「これは……」

スーが手を翳して光の粒を仰ぐと、
マグノリアの時と同じ様に光の粒がポンっと弾けて精霊が現れた。

「叔父様……此れは?!」

スーが驚いて見ていると、
生まれたばかりの精霊達がスーとショウの周りを回り始めた。

「お姫様~ お姫様~

結婚~ 結婚~

おめでとう! おめでとう!」

スーはびっくりしながらも、

「えへへ、私お姫様みたい?

ありがとう」

嬉しそうにそう言うと、
精霊達はショウの周りを周り始め、

「龍の人~ 龍の人~」

そう言ってショウの髪に絡んだり引っ張ったりした。

マグノリアはその光景がかわいらしくて、

”クスッ”

と小さく微笑んだけど、ショウの方は、

「ほう、彼等は私の龍好きがわかる様ですね。

流石は精霊様……

でも何故、精霊様達が此処に?」

と、ショウは流石ハンターというか、精霊たちの事がわかる様だ。

精霊達はレイクスに絡み始めると、

「王様~ 王様~

緑の王~ 精霊王~」

そう言ってレイクスの周りを回り始めた。

その光景を見たショウが、

「えっ?」

と言う様な顔をしてレイクスを見た。

精霊達はまたスーに絡み始めると、

「姫様~ 姫様~

赤ちゃん~ 赤ちゃん~」

そう言ってスーのお腹の周りを回り始めた。

マグノリアはそれを見て、

“やっぱりスーは妊娠してるんだ”

そう思った。

スーとショウは不思議そうに精霊達を見て居たけど、
未だ何の事かは分かって居ない様だった。

精霊達はマグノリアの時と同じ様に
スーのお腹の中に入ったり出たりして居た。

「赤ちゃん~ 赤ちゃん~

龍の子~ 龍の子~

強い! 強い!

綺麗な男の子~ 男の子~」

そう言って嬉しそうにポンポン弾いて居た。

“え? 龍の子? ショウが龍バカだから子供もそうなのかな?

でも、スーも男の子なんだ!“

そう思っていると、

「王様~ 帰ろう~

王様~ 帰ろう~」

精霊たちはそう言い始めてレイクスの周りを飛び始めた。

ショウはその光景を見て、何かを感じた様だった。

怪訝な顔をしてレイクスと精霊達を見守った。

すると精霊達は、

「姫様も~ 姫様も~

帰ろう~ 帰ろう~」

そう言ったかと思うと、パーっと空に舞い上がってパーッと消え散った。

そして既に誰も居なくなっていた教会は静粛に包まれた。

マグノリアとアーウィンはことの経緯がわかってるので、
精霊が何のことを言って居たのか理解して居た。

レイクスはスーの肩に手を置くと、

「幸せになれ!」

そう言うと、ショウの方を見た。

ショウは矢張りそのような出来事には敏感で高い察知能力があった。

その時には既にレイクスが何者で、
自分が妻に娶った人物がどう言った者なのか理解して居た。

ショウはレイクスの前に背筋を伸ばし直立すると、
敬愛と敬意を表した姿で深く頭を下げた。

「さあ、皆が待っている。

もう行きなさい」

レイクスがそう言うと、
スーが何かを悟った様に涙を流してショウと同じ様にレイクスに対して深く頭を下げた。

「父上」

そう一言言うと、
二人はレイクスに背を向け、
教会の出口に向けて歩き出した。

あの間スーは一度も振り返らなかった。

残されたアーウィンとマグノリアは、少し呆然として事の次第を見守っていた。

「王様、恐らくショウもスーも気付いたのではないでしょうか?」

マグノリアがそう言うと、レイクスはマグノリアを見つめた。

「其方等の子達は既に運命の渦に巻き込まれてしまった」

そう言ってマグノリアの頬に手を沿わせると、

「強く生きなさい。 母として、父として、決断が迫る時は
自分の直感を信じて大切な物を捨てる覚悟をしなさい」

そう言い残すと、レイクスは里への道を開き、
自分の居るべき地へと戻って行った。

マグノリアはアーウィンを見ると、

「私怖い……王様が何を言おうとしてたのか分からないけど、
何だかこれから恐ろしい事が起こる気がする。

私達はこの子をちゃんと守れるのかしら?

ううん、私は守るわ。 この命に代えてでも!」

そう言うと、アーウィンの胸に顔を埋めた。
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