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2章ローゼンベルト王国

女神の誤算〈女神視点〉

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 女神が転生させた者に会うのは実は綾人が初めてだった。

 助けを求める声を聞いたこともあったが、転生者だからと特別に目をかけることはしない。

 それは、この世界の住人へ対するのと同じだ。



 女神が気に掛けるのは"愛子"のみ。



 それに、転生者は結局適応できず、すぐ亡くなる事が多い。

 今回も実はもう半数は亡くなっている。一昔前の転生者は割と"家が欲しい"、"職場が欲しい"等、生活に根付く願いが多かったのに対し、昨今の転生者は"魔法だ"、"スキルだ"と夢物語でも見ているのか高い能力を求める事が多い。



 能力を求めるのも悪くは無いが、いきすぎた扱えない能力は身を滅ぼすのだ。



 今回も転生者の中で最短命記録は3日だった。

 魔法のスキルと身体レベル100を願った者が、町中で炎の魔法を使った。

 本人は試す為に軽く使ったつもりだろうが、身体レベル100で、火属性魔法のスキルレベル5だ。

 制御が甘く、炎の渦が巻き起こり、辺りの家々が焼け、死傷者多数の大事故。

 しかも、その転生者は言語理解等のスキルが無かった為、弁明も出来ずに罪人として処刑された。



 だから、今回の転生者の中ではギリギリまで状況把握に努めようとして慎重にスキルを選んでいた綾人が一番長生き出来るのでは無いかと思ってはいた。

 ただ、一瞬思っただけでその後は地球の神との交渉や女神業務の忙しさで忘れていた。



 今回は死神の新人研修場所を誤るという前代未聞の失態で、一度に別世界で転生させる魂の数が30以上とこれも前代未聞の事だった。

 希望者以外はそれぞれかち合わないように、ばらけさせ送ったが、転生先は地球程発達しておらず、魔物もいる為どうしても人が住む領域が限られている為、今目にかけている"愛子"の近くにも1つ魂を送っていた。



 それが"愛子"が転生者を気に入ってしまうなんて、大誤算だった。



 あの日綾人が奴隷販売所を訪れ"愛子"を助けなくても、"愛子"の部下ヨハンはもうすぐ近くまで来ていたのだ。

 部下が助けていれば、転生者等と会うこともなく立派な一国の王となっていただろう。

 この国の混乱を治めるため、隣国の評判の良い王女と結婚し、政略結婚とはいえお互いを尊重し合う"愛子"にも相応しい、魂の持ち主と幸せになる道があったのだ。



 それ以外にも、隣国のおてんば第三王女がお忍びで奴隷販売所の近くにいたのだ。

 あの転生者ではなく、この第三王女と愛を育む可能性もあったのだ。



 それがどういう事だろう。

 地球の神への謝罪等の事後処理の合間に"愛子"を見てみれば、いつの間にか、転生者の1人が"愛子"に接近して"愛子"の興味を引く存在になっていた。



 嫌な予感がし、2人の行方が気になり過ぎて、その後もずっと見ていたが、ついに"愛子"が転生者を愛してる事を自覚した時には、死神研修場所間違えを犯した部下を絞め殺したくなった。



 それこそ、転生者が寿命を全うする事は少ないのだ。

 常識も何もかも違う場所からの転生等、普通に生きていて早々起こるものではないし、ストレスは計り知れないだろう。精神がやられてしまう者もいるし、能力で自滅する者も多いからこそ、"愛子"にはこの世界の者と末永く幸せになって欲しかった。



 それが何を間違えればこうなるのか、"愛子"は転生者を深く愛してしまった。

 それも"心の痛みは時間が忘れさせてくれる"等全く通じない程に。





 だから、初めて"愛子"の為に転生者である綾人に接触した。



 "愛子"のために。



 転生者は別世界の魂ゆえ、全く興味が無く、"愛子"に近付いてからは嫌悪まではいかなくてもそれに近い感情があった為、綾人の"行動"しか見ていなかった。

 今回精神世界で実際に綾人の"魂"に触れたら、"愛子"とは全く違うのに、"愛子"とぴったりくっ付ける魂である事が分かった。

 まるで地球で言う陰陽太極図(白、黒の勾玉が合わさって円のようになったもの)のようなのだ。

 それこそ、2人の魂は勾玉のように1つで問題なく自立出来ている、作られた世界すら違う全く別の魂なのに、寄り添わせれば、最初からその形であったと言わんばかりにピタリと嵌る魂同士なのだ。



 それこそ、隣国の王女やおてんばの第三王女とは比べるまでも無い程の相性の良さだ。



 だから、天に渡ろうとする綾人を引き止めたし、無事に"愛子"の元に戻れそうで安心した。



 幼少の時より見守ってきていた"愛子"が"どこの馬の骨ともわからない者"と、生きていくのはとても癪にさわるが、"愛子"が選んだ者なのだから、これからは少し優しく見守っていこうと思った。







 ――けど、やっぱり癪にさわる!!!(手は出さないけど)
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