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2章ローゼンベルト王国
眠りを妨げる者
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――ゆさゆさ
体が揺すられる。
……無理、まだ寝てたい。
――ゆさゆさ
再び体が揺すられる。
……だから無理だってば、もうちょっと寝かせてよ
――ゆさゆさ
体が揺すられる。
……もうちょっとで良いからさ、寝かせて。
――ゆさゆさ
体が揺すられる。
……。
綾人は仕方なく起きた。
と、目の前には何処かで見たことのあるお姉さん。
「あ、面倒くさそうにしてた女神様」
思った事が素直に口に出てしまい、"しまった"と思った時には既に遅く、女神様のこめかみがピクピクしてて、目が笑っていない。
「……せっかく起こして差し上げたのに、その言い方とは良いご身分ですね」
この言い方なんか既視感があるなと思って、思い出した。
「あー! ステータスのメッセージ欄!」
……決してメッセージ欄では無いのだが、何故か女神からのメッセージにしか見えない称号欄の書き方と女神様の口調が似ていると感じたのだ。
「ええ、あれは私ですが?」
「やっぱり~。アレクが好きなの?」
「……ええ。彼の魂は高潔で、折れない心が素晴らしい」
「そうだよね。本当3年も賎奴隷やってて心折れずに、凄いよね。それにしても、愛子という割には扱いが酷いと思ったけど」
「神が愛し、称号に"愛子"と付いてしまうとどうしても、能力があがる分、それに伴い苦労もするようになってしまうのです。これはシステム上仕方のない事なのです」
そうかアレクも大変だなと思うと同時に、綾人は引っ掛かった。
「称号欄に"愛子"とついてしまうと?」
綾人自身は女神の愛子ではない。
ただ、ステータスには"女神の愛子への接触により警戒対象"や"女神の愛子への接触により注視対象"、"女神の愛子への接触により見守り対象"と「愛子」というキーワードが付いていた。
スローライフをおくろうと思っていたのに中々酷い第二の人生をおくっていると思ったらもしかしたらこのせい?
短い第二人生を振り返ると前世より結構ハードモードだったよね?
と、女神様を見つめる。
目を逸らした。
……黒だ!
女神様が喋りだすのを
「そんなことより」
「いや、結構大事なことですよね?」
と、綾人が遮った。
「……」
「……」
暫くお互い無言で見つめあった後、女神様は何事も無かったように話し始める。
「そんなことより」
……認める気は無いわけね。と綾人は諦め女神様の話を聞く。
「さっさと目覚めて、現実に帰りなさい。人の生は短いのよ」
綾人は最後の記憶を辿り思い出した。
……なるほど、心が壊れたか何かで今ここに居るのかと。
――そうしたら
「このままここにいます」
「は?」
「もう戻りません」
「何で?」
「えー。ちょっと疲れちゃって」
苦笑している綾人を女神様は睨みつける。
「ここに居ればいる程、現実世界では時間が経つのよ」
「良いです」
「は?」
「戻りたく無いので」
「……貴方達の元の世界でいう流行りの"チート"が出来るのよ。貴方の選んだ能力ならまだまだこれから好きに生きられるじゃない」
「いや。別にもう十分堪能しましたから大丈夫です」
女神様が困っているようで今度は脅してきた。
「……。魂消滅させるわよ?」
「ぜひ、どうぞ」
「……。輪廻出来なくなるわよ」
「輪廻って同じ魂が巡るってやつですよね? こんな感じの人生、輪廻する方が可愛そうだと思いますけど」
綾人には効果がないようだ……。
綾人は自分の2度の人生を振り返る。
1回目も今思えば欲しいものは手に入らない虚しい人生で、2回目は欲しいものが手に入ったと思ったら、腕からすり抜けるばかりか更なるハードモード突入の人生だった。
結末は後味悪いものになったとは言え、2回目の人生でアレクからの愛という最高の幸せを一時だけでも味わえたから、もう"心残りはない"と思った。
周りがキラキラ光りだす。
綾人の体が温かいもので包まれ、光の道へ導きだすように浮いていく。
「あ、こら! 幸せだとか満足だと思っただろう! まだ天界へ渡るには早い! 肉体も死んで無い! 待て待てー!」
それまで澄ましていた女神様が焦りだし、光に包まれて浮きはじめていた綾人の体を思いっきり引っ張って床に落とす。
「ぐへぇ」
……変な声が出た。
女神様が綾人の背中に足を乗せながら再度問いかける。
「心残りはないの?」
「うーん。ありませんね。アレクから一生分の幸せを貰いましたから」
またキラキラ光りはじめる綾人の体を女神様は足で抑えつつ問いかける。
「後悔とか心残りとかないわけ? もっと幸せになりたいとかいう欲は? っていうか幸せな期間短かったんでしょう? もっと幸せでいたいとかないわけ?」
「うーん。後悔が全く無いとは言えませんけど、今となっては特に言うほどでもないので。素敵な第二の人生をありがとうございました」
綾人の体は先程からぴかぴか光が止まらない。
「……あなた恐ろしく、幸福の基準が低いのね。じゃ、恨みとかは? 貴方ドゥオルキ第二王子に酷い目に遭わされてたじゃない。復讐したいとかは思わないの?」
「まぁ、聖人君子ではないので、全く恨まない訳では無いですが、彼の人生を考えれば仕方なかったのかなと。深くは知りませんけどね。立場が違う場合の俺のような気がしますし。それに食事もしっかり食べられて、別に拷問されてたわけでもなく、思えば言うほど酷い目には遭わなかった気がします」
「いや、君馬鹿かね……。それ十分酷い目に遭ってるから」
「そうですか」
「……」
「……」
「はぁ、悪かったわよ! まさか愛子が能力以外平凡な貴方に惚れるとは思わなかったからつい、貴方も気になって見てしまっていたのよ。確かに、スキル選択も慎重で一番長生き出来るかもとは思ったけど、まさかピンポイントで女の子でもない美人でもない見た目が全然釣り合ってない過去も怪しげな転生者の貴方をあの子が選ぶとは思わないでしょう? 気になっても仕方ないじゃない。……まぁ、それで見過ぎて称号がついてトラブルに多く見舞われた事は謝罪しよう」
あ、話がいつの間にか戻って女神様が非を認めた。
でも、ちょっと俺の事ディスりすぎじゃないですかね……。
「謝罪を受け入れます。じゃ、足を離して貰ってよいですかね?」
「……だめよ。貴方まだ光ってるじゃ無い」
「何か問題でも?」
「……愛子が悲しんでいる」
「え……。」
綾人は"愛子"がアレクのことだと分かり"悲しんでいる"という事に動揺したが、話を続ける。
「ま、まぁ、そりゃ裏切られれば当然でしょうね。アレクなら次がありますよ。まだまだ若いし」
「愛子はお前の帰りを待っているのよ」
「……じゃ、尚更逝った方が良いじゃないですか。素敵な女の子と結婚して幸せになってくれれば良いかと。」
綾人はアレクの事を思うと胸が痛くなったが、こんな自分と一緒にいるよりは、誰か綾人の知らない人と綾人の知らない所で幸せになってくれれば良いと思った。
「……はぁ、愛子はお前じゃなきゃ嫌だと言っている。このまま逝けば、確実に後を追う。せっかく苦労を乗り越えたばかりなのに儚くさせたくない」
「え? そんな馬鹿な……。俺はアレクを裏切ったのに……」
綾人の体が光るのをやめた。
「ほらしょうがない、これまでのことを見せてあげよう」
そう言って浮かび上がった水鏡みたいな物に映ったのは、動かない綾人の世話をするアレクだった。
ベットから体をおこし、食事を取らせ、着替えさせて、散歩に連れ出し、話しかけ、マッサージしたり、体を濡タオルで拭いたり、着替えさせて寝かせたり、それを何度も繰り返している。
アレク以外にも抱かれていた意識もない裏切り者の体の世話が出来るなんて。
――とても正気の沙汰じゃない。
こんな無駄な事一刻も早くやめさせなければと焦燥に駆られる。
「そんな……。アレクは若いのに意識のない俺の介護なんて……。ちょっと時間の無駄だよって言って帰ってくる」
綾人の混乱してズレた回答に、女神は困惑顔を作るものの、ここは精神世界、精神世界故に本能に忠実になり、物事を深く考える事が出来ないので、本音も透けて見えるし、アレクの姿に余程衝撃を受けたのか、さっきまでの説得は何だったのかと言うほど、綾人は"目覚め"に向かってしまった。
まぁ、一度目覚めてしまえば滅多に来れる所ではないので問題ないだろうと、消えていく綾人を見送った。
体が揺すられる。
……無理、まだ寝てたい。
――ゆさゆさ
再び体が揺すられる。
……だから無理だってば、もうちょっと寝かせてよ
――ゆさゆさ
体が揺すられる。
……もうちょっとで良いからさ、寝かせて。
――ゆさゆさ
体が揺すられる。
……。
綾人は仕方なく起きた。
と、目の前には何処かで見たことのあるお姉さん。
「あ、面倒くさそうにしてた女神様」
思った事が素直に口に出てしまい、"しまった"と思った時には既に遅く、女神様のこめかみがピクピクしてて、目が笑っていない。
「……せっかく起こして差し上げたのに、その言い方とは良いご身分ですね」
この言い方なんか既視感があるなと思って、思い出した。
「あー! ステータスのメッセージ欄!」
……決してメッセージ欄では無いのだが、何故か女神からのメッセージにしか見えない称号欄の書き方と女神様の口調が似ていると感じたのだ。
「ええ、あれは私ですが?」
「やっぱり~。アレクが好きなの?」
「……ええ。彼の魂は高潔で、折れない心が素晴らしい」
「そうだよね。本当3年も賎奴隷やってて心折れずに、凄いよね。それにしても、愛子という割には扱いが酷いと思ったけど」
「神が愛し、称号に"愛子"と付いてしまうとどうしても、能力があがる分、それに伴い苦労もするようになってしまうのです。これはシステム上仕方のない事なのです」
そうかアレクも大変だなと思うと同時に、綾人は引っ掛かった。
「称号欄に"愛子"とついてしまうと?」
綾人自身は女神の愛子ではない。
ただ、ステータスには"女神の愛子への接触により警戒対象"や"女神の愛子への接触により注視対象"、"女神の愛子への接触により見守り対象"と「愛子」というキーワードが付いていた。
スローライフをおくろうと思っていたのに中々酷い第二の人生をおくっていると思ったらもしかしたらこのせい?
短い第二人生を振り返ると前世より結構ハードモードだったよね?
と、女神様を見つめる。
目を逸らした。
……黒だ!
女神様が喋りだすのを
「そんなことより」
「いや、結構大事なことですよね?」
と、綾人が遮った。
「……」
「……」
暫くお互い無言で見つめあった後、女神様は何事も無かったように話し始める。
「そんなことより」
……認める気は無いわけね。と綾人は諦め女神様の話を聞く。
「さっさと目覚めて、現実に帰りなさい。人の生は短いのよ」
綾人は最後の記憶を辿り思い出した。
……なるほど、心が壊れたか何かで今ここに居るのかと。
――そうしたら
「このままここにいます」
「は?」
「もう戻りません」
「何で?」
「えー。ちょっと疲れちゃって」
苦笑している綾人を女神様は睨みつける。
「ここに居ればいる程、現実世界では時間が経つのよ」
「良いです」
「は?」
「戻りたく無いので」
「……貴方達の元の世界でいう流行りの"チート"が出来るのよ。貴方の選んだ能力ならまだまだこれから好きに生きられるじゃない」
「いや。別にもう十分堪能しましたから大丈夫です」
女神様が困っているようで今度は脅してきた。
「……。魂消滅させるわよ?」
「ぜひ、どうぞ」
「……。輪廻出来なくなるわよ」
「輪廻って同じ魂が巡るってやつですよね? こんな感じの人生、輪廻する方が可愛そうだと思いますけど」
綾人には効果がないようだ……。
綾人は自分の2度の人生を振り返る。
1回目も今思えば欲しいものは手に入らない虚しい人生で、2回目は欲しいものが手に入ったと思ったら、腕からすり抜けるばかりか更なるハードモード突入の人生だった。
結末は後味悪いものになったとは言え、2回目の人生でアレクからの愛という最高の幸せを一時だけでも味わえたから、もう"心残りはない"と思った。
周りがキラキラ光りだす。
綾人の体が温かいもので包まれ、光の道へ導きだすように浮いていく。
「あ、こら! 幸せだとか満足だと思っただろう! まだ天界へ渡るには早い! 肉体も死んで無い! 待て待てー!」
それまで澄ましていた女神様が焦りだし、光に包まれて浮きはじめていた綾人の体を思いっきり引っ張って床に落とす。
「ぐへぇ」
……変な声が出た。
女神様が綾人の背中に足を乗せながら再度問いかける。
「心残りはないの?」
「うーん。ありませんね。アレクから一生分の幸せを貰いましたから」
またキラキラ光りはじめる綾人の体を女神様は足で抑えつつ問いかける。
「後悔とか心残りとかないわけ? もっと幸せになりたいとかいう欲は? っていうか幸せな期間短かったんでしょう? もっと幸せでいたいとかないわけ?」
「うーん。後悔が全く無いとは言えませんけど、今となっては特に言うほどでもないので。素敵な第二の人生をありがとうございました」
綾人の体は先程からぴかぴか光が止まらない。
「……あなた恐ろしく、幸福の基準が低いのね。じゃ、恨みとかは? 貴方ドゥオルキ第二王子に酷い目に遭わされてたじゃない。復讐したいとかは思わないの?」
「まぁ、聖人君子ではないので、全く恨まない訳では無いですが、彼の人生を考えれば仕方なかったのかなと。深くは知りませんけどね。立場が違う場合の俺のような気がしますし。それに食事もしっかり食べられて、別に拷問されてたわけでもなく、思えば言うほど酷い目には遭わなかった気がします」
「いや、君馬鹿かね……。それ十分酷い目に遭ってるから」
「そうですか」
「……」
「……」
「はぁ、悪かったわよ! まさか愛子が能力以外平凡な貴方に惚れるとは思わなかったからつい、貴方も気になって見てしまっていたのよ。確かに、スキル選択も慎重で一番長生き出来るかもとは思ったけど、まさかピンポイントで女の子でもない美人でもない見た目が全然釣り合ってない過去も怪しげな転生者の貴方をあの子が選ぶとは思わないでしょう? 気になっても仕方ないじゃない。……まぁ、それで見過ぎて称号がついてトラブルに多く見舞われた事は謝罪しよう」
あ、話がいつの間にか戻って女神様が非を認めた。
でも、ちょっと俺の事ディスりすぎじゃないですかね……。
「謝罪を受け入れます。じゃ、足を離して貰ってよいですかね?」
「……だめよ。貴方まだ光ってるじゃ無い」
「何か問題でも?」
「……愛子が悲しんでいる」
「え……。」
綾人は"愛子"がアレクのことだと分かり"悲しんでいる"という事に動揺したが、話を続ける。
「ま、まぁ、そりゃ裏切られれば当然でしょうね。アレクなら次がありますよ。まだまだ若いし」
「愛子はお前の帰りを待っているのよ」
「……じゃ、尚更逝った方が良いじゃないですか。素敵な女の子と結婚して幸せになってくれれば良いかと。」
綾人はアレクの事を思うと胸が痛くなったが、こんな自分と一緒にいるよりは、誰か綾人の知らない人と綾人の知らない所で幸せになってくれれば良いと思った。
「……はぁ、愛子はお前じゃなきゃ嫌だと言っている。このまま逝けば、確実に後を追う。せっかく苦労を乗り越えたばかりなのに儚くさせたくない」
「え? そんな馬鹿な……。俺はアレクを裏切ったのに……」
綾人の体が光るのをやめた。
「ほらしょうがない、これまでのことを見せてあげよう」
そう言って浮かび上がった水鏡みたいな物に映ったのは、動かない綾人の世話をするアレクだった。
ベットから体をおこし、食事を取らせ、着替えさせて、散歩に連れ出し、話しかけ、マッサージしたり、体を濡タオルで拭いたり、着替えさせて寝かせたり、それを何度も繰り返している。
アレク以外にも抱かれていた意識もない裏切り者の体の世話が出来るなんて。
――とても正気の沙汰じゃない。
こんな無駄な事一刻も早くやめさせなければと焦燥に駆られる。
「そんな……。アレクは若いのに意識のない俺の介護なんて……。ちょっと時間の無駄だよって言って帰ってくる」
綾人の混乱してズレた回答に、女神は困惑顔を作るものの、ここは精神世界、精神世界故に本能に忠実になり、物事を深く考える事が出来ないので、本音も透けて見えるし、アレクの姿に余程衝撃を受けたのか、さっきまでの説得は何だったのかと言うほど、綾人は"目覚め"に向かってしまった。
まぁ、一度目覚めてしまえば滅多に来れる所ではないので問題ないだろうと、消えていく綾人を見送った。
応援ありがとうございます!
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