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5 山奥の旅館へ(2)
しおりを挟むふと前を歩くロボットを見ると、ロボットの頭の部分が光っていた。
「巧さん、ロボットの頭、光ってませんか?」
「ああ、そうですね」
巧と伊月が、ロボットの頭を見ると、『饒舌モード』『寡黙モード』という切り替えがついていた。そして、今は、『寡黙モード』が点滅していた。
「あ~~もしかして、これって、ロボットが話をしてくれるようになるのかな? 押してみよう」
「え? 勝手にそんなことしていいんですか?」
伊月は止めたが、巧は、戸惑うことなく『饒舌モード』を押した。するとその途端。
「お客様。本日は、遠路はるばる五更館までお越しくださいまして、誠にありがとうございます」
さっきまで片言だったロボットが、突然饒舌になったので、驚いてしまった。
「確かに饒舌になったね……」
「そうですね……」
伊月は、これは饒舌というか、修学旅行のガイドさんのようだと思った。ロボットは、荷物を持って移動しながら、ガラス張りのエレベーターのような中に入った。
「お客様の中で、高所恐怖症、つまり、高いことろが苦手だなぁ~という方はいらっしゃいますか? いらっしゃいましたら、私の目を見ながら片手を上げて下さい」
伊月と巧は顔を見合わせた。伊月はというと、パラグライダーが趣味というくらいなので、高いところは苦手ではない。むしろ好きなくらいだ。それに、巧の自宅はタワーマンションの最上階とうくらいなので、高い所が苦手というわけではなかった。
「お客様は、高所恐怖症の方はいらっしゃらないようなので、景色を見れるようにいたします。それでは、短いですが、本館まで空の旅をお楽しみ下さい」
ガクンと、部屋が動き出したかと思うと、どうやらこれは、ロープウェイのようになっているようだった。どうやら、朝日が昇っていたようで、美しい景色が目の前に飛び込んで来た。
「わ……この部屋、ロープウェイだったのか……」
伊月が、外を見ながら言うと、ロボットがまたしても口を開いた。
「お客様方がお望みでしたら、足元もガラス張りにすることが可能ですが、床面も見えるようにしてほしい場合は、 私の目を見ながら片手を上げて下さい」
伊月は迷わず手を上げると、ロボットを見た。
「え? 下も見えるようにしちゃうの?」
戸惑うような巧に、伊月は深く頷きながら答えた。
「はい。床面も見えるようにできるなら、そうしましょう。地形や植生を確認することは、重要なことです」
伊月の言葉に、巧は困ったように笑いながら言った。
「本当に、伊月さんは、仕事熱心だね」
巧がそう言うと、ロボットが声を上げた。
「かしこまりました。それでは、床面を見えるようにいたします」
その途端、床面が透けて、見えるようになった。
伊月は床面を食い入るように見つめながら思った。
(高低差、500メートル前後と言ったところだろうか……結構あるな。それに、大体、一秒4メートルくらい……所要時間は、15分くらいといったところだろうか……)
伊月が、ロープウェイに乗りながら考えていると、ロボットが口を開いた。
「こちらのロープウェイは、高低差が、487メートル。目的地までの所要時間は、13分となっております」
パラグライダーが趣味の伊月の読みはおおむね当たっていた。伊月は、ふと足元に、丸い池のような場所を見つけた。それがなぜか気になった。
「池……」
思わず呟いた伊月に、巧が尋ねてきた。
「あの池が気になるの?」
特に何か理由があるわけではないが、これだけ木が生い茂っている場所にぽっかりと開いた池は、なぜかとても気になった。
「そう……ですね」
伊月が巧の顔を見ながら、言い淀むと巧がロボットに尋ねた。
「君、あの池について何か知らないかな?」
巧がなんの躊躇もなくロボットに話かけた。ロボットに質問をして答えられるのだろうか?
「池……検索中。少々お待ちください……ロープウェイから見えます池は、江戸時代から、『うつしよ池』と呼ばれている池でございます」
ロボットはあの池がうつしよ池ということを教えてくれた。
「うつしよ……? 現世という意味だろうか……。へぇ~興味深いな……」
巧の言葉に、伊月が通り過ぎて行く池を見ながら呟くように言った。
「うつしよ池……」
伊月が下を眺めていると、巧が、伊月に顔を寄せて、耳元で囁くように言った。
「あ~伊月さん。言いにくいんだけど……帰りは……床面のガラスは、透けないようにしてもらった方がいいかもしれない」
「え?」
伊月が、顔を上げて、巧の顔を見ると、巧が困ったように言った。
「下着が見えているようだ」
「な!!」
伊月は急いで、スカートを押さえた。
先程、下が見えなかった時は、床面はスリガラスのようになっていて、こちら側が反射することはなかったが、床面を見えるようにすると、朝日の影響で、床面が鏡のように反射して、こちらが見えるようになっていたのだ。
そのせいで、スカートの中が、床面に映っていた。
普段なら、別に男の伊月の下着が見えたところで、特に問題はないのだが……今は、女性物のレースのついたボクサーパンツタイプの下着を付けているのだ。 これは、野宮の強いこだわりで、『スカートの中が見えた時のために!!』と、謎のこだわりを見せたことが原因なのだ。まぁ、見た目はともかく、履き心地は、伊月が普段履いている下着よりも断然、いいのだが……。そんな下着を履いているのだ、スカートの中が見えていると言われると隠したいと思うのは、当然のことではないだろうか?
ロボットは、そんな伊月たちの様子は気にすることもなく、饒舌に、ロープウェイについての説明を続けていたのだった。
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