化粧品会社開発サポート部社員の多忙過ぎる日常

たぬきち25番

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会員制高級旅館殺人事件

6 山奥の旅館へ(3)

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「到着いたしました」

 しばらくして、ロープウェイが旅館に到着したようだった。
 ロープウェイのすぐ隣に、かなり趣のある日本建築がそびえ立っていた。

「凄い……」

 伊月は、思わず旅館を見上げながら呟いた。
 ロボットは、ロープウェイから直接繋がっている渡り廊下を進みながら言った。

「こちらの温泉宿は、文久二年に営業を始め、それから幾度も立て直しを行い、現在に至ります。最近では、平成22年にリノベーション工事を行っております」

 ロボットは、相変わらず、丁寧に旅館の説明をしてくれていた。

「君たちロボットがこうして、人を案内されるようになったのはいつなの?」

 またしても巧が、ロボットに訪ねた。

「ロボット、案内……検索中。少々お待ちください……お客様同士の蜜を避けるために、ロボットが導入されたのは、令和になってすぐです」

 巧の質問にロボットは流暢に答えた。

(これだけのシステムの導入を蜜を避けるただそれためだけのために?)

 巧の質問にロボットは流暢に答えた。伊月はこのロボットの答えに少しだけ違和感を持ったが、違和感の正体が漠然していたので、特に何も言わなかった。

「ああ、なるほど……ありがとう」

 巧が、ロボットにお礼を言うと、ロボットは「いえいえ」と言って、また旅館の話を始めた。
 そして、ロボットは、旅館の中に入って行ったのだった。

「ようこそ、鳴滝様」

 入ってすぐの受付には、先ほどモニターに映っていた女性ではなく、男性が立っていた。伊月が、受付の前に行くと、思わず男性から顔を逸らした。

(あれは……?)

 受付に立っていたのは、伊月のパラグライダー仲間の京介だった。京介とは、よくパラグライダーを一緒に楽しむ趣味の仲間だ。
 まさか、こんな所で会うとは思わず、思わず伊月は巧の後ろに立って、顔を隠した。

 京介は、チラリとこちらを見たが、特に伊月に気づいている様子はなかった。

「お部屋へご案内いたします」

 京介は、受付から出ると、ロボットのモードを『寡黙モード』に切り替えた。

「さぁ、こちらですどうぞ」

 ロボットは、荷物を持っていたので、ゆっくりと3人に着いて来た。

「長旅ご苦労様でした。お食事は、こちらに御宿されている方皆で、召し上がるようになっておりますので、19時になりましたら、お食事処においで下さい」

 見事な日本庭園を見ることが出来る廊下を歩いて行くと、京介は『十三の間』と書いてある部屋の前で止まった。そして、『十三の間』隣には、見たことのある野草の絵が掘られていた。『十三の間』と書かれた木の板は最近の物のように新しい物だったが、野草の絵の方は、かなり時代を感じる物だった。
 伊月は、その絵が気になって考えていた。

(この絵の植物はなんだ? コスモスにしては、花びらが細いな……後で調べるか)

「こちらがお部屋になります。お部屋のカギは、顔認証になります。すでにお二人は、お車の場所で顔認証を登録させていただいておりますので、ドアを見て頂けると入れます」

「ああ、顔認証が部屋のカギなんだ……それは便利だな」

 巧が感心しながら部屋に入ると、思わず伊月は固まってしまった。

(かなり大きいベットが置いてあるけど、一つしかないんですけど?!)

「お部屋にご用意してある物は、お好きにお使いいただいて構いません。何かありましたら、遠慮なくお申し付けください」

 京介が説明をしている間、ロボットは、伊月たちの荷物を入口付近のクローゼットの中に入れていた。
 そして、説明が終わると、ロボットと京介は部屋を出て行った。

 伊月は改めて、部屋の中を見渡した。
 部屋には、大人が4人くらい余裕で眠れるくらいの大きなベッドが一つに、簡易のバーに、大きなソファーセットに、露天風呂がまであった。
 アメニティも充実していて、タオルやシャンプーなどの基本的な物はもちろん、バスローグにパジャマそれに、避妊具まで揃っていた。

 伊月は、部屋に用意されていた避妊具や、大きなベッドを見ながら恐る恐る尋ねた。

「あの……私たちって、どういう関係ってことになっているんですか?」

 すると、巧は、さも当たり前のように言った。

「それはもちろん、恋人同士だけど?」

「……」

 伊月は頭を抱えた。知り合いのいない状況なら、それでもよかったかもしれない。だが……京介は、頻繁に連絡を取り合う仲だ。共通の知り合いや友人だって、たくさんいる。
 伊月は、思わず壁に手を置きながら呟いていた。

「……絶対にバレたくない!!」

 伊月が、壁に手をついている間に、巧が、部屋の用意してあったコーヒーメーカーでコーヒーを入れながら言った。

「あれ~~? 伊月さん~~壁にくっついて、どうしたの~~?」

 伊月は巧に、「知り合いがいるので、絶対に自分だとバレたくない」と真剣に訴えたのだった。


☆==☆==

 
 コーヒーを飲むと、伊月は持って来た女性用のゆったりとしたパンツスタイルの服に着替えて、大きな帽子を被った。

「さぁ、巧さん。周囲を散策に行きましょう」

 伊月としては、一分一秒でも早く、『戻時草』を見つけて、家に帰りたかった。
 京介がいる以上。自分は絶対に男だとバレる訳にはいかない。幸いにも、京介は、伊月のことを『宗近』と名前で呼んでいる。お互い、出会った時から名前で、呼び合っていたので苗字は知らない可能性が高い。伊月は、京介の苗字は知らない。
 だとしたら、ボロが出る前に、薬草を探し終えて、この旅館を出たい。

「え? もう? 少し休まない?」

 巧は、二杯目のコーヒーを飲みながら、目を白黒させていた。そんな巧に、伊月は、顔を近付けながら言った。

「いえ。すぐにでも探しに行きましょう。あと……絶対にバレたくないので、下の名前は呼ばないでくださいね!!」

 巧は「わかってるよ」と言って、立ち上がると、伊月の腰を抱き寄せた。

「ちょっと、何してるんですか?!」

 伊月が、巧を睨むと、巧が困ったように言った。

「え~~? 伊月さんが、男だとバレないように? イチャイチャしてたら恋人っぽくて、バレないかな~って」

 伊月は、すっと巧から離れながら言った。

「外でもそんなに近付いて歩くような、イチャイチャカップルを、真似る必要はありません。私は、奥ゆかしさを大事にしている彼女、という設定でおりますので、巧さんもそのつもりで!!」

 巧はそれを聞いた後に、一瞬驚いて、くすくすと笑った。

「何がおかしいんですか?!」

「いや、ごめんね。わかった。俺の彼女は奥ゆかしいんだね。うんうん。それいいね。最高。じゃあ、行こうか、奥ゆかしい彼女さん」

 巧の言葉に、伊月はムッとしたが、腰を抱かれながら歩くよりはマシなので、伊月も黙って、巧の後を追って、部屋を出たのだった。





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