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【エリック】(真相ルート)

17  兄の手のひらの上

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  母との再会の後、私たちはソファーに座ってお茶をのみながら今後の予定を説明された。


「7日後にお披露目式をしようと思うんだけど……どうだい?」

 実父が兄の顔を真剣な様子で見つめながら言った。

「儀式での礼も完璧ですし、お披露目での決意の儀式の練習も完璧です。50分は問題なく続けられます。披露曲もすでに練習済ですので、問題ないと思います」

「???????」

 私は兄の報告に首を傾げるしかなかった。



 儀式での礼???

 お披露目での決意の儀式の練習???

 披露曲もすでに練習???

 そんな練習したかしら??


 何もわからなくて不安を感じた私は兄に尋ねることにした。

「あの……お兄様、それはなんですか?」

 私の言葉に兄が「ああ」と言って説明してくれた。

「儀式での礼は、あのベルのいうところの『柔軟体操』だ」

 そう言われて思い出した。
 何度も何度も深く頭を倒せるように練習したあの前屈のことだった。

「ああ!!」

 私はよくわかったが、実父や母やロランは困惑していた。

「柔軟?」

「体操?」

 兄はさらに言葉を続けた。

「そして、お披露目での決意の儀式というのは、人前用のキスだ」

「ああ!! あの人前用の気持ちよくならないキス!! お披露目式でする儀式だったのですね」

 すると母が楽しそうに小声で、実父に呟いた。

「トリスタン!! 聞いた? 人前用の気持ちよくならないキスですって!! 2人ならどんなキスなのかしら?」

「ブリジット……それ、後から考えたらショック受けるヤツだから言わないで」

 母の言葉はしっかりと聞こえているし、顔面蒼白の実父を見て私はなんだか居たたまれない。

(しまった!! つい迂闊なことを言ってしまったわ!!)

「後、披露曲は、コンラッドとしつこく練習していただろう?
 『我が最愛を想う』」

 兄が少しだけ不機嫌そうに言った。

「ああ。あの、表現を徹底的に磨くためという名目で練習させられた難曲!! 
 あんなに練習したのに、卒業式では弾いてはいけないと言われた曲ですね!!
 あの曲はお兄様とも何度も合わせましたよね!
 まさか!! このために練習したのですか?」

「そうだ」

 私は思わず真顔で頷いてしまった。
 どうやらここ最近の兄の謎の行動は全て意味があったらしい。

 そうして、なぜ兄が儀式の練習だと言わなかったのかを考えてみた。
 少し前の私に儀式だと言っても、動揺しただけだろう。
 なんの不安も持たずにこんなに準備できたのは兄のおかげだ。

「本当にお兄様は隙がありませんね……」

 私はふと、幼い頃に読んだ孫悟空の話を思い出した。
 1人で遠くに行けると言った孫悟空は実はお釈迦様の手の中にいたという話だ。

(私は常に兄の手の中にいたのね……)

 だがそれが不思議と心地よいと思うのでおかしくなってきた。

「……ふふふ。私はいつもお兄様の手の中ですね」

 すると兄が片眉を上げたかと思ったら穏やかに微笑んだ。

「それは私のセリフだ」

 私たちの様子を見ていた母が楽しそうに笑いながら言った。

「ふふふ。あなたたちとても素敵ね。安心したわ」

「2人とも頑張ってね」

 父はどこか複雑そうな、でも少しだけ嬉しそうに言った。

「はい」

「はい」

 私は兄と同時に答えた。

 こうして知らぬうちに準備をしていたようで、私たちは7日後にお披露目式をすることになったのだった。



+++



 お披露目式までの間、私たちはお披露目式の練習を行った。

 知らぬ間に帝王学を学んでいたおかげで、私はこの国の貴族の名前や、風習や王家の習わしなどをとてもよく知っていて自分でも驚いてしまった。

 ずっと私にこの国のことを教えてくれていたオリヴァーやコンラッド君の手助けもあって、滞りなくお披露目式の準備が出来た。

 お披露目式までの7日の間に高位貴族の方々にあいさつを済ませたり、私たちと年が同じくらいの貴族の子息や令嬢とのお茶会も行い、この国での知り合いも増えた。
 兄はこの国に通っていただけあって、高位貴族の方とはほとんどが顔見知りだったし、同じくらいの貴族の子息や令嬢にも知り合いが多かった。

(いつも間に……さすがお兄様だわ……)

 おかげで私もスムーズにこの国に馴染むことが出来た。



+++



  お披露目式当日。

 私は歴代の皇女が身に着けるという宝石をまとい、お披露目式に出た。

(うわ~~~見事に知らない人だらけだわ~~~)

 いくらあいさつをしたとは言っても全員ではないので、周りは知らない人ばかりだった。
 私は兄に手を引かれて衆人環視の元玉座へ座る女王陛下の元に向かった。

「レアリテ国女王の名の元に、我が娘ベルナデットを皇女とする」

(きた~~!! 落ち着くのよ。柔軟、柔軟)

 私はここで、兄と練習した礼をして見せた。
 そして私の頭に宝石が輝くティアラが乗せらた。

「皇女ベルナデットの伴侶、エリック!」

「はっ!!」

 兄はゆっくりと女王陛下の前に向かうと、私と同じように頭を下げた。
 そしてゆっくりと頭を上げると大きな声を上げた。

「ベルナデット様に恒久の忠誠を!!」

(か……かっこいい……)

 私は儀式中だというのに、すっかりと兄に見とれてしまった。


 それから、私は兄と共にヴァイオリンとチェロの演奏を披露した。

 コンラッド君が「うんうん」と首を振りながら聞いている。
 もしかしたら、私たちよりもコンラッド君の方が緊張しているのではないだろうか? というほど必死な顔でこちらを見ていた。

~~~♪~~~~♪~~~♪
 
 私たちは無事に演奏を終えた。

 そして、この時が来た!!

 私たちはゆっくりと中央に立つとお互いを見つめた。

(うう~~~いよいよ。キス披露だわ!!)

「ベルいくぞ?」

「はい」

 小声で呟いて私たちは唇を合わせた。

 すると先程まで止まっていた貴族が、私たちの周りをゆっくりと歩きながら退席していった。
 長く続く列の全ての貴族が私たちの決意(キス)を見て退席するまで口を合わせていなければならない。

 だが、私たちはこの日のために少しでも楽にキスをし続けられる体勢を見つけたり、呼吸が苦しくないように口の位置を微妙に変えたりと、研究に研究を重ねてきたので、キスに全く問題はなかったのだった。


 人前でのキスだが、何度も練習したおかげでとても落ち着いていたのだった。




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