我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

文字の大きさ
上 下
107 / 145
【エリック】(真相ルート)

18  幸せの形【エリック ルート最終話】

しおりを挟む

 
 全ての貴族が退席して、私たちはゆっくりと女王陛下の前に移動した。


「ベルナデットを皇女に!!」


 女王陛下の言葉に私と兄は静かに頭を下げた。
 全ての儀式が終わると、母が私に近づけて来て微笑んでくれた。

「よかったわ。お疲れ様」

 すると実父が微笑んでくれた。

「美しかったよ。ベル!!」

 私は2人に向かって微笑んだ。

「ありがとうございます」

 
 それから、私は着替えのために部屋に戻ることになり、兄はこれから王配としてのあいさつがあるらしく別行動となった。

「後で部屋で」

 兄が私の耳元に唇を寄せて呟いた。
 私はコクンと頷いた。




 それから私は部屋に戻って、豪華なドレスや装飾品を外して、湯浴みをして楽な服装に着替えると軽食を取った。

「はぁ~終わったわ」

 そう呟いて小さく首を振った。


「いえ、これから始まるのね」




 窓辺に立って空を見ると月が出ていた。

(月だわ……)
 
 まるで爪でひっかいたような細く長い月は儀式で浮ついていた私の心を落ち着かせてくれた。

 コンコンコン。


「はい」

 カタリ。

 ドアが開く音がして振り向くと、着替えを済ませた兄が部屋に入ってきて、こちらに向かって歩いてきた。

「何をしていたのだ?」

「月を見ていました」

 兄が私の隣に立つと、月を見た。
 その横顔は妖艶な色気を放っていて、私は思わず見とれてしまった。

 思えば昔から私はずっと兄に憧れていた。
 
 いつも厳しくて。

 いつも強くて。

 いつも優しくて。

 いつも私の側にいて私を支えてくれた。

 兄がいたからこそ、私はここのこうして立っているのだろう。
 これほどの愛がこの世にあるのだろうか?

 人はこれほどまでに深く人を愛することができるのだろうか?

 


ーー……運命。


 
 私にとって兄は間違いなく運命だ。


「ベル……頼みがある」


 すると兄が私の方を見て真剣な顔をした。

「……」

 私は何も言えずに兄の言葉を待った。






「名前を呼んでくれないか?」





 それは長いこと封印していた言葉だった。
 兄に好きだと、愛しているとは言っていたが、私はずっと兄と呼んでいた。
 兄もそう呼ぶことを止めなかった。


ーー……仕方がなかったのだ。


 この封印を破ってしまったら、戻れなくなくなることがわかっていた。
 兄と呼ぶことで、兄と呼ばれることでお互いがギリギリの理性を保っていたのだ。




ーー……でも、もう戻らない。



 私は愛しいその言葉を抱きしめるように言の葉にのせた。



エ リ ッ ク


 
 兄の目から涙が零れて月の光に照らされて美しく光った。

 兄が私のおでこにおでこをくっつけながらまるで祈りのように言った。

「ベルナデット……もう一度……呼んでくれ……」

 私は兄の鼻に自分の鼻をこすりつけるように甘く囁いた。

「エリック」

 いつも冷静な兄が、エリックと名前を呼んだだけで、まるで溶けてしまうのではないかというほど甘い瞳に変化した。この瞳がいつか兄が言っていたトロトロの目かもしれない。

「ふふふ。溶けてしまいそうなトロトロの目。私だってエリックのそんな目、誰にも見せたくないです」

「そうか……じゃあ、私もベルにだけ見せるから、ベルも私にだけ見せてくれないか? ベルのとろけそうな目を」

 私たちはどちらともなく唇を合わせていた。


「……ん……ぁ……」

 甘くて、愛しくて、これまでの儀式の練習のためのキスとは全く違う。
 エリックの熱を全て感じるような深いキスだった。

 唇から感じた熱は全身にじわじわと移動する。
 身体中が熱い。

 エリックが深く口付けをしながら私の頭を掻き抱くように抱き寄せた。

「ん……ベ……ル……好きだ……愛している」

 私もその言葉に答えるようにエリックの耳を抱き寄せる。

「ん……好き……エリック……」

 名前を呼ぶと兄の口付けがさらに深くなる。
 まるで溶けてしまうんじゃないかという熱に私たちお互いの身体を隙間なく擦り付けた。

 熱をはらみ、熱を感じる。
 持て余した身体の熱は行き場をなくして、それを発散させるかのようにお互いを求めた。



 何も考えることのできない支配的な幸福感。


 

ガクン。



 立っていられなくなって、足の力が抜けたところでエリックが支えてくれた。
 それでも唇は離してもらえなくて、エリックに抱き上げられた。

 ゆらゆらとした不安定な感覚のままキスを続ける。


 離れることなどできないとでもいうように。

 これまで抑えていた全てがその夜に開放された。



 この日。
 私は、彼の妹から恋人になったのだった。





+++


「ん? 朝?」

「おはようベル」

 目を開けた途端にエリックがいた。

「あ!! エリック」

 そして、布団の中でエリックの肌の感触を感じて私は声にならない声を上げそうになった。


「&%$#!! 昨日……」

 私が布団にもぐろうとすると、エリックに抱き寄せられた。

(ひえ~~~~。服!! 服はどこ??)

「ふふ。ああ、可愛い。こんな顔誰にも見せたくないな」

 するとエリックはこれまで聞かせたこともないほど甘く囁きながら言った。

 チュッ♡

 そう言うと触れるだけのキスをして、私の手を取った。
 そして私の手にエリックの瞳の色である深い青色の宝石の付いた指輪を手につけてくれた。

「これは?」

 私が尋ねると、エリックが本当に嬉しそうに笑った。

「ああ。やっと渡せた。
 いつか渡せる日がくると、ずっと前から用意していたのだ」

 ふとベットの横に置いてある指輪の箱を見るとその箱には見覚えがあった。

「それ……いつか一緒に宝石を買いに行ったお店の……」

「そうだ。私への宝石ではないがな……」

 エリックは少し拗ねたように言った後、片眉を上げて笑った。

「でも、ようやく渡せた!!」

 そうして私をぎゅっと抱きしめると本当に嬉しそうに言った。

「ベルナデット!! 愛している!!」

 私はエリックの首に抱きつき、キスをした。

「私もです!!」

 チュ♡

 と触れるだけのキスをすると、エリックが色気のある声で囁いた。

「ベル。今日と明日はなんの予定もない。このままもう少しいいだろうか?」

 きっと私の顔は真っ赤になっていただろう。
 エリックの甘い声と瞳に私は頷くしかなかったのだった。



 
 その日私がどうなったか?


 そんなの!!!


 エリックと私だけの秘密です……。









【エリック ルート エピソードエンド!!】









ーーーーーーーーーー


これにてエリックルート完結です!!
長い間お付き合い頂き、本当にありがとうございました!!

応援、本当に感謝しています。
ありがとうございました!!


この後は、
SIDEエピソードと、後日談で完全完結となります!!


もうしばらくどうぞよろしくお願い致します。




しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。

成功条件は、まさかの婚約破棄?!

たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する・・。」 王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。 王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、 それを聞いた彼女は・・・・? ※若干改稿したものを、小説家になろう様にも掲載させて頂いております。

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...