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第1章

194話 貿易開始

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山賊を討伐してからしばらく経ち商業路の安全が確認されたのでようやく南北を結ぶ交易の解放が冒険者ギルドより宣言された。今までは山賊のせいで安全な輸送が出来なかったがトヨクニ男爵が統治することになりその問題は解決した、しかも新領主は商隊からは通行税を一切取らないという。

これを喜ばない商人たちはいなかった。すぐさま南北を繋ぐアットナイド地方に多数の商人の荷馬車が行き交うようになる。

「ええと、ピンドス商会の荷馬車ですね。どうぞお通り下さい」「はい、この通行書は本物ですね。お返しします」「運ぶ商品は麦ですか。良い旅を」

荷馬車が長い列をなす。

ここで行われるのは運ぶ商品の中身と通行書の確認程度だけ。他の領地では当たり前の通行税の受け渡しは一切行われない。そのため、ほとんどの商人の荷馬車は煩わしい金の受け渡しをせずに通れるのだ。

ユウキはそれらの業務の手順を制定し部下に命じて対応させていた。肝心のユウキはというと、

「お~よしよしよし、元気だなぁ」

のんびりと鶏と戯れていた。

簡単に作られた囲いの柵の中で鶏たちが元気に遊んでいる。地面から虫などを取り地面に撒かれた麦の粒などを食す。

『こけこっこー!』

「ユウキ様!何をこんなところで遊んでいるのですか!!」

シャルティエが叫ぶ。

「遊んでなんかないよ。これは今後黄金の卵を産み続ける鶏の重要な飼育だよ」

「今のところそんな気配は微塵も感じられませんが?」

「今のところは、ね」

彼女らにはこれがクズ鳥にしか見えないようだ。僕から見るとすごく大切なんだけど。結果出してないとこんなものか。

「貴方は職業貴族です男爵です、少なくともそれ相当の立場というものがございます。それを鳥などと戯れているなどとは…」

「酷い言い方だなぁ」

僕は本気なのだけど周りが理解してくれない。仕方がない、結果を出さないと潰されてしまうなぁ。

僕は趣味でこの養鶏をしているわけではない、しかるべき理由がある。

どちらもクズな鶏だがある知識を使えばそれを完全に覆せるのだ。現代で言う『一代交配』だ。一世代だけ互いに違う品種を掛け合わせて両者の良いところだけを遺伝させる。そうすれば上等な鳥となるのだ。とはいえ、現代のような技術や施設も無いので自然交配をしなければならないからちょっと手間ではあるが。

もう少し時間が必要だ。

「商人らの荷馬車の数は」

商人たちがどれぐらい来ているのかをシャルティエに聞く。

「もうすでに五百を超える荷馬車通りました。この分では日暮れまでに八百は通るでしょう」

よしよし、出だしは好調のようだ。

「しかしながら」

本当に通行税を取らなくてよいのか?確かに普通ならば取る方が良いだろうがそれはここで取れる宝石の原石の販売で事足りるし。ここで滞在すれば食事や飼い葉や水などにはお金がかかるようにしてある。何よりもここで取れる宝石と交換したいという人々が来ることは間違いない。

だからころこの領地内ではここでしか通貨の換金と交換が出来ないように両替商を独占しているのだ。たとえ誰が相手でもこれは絶対に変えない。

さて、もうそろそろ来る頃かな。

翌日。

「我々は北方で商いをしているミクト商会と申します」

「どうも」

「早速商品を確認したいと思います」

彼らに原石を見せる。

「うむ!噂には聞いていたがどれもこれも粒が揃っている!これは見事」

商人らは原石を見て目の色が変わる。早速目利きをして袋にいくつも原石を入れていく。なお、金額の換算方法は古典的な『重量』だ。本当だったら品物の中身を確かめたいがあいにく目利きが出来る人材が僕しか存在しない。だから手元に置きたいのはより分けている。

弾かれたのは平均的な原石ばかりだが他の場所では取れないので結構な値段になる。

重さを測るために天秤にかけて片方に原石片方に鉛を置く。その釣り合いが取れたのが値段になる。

ギィッギイッ

大きな釣り天秤に徐々に重りを足していく。重さが釣り合ったところで鉛の重りの分だけの金額を査定する。

「この値段になります」

両替商が重りの金額を査定して値段を紙に書く。

「ふむぅ、妥当…。といえば妥当であるな」

周りの男らと共に相談を始める。

現在宝石は完全に品薄状態であるため原石のままでも値段が高騰している。その値段設定は僕が自由にできるが冒険者ギルドから釘を刺されている。

『幾分か余裕を持たせてください』

ようするに、余裕程度分くらいは残せということだ。今後貿易が大きくなるのでそちらで回収し原石で商人らを呼んで欲しいと。

「わかった、これで」

すぐさま代金を渡される。最初の取引はこれで終了のようだ。革袋は大きく重かった、中身はちゃんと確認する。業腹な商人は中に砂を入れたりして重量を誤魔化すこともあるからだ。

その後もひっきりなしに馬車が往来してくる。

「トヨクニ男爵様、良い商品を仕入れてきました」

ちょっと小気味よい笑顔をした商人がやって来た。

「なんだ」

仕入れてきたのは塩のようだ。

現代世界では塩はどこでも安価に購入できるが専売しているのは限られている、この世界も同じで王国などがその販売製造権を独占していた。厳しい法律であるため冒険者ギルドでも手出しができない。

軍事物資として塩は欠かせない、なるほど。まだ確固たる補給路が出来ていないのを見越して塩をもってきたという所か。

これを見逃す手は無いな。

「いくらだ」

値段を紙に書かせると意外な金額を書かれた。

「この値段で売るなら南部に持って行った方が高いよ」

それは明らかに安かった。このまま南部に持って行った方が良い値段で売れるのは間違いない。何か裏があるのだろう。

「へぇ、塩を売るというのは建前でしてね」

この商人が本当に売りたいのは情報だった。

「ここより北部との境目でゴタゴタがおきましてね。この領地内では通行税を取らないし安全も保障されてるんで商人たちは喜んでここを通るんですが。北部の連中はそれが気に食わないそうで」

検問と称して賄賂を要求したそうだ。

「つまるところそいつらをどうにかしてほしいと?」

「ええ、ちょっとばかり痛めつけて欲しいんですよ」

「お前は何者?」

「自分は北部で商いをしてるものですがいくつかの組織の連絡役でもあります」

北部としてはここが通行税を取らないことは大歓迎だが欲を張った連中はどこにでもいるわけだ。ったく、下手に配慮したのが裏目に出たか。

仕方がない、掃除をしに行くか。
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