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第1章

193話 女らの打算

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アットナイド地方を統治するユウキ・トヨクニ男爵と成ったユウキを傍で補佐するミーティア。彼女はスフィア夫人の側近であり優秀な文官だった。

主からの命令で新たに立つユウキを補佐するように命じられており新たに解放された領地ではユウキの片腕として差配をしている。

また、ここに送られてきた女らの相談役でもあった。

『ミーティア様』

「なんでしょうか」

ここに送られてきた女らの中でリーダー格であるシャルティエアーニーユーリカ三人が相談にやって来た。彼女らの聞きたいことは分かっている。

『男爵様への嫁入りと、私達の妻としての順位はどのようになるのでしょうか?』

そう、新たに職業貴族としてトヨクニ男爵と成ったユウキへの嫁入りできる時期、そして妻としての順位。それはどのようになるのか。

「(当然と言えば当然なのでしょうが、嫁入りの件についてはもうちょっと先かなぁ。順位も今後妻が増える一方なのを考えると高い順位は難しいですね)」

ミーティアは冷静にユウキのことを評価しこの問題は「時期尚早」と判断した。

このアットナイド地方はまだ解放されたばかりであり住人が少ない、大半が派遣された労働者で構成されているので定住者がおらずほぼ掘り出しのみであること、加えて交易上重要な土地であることが起因していた。

ここより北部は沿岸地帯に接しており塩の製造が盛んである、それだけでも重要であり西には深い森林地帯と湿地が広がっており非常に農業に接していた、それだけではなく東には豊富な山脈があり現時点で大量の原石が掘り出されていた。加えて川の水量は安定していて用水路を引けば豊かな農地になるのは間違いない。

南とは当然貿易が盛んであり塩を含めて物流の要である、そのような土地なのだ。ここを治めることがどれほど莫大な財産なのかは説明するのは難しくない。

我が主の祖先のころから開発の話題になっていたが山賊の横行や世襲貴族の愚かな判断により統治できない状況に変化した。それをユウキ様が見事に解放したのだ。

当然、その恩恵に預かろうと冒険者ギルドと主は率先して援助をしてきている。ここに相談に来た女らはその代表者ともいえるだろう。

彼女らは寄子の娘らであり器量も良いと噂されていた、皆年頃なので当然見合いの話も上がっていた。それをいきなり送ってきたので期待の高さは誰でも分かる。

上手いこと入り込みユウキの傍に居ようと、かなり熱が入っている。

ユウキは自分のことについてあまり語ろうとしないがかなりの美丈夫なのだ、顔立ちはこの辺りでは存在しない黒髪黒瞳で顔立ちはとてもよく体つきもすごくいい。シシンになった時は性別が本当にわからなくなるほどである。加えて特化戦士として武勇は大陸でも抜きんでており指揮官としても優秀であると同時に知恵者でもある、時々行動の本意が分からないこともあるが総じて優れていた。

職業貴族として任ずるにはそれ相応の実績が必要なのが冒険者ギルドの原則だ、なので代爵に任じてからの結果を得てから任ずるのが普通である。そのため代爵扱いのままの身分が多く任じたくても難しい場合がある。実入りも玉石混合で格差も大きい。

そのため、いきなり男爵というのはかなり難しい例なのだ。

女から見ると大切にしてくれて安心して子を産めるという男を選ぶのは必然だった。話を戻そう。ここに来ている女達の質問だ。

『どうなのでしょうか?』

「…」

私はしばし沈黙する。

う~~~~ん。

ユウキが普通の冒険者としてならば即座に傍に居る女らも含めて嫁入りを許可させるのだが、彼の背後にいる相手が問題だった。

ユウキの背後にいて支援している三家、グウェンドリン公爵家、ヴァーガッシュ侯爵家、ホーリーヴェール辺境伯家は国の所属こそ異にするがここ西方の地にも伝わるほど名声と評判、そして実力を備えた大貴族様だ。

ユウキと彼らがどのように出会い約束を交わしたかについては何も知らないが数々の武装を譲り渡したことを見ると信頼は相当に厚いと見ていいだろう。婚約の話も上がるほどに。

それらを差し置いて妻の順位を決めればまず間違いなく関係が壊れてしまう。そのため、その手の話をこちらで勝手に進めるわけにはいかない、と。冒険者ギルドで慎重に調査をしている最中だと聞いている。

このためユウキは身辺に女を置いても指一本手出しをしていない。義理を立てているのだ。

現時点では嫁入りの約束は出来ても子供は作れない、そう考えた方が良いだろう。どんな女が来るのかは分からないが相当な才女であるのは間違いない。側室以上は明確な順位付けを終わらせた後でないとどうしようもないのは明らかである。

となると、妾か愛人くらいにしかなれそうにないな。他の普通の家なら正妻になれるがユウキが相手だとそれも難しい。

普通の家に嫁いで正妻になるか、大貴族になるからという前提で愛人になるか。

女という生き物は一番でないと愛されていないという考えがある。他にも女がいて一番ではない、その心情を受け入れられるかどうか。こればっかりはなぁ…。

ともかく、ユウキという男にどれほど尽くす価値があるのかどうか判断させてから結論に達しても遅くはないだろう。

「私から言えることはただ一つよ」

各々がユウキの行動と考えを聞いて、その結果を出した時。どのように思うのかどうか。

『今現在ユウキ様は私達を女として見ていないと?』

「そうね、少なくともこの領地の基盤を整えるまで恋だの愛だの女にかまけている状況ではないのは確か。というか、女なら他にもいるわけですから」

その方面に通じた女は金で買えるわけなのだ。我が主はその手の女も検討してるぐらいだ。ある程度の職業貴族家の跡取りはユウキぐらいの年齢になると経験済みの年頃の女を宛がわれる風習があるからだ。

あんまりいい風習とは言い難いが女に飢えて犯罪を犯すよりかはある程度マシなので黙認されている。我が主は当然その風習を知っているのでユウキに聞いたのだ。

『えっ!女性と肉体関係になったことはあるか?ですか』

『あんまり喋りたくはないかと思うんやけど寄り親としての責任や』

スフィア様も女として聞きずらかっただろうが寄り親なのでその質問をせざるを得なかった。他に女が居て約束を交わしていないかどうか。

ユウキはもちろん、

『あの馬鹿勇者らの後始末でケアをした女の子たちはいますが…』

初体験はまだなのを教えてくれた。

『ほんなら、うちらが女を斡旋しよか?』

『御免被りたいのですが…』

ある程度の知識は有しているが今は女にかまけている時間もなので…、やんわり断られた。

「(別にこのぐらいはどこにでもある話なんですけどねぇ…)」

私は不思議に思う。ちゃんとした女を選んであげるというのになぜ断るのか?普通の男なら女に飢えているはずなのに。

ユウキは別に聖人でも何でもない。このぐらいの欲を満たすぐらい誰も咎めないだろう。まぁ、ともかく。今は今の問題をどうにかしないと

「無私無欲で褒美を配るほどユウキ様は無能ではないわ。少なくとも、女として求められたいのならば自分の役割を全うしなさい」

『は、はい…』

三人はそうして帰った。

ヤレヤレ、優秀なのに欲を言わない男がこうも扱いづらいとは思ってなかった。ユウキは領主としては恐ろしく有能なのに。

別に女に関心がないわけじゃない、ここに来ている女らには注意を払っているし声もかけている。ただ、何となくだけど女に対しては「危険な目に合わせない」という感じだろうか?このご時世にそこそこ程度の女の身など人質にすらならないというのに。

とはいえ、我が主からの厳命で補佐を任されているのでそれとなく女を教えてあげないと。
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