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第1章

182話 領地開発Ⅲ

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これまで山賊団に占領されていたアットナイド地方が解放されたということで徐々に人の行き交いが増えてくる。そして、その地方を職業貴族として任されている僕に顔見世をしに来る人々も数が多い。

「初めましてユウキ男爵殿。大地神に仕える神官の一人でアルガス・サダルートと申します」

「初めまして。ユウキと申します」

「今まで山賊どもに占領されていたこの地域を解放していただきましたこと、我が神も非常に喜んでおります」

挨拶はごく普通だった。ごく当たり前に一神官としての挨拶だ。ただし、ここからは双方の利益に関する話となる。

「我らが神官長や司祭様らはここに神殿や教会を建てたいと申されております。どうでしょうか?ここに我らが信徒を受け入れてもらえないでしょうか」

我らが信徒、というけど。要するに自分の信仰をここで認めて欲しいということだ。この世界には『天空神』『大地神』『海洋神』『精霊神』『秩序神』『技術神』など数多の多神教なのである。天の恵みに感謝する者もいれば大地の恵みや海の恵み、果ては技術の恩恵に感謝する者らもいるわけである。

彼らはそれぞれに神を生み出し信仰していた。どこの世界でも信仰に縋るものは多い。それは人の営みを見れば明らかだ。彼はあくまで善意による秩序社会を望んでいる、他教徒とは距離を置いて境界線を引き無用な争いを控えていた。

時々過激な思想を持つ狂信徒に手を焼かされる場合もあるがいたって平和な組織である。

「貴方達はどの神を信仰しておりますか?」

一応確認を取る。僕としては大地神を望んでいるが。

「我らが主神は大地神マーレルの子、マルヴェ―ラを崇めております」

よし、都合よく合っていた。神の名も正当な物だ。とはいえ、まだ前交渉の段階だ。ここから条件を詰めていかないと。

「僕はすべての神々を公平に認めておりますが大地神とは最も縁が強い。後にここにも他教徒が入ってくることになりますが最初が大地神というのは幸運です」

「おおっ!では、我らが神をお認めくださるというのですね」

「神殿を建てたいというのなら土地を用意しましょう。しかしながらこちらはまだ職業貴族として成ったばかりでありあまり過分な援助は難しい。神殿を任せるというならば神官長や司祭にこちらに来てもらわなければならないことになるますが」

「もちろんでございます。我らが神に仕える者にとって試練はあって当然です」

それではよろしくお願します、と。神官に正式な書類を書いて渡す。

「土地については豊富にありますから案内をいたしますが」

神殿は基本的に相手側の都合によって決まる、購入が出来ないし移動も出来ないからだ。まだこの異世界には建物の移築を可能とする技術知識がないしそんな発想すらないのだ。

相手側からすると多くの信徒を集めたいので都市や町の中心地を望むことが多い。だが、まだここには労働者が働く場所しかない。後の都市開発計画はまだ考えてないのである。

「先に申しておきますが。まだどこが中心地になるか予定が立っておりません。いきなり神殿を建てるより仮初の教会ということにして建設予定候補地を視察なされた方がよろしいかと」

「なるほど」

どうせ土地の持ち主は僕なので建設予定候補地などどうとでも都合が付けられる。まだ更地しかないので建築技師や図面を描ける測量士なども必要だ。

相手側がどれほどの資金を投じるのかはまだ未確認なのである程度土地を開けておけばいい。そうしてここに来た神官は笑顔で帰ることになる。

もちろん、僕は教会の影響力を良く知っているので「お布施」という寄付金を渡す仕組みを知っていた。なので、袋に詰めて渡す。中身は金銀のインゴット数枚と大きな原石をいくつか。相手は最初断ろうとしたが受け取らないと今後の交渉が難しくなると考えて笑顔で受け取る。

多分、帰ったら中身に驚くことになるだろう。

次に来たのは商人らだった。

「初めまして。マクムート商会交渉係のレヴィンと申します。後ろの者たちは他に商店を営んでいる者らです」

「初めまして。ユウキと言います」

早速で悪いが現物を見せていただけないかと。僕はここで産出された宝石の原石をいくつか木の台の上に置く。

『おおっ!これは凄い!』

原石を見た途端顔色を変える連中、だが。

「先に申しておきますが。原石の購入に当たっては領内の取引における法を順守していただきます」

僕は領地内においては貨幣の交換は僕が認めた両替商でしか行えない事、貨幣の交換率を古来の四進法から十進法に変更したことを伝える。

それを聞いた商人らはすぐさま原石購入に当たり値段の算定を始める。

「ユウキ様、聞いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「両替の独占はともかくとして古来の進法を変えるとなると」

我らの利鞘がかなり少なくなる問題を聞いてくる。

「そのためここ以外の地域との移動税は全て無しにしておりますし他地方から入手した商品に関しての税は幾分か下げております」

これはあくまでここの中だけの税であり通過するだけならば何も取らないと。しかし、地理的に無補給で通過するのは不可能。移動用の馬車に引かせる馬など水や飼い葉を与えたり自分らの食事も必要、なのでどうしてもここに補給拠点を置かざるを得ないことを僕は先に調べていた。

確かに利鞘は少なくなるがここに拠点などを置く必要があること、領主である僕に顔と名前を覚えてもらうこと、それらの諸費用や手間暇を考えると取り返すことは難しくないと判断したのだ。

「ミーティアさん、ごめんね。色々と仕事が増えて」

スフィア夫人から派遣されていた彼女には文官が不足していることで多くの仕事が割かれていた。

「お気になさらず。私の弟が家臣入りすることを認めてもらいましたから」

彼女は此度の仕事への恩賞に「自分の弟を家臣入りさせて欲しい」と。そう願った。もうすぐ成人するそうだ。僕としては彼女の能力は大きく認めていたしそれぐらいで彼女を今後とも使えるならということで了承したのだ。

「姉の目から見てどうなの?」

「まだまだ気弱な面が多くありますが私と同じく政治を学び文官として優秀ですよ。スフィア夫人も可愛がっているので」

悪い子でないらしい。

とはいえ、まだまだやるべき仕事は数多いから頑張らないと。
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