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第1章

178話 山賊団討伐戦 Ⅲ

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味方が一斉に山賊に襲い掛かる。

「わ、我らは貴族家の家臣だ!なぜ武器を向ける!やめろ、やめるんだ!」

敵のそこそこ身なりが整った連中がしきりに騒ぐが味方には届かない。かなりの世襲貴族が山賊と癒着し通行税を取っていたのは周知の事実であり自分らも山賊行為に加担していたからだ。

そのような連中なので職業貴族からの評判は最低である。ここにいる時点で同罪なのだ。

そのような連中なので味方からすれば手柄稼ぎの的である。連れてきているのは職業貴族の次男三男など親から継げるものがない身分の子供たち。戦闘経験も乏しく年若い彼らは独立したいと考えてるが先立つものがない。

そのため、僕が支払う恩賞が何が何でも欲しいのだ。うまくいけば家臣として入ることも出来るかもしれない。僕が職業貴族として男爵位であり豊富な資金を持っていることは全員知っているので何としても手柄を立てたいのだ。

僕としても真面目に働く兵隊が欲しかったから利害の一致というわけである。

そうして、味方は武器を手に取り敵に襲い掛かる。

「前にいるのは敵だけだ!皆、前に進め」

『オオッ!』

先を競って敵に襲い掛かる味方、相手の言い分など聞く気などさらさらなかった。奴らは山賊であり治安を乱す悪い敵。それを討伐しろという大義名分までこちらは持っている。ここで手柄を立てれば恩賞がもらえ独立することも夢ではないとなれば皆必死にもなるか。

そうして、味方は勢いを増して敵を倒していく。

「エルヴイン。この光景をよく覚えておいた方が良いよ」

「分かっております」

僕はここでエルヴィンを傍近くに呼んで忠告した。

世襲貴族も職業貴族もその子供らは皆手柄を立てるのに必死にならないと無能な無駄飯ぐらいになるということ。戦で手柄を立てたいと望むものも多いが平和な時代なため戦は起こしづらい。

平和な時に手柄を立てるのがいかに難しいか、そして、立てる機会を望むものがどれほど多いのかを確認させる。

「何人殺した?」

「…三人、です」

初陣で3人殺せればそれなりに出来る方だ。酷いと何もできずに殺されてしまうからね。問題はこの後だ、人殺しの経験は後に残りやすい。戦いの最中は興奮しているため認識しづらいが平常になるとその感触に恐怖を覚えてしまう。

戦争症候群というやつだ。

こればっかりはどうにもケア出来ない。しばらく不安におびえるだろうが乗り越えてもらわないと。

先ほどまで最前線に出て無双状態で敵を倒しまくったがここは連れてきている兵隊に任せていた。僕がすべて倒すことも可能だがそれでは連れてきている者らが手柄を立てられなくなる。幸い敵の数は少ないのでここは場を譲ることにした。

意気盛んな味方に押されて徐々に敵の数と勢いが減っていく。

「負傷した味方は後方に下がり治療を受けて。まだまだ先は長いのだから」

『ははっ』

こちらにも少しづつ負傷者が出てきた。幸い回復用ポーションや傷を塞ぐ軟膏などは事前に大量に用意してきたので無理をさせず下がらせる。

こちらに押された敵は形勢不利になってきて後方に逃走し始める。

「退けっ!退けっ!後方の建物に逃げ込むんだ!」

ここで格上らしき男が叫び敵は後ろに逃げだした。よし、これで周囲の建物の中身を確認に行ける。数人の隊に命じて建物の中を確認させに行く。

しばらくすると戻ってきた。

「報告を」

「はっ。建物には通貨や装備などが多数混在しており、その……」

ここで伝令が口ごもる。

「女性がいたんだよね?」

「は、はい…」

伝令の様子を見るにまともな状態ではないのは明らかだった。予想はしていたので僕は平然としているが年若い兵士には刺激が強いだろう。

「彼女らを保護して後方に下げさせて」

「了解しました」

伝令はすぐさま行動する。

「やっぱり、出てきちゃったなぁ」

「山賊どもの横暴はよく聞いておりましたが」

『許せません!』

若い女を攫ってきているとは、さすがに同じ女として思う所があるのだろう。ミーティアやリフィーア達は怒り一杯だった。

男という生き物は元来そうなのでどうしようもない僕は返答に詰まる。まだ山賊砦の制圧は半分しか進んでないので前に進まないとならない。

退路確保の兵士を置いて奥に進む。

「あーあー、亀のように丸まって」

奥に進むと木材で組んだ高い壁が現れた。多分本丸だろう。生き残りの山賊は全部この中にいると考えた方が良いな。扉はガッチリ塞がれておりそう簡単には通れそうにない。

「ユウキ様、どういたしましょうか」

「強引に突破するしかなさそうだよね」

「しかしながら扉を破壊する兵器などは用意してきてません」

「まぁ、僕に任せてよ」

このぐらいの扉なら無理矢理こじ開けられる。僕は魔法のバッグから太くて長い丸太を取り出す。それを抱えて扉に突撃を仕掛ける。

ドスーン!ドスーン!ドスーン!

何度となく丸太をぶち当てる作業を繰り返すこと数十回、ついに扉が開いた!

「内部に侵攻し制圧作業を!一人も逃がさないで!」

『畏まりました。皆、行くぞ!』

味方は我先にと最後の本丸に突入する。僕も急いで前線に加わる。強力な魔術を付与した装備を何度も使い敵を減らしていく。数時間後、ついに山賊の砦を制圧することに成功した。

「味方の損害は?」

「重傷者はおらず軽症者が二十人ほど」

どうやら死人は出なかったようだ。

「捕虜はどれぐらい出た」

「四百人を超えるほど」

最後の本丸に立てこもった山賊が意外と多くてかなりの抵抗をしたのだ。僕が出て迅速に処理しないとならなかった。奴らも僕を見てこれ以上の抵抗は不可能だと判断し降伏したが。

「捕虜とか攫われてきた女らはこっちで全部引き取るとスフィア伯爵夫人に伝えておいて」

「了解しました」

伝令に山賊団の殲滅が完了したと依頼主に伝えておくように命じる。さて、ここからが問題だった。

「ガオム」

「はっ」

「この砦の防備は任せるから」

「了解しました」

ここには五十人ほどを置いてガオムに任せることにした。エルヴィンを副将に昇格させる。捕虜は全部宝石鉱山に連れていき原石を採掘させる、これで資金面は何とかなるだろう。ミーティアさんにここの統治を僕が預かることを伝えておく。

「通行税はどうなさいますか?」

「通行税、かぁ」

ここは交易の要所なので通行税を支払うのがほぼ通例化しているが、

「一銭も取らない」

「えっ?」

とても驚かれた。

「通行税を取らないというのですか」

「うん」

「それではお金が生まれませんが」

「別の方面で回収可能だから」

「はぁ」

宝石鉱山でかなりの金額が取れるので通行税など取らなくても収支は十分に釣り合う。とはいえ、取るものはしっかりと取るけど。そのあたりのこともちゃんと考えていた。

さて、ようやく手に入れた自分の領地。開発させてもらいましょうか。
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