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第1章

179話 周囲へ与えた影響

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『冒険者ユウキ率いる部隊がアットナイド地方に巣食う山賊団を討伐した』

この報が討伐隊に参加していたスフィア伯爵夫人の兵士によって冒険者ギルドに届けられた時、冒険者ギルドは今までにない大騒ぎとなった。

アットナイド地方に巣食う山賊団は東西南北の地方をつなぐ交易の要衝で塩製造が盛んな北地方をつなぐ交易最重要の地だった。そのため商人らの通行が盛んでありそれを狙う山賊団の存在は常に悩みの種であったのだ。

冒険者ギルドでもその存在は悩みの種であり過去に何度となく討伐の議題は上がり冒険者を派遣もしたが砦に立て籠る山賊をどうしても排除できなかった。

その元凶は多数の世襲貴族家にあり、懐柔や和睦という建前で山賊どもに資金や物資などを提供していたからだ。中には山賊に交じり通行税を取っていたという事実さえ存在していた。

ここまでされてはさすがに冒険者ギルトとて黙っているわけにはいかず世襲貴族らに説明を要求したが「そんな事実は存在しない」頑なに拒否されてしまった。

そんな中での討伐の報告である。

冒険者ギルドは大至急会議を開く必要があった。

「さて、皆様の元には書類が用意されており報告もご存じだとは思いますが、いま一度ご確認ください」

リサギルド支部長と幹部一同が会議室に集まり緊急会議を行う。

「スフィア夫人、この報は真なのでしょうか?」

一人の職業貴族が質問をする。

「間違いあらへんわ。ユウキとうちが派遣軍として提供した部隊がアットナイド地方に巣食う山賊団を討伐した。その事実は動かへん」

スフィア伯爵夫人は自信を携えて明言した。

「で、では。今後山賊どもの横行は無いことになりますな」

全員が安堵する。あの山賊どもはか相当な額の通行税を取っていたので商人らの評判が非常に悪い、加えてその背後にいた世襲貴族らは自分らも加わって通行税を要求していた。それが今後は冒険者ギルドの管理下に置かれることになったので喜ばしいことこの上ない。

「ユウキ男爵殿は何と申されておられるのですかな?」

「報告では常駐させる部隊と領地とするために必要な役人らやな。それ以外にも両替商や宝石商人らの斡旋もしてほいそうや」

「両替商はともかくなぜ宝石商を?」

「そのあたりはうちも知らんけどなんか見つけたんやろ。詳しい内容はうちも知らへんけどな。人手が圧倒的に足りへんそうやから急ぎ用意してほしいそうや」

「では、前々から考えられていたアットナイド地方役員の任命に移りましょう」

リサギルド支部長の言葉によりあそこに常駐させる役員の任命に移る。職業貴族に任じてその土地を治めさせる制度を採用しているが職業貴族の世代交代などの理由によりそれを補佐する役員をその規模により任命するのが冒険者ギルドの常識になっている。

同じ職業貴族の中から任命するのが通例であり基本的にその土地を治める職業貴族より下の爵位を任命している。統治体制を協議したり助言したりと責任がある仕事であるため実績だけではなく信頼も無ければ任命できないようになっていた。

「最低でも治安維持部隊と各種交渉を多なうため七人は任じておきたいところや。領地の開発や町の建設なども後々やらんといかへんからなぁ。ユウキが命じている食用キノコの需要も日々増えてることやし森林資源の確保も考えておかんといかん」

「そうですなぁ、食用キノコの養殖で木材資源が値上がりを始めましたから」

「あそこはまだ開発の手が入っておりませんから何がしかの特産品も出るとありがたい」

会議は前向きで建設的に話が進められるが、

「と。なると。今まで山賊らに擦り寄っていた世襲貴族らに対しての対応をしておく必要がありますね」

やはりというか。

その議題が上がる。

今までは山賊らの勢力が大きすぎてどうしようもなく、媚びるしかなかった世襲貴族らだがその山賊が討伐されたとなれば欲を出すかもしれない。

連合を組んで武力でアットナイド地方の制圧を行う可能性が飛躍的に高まった。せっかく討伐できたのに奪い取られては元も子もない。急ぎ部隊の新設をする必要がある。

「ユウキ男爵を統治者兼地方将軍に命じて周囲を牽制しましょう」

『了解しました』

リサギルド支部長はユウキをアットナイド地方初代統治者に命じる旨を出す。これでユウキは押しも押されもせぬ職業貴族となったのだ。

「スフィア夫人とその当主はユウキ男爵の寄り親となり後見するように。任命はすぐさま出します」

「承りました」

「それと。ユウキ男爵に対する恩賞もここで決めておきます」

恩賞は領地内の関税をある程度自由に取り決められる権利とその下にいくつかの役職を新設し自由に決められる権利が与えられた。

そうして会議は終わる。

「スフィア夫人」

「なんや」

リサギルド支部長は会議が終わるとスフィア夫人だけを引き留め個室へ連れていく。

「今回のこと、どう思いますか?」

事前に連絡を受けていたがあの山賊団を壊滅させるほどとは予想してなかったからだ。打撃を与えればよい方で撤退してきてもおかしくない戦力差だった。

「う~ん。うちもあの山賊団には煮え湯を飲まされていたから分かるんやけど」

あれは山賊団という規模を遥かに超えていたのだ。砦に籠れば手が出せなくなるのでどうしようも無かった。

「うちもわずかながら結果を出してくれることを望んてたんやけどまさか壊滅させるとは思わへんかったわ」

「そうですねぇ。私達も頭を悩ませておりましたから」

二人は同意する。

「それはそうと。ジーグルト家の貴金属と砂糖の方はどないや?」

ここで少し話題を変える。先に派遣をしたジーグルト家の状況の方を確認することにした。

「両方ともある程度は量を確保することが出来ます。後は売り場の選別ですね」

「二つとも高級品で中々出回ってないからなぁ。うちらにも融通してや」

「いいでしょう。しかし、ユウキの取り分に関しては内々ということで」

「了解したわ。ユウキとは今後とも仲良くなかよ~くしとかへんとな」

二人はとても笑顔だった。

「じゃ、未来の発展を願って」

まだ日が落ちてないのにお酒を取り出すリサギルド支部長。スフィア夫人もまんざらではない表情だった。

「「乾杯!」」
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