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第1章

170話 謎の女史からの依頼 Ⅴ

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絵を数点描いて大体のことは終わった。あとは、あの女史さんの所に行くだけだ。

「行きましょうか」

「はい」

ミーティアさんと共に完成した作品を全部持っていく。これで納得させることが出来るだろうか?どうにもまだ不安が拭えないが期日になってしまったのだ。とにもかくにも評価を受けるしかない。

そうして、あの女史さんが待っているという屋敷に向かう。

「(えらく豪勢なところに住んでるんだなぁ)」

そこは高級住宅街だった。相当な資産家でないと住めない邸宅が並んでいる場所、これだけであの女史さんの身元が大体わかるというものだ。そのさらに奥に向かうと一層財を投じた家々らが並ぶ場所に進む。

「ここです」

そこは高級住宅街のさらに奥、大きな庭がある家だった。こちらの異世界では庭付きはよほど財力が無いと住むことは不可能である。

そんな家に住んでいるという女史さんが何者なのか興味が湧くがきつい依頼を投げてきたためあまり印象は良くない。

門を守る門衛に軽く挨拶をして中に入ると、

「(そういうことか!)」

僕に依頼をしてきた真意を知ることになる。

集まっているのは着飾った人々であり生半可な財力ではない富裕層の階級の人間だけ、どこから集めたのかは不明だが相当なコネを有しているのは間違いない。ヤレヤレ、面倒な人に目を付けられたと溜息を吐く。

そんな人たちを横目に見ながら屋敷の中に通される。奥に向かい一室の部屋まで一直線に向かう。

「お?ようやく作品が揃ったんやなぁ。こんな短期間なのによくやってくれたねぇ」

そこには女史さんが椅子に座って待っていた。偉い偉い、と。褒めてくれるのはいいが。

「よくもこんな短期間にあれだけの作品を作らせましたね」

過酷な期日であれだけの作品を作るのは本当に大変だったと。少しばかり怒りをぶつける。

「それについてはひたすら頭を下げるしかあらへんな。ユウキ、あんさんはもうちょっと周囲の人々の評価を再確認した方がええよ。冒険者ユウキとしてだけではなく芸術家シシンとしてもな」

「それは冒険者ギルドが勝手に付けた名前なのですが」

「本人に自覚が無いというのがちと問題やな。ま、それは後で話そうや」

ミーティアに完成した作品の確認を取る。

「ほなら、その作品は庭に展示してや。お客さんは今か今かと待ち構えてるしな」

「分かりました」

ミーティアさんはそうして出ていく。

「んで、依頼の報酬なのやけど」

初級官史の資格と共に男爵に任ずるとのことを伝えられる。

「えらく手が速いですね」

「初級官史試験についての合否はもう出てるし職業貴族としての男爵位はうちが手回ししておいたわ」

感謝してや、そう言われるがそれで何が変わるというのだろうか。

「職業貴族として毎年決まった額を支給するのと制限付きながら領地も所有管理できるのが大きなところや、あとは色々と役職にもつけるしそれを部下に任ずることもできるんよ」

ある程度は世襲貴族と同じようなものだな。

「そんでな、ここからが本題なんよ」

うちの寄り子になってもらえないか?との相談だった。

「改めて自己紹介するな。うちはスフィア・ディレート・アブラムガイス。職業貴族として伯爵家当主夫人や」

「どうりで」

職業貴族は最高位で伯爵までしかなれないように決められている、その当主夫人とは。

「伯爵位を有する者が新米男爵を教育し援助する。よくある話やろ」

「そうですね。別に不思議ではありませんね」

「そうやろそうやろ。なってくれるか?」

「……永久に、ですか?」

「その回答はいずれ独立して家を立てるととらえるわ」

「僕は僕で待っている人たちがいるのですが」

「ふむぅ、冒険者ギルドからの調査である程度事情は理解しておるんやけどあんさんは何者や?」

背後にいるのは何者であるかと、問われる。これは判断が難しい。

僕の出自について説明は出来ない。それを漏らせば馬鹿勇者らがどう動くか。僕が判断に迷うのを見て、

「おっと、そういえばユウキは旅をしながら大貴族らの手助けをしてきたんやったな。優先順位はそっちの方が上やね。無理は出来へんわ」

僕の背後に大貴族家の影があるのでスフィアさんの方から引いた。

「今すぐ返事は出来へんよね。少しばかり考える時間が必要や」

寄り子になるかどうかの返事は後日でいいと。

「ただ、今回の報酬はしっかりと支払わせてもらうわ」

冒険者ギルドあてに送金の手続きを取ると。これで今回の依頼は終わり……、そう思ったのだが。

コンコン

扉を叩く音が聞こえた。

「お入りや」

入ってきたのは十人ほどのメイドだった。

「?」

彼女らは何か布を持っている。

「今日は芸術家シシンを売り出す最初の日や。衣装はしっかりとせんとな」

え、ちょっと。なにそれ?メイドらがもっている服はかなりヒラヒラなのが多い。どう見ても女性用の服だ。

「何をする気、ですか?」

「シシンの芸術作品は見事なんやけど『男』というのがちょっとばかり面倒や。『女』なってや」

そうして、メイドらに取り囲まれる。

「服ひっぺがして着替えさせれや」

『分かりました』

メイドらがじりじりと近づいてくる。彼女らは服や化粧品を持っている。

「いや……その……」

さすがに逃げ出したい。

「男なら多少の恥には耐えるもんやで」

残酷な宣言、そして、メイドらが襲い掛かってきた!
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