勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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お前らとは何度戦ったか忘れた

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「よくぞここまで辿り着いたな。それだけは誉めてやろう」

オーガ。人食い鬼、赤い戦鬼など、呼称は様々だ。まぁ、何であれ熟練者ですら手を焼く存在なのは間違いない。その右手には大きな鉈を持っていた

「魔神様よりこの地を預かりし我は」

「五月蠅い」

《魔弾》を相手の顔に当たるギリギリのところをかすめるように放つ。

「貴様、我を愚弄するのか。これから貴様をな」

「もっと五月蠅い」

今度はかすめるようにではなく間違いなく当たるように《魔弾》を放つ。さすがのオーガも首を曲げて回避する。

「どうやら貴様は勇敢ではなく無謀のようだな。ちょうどいい、ゴブリンどもを統率するのも飽きてきたところよ」

そうですか。ようするにこれから「殺しあいましょう」ということだろう。相手の様子からすると楽には死なせてはくれなさそうだ。ま、それは相手の言い分でありこちらの理由ではないけど。

とはいうが、まずは人質を取り返さないとね。

「《敏捷》《加速》」

自分に魔術をかけて瞬時に人質との距離を詰め持ち上げ洞窟の端まで避難させる。

「ほう、そこらに転がっている連中とは一味違うようだな」

どこか感心めいたオーガの声。

「久々に旨い肉が食えそうだわ」

肉…、ね。まぁ、オーガとはそういうものだ。幾度となく見てきたからね。

オーガはその巨体にあるまじき速さで距離を詰め目前まで迫るとその大鉈を一直線に降り下ろす。確認できる速さではない、反応できる速さではない、切るのではなく叩き潰すというほうが表現としてよいだろう。

だが、僕はそれを瞬時に剣を抜いてガキィンという金属音とともに弾き返す。

「ぬうっ。我が鉈を弾き返すとは」

必殺の一撃を躱すのではなく弾き返す。それがどういう意味なのかオーガは瞬時にして理解した。

「貴様の、貴様のような輩がまだ地上に存在しておったとは」

数多くの戦いを生き延びたものだけが持つ経験、それが出した答えは「古強者」だった。お前には悪いけど僕の平和のために食わせてもらう。

オーガが次に放った手は広範囲魔術による一掃だった。パーティならそれでもいいけどこっちはソロなんだよ。詠唱時間がかかることをオーガは失念していた。巨大な火球を生み出す。

詠唱中に切り殺してもよかったがあえて防御に回る、切っ先をオーガが放つ火球に向ける。

「《防護壁》」

「消え去れ《業火》」

巨大な火球の直撃、でも僕には何のダメージもない。

「ぬうっ。なんだ貴様の剣は」

このオーガはどうやら誕生してさほど時間が経過しておらず力任せの攻撃しか使えないようだ。なら、時間をかけて学習する意味はない、そう判断した。

魔術による攻撃を無力化されたオーガには接近戦しかなかった。自分の怪力を振るえば倒せる、倒せる、はずだ。だが、その目論見は砂の城のごとく崩れ去る、己の全力を振り絞った剛撃が容易く止められてしまうのだ。いくら攻撃を繰り返してもその結果は変わらない。

何度も何度も何度も何度でも。でも、結果は覆らない。

オーガはここで初めての感情を抱く。その名は「恐怖」数多くの相手に与えて続けてきたそれを今度は自分が味わうことになる。そなんなことはないそんなはずがないそのようなことなどない。自分の心を誤魔化すかのように苛烈に大鉈を振うが。

「もう死んで」

ザシュッ、その音とともに大鉈を持っていた右手ごと体が切断された事実に気づくのにほんの数秒かかった。そして、それと同時にある事実に気づく。

相手はただのヒューマンのはずだった。だが、それは皮を被っていただけあり中身は深淵の闇と皆殺ししか見えない巨大な目と無数に伸ばされる絶望の魔の手であったこと。その手はすべてを地獄に引きずり込み自分が捕まったことを悟った。それを確認したと同時に絶命した。

「ご苦労様《イヴラフグラ》」

剣に労りの声をかける。この剣じゃなかったら討伐まで結構時間がかかったはずだ。剣を鞘に納めて人質らに近づく。

「だいじょうぶ、かな」

ちょっとばかりの優しさを込めて聞く。

『あ、ありがと、う、ござい、ます』

か細い声。あれだけ暴行を受けていたが返事はできるようだ。僕はあまり他者に対する労りの言葉を知らないので行動で示すことにした。

「《中位治癒》」

それでボロボロになっていた彼女たちの体を元通りにする。彼女たちはまだ状況がのみこめていないようなのでさっさと仕事を済ませる。

「《収納》」

倒したオーガを特殊な空間に放り込む。普通の冒険者なら討伐すれば後払いで金がもらえるが僕はそれをする気がないのでオーガの遺体を回収しておく。売り先には目星がついているから。《探知》で彼女らと仲間のプレートを探し出して回収しつつそこらのぼろ布で体を隠すように指示する。

6人でパーティを組んでいたけどさすがにオーガは手に負えなかったようだ

さらに奥に行きゴブリンの子供らがいないか確認して終了だ。

彼女らを連れて洞窟の外へ出る。二人は生きてお日様を見たことでボロボロと泣き出した。ま、これが人だよね。僕には分からないけど。二人を近くの村まで連れていき身の安全を確認出来たら忘却してもらう。

《暗示》にかかった二人は虚ろな目で僕を見る。すまないけど僕はまともじゃないんだよ。僕に関わることだけを消してうまく筋書きされたお話に変更しプレートにも細工を施す。

これで彼女らは仲間の犠牲を払いながらもオーガを倒したことになる。

これが救いとは言わないだろうけどオーガの報酬はかなり高いので新たに仲間を入れてもいいし故郷に帰って暮らす分にも不自由はないはずである。僕にはこんな方法でしか答えを出せない。

部屋を出てしばらくすれば自分を取り戻すだろう。後のことは彼女たちが考えればいい。僕は村を去りギルドのある場所まで戻り裏通りに向かう。

一般的に言う「スラム」もしくは「グレーゾーン」と呼ばれる都市の闇。それは統治者から呼ばれる穢れた言葉であり本質は違うのだと僕は知ってる。門番らしき男らが数人出てくる。

「なんだ。ガキがくるところじゃねぇぞ」

踏み込むなという警告。まぁ普通ならここまでなんだけど。合言葉を言う。

「『幸運とは与えられることではない。罪悪とは殺すことではない。人の道理とは所詮言葉だけである』」

男たちはそれを聞くと恭しく頭を下げ奥へと案内する。奥にいたのは魔女と呼称するような老婆だった。

「正式な合言葉を用いてやってくる客人は久しぶりだねぇ」

「どうも」

簡潔な挨拶。

「しっかし、えらく古い時代のものだよ。今現在の合言葉とは違うけどね」

それはいいとして、だ。

「売りたいものはなんだい」

人目に付かず広い場所を用意してほしいとお願いする。そこに案内されたら先ほどのオーガの死体を《放出》した。

「おんやまぁ、オーガとはなかなかだねぇ。しかも死後間もないときたもんだわ」

喜びの声を上げる老婆。彼らは皆非合法の密売人という裏の顔を持っている。それと同時に優れた職人であり商人であり錬金術師だったりとその顔は様々だ。

強力な敵に対抗するには装備が必要不可欠でありそれらを任されている工房がある。あるのだが、量はあるが質は劣る、そういう感じだ。これは大規模な戦で大人数に装備を分配しなくてはならない国の縛りがある。それらの庇護を受け付けない連中らは量より質を重視しオーダーメイドの装備作りに長けている。

だが、そんな装備を作りまくったら王国の鍛冶師は職を失う。なので制作材料を制限して調整をしている。だが、どこの世界にも悪いと分かりながらも誘惑の手に乗る馬鹿もいる。

『このモンスターを倒した証拠が欲しいけど俺らじゃ勝ち目がない』

そのような誘惑に釣られ違法と分かりながらも手に染めてしまう輩は無数にいるし正規の方法では難しい品物も手順を守れば用意できるため「名前は出さないが秘密は守る」了承を得る輩も数多い。

そもそもなぜギルドプレートが討伐した記録を保存するのかという理由はここからきている。訳の変わらない連中が魔王を倒しました褒美ください、騒ぎ立てるのを防ぐためでありその遺体を勝手に装備などの制作に使わせないためだ。

強力な素材がなければ装備が作れない、装備が作れないから敵を倒せない、敵を倒せないから素材が手に入らない、というループである。

ま、これも人の営みが生み出したものであるので解決策はないこともないが現時点では難しいだろう。

「あたしらにいったい何を売ってほしいんだい」
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