勇者育成機関で育てられた僕よりも異世界から呼ぶ勇者のほうが楽で簡単で強いそうなので無用となりました

無謀突撃娘

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自由の身になったけど自分自身のことは何もわからない

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突然自由を与えられ何がどうなってるのか少しばかり考えてみることにした。

「(あの地獄と悪夢と絶望をもう二度と繰り返さなくてよくなったけど僕を保証してくれるものも何もないんだよね)」

苦しい地獄からは脱出できた、でも平和そうな地獄へと場所が変わっただけである。どちらにして自分のことすらわからないのにどう生きていけばよいのであろうか。

安全確実なのは山奥でひっそりと隠れ住むことだろうが老人の言葉に従うことにした。勇者とやらの責任とか何もわからないしどうでもいいが当面の目的は必要だろう。

人里を目指して街道を進む。

しばらく進むとそれなりに高い石壁に守られた場所が見えてきた。入口の扉の前にはそこそこ列をなした人影が見える。大勢の人を見たのはこれが初めてだったちょっと感動してしまう。そこにはありふれた人の営みを感じたからだ。

せわしなく動く人々と平和、それがとても尊いと思う。

やがて順番が回ってきた。門番が僕のことをじっと観察する。

「君はやけに幼いな。旅人か」

「はい」

「身元を証明するものはあるのか」

「ありません」

「……」

対応に困っているようだ。なので先に回答をいう

「地方の農村の子で食い扶持がなくて困っているんです。ここでは冒険者というものを募集していると聞いて」

「そうかそうか、なら問題はないだろうが」

だけども、スラムの住人には近づかないようにと。注意される。入場料は5ユクールだそうでそれを支払い中に入る。

「うわぁー」

僕はひたすらに驚いた。露店とそこに置かれている数々の品、活発な人の動き、立派な建物、その他諸々。まさにそこは僕の想像を超えた場所だった。

さて、門番の案内では冒険者ギルドの建物はやや東にあるそうなのでそこに足を進める。そこには「冒険者募集、新人歓迎」の案内板が書かれた大きな建物があった。

扉をくぐり中に入ると厳つい男や装備に身を包んだ女性らが大勢おりいかにもこれという感じである。いくつかの受付カウンターがあり新規冒険者登録の列に並ぶ。数分後僕の順番が回ってきた。

「新規登録ですね。こちらの内容に目を通し書いてください」

内容はギルドの規則や違反行為はどのようなものかだけで簡単だった。書き込む内容は名前性別種族年齢などぐらいでありごく普通だったが僕にとっては初めてなことばかりだ。

一つ一つ確認しつつペンにインクをつけて書く。文字の書き方が分からないなら口頭で職員が代筆もしてくれるそうだ。だが、僕はあくまで標準的な回答だけのみ書いた。

「はい、これで書類は完了ですが」

少々お待ち下さい、と。その書類内容をもとに奥のほうで何かを行っていた。しばらく待つと灰色のプレート板を渡される。

「これがあなたの冒険者ギルド登録プレートとなります。これを所持していればすべての成果や行動が自動的に記録されますので」

「ありがとうございます」

僕はそれを手にとって一度建物を出て人目のつかない場所に入る。

「成果や行動を自動的に記録するって説明があるということは明らかにまずいよね」

言葉通りならば倒したモンスターの記録だけではなくどのような悪事を働いたかも記録されるということだ。しかもプレートは複数発行は許されてない。文字通りその本人のすべてを記録するということ。僕は最初からまともといえるような行動をする気は一切なかったからだ

地道な山菜や薬草集め、ドブ掃除などで経験を積むのが普通でありいきなりランクが上の大物討伐は絶対にできないことになっている。僕はそれをやろうと考えていたためこのままのプレートでは言い訳ができない。

なので、これを「弄る」必要がある。

「《偽造》《改変》《改造》《改悪》《粉飾》」

複数の呪文を組み合わせてギルドプレートの中に侵入し僕にとって都合よく変えてしまう。

「(さすが冒険者ギルドのプレートだけはあるね。プロテクトは頑丈だし何重にも張られてる上に経路がいくつもあり不用意に手出しできないようになっている)」

僕の受けた訓練内容にはこういった偽造や解除の内容も数多く含まれていた。必要であれば冒険者ギルドですら騙し通せというなのだろうね。10分ほど格闘してプレートの改造が終わった。これでもう僕が何を行ってもプレートから情報を引き出すことは不可能である。

再度冒険者ギルドの建物の中に入り依頼内容が書かれた紙が張り出してあるボードのほうに向かう。

薬草集めや山菜取り、まき割りや水運び、簡単な買い出し、討伐依頼など様々あった。とりあえずということでゴブリンの巣穴退治でもしてみるか。

僕は大まかな場所を覚えた後そこに向かう。目的地まで1時間ほどでたどり着く。そこは古い洞窟のようでゴブリンたちが道具を盗み出して広げている最中だった。

「さてさて、どうなりましょうかね」

僕は剣の柄を握り抜くのだが、

「こ、これって…、この世界にあっていいものなの…」

抜いた瞬間から剣全体から荒れ狂う力の本流。それは聖剣の波動と魔剣の報復と邪剣の憎悪など色々なものが融合しあっていて制御するのが難しい。

勇者育成機関でもそういった装備は無数にあり生き残るために無我夢中で使い敵を倒していたがこの剣はあらゆる力を内包し刀身全体からは妖しい輝きを放ってた。

そして、剣自体から流れ込んでくる正と負の感情。

『目の前にあるすべての存在の富を奪い、許されざる咎を冒してでも復讐を果たせ』

剣から聞こえる明確な意思の声、それを僕は無理矢理抑え込む。

「主に従え《富と咎を成すもの》」

敵を倒すよりもまずこの剣の凶暴性を抑えることに力を注ぎこむ。ほんの少しの時間でそれはどうにか収まったが剣から底なしに溢れ出すこの力、頼りになる反面他人の手に渡ったらどんな惨劇が起こるかわからないな。

ふぅ…。一息入れてゴブリンの巣穴に近づく。門番の二匹を一振りで殺す。殺すのだが、剣から歓喜と冒涜の意思が際限なく流れ込んでくる。それはまるで津波のごとく僕の自我を飲み込もうとする。敵を討つよりもこの剣の制御のほうが大変だ。

「《点火》」

明かりのない暗闇の中魔術で明かりを灯しながら進む。ゴブリンは小柄で弱そうだが子供並みの知恵と膂力と体力を有していて数で押されれば熟練でも危険だからだ。

大振りの剣なので洞窟内では振り回せないと考えていたのだが刀身は壁にめり込まず何もないかのように通り抜け敵だけを切り倒す。

20と数匹倒したがまだ奥が続いていたので警戒しながら奥へ進む。途中で骨と皮で作られたシンボルがあった。マジシャンかシャーマンがいることは確定か。洞窟の最奥まで進む

「シャーマンとマジシャンがそれぞれ2体いるね。取り巻きのホブが数体、あとは女性が2人。でも、その奥にも何か」

おおよその数は計算してたので問題ないが人質がいる。多分依頼を受けた冒険者の生き残りだろう。やることは繁殖行為か遊び道具として痛めつけられるか。どっちにしても不幸なのは変わりないか。人質らは日数があまり経過してないのか新鮮でしきりに悲鳴を上げている。まだ絶望には染まってないようだ。

だが、その奥には何者かが鎮座しているようだ

なら、手早く済ませようか。相手からは見えないぎりぎりの場所で攻撃準備する。

「《闇魔弾》」

剣を抜いて魔術による弾丸を数発生成、それをゴブリンらに向かって放つ。闇属性なので視認性は限りなく低い、全弾頭部を撃ち抜いて即死させる。

「えっ」

当然自分の周りにいたゴブリンの頭部が吹き飛んだのだ。驚かないほうが無理だろう。入口の陰から僕が姿を現し彼女らに近づく。

「来ちゃ、ダメっ」

それは希望ではなく絶望の悲鳴。やはり奥には何かいるようだ。喜びの笑いが奥から聞こえてくる

「くっくっく。まさかここまでくる輩がいるとはな」

それは、オーガだった。
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