血よりも赤い瞳

奈々野圭

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第37話 楽園

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 あるところに、美しい園がありました。

 人類の叡智により作られたその場所は、やがて人口楽園と呼ばれるようになりました。

 そこは、常に穏やかな気候で、春夏秋冬の花々が同時に咲き乱れています。

 美しい風景に他がわず、住民もまた美しいものです。なにせ、老いも病もないのですから。

 しかし、そんな人口楽園を攻撃する悪魔が現れました。

 住民は悪魔に対抗すべく、天使を生み出しました。
 悪魔と戦わせるためです。

 戦いの最中、住民は悪魔を捕らえることに成功しました。

 そして、悪魔に天使の心を与えました。こうして、悪魔は天使になったのです。

 天使は、楽園を守るために戦いました。時折、住民を慰めることもしました。

 日々、戦いに明け暮れる天使。

 突如、天使は住民を次々と殺しだしました。

 住民は、そんな天使を楽園から追放しました。



***

 純は目を覚ました。辺りは真っ暗闇だ。
 暗闇の中、先程まで見ていた妙なビジョンに思いをめぐらす。

 純が眠るのは、命令者が眠るためだ。睡眠中、純が行動出来ないようにするためである。

 純には高い再生能力がある。体を休ませなくても問題はない。なので、睡眠は必要ないというわけだ。

 眠っている時は、スイッチが切れたようになる。ゆえに、夢を見ることもないのだが。

 ここしばらく、智也から「出てこい」という命令を下されていない。だからか、純はずっと眠っていた。

 純はずっと眠っていたかった。「出てこい」と言われるとき、決まって不本意な目にあうからだ。

 陰茎を咥えこまされるのは、まだよかった。
 我慢がならないのは、肛門に挿入されるときだ。

 肛門は生殖器官ではないが、オスには性器だけを挿入する器官はない。オス同士で交尾する場合は、どちらかの肛門に挿入することになる。

 理屈としては通ってはいるが、そもそも純は「交尾をしたい」とアプローチしたことは一度もない。
 そういう欲求がないからである。

 ヒトという生物は、アプローチをしていない個体であっても、無理に交尾をしたがるものだ。
 そういった知識はうっすらとあるものの、実感が伴わない。

 ここ数日で、それを嫌という程思い知らされたわけだ。

 おまけに、智也には佐藤という番がいるではないか。番がいないならば、やたらと交尾したがるのもわからなくはない。だが、いるのならば、話は違ってくる。

 ヒトは、番としか交尾しないのではなかったか。しかも、なぜ自分なのか。一度とてアプローチをしたことがないというのに。

 悪いことに、交尾の最中は意思に反して快感を得てしまう。この手の感覚は無害なものであるとして、シャットアウトができなくなっている。なんでもかんでもシャットアウトすると、肝心な時に感覚が働かなくなるからだろう。

 このことが、純にとっては更なる苦痛の種となった。

 智也がやたら交尾をしたがるのは、体が反応を示してる様を見てのことだ。そこから、自分とは交尾していいと受け取ったに違いない……。

 何ゆえ、元いた人口楽園を追放されたのか。純の思考はそちらに向かう。
 しばらく思索しているうちに、考えがまとまってくる。

 智也には、風雨をしのげる場所を提供してもらっている。なにより、定期的に餌の供給がある。最近は供給ペースがダウンしているのはともかく。

 だが、このままでは、智也を殺す可能性が高くなる。せっかく生活基盤を得たというのに、自らの手で潰す訳にはいかない……。

 ここで純は、なんの気なしに見ていたテレビ番組のことを思い出した。リベンジポルノのドキュメンタリーである。

 身近な人間に、性的な写真を撮られ、拡散されるという恐怖――。もっともそれは、純にとっては、起こりえないことだが。

 というのも、純は姿を映されても、それを認識できないようにすることができるからだ。健太という例外がいるものの、これは極めてまれなケースだろう。

 純は、こう考えた。

 性的な写真を、自らの危急な立場を説明するためのメッセージとして使えないかと。

 智也に、もう一度写真を撮らせるか。いや、今度こそそんなことをさせたら、智也を殺害しかねない。耐え切れる保証がなかったのだ。

 写真なら既にある。顔に精液がかかっている写真だ。わざわざ顔に精液をかけることになんの意味があるのか理解不能だが、ここにも性的な意味があるのだろう。美咲ならば、この写真の意味がわかるハズだ。

 問題は、それには認識阻害がかかっていることだ。固定されたデータ情報を書き換えることができるのか。あいにく、純には書き換える能力がない。しかし、今はその方法しか思いつかなかった。

 急ぐことではない。時間ならたっぷりある。これがダメだとしたら、他の方法を模索すればよい――。

 不意に、クローゼットの中に光が差し込む。智也が戸を開けたのだ。純は智也の目を見つめる。

 そうしているうちに、智也はスマホを手に取った。純はクローゼットから出ると、スマホ画面を覗き込む。そこに写っているものを確認したあと、画面を人差し指で触れた。
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