血よりも赤い瞳

奈々野圭

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第26話 警察②

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 揺れる車中で、智也はこんなことを考えていた。

「あんなことしでかしたってのに、俺はなんでいつものように仕事してんだろうな」

 殺人者が自首をするのは、罪悪感に苛まれてのことだろう。それが人の道というものではないか。

 一方で、こうも言えないか。「人の道を歩むというなら、そもそも殺人など犯さない」と。

 どっちにせよ、もう手遅れだ。悔いたところで、健太は戻ってこない。智也の心は、罪悪感に苛まれることはなかった。

 思案にふけっているうちに、自宅最寄り駅に到着した。
 電車から降りると、駅構内にあるレストランに立ち寄る。

 時間はまだ十八時前だ。夕食というには、いささか早いようにも感じる。だからといって、家で食べる気にもならない。智也はここで夕食を済ませることにした。

 店内には、客がそこそこいる。
 カウンター席に座ると、パスタセットを注文した。
 待っている間、スマホを取り出す。

「どっちみち、愛美さんのことは避けられないよな……」

 意を決して、ペケッターを立ち上げる。そこに流れてきたのは、健太の安否を気遣う投稿だった。

 中には「幽霊に呪われたんじゃないか」などという書き込みもあったが。

 智也は愛美のアカウントを検索する。案の定、安否を尋ねる投稿で溢れかえっていた。読んでいるうちに、心がしくしくと痛み出す。

 健太を死なせたとき、心が凪いでいたのだ。高校以来の友人を死に至らしめたにも関わらず。そのあとも、粛々と後始末をすませる。

 なんという冷血漢か。我ながら、そう思っていたのだが――。

 目頭が熱くなるのを感じたが、ここは外である。オマケに、こんなことになっているのは、自分のせいだ。泣いて許されることではない。むしろ「泣けば許されるのか」と痛罵されるのが目に見えている。

 そのようなことを考え浮かべているうちに、涙が引っこむ。画面をスクロールしていると、こんな投稿が目に飛び込んできた。

『今朝、捜索届けを出しました』

 智也は固まった。

 夜、友達の家に出かけた家人が、翌日になっても帰ってこない。やむにやまれぬ事態になったのか。

 だったら、連絡ぐらいよこせと催促する。だが、既読さえつかない。待てど待てども、一向に連絡が来ない。もしかしたら、事件に巻き込まれたのかもしれない――。

 普通なら、そう思い至るであろう。捜索届けを出すのだって、当たり前のことである。

 投稿時間を見ると、八時きっかりとなっていた。
 これは智也の出勤時間である。そう、いつものように。

「ということは……どうあがいても警察が来る……てコト!?」

 注文したパスタが来るなり、口に放り込むようにしてかっこんだ。
 会計を済ませると、飛び出すように店を出る。

 自宅マンションに到着したが、パトカーらしき車は見当たらなかった。
 そのことにほっと一息ついたが、のんびりしている場合ではない。智也は駆け足で帰宅した。

 自宅に着くと、勢いよく玄関ドアを開ける。開ける時と同様の勢いをつけたため、閉めた時に大きな音を立てた。

 廊下をバタバタと走り、リビングに駆け込む。

 家に上がってきたときと同様に勢いよくドアを開ける。純はソファーに座っていたが、我関せずといった様子だ。テレビがついており、画面には明日の天気予報が映し出されている。

「ここでは天候のコントロールがされていないのか。やはり文明レベルが低い」

「いちいちうるせぇなお前は。だいたい、外出ないからどうでもいいだろ。そんなことより、聞きたいことがある」
 智也は純の話を流す。

「聞きたいこととはなんだ」
「俺がいない間、誰か来なかったか」

「いない間……誰も来ていないぞ」
 純は一瞬、間を置いた後、答える。

「そうか……いや、そうじゃないな……俺がいない間、チャイムみたいな音が鳴らなかったか」
 智也は質問を変えた。

「音か。日中、妙な音が鳴ったような気がしたが。あれは呼出音だったのか」

 純の答えに、全身が怖気だつ。

「どうしていいか判断がつかなかったから、無視したのだが。応答した方がよかったのか」

「出なくていいっ。だいたい、今のお前は認識阻害が……」

「認識阻害」と言ったところで、健太のことを思い出した。健太には、認識阻害が効かなかったのだ。

「警官には、認識阻害、効くよな……」
「警官というのが分からないが、効くと考えられるが。健太が例外なのだ」
「例外……」

 純の言う通り、健太が例外なのだろう。少なくとも、智也には効いたのだから。

「そんな事はどうでもいいや。どっちにしたって、俺に会うまで警官は来るだろうしな」

 現時点では、健太は行方不明扱いだ。だから家宅捜索までされないだろう。殺人事件として扱われていないのだから。それならば警察といえ、家まで踏み込むようなことはしない。
 智也は、そう考えた。

「でも、あれこれ聞かれるんだよなぁ……」
 一体どうすればいいのか。智也は袋小路にはまる。一人、懊悩おうのうしていた――。
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