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第25話 警察①
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「智也……智也……」
枕元で、自分の名前を呼ぶ声がする。低く唸るような声色だ。
智也はこの声を聞いたことがあるような気がした。ひたいから、一筋の汗が流れる。
「智也……なんで俺を殺したんだ……」
智也の背筋が凍りつく。体を起こしたかったのだが、意思に反して動かすことができない。
「おやおや、金縛りかぁ」
体が震え、目がカッ、と見開く。そんな智也の顔を覗き込むように見ているものが、目の前に現れた。
「その顔は、俺が見えてるんだな」
現れたのは、健太だった。経帷子を着ており、頭には天冠をつけていた。
「うわああああぁぁぁっ」
智也は絶叫した。その勢いで飛び起きる。額には大粒の汗と脂汗が浮かび上がり、布団はぐっしょりと湿っていた。
「夢……か……」
智也は辺りを見回す。部屋の中はすっかり白んでいる。
「なんで白い着物着て、頭に三角の布つけてんだよ。クラシックスタイルか」
夢に現れた健太は、古典的な幽霊だった。怖がればいいのか、それとも笑えばいいのかわからなくなってくる。
「嫌な汗をかいたな。そういや、昨日はシャワーしてなかった……」
手元にある目覚まし時計で時間を確認する。六時。今日は出勤日だが、だいぶ余裕がある。
智也は風呂場に向かい、シャワーを浴びることにした。
――三十分後。智也は風呂から上がる。支度を済ませると、リビングに向かった。
中に入ると、純がソファーの上で眠っている。
「……昨日、ここで大それたことをやらかしたってのに……」
言うなれば、ここはバラバラ殺人の事件現場だ。昨夜必死で後始末をしたが、そこかしこに痕跡が残っている。
犯人は純だ。犯行時は涼しい顔をしていた。今も、安らかに眠っている。智也の目覚めは最悪だというのに。
しばらくして、純の目が開く。程なくして、体を起こした。
「おはよう。目覚めはどうだ」
智也は尋ねてみる。
「『目覚めはどうだ』とはなんだ」
「はいはい。変わりはないようで」
要領を得ない純の答えを、智也は流す。キッチンに向かうと、棚からゼリー飲料のパックを取り出す。
リビングに向かい、ローテーブルにパックを投げつけた。
「ほい、餌だ」
純はパックを見るなり、こう言った。
「昨日食した分が、まだ体内に残っている」
途端、智也は全身が凍りつくような感覚に見舞われた。
「昼間はここにいないから、お前に食わせるものはやれないけどなっ。いらないって言うなら食うなっ」
悲鳴を上げる智也。冷静さを失い、ヒステリックになっていた。
「そうか。では食べることにする」
智也の金切り声を聞いても、純は冷静なままである。
ローテーブルまで手を伸ばし、パックを取る。蓋を手でひねると、吸い口をくわえた。
智也はそれを見届けると、家を出た。
「当分、外食だな……」
家を出た後、駅構内にあるコーヒースタンドで朝食を取る事にした。
いつもの朝と比べると優雅と言えば優雅だ。もっとも「長年の友人がバラバラになったところで食事をしたくない」というやむにやまれぬ事情があるのだが。
「引っ越したいけど、今のところがいいし……ここと同じような物件なんて、そうそうないんだけど……」
智也は顔を手でおおった。
「とにかく、今日も仕事だ。社畜は社畜らしく、仕事するに限る」
朝食を済ませ、トレイを返却口に置く。そのまま店を後にした。
いつものように、電車に揺られながら職場に向かう。スマホを手にしていたが、待ち受け画面のままだ。いつもなら、ペケッターを見て時間を潰しているのだが。
「……今頃、大騒ぎになってるよな……」
頭に浮かんだのは、愛美のことだ。
旦那が友人の家に行ったきり、帰ってこない。真っ先に心配するだろう。きっと、SNSにもそのことを書いているだろう。何時になっても帰ってこない旦那を待つ妻……。
いっその事、「旦那は既に死んでいる」と判明している方がよかったのかもしれない。であるならば、諦めはつくだろうから。
だが、愛美はそれを知ることはないのだ。なぜならば、智也の人生が終わるからである。
実行したのは純だ。ただし、命令したのは智也だ。殺人教唆と実行犯、どちらの方が罪が重くなるのか。どうあれ、健太の死が露呈すれば、遅かれ早かれ逮捕は免れないだろう。
「にしても、なんで俺はこんなに冷静なんだろうなぁ」
高校以来の友人を死なせたというだけでも衝撃的だというのに。
死なせただけではなく、その死体を食べさせたのだ。
そのあとも、なんなく後始末をする。普通に考えれば、サイコパス呼ばわりされても文句は言えないだろう。
「愛美さん。申し訳ない。やっぱりこのことは知られるわけにはいかない」
電車が目的地に到着する。いつものように、智也は降車し、職場に向かった。
到着すると、いつものようにタイムカードを押し、いつものように始業した。
これといって特にトラブルもなく、いつものように仕事を進める。昼休憩のときも、いつものように昼食を取る。午後の仕事も、これといって大きなトラブルもなく終わった。タイムカードを押し、いつものように退勤した。
そして、いつものように帰りの電車に乗る。
帰宅時間帯だからか、混みあっている。これも、いつものように、だ。
枕元で、自分の名前を呼ぶ声がする。低く唸るような声色だ。
智也はこの声を聞いたことがあるような気がした。ひたいから、一筋の汗が流れる。
「智也……なんで俺を殺したんだ……」
智也の背筋が凍りつく。体を起こしたかったのだが、意思に反して動かすことができない。
「おやおや、金縛りかぁ」
体が震え、目がカッ、と見開く。そんな智也の顔を覗き込むように見ているものが、目の前に現れた。
「その顔は、俺が見えてるんだな」
現れたのは、健太だった。経帷子を着ており、頭には天冠をつけていた。
「うわああああぁぁぁっ」
智也は絶叫した。その勢いで飛び起きる。額には大粒の汗と脂汗が浮かび上がり、布団はぐっしょりと湿っていた。
「夢……か……」
智也は辺りを見回す。部屋の中はすっかり白んでいる。
「なんで白い着物着て、頭に三角の布つけてんだよ。クラシックスタイルか」
夢に現れた健太は、古典的な幽霊だった。怖がればいいのか、それとも笑えばいいのかわからなくなってくる。
「嫌な汗をかいたな。そういや、昨日はシャワーしてなかった……」
手元にある目覚まし時計で時間を確認する。六時。今日は出勤日だが、だいぶ余裕がある。
智也は風呂場に向かい、シャワーを浴びることにした。
――三十分後。智也は風呂から上がる。支度を済ませると、リビングに向かった。
中に入ると、純がソファーの上で眠っている。
「……昨日、ここで大それたことをやらかしたってのに……」
言うなれば、ここはバラバラ殺人の事件現場だ。昨夜必死で後始末をしたが、そこかしこに痕跡が残っている。
犯人は純だ。犯行時は涼しい顔をしていた。今も、安らかに眠っている。智也の目覚めは最悪だというのに。
しばらくして、純の目が開く。程なくして、体を起こした。
「おはよう。目覚めはどうだ」
智也は尋ねてみる。
「『目覚めはどうだ』とはなんだ」
「はいはい。変わりはないようで」
要領を得ない純の答えを、智也は流す。キッチンに向かうと、棚からゼリー飲料のパックを取り出す。
リビングに向かい、ローテーブルにパックを投げつけた。
「ほい、餌だ」
純はパックを見るなり、こう言った。
「昨日食した分が、まだ体内に残っている」
途端、智也は全身が凍りつくような感覚に見舞われた。
「昼間はここにいないから、お前に食わせるものはやれないけどなっ。いらないって言うなら食うなっ」
悲鳴を上げる智也。冷静さを失い、ヒステリックになっていた。
「そうか。では食べることにする」
智也の金切り声を聞いても、純は冷静なままである。
ローテーブルまで手を伸ばし、パックを取る。蓋を手でひねると、吸い口をくわえた。
智也はそれを見届けると、家を出た。
「当分、外食だな……」
家を出た後、駅構内にあるコーヒースタンドで朝食を取る事にした。
いつもの朝と比べると優雅と言えば優雅だ。もっとも「長年の友人がバラバラになったところで食事をしたくない」というやむにやまれぬ事情があるのだが。
「引っ越したいけど、今のところがいいし……ここと同じような物件なんて、そうそうないんだけど……」
智也は顔を手でおおった。
「とにかく、今日も仕事だ。社畜は社畜らしく、仕事するに限る」
朝食を済ませ、トレイを返却口に置く。そのまま店を後にした。
いつものように、電車に揺られながら職場に向かう。スマホを手にしていたが、待ち受け画面のままだ。いつもなら、ペケッターを見て時間を潰しているのだが。
「……今頃、大騒ぎになってるよな……」
頭に浮かんだのは、愛美のことだ。
旦那が友人の家に行ったきり、帰ってこない。真っ先に心配するだろう。きっと、SNSにもそのことを書いているだろう。何時になっても帰ってこない旦那を待つ妻……。
いっその事、「旦那は既に死んでいる」と判明している方がよかったのかもしれない。であるならば、諦めはつくだろうから。
だが、愛美はそれを知ることはないのだ。なぜならば、智也の人生が終わるからである。
実行したのは純だ。ただし、命令したのは智也だ。殺人教唆と実行犯、どちらの方が罪が重くなるのか。どうあれ、健太の死が露呈すれば、遅かれ早かれ逮捕は免れないだろう。
「にしても、なんで俺はこんなに冷静なんだろうなぁ」
高校以来の友人を死なせたというだけでも衝撃的だというのに。
死なせただけではなく、その死体を食べさせたのだ。
そのあとも、なんなく後始末をする。普通に考えれば、サイコパス呼ばわりされても文句は言えないだろう。
「愛美さん。申し訳ない。やっぱりこのことは知られるわけにはいかない」
電車が目的地に到着する。いつものように、智也は降車し、職場に向かった。
到着すると、いつものようにタイムカードを押し、いつものように始業した。
これといって特にトラブルもなく、いつものように仕事を進める。昼休憩のときも、いつものように昼食を取る。午後の仕事も、これといって大きなトラブルもなく終わった。タイムカードを押し、いつものように退勤した。
そして、いつものように帰りの電車に乗る。
帰宅時間帯だからか、混みあっている。これも、いつものように、だ。
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