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第一章
69 何しにきやがった!
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謎の斬撃を受けて甲板に倒れこんだシーナに、ベルニカは細剣を繰り出してきた。
「っ!!」
ガキッ!
シーナは左右の手にそれぞれ握る、二つに破壊された小銃を交差させ、その攻撃を防ぐ。
先ほどの赤い光を帯びた斬撃とは違って今度の敵の攻撃は何とかしのげた。
「ぐっ」
しかしその次の瞬間、ベルニカの蹴りが強かにシーナの両手を打ち、握られていた小銃を弾き飛ばした。
「っ──」
敵を見上げるシーナとベルニカの目が合った。
鋭いシーナの三白眼と、ベルニカの大きな瞳が交わる。
今度こそもう防ぐ手だてはない。『律動』によって武器を創り出す間もなかった。
(こんなところでっ──)
シーナのなかで、時間が止まる。
恐怖を感じるより、何でだという信じられない気持ちだった。
シーナの前に立つベルニカが、無表情のまま剣を空に掲げる。
「っ!」
それを見てシーナは、とっさに何も持たない両腕を前に交差させ自身を庇った。
(────?!)
しかし、敵が剣を振り下ろす寸前で、何か大きな影が前を横切った。
ドッ!
何かぶつかる音がすると同時に、その人影は目の前の敵と一緒にシーナの眼前から横へと消える。
(なんだっ!?)
驚いたシーナであったが、きっと仲間が助けに割って入ったのだと気が付く。
一体誰が──シーナがその人影を確かめる。
その人物は敵の女にしがみつく形で、甲板のうえで二人もみ合い状態になっていた。
鉄帽を被ったその隊員の横顔が覗く。
────なんで、こいつが!!
シーナが驚愕する。
横から飛び出してきたのはカウル=ハウンド──あの役立たずの新兵だった。
シーナの危機を察知したカウルは、何か使命感のような衝動に駆られ、敵に向かって飛び出した。
意識しないまま小銃を甲板に投げ捨て、全力で甲板を駆けたカウルは、シーナの前に立った敵がその剣を振り下ろす前に二人の元に到達した。
ガッとカウルが敵の横からその胴体に片腕を回す。
体当たりというには半端な──シーナから敵を引き剥がすような形で、カウルは走ってきた勢いに任せて敵を妨害した。
「──!!」
ベルニカはその瞬間、自分に何が起きたかわからなかった。
ベルニカの見開かれた瞳がさらに大きくなる。
鋭敏な『心』によって優れた感知能力を持つベルニカにとって、全く存在感を感じられない敵は、意表を突くものだった。
──キモチワルイ。
長らく抱くことがなかったもの──『感情』がベルニカの胸にぞわっと生まれた。
それはこの敵の存在と同じくらい大いにベルニカを戸惑わせた。
「っ!」
ベルニカの表情がぐっと歪む。
その戸惑いと生理的嫌悪は、ベルニカにこれまでの無機質な動作──敵を機械的に殺傷する戦闘術ではなく、感情的な反応を引き起こさせた。
ベルニカが自分にしがみついている敵に、片方の肘を突き出す。
「ぶっ!!」
ベルニカに対し、背中のほうからしがみついていたカウルの側頭部に、彼女の肘が直撃する。
苦痛を覚えたカウルの腕が緩む。
くるりとカウルのほうに体の正面を向けたベルニカはすぐさま、膝をカウルの腹部めがけて突き上げた。
「ぐっ!あ"っ!!」
ベルニカの膝蹴りをくらって身を丸めたカウルの後頭部に、さらにベルニカは握っていた剣の柄を、拳を振り下ろす動作で叩きつける。
ベルニカの目にも留まらぬ連続の打撃にカウルは甲板に倒れた。
「ぅ……」
しかし、ベルニカに激しく殴打されながらも、斬撃は繰り出されなかったおかげで、カウルは命までは絶たれていなかった。
──なにやってんだこいつ!!
カウルが敵を引き離し、もつれ合う状態になった数秒の間、カウルの出現にはじめ我を忘れていたシーナであったが、すぐに甲板から立ち上がった。
──鋼鉄の律動。
律動で武器を創ろうとするシーナ。
しかし、動揺しているのか慌てているためか、うまく鋼鉄の律動を想起できない。
何か武器は──律動の発動を諦めたシーナは武器を求めて周囲を探した。
敵に組み付いたカウルは何も武器を携帯していない丸腰状態だった。
(俺の銃はどうした──)
カウルに持ってくるように指示した対装甲狙撃銃はどこにあるのか。
周囲に目を走らせると、カウルがいたのであろう、何メートルか先に、小銃と対装甲狙撃銃が甲板に転がっているのを見つけた。
(あんなところに──)
取りに行くには微妙に距離が離れている。でも使える武器はそれしかない。
間に合うか──駆け出したシーナであったが、そのとき敵がカウルから踵を返し、こちらに顔を向けた。
敵の大きな瞳がじろりとシーナを捉える。
まずい、と思ったシーナは、敵に背を向けて全力で甲板を蹴った。
「ハッ──ハッ──」
後方の敵の動向を確かめる暇はない。一心不乱にシーナは駆ける。
バッ!
走りながら下に伸ばした片手で、シーナはより自分のほうに近かった小銃を掴み上げた。
背中にぞくりと悪寒が走る。
シーナはそのまま、勘で振り向きざまに小銃を横に掲げた。
ギン!!
ベルニカが振り下ろした剣が小銃を打つ。
シーナの頸動脈が袈裟切りされる、すんでのところでだった。
「くっ!!」
ギギ……
鍔競り合いになる両者。
金属同士が鈍く擦れ合う音がこぼれる。
「うう──」
全力で小銃を支えながら、シーナは歯をぎりぎりと噛み締めて敵との競り合いに負けまいとする。
(あのクソボケがっ!)
視界の向こうで甲板にうずくまるカウルを、シーナは憎らしく思った。
なんでカウルが敵の虚を突けたかはわからないが、それならナイフの一つでも持って、この女を突き殺せばいいものを。
新たに小銃を手にすることはできたが、カウルは甲板に倒れてしまい、結局またこの敵と一対一の状態だ。
状況はさっきと何も変わっていない。
バッ!
鍔競り合いからベルニカが一旦後退し、細剣を構え直した。
「くっ」
己の不利を自覚しながら、シーナが銃剣術の構えで小銃を携える。
どうする──シーナは焦る。先ほど死にかけたのと全く同じ展開。この異様な敵との近接戦闘での実力差、剣と小銃という相性の悪さを今度は覆せるか。
──来る!
敵がタタッと甲板を駆けて、シーナに向かって突進してきた。
シーナが身構える。
「──お"おおおおっ!」
その時、獣のような雄叫びが上がり、何者かがベルニカに横から突進してきた。
ギン!
その者が振るった剣がそれに反応したベルニカの細剣と交差し火花が散った。
「あ"ああああっ」
凄まじい形相で、口の端から血がにじませているその兵士は先ほどベルニカの攻撃で倒れたノベルだった。
「っ!!」
ガキッ!
シーナは左右の手にそれぞれ握る、二つに破壊された小銃を交差させ、その攻撃を防ぐ。
先ほどの赤い光を帯びた斬撃とは違って今度の敵の攻撃は何とかしのげた。
「ぐっ」
しかしその次の瞬間、ベルニカの蹴りが強かにシーナの両手を打ち、握られていた小銃を弾き飛ばした。
「っ──」
敵を見上げるシーナとベルニカの目が合った。
鋭いシーナの三白眼と、ベルニカの大きな瞳が交わる。
今度こそもう防ぐ手だてはない。『律動』によって武器を創り出す間もなかった。
(こんなところでっ──)
シーナのなかで、時間が止まる。
恐怖を感じるより、何でだという信じられない気持ちだった。
シーナの前に立つベルニカが、無表情のまま剣を空に掲げる。
「っ!」
それを見てシーナは、とっさに何も持たない両腕を前に交差させ自身を庇った。
(────?!)
しかし、敵が剣を振り下ろす寸前で、何か大きな影が前を横切った。
ドッ!
何かぶつかる音がすると同時に、その人影は目の前の敵と一緒にシーナの眼前から横へと消える。
(なんだっ!?)
驚いたシーナであったが、きっと仲間が助けに割って入ったのだと気が付く。
一体誰が──シーナがその人影を確かめる。
その人物は敵の女にしがみつく形で、甲板のうえで二人もみ合い状態になっていた。
鉄帽を被ったその隊員の横顔が覗く。
────なんで、こいつが!!
シーナが驚愕する。
横から飛び出してきたのはカウル=ハウンド──あの役立たずの新兵だった。
シーナの危機を察知したカウルは、何か使命感のような衝動に駆られ、敵に向かって飛び出した。
意識しないまま小銃を甲板に投げ捨て、全力で甲板を駆けたカウルは、シーナの前に立った敵がその剣を振り下ろす前に二人の元に到達した。
ガッとカウルが敵の横からその胴体に片腕を回す。
体当たりというには半端な──シーナから敵を引き剥がすような形で、カウルは走ってきた勢いに任せて敵を妨害した。
「──!!」
ベルニカはその瞬間、自分に何が起きたかわからなかった。
ベルニカの見開かれた瞳がさらに大きくなる。
鋭敏な『心』によって優れた感知能力を持つベルニカにとって、全く存在感を感じられない敵は、意表を突くものだった。
──キモチワルイ。
長らく抱くことがなかったもの──『感情』がベルニカの胸にぞわっと生まれた。
それはこの敵の存在と同じくらい大いにベルニカを戸惑わせた。
「っ!」
ベルニカの表情がぐっと歪む。
その戸惑いと生理的嫌悪は、ベルニカにこれまでの無機質な動作──敵を機械的に殺傷する戦闘術ではなく、感情的な反応を引き起こさせた。
ベルニカが自分にしがみついている敵に、片方の肘を突き出す。
「ぶっ!!」
ベルニカに対し、背中のほうからしがみついていたカウルの側頭部に、彼女の肘が直撃する。
苦痛を覚えたカウルの腕が緩む。
くるりとカウルのほうに体の正面を向けたベルニカはすぐさま、膝をカウルの腹部めがけて突き上げた。
「ぐっ!あ"っ!!」
ベルニカの膝蹴りをくらって身を丸めたカウルの後頭部に、さらにベルニカは握っていた剣の柄を、拳を振り下ろす動作で叩きつける。
ベルニカの目にも留まらぬ連続の打撃にカウルは甲板に倒れた。
「ぅ……」
しかし、ベルニカに激しく殴打されながらも、斬撃は繰り出されなかったおかげで、カウルは命までは絶たれていなかった。
──なにやってんだこいつ!!
カウルが敵を引き離し、もつれ合う状態になった数秒の間、カウルの出現にはじめ我を忘れていたシーナであったが、すぐに甲板から立ち上がった。
──鋼鉄の律動。
律動で武器を創ろうとするシーナ。
しかし、動揺しているのか慌てているためか、うまく鋼鉄の律動を想起できない。
何か武器は──律動の発動を諦めたシーナは武器を求めて周囲を探した。
敵に組み付いたカウルは何も武器を携帯していない丸腰状態だった。
(俺の銃はどうした──)
カウルに持ってくるように指示した対装甲狙撃銃はどこにあるのか。
周囲に目を走らせると、カウルがいたのであろう、何メートルか先に、小銃と対装甲狙撃銃が甲板に転がっているのを見つけた。
(あんなところに──)
取りに行くには微妙に距離が離れている。でも使える武器はそれしかない。
間に合うか──駆け出したシーナであったが、そのとき敵がカウルから踵を返し、こちらに顔を向けた。
敵の大きな瞳がじろりとシーナを捉える。
まずい、と思ったシーナは、敵に背を向けて全力で甲板を蹴った。
「ハッ──ハッ──」
後方の敵の動向を確かめる暇はない。一心不乱にシーナは駆ける。
バッ!
走りながら下に伸ばした片手で、シーナはより自分のほうに近かった小銃を掴み上げた。
背中にぞくりと悪寒が走る。
シーナはそのまま、勘で振り向きざまに小銃を横に掲げた。
ギン!!
ベルニカが振り下ろした剣が小銃を打つ。
シーナの頸動脈が袈裟切りされる、すんでのところでだった。
「くっ!!」
ギギ……
鍔競り合いになる両者。
金属同士が鈍く擦れ合う音がこぼれる。
「うう──」
全力で小銃を支えながら、シーナは歯をぎりぎりと噛み締めて敵との競り合いに負けまいとする。
(あのクソボケがっ!)
視界の向こうで甲板にうずくまるカウルを、シーナは憎らしく思った。
なんでカウルが敵の虚を突けたかはわからないが、それならナイフの一つでも持って、この女を突き殺せばいいものを。
新たに小銃を手にすることはできたが、カウルは甲板に倒れてしまい、結局またこの敵と一対一の状態だ。
状況はさっきと何も変わっていない。
バッ!
鍔競り合いからベルニカが一旦後退し、細剣を構え直した。
「くっ」
己の不利を自覚しながら、シーナが銃剣術の構えで小銃を携える。
どうする──シーナは焦る。先ほど死にかけたのと全く同じ展開。この異様な敵との近接戦闘での実力差、剣と小銃という相性の悪さを今度は覆せるか。
──来る!
敵がタタッと甲板を駆けて、シーナに向かって突進してきた。
シーナが身構える。
「──お"おおおおっ!」
その時、獣のような雄叫びが上がり、何者かがベルニカに横から突進してきた。
ギン!
その者が振るった剣がそれに反応したベルニカの細剣と交差し火花が散った。
「あ"ああああっ」
凄まじい形相で、口の端から血がにじませているその兵士は先ほどベルニカの攻撃で倒れたノベルだった。
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