エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

68 到着

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「ぐっ……ん"っ……」
 カウルの食い縛った歯の隙間から、うなり声が漏れる。
 しかしカウルは自分の小銃とシーナの対装甲狙撃銃を背負いながら、一歩一歩力を入れて盾を引きずっていく。
 疲労を通り越して鈍い痛みが体の節々に生まれ始めていたが、カウルの歩みは着実に前に進んでいた。
 そしてとうとう、カウルの視界に第二分隊の持ち場が見えてきた。
「?」
 盾の陰から分隊の様子を覗いたカウルは、思っていたのとは異なる光景に驚いた。
(誰かが、怪我を──!)
 まず目に入ったのは、一番手前に見える掩体だ。誰かが甲板に横たわり、もう一人の隊員が救護している。
(他の人たちは……?)
 それに、本来ならもっといるはずの仲間たちの姿が見えない。隊員たちが応戦しているはずの銃座や掩体が空になっている。
(シーナは──)
 盾の陰からでは遠くまでよく見渡せないのもあって、カウルはシーナを見つけられないでいた。
 訊いてみるしかない──カウルは掩体まで近づくと、そこまで引きずってきた盾を一旦放棄し、すかさず掩体の陰に入った。
 姿勢を低くして、負傷した仲間を救護している隊員のところまで進む。
「すみません!」
「ああ?」
 突然大声をかけられた隊員は、がばっと顔をあげた。
 カウルの目に自ずと甲板に伏す負傷した隊員の姿が入る。
 自分も手伝ったほうがよいのではないか──そう思ったが、まずはシーナに言われたことをしてからだ。
「シーナはどこですか!?」
「はあ?!──あっちだよっ!」
 隊員は雑に顎でさらに向こう側を示しただけだった。
「わかりました!」
 その剣幕にもっと詳しく訊くのは諦め、カウルは二人の傍を通過する。
 救護を手伝うことは求められはしなかった。余裕がないのか、それともカウルの助力など眼中にないのか──カウルは若干の苦い思いを感じながら、先に進む。
 掩体の端まできた。隣の銃座までの二メートルほどの間には遮蔽物は何もない。
(あっ……)
 カウルは盾を捨ててしまったことを一瞬悔やんだ。しかし、また取ってくるには時間がさらにかかってしまう。
 たかだか距離は二メートル。通るのに何秒もかからない──カウルはそう自分に言い聞かせた。
 意識を集中し、『鼓動』でもう一度全身を保護する。今、周囲に敵の銃撃は飛んできていなかった。
「っ!!」
 カウルは一思いに駆け出した。
 装備をたくさん持っているためにそんなに瞬発力は出ない。
 わずか数秒だが、敵に身を晒すその時間は、カウルにとって命懸けだった。
「はっ──はっ」
 カウルは無事に銃座の陰に入った。
(ん──?)
 すると今度は、銃座の隠蔽の陰にうずくまっている別の隊員が目に入った。
 この子は確か──伏せていたので顔は見えなかったが、カウルはこの隊員が分隊の女性兵士のアビィであるとわかった。
 負傷している様子はない。ただ、ひどく怯えたようすで身を丸めて震えている。
 カウルはこの戦闘が始まる前の彼女の様子──ひどく顔色を悪くしていたのを思い出した。
「大丈夫?」
 カウルはアビィに声をかけたが、聞こえなかったのか反応はなくアビィはうずくまったままだった。
「ねえ──」
 もう一度呼び掛けようとカウルはアビィの肩に手を伸ばしかけたが、途中で止めた。
 今はシーナの指示を優先させるべきだ。こうして身を隠していれば、すぐには彼女に危険はないだろう。
 カウルはアビィをそのままにして傍を通り過ぎた。

(いた!)
 銃座の端まで来てその先を覗いたカウルはとうとうシーナを見つけた。
(──敵!?)
 しかし同時に、シーナがいままさに、甲板に乗り込んできた敵と交戦しているのを目にし、カウルは動揺する。
 剣を手にした一人の敵兵が、シーナに襲いかかっている。
対してシーナは、小銃で敵の攻撃を捌いたりはねのけたりしながら、懸命に防戦している。
 シーナは劣勢だった。
 援護を──そう思ったカウルは引きずってきたシーナの対装甲狙撃銃を甲板に置き、背負っていた自分の小銃を手にした。
(……っ)
 しかし、小銃を構えたカウルであったが、シーナと近い距離にいて、しかも素早く動き続けている敵に狙いをつけることができなかった。
 どうしよう──カウルには敵を精密に撃ち抜ける技量も自信もない。
 どうすべきか迷って何もできないうちに、カウルの視線の先で敵兵がシーナを蹴り飛ばした。
「!」
 そして敵兵が握っていた剣を振り上げる。
 その剣が赤い光を帯びたかと思うと、敵は剣をシーナに向かって振り下ろし、シーナの小銃を真っ二つにした。
──シーナが危ない。
 甲板に倒れるシーナを見たカウルは、彼の命の危険を直感した。
 ダッ!
 助けなければ──その衝動がカウルを動かした。
 シーナに向かって駆け出していたカウルの頭には、先ほどまでずっと抱いていた戦いへの恐怖はどこかに忘れ去られていた。
 
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