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34.終わりの日③(昴流視点)
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何も言えなくなった俺達に瑠衣はこれ以上何も言うこともなく、特別棟の窓を閉めて立ち去っていった。
俺はその様子をただ呆然と立ち尽くしたまま見つめていた。
「……昴流」
不安そうに俺の名前を呼ぶ岡野の声で我に返る。
さっきまでハイテンションで俺と瑠衣の進捗具合を聞きたがってた岡野は、どこか労るような視線を俺に向けていた。
隣にいた安達も神妙な顔で俺を見ているのがわかる。
中学から付き合いのある安達だけど、こんな表情、初めて見た気がする。
そして。
「行かなくていいのか?」
俺の背中を押してくれるような安達の問い掛けに。
俺は一瞬にして自分が今しなければならない事を思い出し、弾かれたように全力で走り出していた。
部室棟があるエリアと特別棟がある場所は隣合わせになってるとはいえ、実際に行くとなるとかなり迂回することになる。
あの後すぐに瑠衣が教室に戻っていたら、捕まえることは不可能かもしれない。
でも今ならまだ追い付ける可能性がある。
そう信じて懸命に足を動かした。
特別棟と本校舎を繋ぐ渡り廊下が見えたところで、そこにぼんやりと佇む瑠衣の姿が見えて心が逸った。
「瑠衣ッ!」
堪えきれず名前を呼ぶと、明らかに迷惑そうな表情をした瑠衣が振り返り、胸がツキリと痛む。
一瞬怯みそうになったものの、何も言わずに歩き出した瑠衣に焦った俺は、気付けば瑠衣の手首を掴んでいた。
「瑠衣」
こっちを見て欲しくてもう一度名前を呼ぶと、瑠衣の綺麗な顔が嫌そうに歪められる。
ハッキリとわかる拒絶に、傷付かないといったら嘘になる。
でもこれは全て自分が招いたこと。
そう自分に言い聞かせ、何とか冷静に話をしようと取っ掛かりの言葉を探した。
さっきはあまりの展開に頭が追い付かず、無様にも何も言うことが出来なかった自分が情けない。
だから今度こそちゃんと話をしなきゃと思う。
そうじゃなきゃ、俺の気持ちも、二人の間にあった甘やかな時間も、何もかもがなかったことにされて、本当に終わってしまう。
そんなことをグルグルと考えているうちに、苛立ちを隠そうともしない様子の瑠衣が先に口を開いた。
「……まだ何か用?」
手首を掴んでまで呼び止めたのに一向に話をしない俺を、瑠衣の黒い瞳が責めるように鋭く射ぬく。
俺は決心が鈍ってしまわないよう掴んだ手に力を込めると、そのまま瑠衣を引っ張って半ば強引に特別棟へと歩みを進めた。
「え、ちょっと……! なに!?」
焦ったような瑠衣の声を無視して、空いている教室に連れ込む。
そこで漸く瑠衣の手を放した俺に、瑠衣は呆れたように大きなため息を吐いた。
たった今まで掴んでいた手首はちょっと赤くなっていて。
話を聞いてもらいたいっていうのにとにかく必死で、完全にやらかしてしまっていた自分に青くなる。
「……ごめん」
すぐに謝ってはみたものの、瑠衣はそんな俺の言葉など聞くつもりはないようで。
「何のつもり? もう午後の授業始まるけど」
言いたいことがあるならさっさとしろとでも言うように、苛立ちを滲ませながら冷たい視線を向けてきた。
俺はこの期に及んでどう話を切り出そうか少しだけ迷った後、こんな時まで自分を取り繕っても仕方ないと思い直し、素直な気持ちを口にした。
「……瑠衣とちゃんと話がしたいんだ」
心から言ってる筈なのに酷く白々しく聞こえる言葉に、瑠衣の口から馬鹿にしたような笑いが漏れる。
「ハハッ……。話って何の? さっきのじゃまだ説明が足りなかったってこと? 何が聞きたいのかわかんないけど、それを聞いたところでどうすんの?」
どうするって……。そんなの考えるまでもなく決まってる。
誠心誠意ちゃんと謝って、俺の気持ちを洗いざらい伝えて、この一ヶ月、瑠衣がどう考えて俺と一緒にいたのか全部聞きたい。
その上で、もう一度最初から始めたい。チャンスが欲しいと言うつもりだったのに、いざ言葉にしようとすると妙に躊躇われて言葉にならなかった。
本当に嫌いだったらあんなキス、ほとんど毎日のように出来る筈がないって信じてる。
でも今の瑠衣にそれを言っても、否定されることは目に見えているし、益々不快にさせるだけだってわかるから……。
──何をどう話せばいい?
俺が何も話さないことをどう捉えたのか。
瑠衣は心底うんざりしたような顔で言葉を続けた。
「どうしても俺と話したいっていうなら、話してあげるよ。まずはこの一ヶ月、俺がどういうつもりでお前の側にいたのかってところからかな」
まさに俺が聞きたいと思っていたことを瑠衣のほうから話してくれると言われ、ガラにもなく緊張で全身が震えそうになるのを必死に抑えながら瑠衣を見つめる。
その時、ちょうど予鈴が鳴った。
『また後で』と言われないことから、瑠衣はこのまま俺に付き合ってくれるつもりなんだろう。
それがさっさとケリをつけたいっていう気持ちからでも、また話をしてくれる気になったことがまるで一縷の望みがあると言われてるようにも感じられ。
ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。
俺はその様子をただ呆然と立ち尽くしたまま見つめていた。
「……昴流」
不安そうに俺の名前を呼ぶ岡野の声で我に返る。
さっきまでハイテンションで俺と瑠衣の進捗具合を聞きたがってた岡野は、どこか労るような視線を俺に向けていた。
隣にいた安達も神妙な顔で俺を見ているのがわかる。
中学から付き合いのある安達だけど、こんな表情、初めて見た気がする。
そして。
「行かなくていいのか?」
俺の背中を押してくれるような安達の問い掛けに。
俺は一瞬にして自分が今しなければならない事を思い出し、弾かれたように全力で走り出していた。
部室棟があるエリアと特別棟がある場所は隣合わせになってるとはいえ、実際に行くとなるとかなり迂回することになる。
あの後すぐに瑠衣が教室に戻っていたら、捕まえることは不可能かもしれない。
でも今ならまだ追い付ける可能性がある。
そう信じて懸命に足を動かした。
特別棟と本校舎を繋ぐ渡り廊下が見えたところで、そこにぼんやりと佇む瑠衣の姿が見えて心が逸った。
「瑠衣ッ!」
堪えきれず名前を呼ぶと、明らかに迷惑そうな表情をした瑠衣が振り返り、胸がツキリと痛む。
一瞬怯みそうになったものの、何も言わずに歩き出した瑠衣に焦った俺は、気付けば瑠衣の手首を掴んでいた。
「瑠衣」
こっちを見て欲しくてもう一度名前を呼ぶと、瑠衣の綺麗な顔が嫌そうに歪められる。
ハッキリとわかる拒絶に、傷付かないといったら嘘になる。
でもこれは全て自分が招いたこと。
そう自分に言い聞かせ、何とか冷静に話をしようと取っ掛かりの言葉を探した。
さっきはあまりの展開に頭が追い付かず、無様にも何も言うことが出来なかった自分が情けない。
だから今度こそちゃんと話をしなきゃと思う。
そうじゃなきゃ、俺の気持ちも、二人の間にあった甘やかな時間も、何もかもがなかったことにされて、本当に終わってしまう。
そんなことをグルグルと考えているうちに、苛立ちを隠そうともしない様子の瑠衣が先に口を開いた。
「……まだ何か用?」
手首を掴んでまで呼び止めたのに一向に話をしない俺を、瑠衣の黒い瞳が責めるように鋭く射ぬく。
俺は決心が鈍ってしまわないよう掴んだ手に力を込めると、そのまま瑠衣を引っ張って半ば強引に特別棟へと歩みを進めた。
「え、ちょっと……! なに!?」
焦ったような瑠衣の声を無視して、空いている教室に連れ込む。
そこで漸く瑠衣の手を放した俺に、瑠衣は呆れたように大きなため息を吐いた。
たった今まで掴んでいた手首はちょっと赤くなっていて。
話を聞いてもらいたいっていうのにとにかく必死で、完全にやらかしてしまっていた自分に青くなる。
「……ごめん」
すぐに謝ってはみたものの、瑠衣はそんな俺の言葉など聞くつもりはないようで。
「何のつもり? もう午後の授業始まるけど」
言いたいことがあるならさっさとしろとでも言うように、苛立ちを滲ませながら冷たい視線を向けてきた。
俺はこの期に及んでどう話を切り出そうか少しだけ迷った後、こんな時まで自分を取り繕っても仕方ないと思い直し、素直な気持ちを口にした。
「……瑠衣とちゃんと話がしたいんだ」
心から言ってる筈なのに酷く白々しく聞こえる言葉に、瑠衣の口から馬鹿にしたような笑いが漏れる。
「ハハッ……。話って何の? さっきのじゃまだ説明が足りなかったってこと? 何が聞きたいのかわかんないけど、それを聞いたところでどうすんの?」
どうするって……。そんなの考えるまでもなく決まってる。
誠心誠意ちゃんと謝って、俺の気持ちを洗いざらい伝えて、この一ヶ月、瑠衣がどう考えて俺と一緒にいたのか全部聞きたい。
その上で、もう一度最初から始めたい。チャンスが欲しいと言うつもりだったのに、いざ言葉にしようとすると妙に躊躇われて言葉にならなかった。
本当に嫌いだったらあんなキス、ほとんど毎日のように出来る筈がないって信じてる。
でも今の瑠衣にそれを言っても、否定されることは目に見えているし、益々不快にさせるだけだってわかるから……。
──何をどう話せばいい?
俺が何も話さないことをどう捉えたのか。
瑠衣は心底うんざりしたような顔で言葉を続けた。
「どうしても俺と話したいっていうなら、話してあげるよ。まずはこの一ヶ月、俺がどういうつもりでお前の側にいたのかってところからかな」
まさに俺が聞きたいと思っていたことを瑠衣のほうから話してくれると言われ、ガラにもなく緊張で全身が震えそうになるのを必死に抑えながら瑠衣を見つめる。
その時、ちょうど予鈴が鳴った。
『また後で』と言われないことから、瑠衣はこのまま俺に付き合ってくれるつもりなんだろう。
それがさっさとケリをつけたいっていう気持ちからでも、また話をしてくれる気になったことがまるで一縷の望みがあると言われてるようにも感じられ。
ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。
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