告白ごっこ

みなみ ゆうき

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33.終わりの日②(昴流視点)

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特別棟の窓から俺達を見下ろす瑠衣は、見たこともないような冷たい表情で口許だけに笑みを張り付けていた。
俺が知ってる瑠衣なら絶対にしないような表情に、これが本当に瑠衣なのかと自分の目を疑いたくなる。
一瞬視線があった気がしたものの、俺のことなんて気にもとめていないと云わんばかりにあっさり外された。

それ以降はもう俺のことなど眼中にないのだと示すかのように視線が合うこともなく。
やっと会えたというのにあまりに遠く感じる瑠衣の存在に、俺は足元から何かが崩れ落ちていくような感覚に見舞われた。


「盗み聞きかよ。コソコソしやがって、ストーカーみてぇだな? 急に昴流に相手にされなくなったからって付きまとうとか、キモいんだよッ!」


中田は本人に話を聞かれてしまったことが気まずかったのか、理不尽な言い掛かりで瑠衣に食って掛かっている。
瑠衣のほうはそれをまともに相手にする気もないらしく、何の温度も感じないような表情で暴言を吐く中田を見ていた。

これ以上瑠衣を傷つけないよう、今すぐ中田の口を塞いで、瑠衣をこの場から連れ出したい衝動に駆られる。
でも今更それをしたところで、瑠衣にとっては何の意味もなさないのだとすぐに思い知ることになった。


「そっちこそ聞かれたくなければ、もっとコソコソしたら? そんな大騒ぎしてたら丸聞こえだし。
言っとくけど、俺は別にお前らがいるからここに来たんじゃない。最初から・・・・ここにいただけだ」


最初から?

強調されたその言葉に胸がざわつく。


「信じるかどうかはお前らの勝手だけど。そうだなぁ……」


瑠衣は面白そうに俺達の顔を見渡すと、まるでその続きをもったいぶるかのように言葉を区切った。

そして。


「紅白戦で負けたヤツの罰ゲーム、今回のメンバーだったら告白一択なんだっけ?」


瑠衣が知る筈もない情報に、俺達は全員言葉を失った。

瑠衣はそんな俺達に構うことなく、まるで新しいゲームの説明でもするかのように、淡々と言葉を紡いでいく。


「で、高崎は女子相手だと罰ゲームにならないから男に告白することになって、ターゲットに選ばれたのが俺。その上、一ヶ月以内に俺を惚れさせたら焼き肉食べ放題。今回のルールはこんな感じ?」


言葉尻こそ疑問形になってるものの、絶対の確信を持っていることがわかるから、何も言えない。


「あ、そうだ。俺の事抱けるかどうかってのも加わったんだった。そういう事に一生縁がなさそうな俺に、高崎のテクニックを実践するとかなんとか。
俺、ちょっと聞いてみたかったんだけど、それで俺が喜ぶと本気で思ってたのかな、って。──もし本気だったら、その自信はどっからくんの? 普通、そんなことされたら喜ぶどころか、俺のほうが罰ゲームさせられてる状態になるって思わない?」


口調すら変わっている瑠衣は、嘲りの表情を浮かべて俺達を挑発していた。


何で? どうして?

瑠衣が俺の部屋を飛び出して行った時のように、そんな疑問ばかりが頭の中を巡るけど、答えは見つからない。

瑠衣が本当の事を知っていた事にショックを受ければいいのか、それとも瑠衣の変貌ぶりに驚けばいいのか。

いずれにせよ、瑠衣がどういうつもりでこんな真似をしてるのか、まるで理解が出来なかった。


俺が身動ぎひとつ出来ずにいる中、相当頭に血が上っているらしい中田が声を荒げる。


「誰に聞いたか知らねぇけど、昴流に相手にされなくなったからって負け惜しみ言ってんじゃねぇよッ。教室で昴流に話しかけられて嬉しそうにしてたくせにッ! 公園でキスされた時も喜んでただろうが!!
残念だったな! 昴流がしてたことは全部賭けに勝つためにしたことで、お前のことなんてこれっぽっちも好きじゃねぇんだよッ!!」


それは違うッ!

俺の本心とはかけ離れた事を勝手に言い出す中田に、直ぐ様反論しようと口を開きかける。

でも、中田の言葉に心を揺らすこともない瑠衣の無関心な瞳を見てしまったら、何も言えなくなっていた。


「だから? 俺も別に高崎の事なんて好きじゃないけど?」


そう言い放った瑠衣の黒い瞳からは、あの日放課後の教室で俺に向けてくれていたような仄かな熱は、微塵も感じられない。

コイツは誰だ?

見た目は確かに瑠衣なのに、そう問いかけたくなるほど、表情や醸し出す雰囲気が違う。

そこにはもう俺の知ってる瑠衣はいなかった。


当事者である筈の俺が一言も発することが出来ないまま、瑠衣と中田の話は進んでいく。


「あのさ、普通に考えてこんなゲスい真似してるって知ってて好きになる要素ある? 本音を言えば関わり合いにもなりたくなかったけど、引っ掛かったふりをしたほうが、より効果的な結果を引き寄せられるかなって」

「ふざけんなッ!」

「お前らにとっては遊びの延長で娯楽のつもりでも、こんな風に相手の人格を無視して影で笑い者にするとか、そうなるように仕向けたり、誰かをけしかけたりとか、普通に考えたら許されないことだから。
バスケ部でこういう卑劣な遊びが日常的に行われてるってわかったら、個人の問題だけじゃ済まないってことわかってる? ヘタしたら連帯責任で部活動停止くらいはあるかもよ」


自分のしてきたことがどういう結果を引き起こすのかということを鼻先に突きつけられ、後悔なんていう言葉じゃ言い表せないような気持ちが俺を飲み込んでいく。
それはまるで水中にでも投げ出されたかのようで、身体が重く感じられ、上手く息が吸えなかった。


「ハッ、脅しのつもりかよ? 俺らが否定すれば済むだけの話だろ。お前ひとりが言い出したことなんて誰が信じるって言うんだよ」

「まあ、お前らに結託されたら俺の証言だけじゃ弱いかもな」


もうやめてくれ。

そう願うのに、中田は瑠衣への攻撃をやめず、瑠衣はそれに同意するような発言までしている。

消えかけた中田の勢いが再燃するかと思われたその時。


「でも言った言わないで揉めるのも面倒だし、ちゃんと証拠を残してあるから大丈夫」


瑠衣はそう言いながら、ポケットからスマホを取り出し、俺達に見えるよう翳してみせたのだ。

それが何を意味するのか、説明されなくてもこの場にいる全員がわかってしまった。


全てをわかっていて、あの日俺に告白をし、俺との時間を過ごしていた瑠衣。

その中に欠片でも俺への気持ちが芽生えていないか、僅かな心の揺れも見逃さないように、瑠衣をじっと見つめる。

そんな俺の意図を察したのか、ここにきて初めて瑠衣の瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。

しかし。


「だから言っただろ? 最初からここにいたって」


どこか晴れやかにも見えるその表情からは、どこにも俺が入っていく余地がないことを実感させられ。

俺は信じられないものを目にしたような気持ちになり、瞬きすらも忘れて瑠衣の顔をじっと見つめ続けていた。
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