告白ごっこ

みなみ ゆうき

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35.終わりの日④(昴流視点)

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「俺さ、お前らが俺の事を勝手にターゲットに決めた時、スッゲェ腹が立ったし、絶対に関わり合いになりたくないって思った。でも、俺がそう主張したところでお前らは俺の気持ちなんてお構い無しにゲームを進めていくだろ? だから俺はその煩わしさを回避するために、あえてゲームに参加するって方法を選んだんだ」


ただ状況を説明するだけといった感じの瑠衣の口調。

それがこの事をとっくに終わったことだと強く主張するようで、切なくなる。

一ヶ月ほぼ毎日一緒にいたのに、こんな風に滔々と喋る瑠衣を目にするのは初めてで、俺は驚きと共にその様子をただ黙って見ていることしか出来ずにいた。


「俺に『好き』と言わせたらゲームクリア。それがあの『告白ごっこ』のルールなんだよな。だからあの日、俺はあえて先手を打って高崎に告白をした。それでこの馬鹿げたゲームが終わると思ったからさ。でもそんな俺の目論見は外れ、ゲームが終わるどころか新たな賭けが始まってしまった。こうなったらお前らにとって優位に事が運んでるように見せかけながらとことん付き合って、最終的には二度とこんなふざけた真似をしようと思わないように、一番効果的なタイミングでネタばらししてやろうって決めたんだ。幸い言い逃れが出来ないレベルの証拠も手に入れたことだし」


その言葉で本当に最初から全部知られていた上で、俺と一緒にいたんだってことをあらためて思い知らされる。

でも。


「……じゃあ好きって言ってくれたのは……」


演技だったと聞かされた今でもまだそれを認めたくなくて。
最早悪あがきでしかないってわかってても、聞かずにはいられなかった。


瑠衣はこの期に及んでまだ往生際の悪い俺にはっきりとわからせようとするかのように、言葉を選ばず残酷な事実を口にした。


「嘘に決まってんだろ。俺ら元々接点ゼロじゃん。好きになる要素ある?」


グサリと心に刺さる言葉に、思わず表情が歪む。
俺はそれを瑠衣に見られたくなくて、咄嗟に俯いてしまっていた。

これは俺が何度もやってきたことで。
その度に俺が相手に対して密かに心の中で思っていたことでもある。


自分がされて初めてわかる痛み。

こんなに胸がズキズキと痛んで、息をするのも苦しいものだとは思わなかった。


俺に関しては完全に自業自得の側面が大きい。
でも俺が罰ゲームで告白してきた子達は、遊び半分でターゲットにされたってだけでこんな苦しみを味わっていたのかと思うと、今更遅いとわかっていても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「俺にとっては、気持ちが伴わないキスやセックスは単なる接触に過ぎない。むしろこのパフォーマンスをすることで完全にオチたと思わせることが出来るし、お前らが賭けのためにここまでクズな真似をしてるって証明にもなるかなって思ってたから、我慢出来るとこまで付き合おうって思ってた。
──でもさすがに何とも思ってないヤツとヤれるほど神経太くなかったらしくて、結局ああいう結果に終わったんだけどさ」


一昨日瑠衣が飛び出していった理由に納得した反面、何故ここまでしようと思えたのか、俺達のしていることが許せないってだけじゃ説明がつかない気がしてモヤモヤする。

でもそれを聞いてしまったら、これ以上に知りたくない事実を突きつけられそうで怖かった。


「お前さ、女子なら誰とでもヤれる自信あるとか恥ずかしげもなく豪語してたけど、それって誰でもいいとか誰でも一緒だって思ってて、相手を意思や感情をもった『個人』だと認識してないから言えるんだよな。でもさ。自分はそういうつもりでも、相手も同じだとは限らないっていう当たり前の事、忘れてんじゃね?」


正にさっき漸く気付いたことを容赦なく指摘され、俺はぐうの音も出なかった。

それが『当たり前』だって思い至るだけの想像力が欠如していたのは、適当な人間関係ばかり築いてきたツケだろう。

俺が言った何の感情も籠っていない『好き』っていう言葉を本気にした挙げ句、別れ話で泣いてすがってくる女の子達をウザいとしか思っていなかったクズな自分を本気で殴りたい。

好きって言われて、自分も相手のことを好きになって。
その先にある幸せな時間を前にいきなり終わりを突き付けられるのがどんなに残酷なことか、俺には全くわかっていなかった。


何の反論も出来ず、ただ拳をギュッと握って瑠衣の言葉のひとつひとつを噛み締める。


「お前のやり方はホントに上手いと思う。決定的な言葉は絶対に言わないくせに、思わせ振りな態度と言葉で巧妙に相手の気持ちを絡め取っていくんだからさ。お前に告白された女の子達は嬉しかったと思うよ。だからこそ尚更お前のしたことは最低だと思うし、そんなお前の事を俺は心の底から軽蔑してる」


虫けらでも見るかのような目がいたたまれない。

瑠衣が言ったような真似をしていたつもりはないが、まさか俺が瑠衣に好きっていう言葉を言わなかったことをこんな風に誤解してるとは思わなかった。


──俺は瑠衣の事が好きだ。たぶんこれが俺の初恋で。くだらないとすら思っていたこの感情を、とても大事で得難いものだって教えてくれたのは、間違いなく瑠衣だ。

だからこそ、ちゃんとけじめをつけてからその一言を大事に言おうと思っていたのに……。


伝えたい相手が目の前にいるのに、俺にはもう何も言う資格がない。

それが嫌というほどわかってしまって、俺は口を噤むしかなかった。


そもそも瑠衣は最初から俺の話なんて聞くつもりなんてなかったんだろう。

その証拠に。


「こんな事がなかったらお前と話すこともなかったと思うし、もう話すこともないと思うけど、お前がいつか今までやってきたことを後悔するくらい本気で好きな人が出来ることを願ってるよ」


言いたいことは言ったとばかりに最後にそう締め括って、話を終わらせてしまった。


優しいのに残酷な言葉と諭すような柔らかい口調が、俺の心を抉る。

本気で好きな人はいるし、本気で後悔してる。
他の人間との未来じゃなくて、瑠衣との未来が欲しい。

もっと早くにそう伝えていたら、幸せな結果を迎えられていたんだろうか……?


あったかもしれない未来を想像して後悔の坩堝に嵌まりそうな俺を残し、瑠衣はもう俺に見向きもせず教室を後にしていた。

俺はそれを追いかけることもできずに、その後ろ姿をじっと見つめていることしかできなかった。




どれだけ考え込んでいたのか。

五時間目の終わりを告げるチャイムの音で我に返った俺は、一度大きく深呼吸すると、この教室を後にした。


何度考えても瑠衣を好きだという気持ちは消せそうにないし、諦めるなんて真似も出来そうにない。


──でも今の俺がそんな事を言ったらダメなことくらいはよくわかっている。


だから。

俺はもう間違えない。
絶対に瑠衣を振り向かせてみせる。


そうあらためて決意したら、目指す方向が明確に見えた気がした。
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