怪談レポート

久世空気

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№191 青い鏡

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 派遣切りにあって無職になったのが去年の夏です。同棲していた彼氏も同時に務めていた飲食店が潰れ無職になり、意気消沈して実家に帰ってしまいました。

 ですが、私は彼がいなくなることより収入がなくなることの方が一大事で、とりあえず二人で家賃を払っていたアパートを引き払い、すぐ入居できる安い所に引っ越ししました。派遣会社は次の仕事をなかなか紹介してくれず、なんとかアルバイトと貯金で食いつなぎました。

 アルバイトは昼、夜の掛け持ちでしたが、昼は就職活動もしたかったので短期しか入れられずかなりきつかったです。夜仕事することは初めてで、生活のリズムが狂って仕事と就活以外はほぼ寝ていました。だからその部屋の異常になかなか気づきませんでした。

 最初に不審に思ったのはお風呂です。バスタブを洗おうと溜めていたお湯を流したら底に髪の毛がへばりついているんです。自分の髪の毛かと思いましたがお湯と一緒に流れないのが不思議でした。

 次に鏡。たまに青くなるんです。照明は普通のライトだったんで、前の住人が特殊な鏡でも付けてたのかと思いましたが、それだと常時青ですよね。3日に1回くらい青くなるんですよ。

 そして足音。お風呂場の方からぺたぺたと歩く音が聞こえるんです。たいてい私がうとうとしているときです。まあ、家に居るときはほぼ寝ていたんですけど。

 私はそれまで一人暮らしをしたことがなかったんで、家の中に自分以外の音があることに慣れていたんですよ。よく考えればおかしいなと。

 その日も気絶するように寝ていたんですが、足音がして目が覚めました。変だなぁって頭では分かっているんですけど怖くはなかったですね。気がついてもそのまま寝ていました。いつもそうだったんですが、その時は足音が止まって、そして踏まれる感覚出したんです。暴力というより足で何かあることを確かめるような感じです。気分の良いものではありません。それと同時に「ひょっとしてヤバいのかなぁ」ってようやく恐怖心が芽生えたときに一瞬気絶し、気がついたらバスタブにパジャマのまま座り込んでシャワーを浴びていました。起きて浴室に来る記憶はありません。もちろん酒も飲んでません。

 慌ててシャワーを止めてお風呂を出ました。そしてタオルで体を拭いていると、洗面所の鏡が青いことに気づきました。そこに映っていたのは私ではありませんでした。見たことがない同い年くらいの女でした。その女が体を拭きつつ私に気づき、目が合いました。私たちは同時に絶叫したと思います。響いたのは私の声だけでしたが。

 次の日には私はすべて投げ出して実家に帰り、今では立派なすねかじりです。後で調べたら、あの部屋事故物件だったんですよ。男の人が浴室で自殺したって。でも私が見たのは女でした。あの時鏡が青くてよく分からなかったけど、多分彼女、体についた赤い血みたいな水を拭いてたんですよね。本当に自殺だったのか私には分かりませんが、鏡の向こうで私の顔を見た彼女には、絶対にもう会いたくありませんね。

――左藤さんは最近になって就職活動を再開したそうだ。
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