紡ぐ、ひとすじ

伊東 丘多

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尚澄は、思いもよらない柚流からのキスで、放心状態になり止まっている。
首の後ろにある尚澄の手が震えていて、柚流は落ち着かせるように、もう一度キスをする。

やっと、動き出した尚澄は、
「……はぁ。はやく、18才にならないかな。」
そう、つぶやく。
突然、何を言い出したのだろうか。
尚澄は、そう言うと、また泣きそうな顔をして、うつむく。
「あと3年間も待てない。いますぐ、柚流としたい。そしたら、この不安もなくなるかもしれない。」
何を?とは、聞かなくても分かる。
まぁ、アレのことだろう。

柚流だって詳しくはないが、ちゃんと性の知識としてはある。
「俺は、かまわないよ?だって、そのルール決めたのお前とお前の親だろ?それとも、法律的にダメだっけ?」
「………知らない。」
「待ってろ、良太に聞いてみる。」
こういう時に、法律に詳しい友達は役立つ。
質問を送ってみたら、ちょうどスマホを見ていたらしく、すぐ返信があった。

尚澄をチラッとみると、すごい悔しそうな、悲しそうな、見たこともない表情をしているが、今の俺には情報が欲しい。
「………仲、良いね。」
こんなに、低い声を尚澄は出せたのだろうか。
ちょっと内容も内容だし、デリカシーがなかったかもしれない。

少し、空気を変えたくて、明るめな声で内容を読む。
「なんか条件か難しいけど、16才以上で同意があれば、とりあえずは大丈夫っぽいよ。俺は、もう16だし、尚澄もそろそろだろ。………する?」
尚澄のやっと動き出した体が、また止まってしまった。

「お、おい?」
「……待って。今、俺の中で色んなものが戦ってる。」
「はぁ。大変なんだな。」

すると、突然、また自分の拳を太ももに叩き込んだ。
「いや、だめだ!俺は、俺に打ち勝つ!!」
「だからさ!それ、青あざ、出来るから、やめろよ。」
柚流は、その奇行にもだいぶ慣れてしまったが、やはり心配だ。
「体の負担は、絶対に柚流の方が大きい。俺は、我慢すべきだと思う。待っててくれ。柚流!」
ものすごく強い意志を感じる視線で、見てくる。
「あの、下は俺で決定なんだ?」
一応、確認をしてみるが、尚澄は聞いてないふりをした。

ま、そうだろうな。

……そうだ。忘れてた。
柚流は、するりと、ジャングルジムと尚澄の檻から逃げ出す。
尚澄も疲れた様子だが、落ち着いたら少し微笑んでくれた。
「じゃ、帰ろう?」
そう言って、柚流は手をつなぐために差し出す。
尚澄は、嬉しそうに、その手を取った。

ちゃんと柚流の話を聞いてくれそうな状態なのかを確認し、忘れていた内容を話しかける。
「兄たちがさ、旅行連れてってくれるって。来月の7月の連休。丁度、尚澄の誕生日だよ。行く?」
「………俺の忍耐力を試す修行旅?」
「違う違う。………いや、違わないか?」
きっと部屋は、兄2人と俺達で分けられるから、チャンスはある気がする。
でも、準備とかあるから旅先は避けたいが。
「………はぁ。行きたいけど、何で突然?」
「昨日、実流くんが彼女と別れたんだって。暇になったから傷心旅行だってさ。」
「昔、柚流が作ったアクセサリー貰った人?」
「ん?それは、上の武流くんの方だよ。そっちは結婚しそう。」
尚澄は、ホッとした表情で、嬉しそうにしている。
「実流くんの別れた彼女は、ハンドメイドとか嫌いなタイプだったから、あげてないよ。」
「良かった。柚流の手作りを貰って別れるなんて、許せない所だった。」
物騒だな。
あまりの言いようにあきれるが、柚流の製作したものを大切に考えてくれているのはありがたい。
「で、行く?」
「行く。」

そんな話をしていたら、いつのまにか家に着いていた。
「うん、伝えておく。………また、ゆっくり話そう?」
「そうだね。柚流、ごめん。」
しつこいよ、の意味を込めて、尚澄の肩をつつく。
「わかってるよ。また、明日。」


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