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離れていても
しおりを挟む「ご迷惑をお掛けしました!」
朝一番に部長に頭を下げた。
「迷惑なんて思ってない。俺の方こそ無理させたみたいで悪かったな」
「全然大丈夫です。それと、倒れた時に支えてもらって、病院まで連れて行ってもらい、ありがとうございました」
「──どうして白石だと思わないんだ?」
「白石が部長だと言っていたんです」
それに、たっつんだったら感触でわかる……と思う……たぶん。
そんな事は言えないけれど。
「そうか……」
「部長?」
「いや、なんでもない。これからもバシバシ仕事させるから、体調なんか崩すなよ」
「はい!」
部長らしい励まし方だと思いながら席に戻って村住にも謝った。
村住も良くなって良かったと笑顔を返してくれた。
体調は悪くない。
それどころか、たっつんのおかげでいっぱい働けそうだ。
◆◇◆
それは、たっつんとの同棲にも慣れてきた頃の事だった。
さて寝ようと二人で布団に入ったら、話があると言われた。
横になりながら向かい合えば、暗い顔をしたたっつんに何事かと緊張する。
「正親さん……来週から一週間ほど家を開けます」
「どこかに行くのか?」
「実家に行かなきゃいけなくて……仕事には実家から通います」
「悪い事じゃないだろ? なんでそんなに暗いんだ?」
「正親さんとこんなに離れるのは初めてです……」
確かにそうだ。
この家に来てから毎日一緒にいた。
「会社でも会えるんだ。そうがっかりするなよ」
「はい……」
「大丈夫だから……な?」
ポンポンと背中を叩いてやる。
「正親さん……ちゃんと毎日電話ください」
「ああ」
ギュッと抱きしめられる。
「朝起きてと、仕事が終わった時と、夜寝る時ですよ」
「わかってる」
チュッとキスされる。
「ちゃんとご飯食べて下さいね」
「それもわかってる」
パジャマに手を突っ込まれた。
「おい……」
「寝る時は、僕を思い出して下さい」
「も、もちろん」
胸の頂をクルクルといじられる。
「んっ……」
「したくなったらどうするんですか?」
「し、したくなんてならない……あっ……」
首筋に下を這わされて、甘噛みされる。
「僕は……正親さんを思い出してします……」
「ひ、一人で?」
「他の方としてもいいんですか?」
「ダメ‼︎」
クスクスと笑われた。揶揄われたので恥ずかしくなってじっとりと睨む。
「そんな可愛い顔しないで下さい……」
チュッチュッと肌にされるキスが心地いい。
パジャマのボタンを外すと胸に吸い付かれた。
チロチロと舐められる。
「んっ……あっ……」
もう何度もしているのに、丁寧に体に触れてくれる。
「僕の事忘れないで下さいね……」
たっつんの頭をギュッと抱きしめてやる。
「忘れるわけないだろ……」
「正親さん……」
その日の夜は濃厚だった。
◆◇◆
たっつんが実家に帰って三日経った。
電話では話しているけれど、顔を見ていない。
会社で会えると思ったのに、全く会えない。
そういえば、会社ではあまり会えないのだったとがっかりする。
内勤の俺と営業の外回りがあるたっつんでは、時間が合わないのだ。
寝る前に布団に入りながら電話をしていた。
「今日も会えなかったな……」
『仕方ないですよ』
落ち着いた声音に少しムッとする。
実家に行く前はあんなに甘えてきたくせに、なんでそんなにも普通なんだ?
「──たっつんは会えなくて平気なのか?」
『すぐにでも帰りたいですよ』
「そんな感じしない……」
『そんな事ありませんよ』
「嘘だ……俺がいなくても平気そうだ……」
ちょっといじけたように言ってしまった。
『正親さん……寂しいんですか?』
「ち、違うよ……」
『ビデオ通話にしませんか?』
「今?」
『はい。一度切りますね』
慌てて上半身を起こして身だしなみを整える。
髪を指でとかして、パジャマの皺も伸ばす。
鏡が見たいけれど、すぐに着信音が鳴った。
通話ボタンを押せば、パッとたっつんの笑顔が見えた。
胸がキューンと鳴る。
『正親さんは、パジャマでベッドの上だったんですね』
「たっつんは……どこだ? 背景が真っ白で何もないな」
『自分の部屋の壁です』
「なんで? 部屋の中見せてくれよ」
『だめです……ベッドだけでしたら見せてもいいですよ』
ちょっと引けば、たっつんもベッドの上だったらしい。
大きな黒のベッドで、黒い布団に黒い枕。
白いシーツでモノトーンでまとめられていてスタイリッシュだった。
「なんかカッコいいな……」
『正親さんは可愛いですね。そのパジャマ好きです』
「──パジャマだけか?」
ちょっと膨れて言ってみる。
『正親さんがめちゃくちゃ好きです……』
そう言って画面越しにチュッとキスされた。
ボッと顔が赤くなってしまった。
『正親さんからは?』
「な、なんで俺が……」
『約束、覚えていますか? キスしてって言ったらどうするんでしたっけ?』
まだその約束は有効なのか……。
ニコニコ見られている。
観念して画面越しにチュッとキスしてみる……。
恥ずかし過ぎて死ねる。
『ふふっ。真っ赤になっちゃいましたね』
「お前がやらせたんだろ……」
『正親さんが可愛すぎて……したくなっちゃいました』
「え?」
何を言い出すんだ。
『他の人とするのはダメって言ってましたよね?』
「う、うん……」
『なら、正親さんが手伝ってくれませんか?』
「手伝うって……どうやって……?」
『脱いで下さい』
「は⁉︎」
こちらを見つめるたっつんは、ニコニコしながら俺を見ていた。
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