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魔族大戦

第八十三話 魔族襲来

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 私はジェラードからキスをされてしまいどうしていいかわからず、混乱してしまった。

「わ、私……」

 わからない……。ジェラードのことはもちろん好きだよ。何度も告白まがいなことを受けたし、素敵だし、彼と一緒になることも考えた。でも、先のウェリントンとのキスがあった分だけ、私はどうしていいかわからなかった。

 私はウェリントンのことが好き、でもジェラードも好き。こんなこと許されないのに……!

 彼は口づけをした後、黙って私の答えを待った。でも、私は答えられなかった。わたしのこころはどっちなの?

 自分でもわからないよ! こんな事初めてなんだよ! いきなり、迫られてもそんな……。私の体が熱を帯びていく。どうしよう、どうしよう、私、わたし、わたし……!

 口を開かない私に対して優しい目でジェラードは言った。

「答えを聞かせてくれないか、ミサ……?」
「わたし、わたし」

「どうしたんだ?」
「だ、だめ!」

「えっ?」
「わからない、わからないんだよ! そんな、いきなり……!」

「ミサ……!」
「わからないよ! ウェリントンもジェラードも。わからないよ!」

 途端、私は恥ずかしくなりこの場から逃げるように駆け出した。息が切れて、興奮で、首を振りながら、目をつぶって走り去ろうとする。

 すると──!

 私は石か何かにぶつかったように激しく強打して、転んでしまう。えっ……!?

 私は痛みをこらえてぶつかった相手を見ると、顔の色は青白く、耳はとがって、白い髪の若い男性にぶつかったことに気づく。

「まさか……! 魔族!」
「……なんだ子どもか」

 魔族の男は私をちらりと見て、ジェラードの方を見る。ジェラードのおつきの騎士たちが魔族が現れたことを理解して剣を抜く。魔族の男は筋肉質で、ヤギの頭をした、大男を数人連れている。ジェラードは言った。

「ミサ! 離れろ! こっちにこい!」
「わかった!」

 私は急いでその場から離れジェラードの後ろに逃げる。ジェラードも剣を抜き、魔族に構えた。

「魔族め! ついに我が領を本格的に侵して来たか!」
「お前がテットベリー伯とやらだな。散々苦労させられたぞ、お前たちの兵に」

 魔族の男は冷静に答えた。それに対し詰め寄るようにジェラードは言葉を返す。

「ここには騎士たちを護衛に付けていた。何故お前らがここまでやってこれた!?」
「これの事か?」

 これ見よがしに、ヤギの頭をした男が護衛の騎士の死体を投げ捨てる。

「貴様!」
「テットベリー伯、その命もらい受ける!」

 魔族たちが私たちに襲ってくる! 騎士たちが応戦し、互角の戦いを繰り広げる中で、白髪の男と戦った、騎士が驚いた。

「まさか……! 剣が利かない……?」
「うそ……?」

 魔族の男は持っていたサーベルを使うまでもなく二の腕で、剣を肌で受け止めた。嘘よ、鋳鋼よこの剣。それが利かないなんて! 白髪の魔族は騎士の胴体をサーベルで刺し、鎧を貫く! そんな、魔族にはきかないの!? ジェラードは冷静に状況を見定めた。

「どうやら、ヤギの頭をした魔族には剣は通じるが、白髪の耳のとがった男には剣が利かないようだ」
「そんな……」

「だが、試す価値はある。ミサ、ここにいてくれ」
「ジェラード! ダメ!」

 彼は白髪の魔族に立ち向かい名乗りを上げる!

「我が名はテットベリー伯、ジェラード・オブ・ブレマー! 名前があるなら言ってみろ!」
「そうか、俺の名はレクス。来るなら来い、ジェラード!」

 ジェラードはレクスと剣で打ち合う、だが剣は通じず、レクスのサーベルの方が強度が高いのか、ジェラードの剣が徐々に悲鳴を上げてくる。私が「ジェラード止めて!」と叫ぶが彼は笑顔でこたえ、そしてレクスに隙が出来た瞬間だった──!

「何……!?」

 レクスは驚きの声を上げる、ガードしようと二の腕で顔を守った時だ、ジェラードは巧みに突き、レクスの腕に刺さった。青い血がそこから流れている、ジェラードが笑みを浮かべたのもつかぬ間、腕を貫通してないことに眉をしかめた。

「どうやら、お前を殺すのは無理そうだな」
「ふん! 小細工を」

 そのレクスの言葉に、ジェラードは一気に間合いを取り、皆に命じる。

「ミサ! ホワイトスワン城に帰るぞ! 今のままでは勝てない! 騎士たちよ! 白髪の耳のとがった奴に気を付けろ! 奴は斬撃は利かない、突きを主体に戦え!」
「かしこまりました!」
「ジェラード!」

 私の言葉に彼は急いで私と手をつなぎ言った。

「さっき言った通りだ、城に帰る、作戦の練り直しだ。騎士たちが時間稼ぎをしている間、今しかない!」
「わかった!」

 そうして、護衛たちに守られながら、私とジェラードは無事にホワイトスワン城に帰った。私たちは作戦室で、魔族の情報を集めながら対策を練った。ジェラードは騎士たちに尋ねた。

「魔族との戦いはどうなっている!?」
「ストーングリッド要塞では、魔族の8000の兵と交戦中!」

「8000だと!? 魔族め、本格的に侵略を始めたか! 各国の状況は!?」
「どうやら、魔族らは船に乗って、大量の兵を輸送した様子、諸国も相次ぐ魔族の進撃に撤退を繰り返しております。無論エジンバラも!」

「南部諸国はどうなっている!?」
「どうやら女の姿をした、飛兵がいるらしく、北部の侵略した地域から、飛んで南部諸侯の重要な輸送隊を襲っております!」

「すぐにネーザンに援軍を請え! このままでは北部は持たん! 我々は何としてでも魔族の進軍を遅らせる!」
「はっ!」

 嘘……大規模攻撃がはじまった……? ネーザンはともかく他の国での改革が全然進んでない状況ではこのままだと各国が各個撃破されてしまう……!

 ジェラードは状況を冷静に分析した様子でこちらを向き言った。

「ミサ、お前はワックスリバーで築いた、レッドヴァレイでネーザンの援軍をかき集めろ。私は、なるべく南部の援軍が来るための時間稼ぎをする」
「そんなことできない!」

「北部はもうだめだ、今のうちに何としても対魔族戦線を築かなければならない、レッドヴァレイから南は北から敵の侵入が難しく、また、北部を守るのにもってこいだ」
「でも!」

「お前を守るのと陛下より騎士の誓いを受けた、それにお前なしでこのヴェスペリアをまとめるのは現状無理だ。嫌でもきいてもらう」

「でも、ジェラードが……」
「安心しろ、愛する女性を残したまま死ぬ騎士など、くだらない劇の主人公に私はなるつもりはない。必ず迎えに行く。その間、出来るだけ住民を避難させる。頼むからわがままを言わないでくれ」

 彼の真剣な瞳を見て、やっと心の中で私は状況を納得できた。これは戦争だ、魔族との伝説の……! なら……。

「わかった、必ず待ってる。絶対だよ!」
「ああ約束だ」

 ジェラードは剣を抜き、剣身を私に向けて握った拳を彼の胸に持って行く。騎士の誓い。彼は本気だ。絶対にジェラードを守って、阿弥陀様……!

 こうして私はレッドヴァレイ要塞で、ネーザンの援軍と合流し、今後の魔族との戦いに対策を練ることとなった。
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