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魔族大戦

第八十四話 要塞防衛戦

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 私はレッドヴァレイ要塞で現在の魔族侵攻の情報を集めることにした。援軍として、やってきた親衛隊のルーカスやジョセフに状況を尋ねる。

「ルーカス、北部はどうなったの?」
「テットベリー伯とエジンバラ王のおかげで、かろうじて戦線を維持しておりますが、後退に後退を重ねております。いずれ、時間の問題かと」

「北部は……落ちるか」
「残念ながら」

「とりあえず人類の戦力をかき集めて、強力な戦線を維持できるよう宰相として、提案したいけど、陛下、統一王陛下はどうお考えなの、ジョセフ?」
「陛下は、東部戦線を構築するのが先とお考えのようです。こちらの西部戦線は、ワックスリバーからウェストヘイムは山岳地帯が多く、大軍を移動させるのは難しい。こちらは地形に恵まれています。

 時間を稼ぐのは容易く、ネーザンからも続々と援軍が到着しており、遠からず、戦線が落ち着くものと考えられます。

 そうするためにはなるべく……」
「このレッドヴァレイ要塞で、時間を稼ぎたいと、陛下はお考えなのね」

 ここレッドヴァレイ要塞は、もともと、北部諸侯から進軍を防ぐために渓谷けいこくに囲まれた城砦だった。大陸同盟戦争でも、ワックスリバーが不利の中、堪えられたのはレッドヴァレイで軍が足止めを食らっていたからという要因もある。

 ここを落とすと南はウェストヘイムに届くようになるが、そこもまた山や森林に囲まれ、軍を動かすには難しい。つまり南部に軍を進めるには、ここ、レッドヴァレイをうまく落とさないと、軍が足止めを食らってしまい、戦争の大局を大きく左右する。

 私は魔族の情報を整理することにした。

「ルーカス、魔族はどういった戦力なの?」
「北部諸国からの情報によると、歩兵と飛兵で組み合わされた軍隊のようです」

「歩兵ということはどうやって、この大陸ヴェスペリアに奴らはやってきたの? 泳いできたわけじゃないでしょう?」
「どうやら船を使った模様です」

「船?」
「ええ、魔族は別の大陸から来たのではないかと、漁師が申しておりました。変わった船ですが、巨大船を見かけたという情報があちらこちらから上がっております」

「ということは文明があって、知恵があって、技術があるってことね」
「想定外でしたね。てっきり魔族ときくと、野蛮な蛮族とばかり思っておりましたが、この戦い方を見る限り、かなりの頭脳を持ったものが指揮をしております」

「まずいわね、人類の有利な点は頭脳だと思っていたけど、相手も持っているとなると、この戦い、苦しくなるわね」
「ええ、そうでしょうな」

「ジョセフ、魔族の戦闘能力はどうなの?」
「テットベリー伯の情報通りで、一般歩兵であるヤギ頭には剣が通じますが、とんがり耳には剣が通じずわが国でも苦戦しております。比較的相手を貫通しやすい、矢や、剣の刺突で何とか対応しておりますが、いかんせん仕留めるのは難しく、傷を負わせるので精一杯。

 飛兵の女魔族も同様で、なかなか通じないので、攻城兵器である超弩弓スコーピオンや大砲で、何とか衝撃で戦闘不能にすることが可能だとわかりました」

「なるほど、貫通できなければ衝撃でつぶしてしまえってことね」
「ええ、しかし、超弩弓スコーピオンはともかく、大砲は我がネーザン以外用意できるほど、生産工場がありません。戦闘態勢を整える時間稼ぎが必要です」

「ならなんとしても、このレッドヴァレイで持ちこたえないとね」
「ええ、その通りです、宰相閣下」

 私は兵たちの士気を高めるため、演説を行うことにした。騎士たちが魔族の襲来で不安げな中、なるべく強い口調で鼓舞するよう務めた。

「現在、我々は、戦争の岐路に立たされている。我がヴェスペリア統一国が勝利することは間違いないが、諸侯たちの力を合わせて戦うのに時間が必要だ。

 それには何としても、このレッドヴァレイ要塞で我が統一軍が持ちこたえなければならない。一分一秒でもいい。その貴重な時間が、明日のヴェスペリアを救うのだ。

 魔族に不安を抱えているのは私も同じだ。しかし、ここで我らが、剣を振るわなければ、いったい誰が人類を救うのだ!

 我らは心を一つにして、命を懸けて、魔族からヴェスペリアを守る使命がある。神よ、我らの戦いをご照覧あれ! この一戦、歴史が諸君らを眺めているぞ!」
「おお──! ヴェスペリアに勝利を! ヴェスペリアに勝利を!」

 よし、上手くいった。何としても時間稼ぎが必要だ。ここでなんとしても、こらえてみせる。作戦室で情報を集める中、兵が慌てて入ってきた。

「宰相閣下、大変です!」
「どうしたの?」

「魔族の軍勢がすでにこの要塞を落とすべく、進軍を行っています」
「いつぐらいに着くの?」

「三日ぐらいだと斥候部隊はもうしておりました」
「三日!?」

「早い早すぎる……!」

 ルーカスは深刻な顔して、状況がまずいと私は悟った。だから彼に尋ねた。

「今、要塞にいる兵はどれくらいなの」
「2万です、一週間もすれば、4万が集まり、まともに戦える戦力になると、考えておりましたが、まさか険しい山々の中、ここまで素早い進軍とは、我らは初めての経験です」

「そう……。援軍が来るまで、何とかここで踏ん張らないと」
「ええ、かしこまりました」

 ルーカスが兵に指示を送る、そんな中、また伝令がこちらにやってきた。

「テットベリー伯軍が後退しております。なるべく住民の避難に成功したとの報告です」
「ジェラード……テットベリー伯は健在なの!?」

「傷一つなく、ご健在だとうかがいました。こちらの軍勢と合流したいとの仰せです」
「わかった! ご苦労様」

「はっ!」

 それぞれの状況が整理できた私はジョセフにきいてみた。

「ジョセフ、私は敵の襲来をこの要塞で食い止めて、各援軍を待つべきだと考えるけど、貴方はどう?」

「それが正しいでしょう、激しい戦闘になるでしょうが、何とか2万で食い止めた後、援軍がそろい次第、反撃に移るのが最適でしょうね」
「わかった、そうして」

「了解です」

 ジョセフは直接指揮に向かうのか、部屋をでた。急ピッチで、兵の配備を済ませて、武器の準備を整えたあと、魔族が現れた。私はその軍勢を見て衝撃を受けた。3万はいたからだ。

 高いところから、敵の軍勢を眺めた後、ルーカスに指示を出す。

「迎撃をお願い」
「はっ! 防衛部隊に魔族らに大砲の弾を浴びせよと伝えろ!」

「はっ!」

 ルーカスが伝令に指示を送る。要塞防衛戦がここに始まる……!

砲撃準備レディ
撃ち方はじめ────ファイヤァ!」
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