上 下
19 / 36

19.

しおりを挟む
 
 
マッシュ領に来て4日目になった。

今日は近くの湖までピクニックに行くことになっている。

ミンディーナだけでなく、ライガーも一緒。
普段、外出の少ないライガーは、家族の誰かがやって来るとピクニックや乗馬に付き合わされるという。
セラヴィの家族も仲が良いが、ミンディーナの家族も仲が良いと思う。



屋敷から少し歩いたところにある湖は透明度が高く、森と花畑が近くにあってとても素敵な場所だった。


「ここ、屋敷に飾られていた絵の場所ね。」

「そうなの!屋敷にある風景画のほとんどは、この領地のどこかね。
 何代か前の当主の兄弟が描いたそうよ。
 絵と変わってしまった場所もあるけれど、それを比べられるのも歴史よね。」

 
ここの自然は、当時とほとんど変わっていないように思える。
でも、百年後にはどうなっているかはわからないものね。
こんな時もあったんだと言葉にして伝えていくよりも、絵はわかりやすいわ。


昼食を食べながら昨日の朝思った今後について、ライガーに聞いてみた。
 

「ライガー様は何かご趣味がありますか?」

「何?そのお見合いみたいな質問。」


ミンディーナが驚いて聞いてきた。 


「父がね、もう結婚を考えなくていいし慰謝料もあるし自由に暮らせばいいって言ったの。
 それで、卒業後は何をしようかなって考えていて。
 ライガー様は領地のお仕事以外に何か興味があることをされているのかしらって思って。」

「あぁ、そういうことね。驚いたわ。お兄様は読書よ。ね?」

「読書というか、まぁ、本を読むことは好きだね。
 だが、僕が好きなのは昔の歴史を知ることかな。
 例えば、今はこの大陸に8カ国あるけれど、昔は1つだったとか。
 十数国の時代もあったし。統廃合の歴史とかをね。
 実際に何かが起こった場所を訪れたことはないけれどね。」

「歴史書ですか。確かに国の簡単な歴史しか知りませんね。
 あとは自領のことを学ぶくらいで。」

「どうしても戦争の歴史にも関わってくるところがあるから、女性は好まないだろうね。
 だけど隣国の作家が、この大陸の長い歴史に恋愛を絡めた本を何作も書いていてね。
 読み応えはあるんだけど、事実と違うところもいっぱいあって。
 作家は、時代に沿った作り話と言ってはいるが、読んでいる人は信じる人も多くて。
 その本が正しい歴史と認識されることを恐れる者たちと作家で揉めているらしいよ。」

「その本はもう完結しているのでしょうか?」

「いや、まだだ。大分、今の時代にまで近づいてきているけれどね。
 近づいてくるほど、各国や家に伝わっている史実と違うところが出てきては反発があるだろう。
 いくら作り話だと言っても、そろそろ出版は無理だと思うよ。」

「屋敷の図書室にあるわよ。私は好みじゃなかったから1巻で挫折したけれど。
 興味があるのなら、読んでみたら?」


ミンディーナが挫折した本……読めるかしら。


「折角ですので、まず1巻をお借りしますね。」

「うん。分厚いから無理しないでね。」


ライガーはそう言って苦笑した。



事実、その本は分厚かった。
女性向けの恋愛小説と違い、言葉遣いも固く読みにくい。

セラヴィもミンディーナと同じく、1巻で挫折するだろうと読みながら思った。 




領地の風景画を描く。

そちらなら、卒業後の趣味の一つとして考えてもいいかなと頭の中で歴史から逃げた。



 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。

はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」 「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」 「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」 「ああ…なるほど。わかりました」 皆が賑わう昼食時の学食。 私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。 マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。 全くこの人は… 全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

処理中です...